EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 加藤 大輔
Question
米国税制改革に伴う税効果注記等の開示状況は?
Answer
【調査範囲】
- 調査日:平成30年8月
- 調査対象期間:平成30年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書
- 調査対象会社:
平成30年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する232社
① 3月31日決算
② 平成30年7月2日(法定提出期限)までに有報を提出
③ 連結財務諸表作成会社
④ 日本基準を採用
【調査結果】
(1) 税率の変更の影響額の開示
調査対象会社には、米国にそもそも連結子会社等(又は重要な連結子会社等)を保有していない会社もあることが想定されるため、有報の「関係会社の状況」の情報に基づき、特定子会社(※)が米国にあるか否かに区分して調査を行った(<図表1>参照)。
特定子会社が米国にある会社のうち、税率変更注記を行い、影響額を記載している会社は、31%程度(=26社/85社)、特定子会社が米国にない会社のうち、税率変更注記を行い、影響額を開示している会社は13%程度(=19社/147社)であった。
後者は、米国に複数の一定規模の子会社を保有している会社などが注記しているものと考えられる。
(※)特定子会社とは、次の特定関係のいずれか1つ以上に該当する子会社をいう(「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条の10)。
- 当該提出会社の最近事業年度に対応する期間において、当該提出会社に対する売上高の総額又は仕入高の総額が当該提出会社の仕入高の総額又は売上高の総額の100分の10以上である場合
- 当該提出会社の最近事業年度の末日(当該事業年度と異なる事業年度を採用している会社の場合には、当該会社については、当該末日以前に終了した直近の事業年度の末日)において純資産額が当該提出会社の純資産額の100分の30以上に相当する場合(当該提出会社の負債の総額が資産の総額以上である場合を除く。)
- 資本金の額(相互会社にあっては、基金等の総額)又は出資の額が当該提出会社の資本金の額(相互会社にあっては、基金等の総額)の100分の10以上に相当する場合
<図表1> 税効果注記-税率変更注記の開示状況
区分 | 会社数 | 開示割合 | |
米国に特定子会社あり(※) | 影響額を記載 | 26 |
31% |
軽微と記載 | 6 | 7% | |
税効果注記に開示なし | 53 | 62% | |
小計 | 85 |
100% | |
米国に特定子会社なし(※) | 影響額を記載 | 19 | 13% |
軽微と記載 | 3 | 2% | |
税効果注記に開示なし | 125 | 85% | |
小計 | 147 | 100% | |
合 計 | 232 |
- |
(※) 有報の「関係会社の状況」の連結子会社の住所等をベースに米国に特定子会社があるかどうかを区分している。
(2) 税率変更以外の税法の改正による影響額の開示
今般の米国税制改革では、繰越欠損金の使用期限の撤廃や米国法人が10%以上を保有する米国外子会社からの配当の益金不算入など税効果会計に影響を及ぼす税率変更以外の税法改正がある。
税率変更以外の税法改正による影響額は必要に応じて任意に追加情報として開示することが考えられるが、分析対象会社のうち、税率変更以外の事由による影響額を明記している会社は1社にとどまる結果となった。
(3) SAB118号に基づく注記
2017年12月に米国証券取引委員会(SEC)のスタッフ会計公報(Staff Accounting Bulletin)118号(以下「SAB118号」という。)が公表され、公開企業において所定の要件を満たす場合には、一定の注記を行うことで改正直前の税法によることができるとされた。また、2018年1月に米国財務会計基準審議会(FASB)から公表された「非公開企業に関するSAB118号の適用に係るQ&A」では、非公開企業がSAB118号を適用したときは米国基準に準拠しているとされた。
当該SAB118号に基づき求められる注記は、米国会計基準における適正な開示を必須とした暫定措置であることを考慮し、重要性が認められる場合には追加情報として開示することも考えられるが、分析対象会社のうち、SAB118号に基づく注記事項を追加情報として開示している会社はなかった。
(4) 法定実効税率と税効果会計適用後の法人税負担率との差異の注記
分析対象会社のうち、44社が税率変更に関する項目の記載を行っていた(<図表2>参照)。税率変更に関する具体的な科目名としては、「税率変更による期末繰延税金資産の減額修正」、「税率変更による影響」などがあり、そのほか科目名に米国の税制改革の影響である旨を明記している会社は十数社あった。
また、税率変更に関する項目の記載を行っている会社のうち、34社が税率変更注記を行っていた。
<図表2> 法定実効税率と税効果会計適用後の法人税負担率との差異の注記
区分 |
会社数 |
|
税率差注記を 開示している |
税率変更に関する項目あり(※1) |
44 |
税率変更に関する項目なし |
127 | |
税率差注記を省略している(※2) | 61 | |
合 計 | 232 |
(※1) 税率変更である旨を明記している会社のみ集計している。
(※2) 税金等調整前当期純損失(税引前当期純損失)を計上している、又は差異が法定実効税率の5%以下であることを理由として注記を省略している会社を集計している。
(旬刊経理情報(中央経済社) 平成30年9月20日号 NO.1523「平成30年3月期『有報』分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
平成30年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:定率法から定額法への変更 (2018.12.19)
- 第2回:連結納税制度 (2018.12.19)
- 第3回:決算期変更 (2018.12.19)
- 第4回:税効果会計一部改正の早期適用 (2018.12.19)
- 第5回:米国税制改革 (2018.12.19)
- 第6回:総会前提出 (2018.12.19)
- 第7回:非財務情報(MD&A) (2018.12.19)
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- 第10回:会計計算規則に規定されていない注記の開示状況 (2018.12.19)