公認会計士 蟹澤 啓輔
1.一株当たり純資産の計算
一株当たり純資産は、普通株式に係る期末の純資産額を、普通株式の発行済株式数から自己株式数を控除した株式数で除して算定します(適用指針34項)。
具体的には以下の計算式で計算します。
普通株式に係る純資産:貸借対照表上の純資産の部の合計から以下を控除して算定した金額(適用指針35項)
- 優先株式に係る資本金、資本剰余金
- 当会計期間に係る優先配当など
- 少数株主持分(連結財務諸表の場合)
- 新株予約権
- 新株式申込証拠金
- 自己株式申込証拠金
[期末の普通発行済株式数-期末の普通株式の自己株式数]は、期末時点の株式数に基づいて算定しますが、一株当たり当期純利益の計算(第11回参照)においては期中平均株式数を使用して算定しますので、それぞれ混同しないよう留意する必要があります。
なお、連結上の一株当たり当期純資産の計算における「期末の普通株式の自己株式」についても、一株当たり当期純利益の算定と同様に子会社および関連会社が保有する親会社等の普通株式数のうち親会社等の持分に相当する株式を含めることになります(適用指針34項)。
2. 一株当たり純資産の意味
一株当たり純資産は一株に帰属する純資産の金額を示すことによって、投資家等の利害関係者の投資判断等に有用な情報を提供するために開示されます。
一株当たり純資産は、財務分析上、会社の安定性を見る指標として利用することができます。この数値以上であれば安全であるという明確な数値は存在しないものの、一般的にその数値が高い方が財務上安定的であると判断されます。
さらに、株式投資において、株価を分析する指標として利用することもできます。例えば、株価を一株当たり純資産で除して計算する株価純資産倍率 (PBR:Price Book-value Ratio)という指標を用い、PBRが1倍以下なら株価が解散価値よりも下回っているため割安となっていると想定することができます。ただし、株価は財務指標以外の要因も反映して形成されているため、実際の株式市場ではPBRが継続的に1倍以下となっている企業もあります。
なお、債務超過の場合でも、普通株主に関する企業の財政状態を示すために、マイナスの純資産額に係る一株当たり金額の開示を行うことが適当とされています(実務上の取り扱いQ6 A)。
設例
設例を用いて説明します。設例2に基づくとA社の一株当たり純資産は、10,000円/株(=純資産20,000百万円÷[発行済株式数2,200,000-自己株式数200,000])となります。同様にB社の一株当たり純資産は20,000円/株(=純資産2,000百万円÷[発行済株式数110,000株-自己株式数10,000株])です。
第1回の設例1と同様、A社はB社に比較して純資産規模が大きいものの、1株当たり純資産はA社の方が小さくなっています。また、PBRを分析するとB社は1倍を切っており、現在市場から過小に評価されていると想定することができます。
設例2
A社 |
B社 |
|
総資産 | 100,000百万円 | 5,000百万円 |
純資産 | 20,000百万円 | 2,000百万円 |
発行済株式数 | 2,200,000株 | 110,000株 |
自己株式数 | 200,000株 | 10,000株 |
一株当たり純資産 | 10,000円/株 | 20,000円/株 |
(一株当たり)株価 | 20,000円/株 | 18,000円/株 |
PBR | 2.0倍 | 0.9倍 |
(注)優先株式等は発行していない
この記事に関連するテーマ別一覧
一株当たり情報
- 第1回:一株当たり情報の概要と一株当たり当期純利益の計算 (2014.10.22)
- 第2回:一株当たり純資産の計算 (2014.11.07)
- 第3回:潜在株式調整後一株当たり情報と一株当たり情報の開示 (2014.11.17)