2022年3月期 有報収益認識開示分析 第5回:収益認識注記③(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報(残存履行義務に配分した取引価格))

2022年12月2日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 兵藤 伸考

Question

2022年3月期決算に係る有報の収益認識に関する注記において、「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報(残存履行義務に配分した取引価格)」の開示の状況を知りたい。

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:2022年9月
  • 調査対象期間:2022年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2022年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する198社

① 3月31日決算
② 2022年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している

なお、連結財務諸表を分析の対象としており、連結財務諸表を作成していない会社は個別財務諸表を分析の対象としている。

【調査結果】

(1) 残存履行義務の注記会社数の分析

調査対象会社を対象に、残存履行義務の注記の記載状況を調査した結果、未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額を注記していた事例は89社(44.9%)であり、約半数は重要性が乏しいことや残存履行義務がないことを理由に注記を省略している会社や、収益認識に関する注記又は残存履行義務の注記の記載がない会社であった(<図表1>参照)。

<図表1> 残存履行義務の注記会社数分析

記載内容 会社数 比率
総額を注記している 89 44.9%
重要性が乏しいことから注記を省略している 68 34.3%
該当がない旨を記載している 8 4.0%
注記を省略・注記の記載なし 33 16.7%
合計 198 100.0%

また、注記している事例89社を業種別に集計した結果は<図表2>のとおりである。建設業の会社が19社と最も事例が多かったが、建設業、電気・ガス業及び不動産業については大部分の会社で記載が見られた。

建設業については、建築・土木事業による請負工事に係る残存履行義務の残高に重要性が高いことから、注記の記載数及び記載比率が高かったと考えられる。また、電気・ガス業は主に電力販売において、さらに、不動産業の会社は主に不動産販売において、それぞれ残存履行義務の残高の重要性が高かったためと考えられる。

<図表2>業種別注記会社数分析

業種 注記会社数 分析調査会社数 比率
建設業 19 20 95.0%
電気・ガス業 9 10 90.0%
電気機器 8 14 57.1%
情報・通信業 8 14 57.1%
化学 7 17 41.2%
サービス業 6 16 37.5%
不動産業 6 7 85.7%
小売業 5 10 50.0%
機械 4 7 57.1%
その他 17 83 20.5%
合計 89 198 44.9%

(2) 残存履行義務の注記の記載方法分析

残存履行義務の注記金額をいつ収益として認識すると見込んでいるのかについて、「残存履行義務の残存期間に最も適した期間による定量的情報を使用した方法」又は「定性的情報を使用した方法」のいずれかの方法により注記することとされており、調査対象会社(198社)のうち残存履行義務の注記していた事例89社を対象に、注記の記載方法を調査した結果が<図表3>のとおりである。

表形式により期間による定量的情報を使用した方法で記載している事例が42社(47.2%)、「約●%が期末日後1年以内、約●%が期末日後1年超」等の表形式による記載ではないが定量的情報により補足している方法で記載している事例が12社(13.5%)であり、半数以上は期間による定量的な情報を使用した方法により記載していた。なお「概ね●年以内」等の定性的情報を使用した方法で記載している事例が35社であった。

<図表3>残存履行義務の注記方法

記載方法 会社数 比率
表形式により期間による定量的情報を使用した方法 42 47.2%
表形式ではないが期間による定量的情報により補足している方法 12 13.5%
定性的情報を使用した方法 35 39.3%
合計 89 100.0%

(3) 実務上の便法の事例分析

残存履行義務の注記において、当該注記の作成コストに対する負担を軽減する等の観点から、次の条件に該当する場合には、注記に含めないことができる実務上の便法が設けられている(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)第80-22項)。

① 履行義務が、当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である。
② 履行義務の充足から生じる収益を企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)第19項に従って認識している。
③ 次のいずれかの条件を満たす変動対価である。

  • 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ(収益認識適用指針第67項)
  • 収益認識会計基準72項の要件に従って、完全に未充足の履行義務(あるいは収益認識会計基準32項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービスのうち、完全に未充足の財又はサービス)に配分される変動対価

表中のいずれかの条件に該当するため、残存履行義務に関する注記に含めていないものがある場合には、収益認識会計基準第80-22項のいずれの条件に該当しているか、及び注記に含めていない履行義務の内容を注記することとされている。また、表中の③のいずれかの条件に該当するため、注記に含めていないものがある場合には、残存する契約期間及び注記に含めていない変動対価の概要を注記する(収益認識会計基準第80-24項)。

調査対象会社(198社)から残存履行義務の注記について記載を省略している会社及び記載のない会社33社(<図表1>参照)を除いた165社を対象に、収益認識会計基準第80-22項の実務上の便法により注記に含めない旨を記載している事例を調査した結果が<図表4>のとおりである。

注記において実務上の便法に言及している事例は93社(56.4%)であり、実務上の便法について直接言及していないものの、「当初に予想される契約期間が1年を超える重要な取引はありません」など実務上の便法を適用していると推察される事例が20社(12.1%)あった。この点、実務上の便法によって残存履行義務の注記の作成コストに対する負担を軽減できることから、多くの会社が適用したと考えられる。

<図表4>実務上の便法の事例分析

記載内容 会社数 比率
実務上の便法に言及している 93 56.4%
実務上の便法について言及していないが適用していると推察される 20 12.1%
実務上の便法に言及しておらず適用していないと推察される 52 31.5%
合計 165 100.0%

(旬刊経理情報(中央経済社)2022年10月10日号 No.1657「2022年3月期有報における収益認識の開示分析」を一部修正)