公認会計士 友行 貴久
公認会計士 横山 彰
1.役員人件費の概要
(1) 役員人件費には次のようなものがあります。
- 役員報酬(ここでは、月額払いなどで定期的に支払われる報酬)
- 役員賞与
- 役員退職慰労金
会社法では、役員報酬を「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」(会社法361条)とし、役員賞与を役員報酬の一つと位置付けています。これら役員報酬の支給は、定款または株主総会の決議(または報酬委員会の決議)を必要とします。
また、役員退職慰労金も、在任期間中の職務執行に対する後払いの報酬と考えられており、支給に当たっては、株主総会の決議が必要となります。
(2) 会計処理のポイント
① 月額払いなどで定期的に支払われる役員報酬は、発生期間に応じて費用処理を行います。
② 役員賞与は、役員報酬と同様に発生期間において費用として処理しますが、賞与額の算定方法によっては、支給が翌期になることもあり、役員賞与引当金などの科目を用いて費用計上することがあります。
③ 役員退職慰労金については、役員退職慰労引当金の計上を検討することが必要となります。
2.役員賞与の会計処理
(1) 役員賞与に関する会計処理の変遷
かつて、会社法が施行される前は、役員賞与は利益処分により支給され、役員報酬のように費用処理をせず、翌期に未処分利益を減少させる会計処理が求められていました。会社法は、役員賞与を役員報酬の一つと位置付け、役員賞与の支給手続を、役員報酬と同様に定款への記載または株主総会の決議(委員会設置会社においては、報酬委員会の決定)によることとされました(会社法第361条、第379条、第387条、第404条第3項及び第409条)。
(2) 発生した期間における費用処理
前述の通り役員賞与は費用と位置付けられ、発生主義のもと、発生した期間の費用として処理されることになりました。そのため、支給が翌期であっても、当期の職務執行に対する役員賞与は、原則として当期において費用計上することになります。
① 役員賞与の支給を、翌期中に開催される株主総会の決議事項とする場合
役員賞与の支給は株主総会の決議が前提となるため、当期末において支給が確定した債務とはなっていません。そのため、支給の決議事項とする額またはその見込額を、原則として、引当金に計上します(役員賞与に関する会計基準 第13項)。
② 実質的に確定債務と認められる場合
子会社が支給する役員賞与のように、株主総会の決議がなされていなくても、実質的に確定債務と認められる場合には、未払役員報酬等の適当な科目をもって計上することができます(役員賞与に関する会計基準 第13項)。
(3) 役員賞与に対する税効果
法人税法上、役員賞与は事前確定届出給与または利益連動給与に該当するものを除いて、損金算入されません。そのため、費用処理される役員賞与について、会計と税務とで差異が生じます。
税務上、役員賞与は以下の場合をのぞいて損金不算入となります。
事前確定届出給与 (法人税法第34条1項②) | 役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する必要な届け出をしているものをいいます。 |
利益連動給与 (法人税法第34条1項③) |
同族会社に該当しない内国法人が、全ての業務執行役員に対して支給する利益連動給与で、法人税法第34条1項③イロにおける要件を満たすものをいいます。 |
以下、当期の職務執行に対する翌期支給予定の役員賞与10,000(不相当に高額な金額はない)、法定実効税率35%(繰延税金資産の回収可能性に問題ない)である場合の仕訳例を記載します。
① 事前確定届出給与または利益連動給与に該当しないもの
役員賞与で、事前確定届出給与または利益連動給与に該当しないものは、法人税法上、損金不算入となります。そのため従業員賞与と異なり、支払った期においても損金とされず税金を減額する効果がありません。従って、永久差異のため税効果会計の対象とはなりません。
② 事前確定届出給与に該当する場合
役員賞与が、納税地の所轄税務署長に届け出された定めの通りに支給され、事前確定届出給与に該当する場合、支給した期において損金に算入されます。そのため、当期末に計上される負債は、会計と税務との将来減算一時差異であり、税効果の対象となります。
③ 利益連動給与に該当する場合
利益連動給与は、利益指標を計算する対象期間、すなわち当期において債務として確定することになります。そのため、当期に損金経理することで、税務上も損金算入されると考えられ、会計と税務との差異は生じません。従って、税効果の対象とはなりません。
3.役員退職慰労金の会計処理
(1) 役員退職慰労引当金計上の検討
役員退職慰労金は、後払いの報酬であると考えられています。将来に支給される可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができる状況があれば、発生主義に基づいて、職務を執行した各期において、費用と引当金とを計上すべきものです。
一方、役員退職慰労引当金の支給方法、金額などの決定については、その支給に関する内規が存在し、当該内規に基づく支給が行われることを前提に、株主総会が取締役会に一任する実務が多いと思われます。
会計上、次の要件を満たす場合においては、役員退職慰労引当金を計上することが必要です(「租税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当金又は準備金並びに役員退職慰労引当金等に関する監査上の取扱い(監査・保証実務委員会実務指針第42号)」3.(1))。
① 役員退職慰労金の支給に関する内規に基づき(在任期間・担当職務等を勘案して)支給見込額が合理的に算出されること
② 当該内規に基づく支給実績があり、このような状況が将来にわたって存続すること(設立間もない会社等のように支給実績がない場合においては、内規に基づいた支給額を支払うことが合理的に予測される場合を含む。)
役員退職慰労引当金の残高が、内規に基づいて計算される当期末要支給額に等しくなるように、当期の負担額(当期末要支給額-当期首要支給額)を、役員退職慰労引当金繰入額(営業費用)に計上します。
上記の要件を満たさない場合には、役員退職慰労金は、株主総会決議時あるいは支出時に費用計上することになります。
(2) 役員退職慰労引当金に対する税効果
法人税法上、役員退職慰労金は、原則として、株主総会の決議などによりその額が具体的に確定した期に損金算入されます(法人税法基本通達9-2-28)。従って、役員退職慰労引当金の繰入額は損金に算入されず、会計と税務との一時差異が生じます。そのため、税効果の対象となりますが、繰延税金資産の回収可能性を判断するに当たり、スケジューリングの検討が必要となります。
なお、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異は、従業員の退職給付引当金や建物の減価償却超過額のような、将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異(※)には該当しないとされています(税効果会計に関するQ&A Q1)。そのため、これまでの役員在任期間の実績や内規などに基づいて、役員が退任し、将来減算一時差異が解消される時期を合理的にスケジューリングした結果に基づき、繰延税金資産を計上することになります。
(※) 将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)の(分類3)に該当する企業、および、(分類4)に該当するものの適用指針第28項、第29項に基づいて(分類2)(分類3)に該当するものと取り扱う企業においても、課税所得の合理的見積可能期間(おおむね5年)を超えた年度に解消される額について、回収可能性があるとする考え方を示しています。
詳しくはリンク先をご覧ください。
この記事に関連するテーマ別一覧
- 第1回:給与の会計処理 (2014.04.26)
- 第2回:従業員に対するその他の人件費 (2014.05.29)
- 第3回:役員人件費の会計処理 (2014.05.30)