わかりやすい解説シリーズ「キャッシュ・フロー計算書」 第3回:営業キャッシュ・フローの表示方法

2012年12月14日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 蟹澤啓輔
公認会計士 牧野幸享

1. 営業キャッシュ・フローの表示方法

【ポイント】
営業キャッシュ・フローには、直接法と間接法という二通りの表示方法があります。ただし、実務的には間接法が採用されることがほとんどです。

営業キャッシュ・フローの記載方法には直接法と間接法の二通りがあります。

図3-1

図3-1

企業はどちらかの記載方法を選択してキャッシュ・フロー計算書を作成することになりますが、実務的には、直接法が手数を要することから、間接法が採用されることが多いです。

  • 直接法による表示

    直接法による表示方法は、商品の販売や仕入、給料の支払い、経費の支払いなどの主要な取引ごとにキャッシュ・フローを総額表示する方法です。
    直接法の表示方法は、営業活動に係るキャッシュ・フローが総額で表示される点が長所です。ただし、主要な取引ごとにキャッシュ・フローに関する基礎データを用意することが必要であり、実務上手数を要すると考えられます。

  • 間接法による表示

    間接法による表示方法は、税金等調整前当期純利益に減価償却費などの非資金損益項目、有価証券売却益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を加減して表示する方法です。
    間接法による表示方法は、利益と営業活動に係るキャッシュ・フローとの関係が明示される点が長所です。

2. 直接法による営業キャッシュ・フロー

【ポイント】
直接法による営業キャッシュ・フローは、商品の販売や仕入、給料の支払い、経費の支払いなどの主要な取引ごとにキャッシュ・フローを総額表示する方法です。

直接法による表示方法では、商品の販売や仕入、給料の支払い、経費の支払いなどの主要な取引ごとにキャッシュ・フローを総額表示します。

設例1

設例1

直接法による営業キャッシュ・フローにおける総額表示とは、例えば商品の販売による収入と仕入による支出を相殺せず、それぞれ総額で表示することを意味します。
このため、直接法による表示を行う場合、商品の販売や仕入などの主な取引ごとにキャッシュ・フローの総額を計算する必要があります。

  • 商品の販売による収入

    商品の販売による収入は、現金販売のほか、売上債権である売掛金の回収高から計算されます。設例1の※1では、現金販売がない前提で、売掛金勘定の総勘定元帳を分析することにより商品の販売による収入が計算されています。期首の売掛金残高2,000と当期売上高25,000の合計27,000から期末の売掛金残高1,500をマイナスした金額が当期の売掛金の回収高25,500となり、商品の販売による収入としてキャッシュ・フロー計算書に記載されることになります。

  • 商品の仕入による支出

    商品の仕入による支出は、現金仕入のほか、仕入債務である買掛金の支払高から計算されます。設例1の※2では、現金仕入がない前提で、買掛金の総勘定元帳を分析することにより商品の仕入による支出が計算されています。売掛金と同様に、当期の商品の仕入による支出は、期首の買掛金残高6,000と当期仕入高10,000の合計16,000から期末の買掛金残高7,500をマイナスした金額8,500として計算され、キャッシュ・フロー計算書に記載されることになります。

  • その他のキャッシュ・フロー

    例えば、給料の支払いによる支出であれば、損益計算書の給料に期首及び期末の貸借対照表の未払給料を調整することによって計算することができます。その他、費用の支払いであれば、損益計算書の費用計上額と未払費用や未払金などの債務を調整することになります。
    また、法人税等の支払いについては、売掛金等と同様に未払法人税等の総勘定元帳を分析することによって計算することができます。

3. 間接法による営業キャッシュ・フロー

【ポイント】
間接法による表示方法は、損益計算書の税金等調整前当期純利益に非資金損益項目や、投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を加減して表示する方法です。

間接法による表示方法では、税金等調整前当期純利益に減価償却費などの非資金損益項目、有価証券売却損などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目等を加減して表示します。

設例2

設例2

間接法による営業キャッシュ・フローは、損益計算書の税金等調整前当期純利益からスタートします(設例2 ※1)。税金等調整前当期純利益は、売上高や売上原価、販売費及び一般管理費、営業外損益、特別損益とさまざまな科目から構成されています。収益及び費用は基本的にはキャッシュを伴うものが多いですが、一部キャッシュを伴わないものや、翌期などにキャッシュが動くものもあります。このため間接法によるキャッシュ・フロー計算書では、以下の項目について調整を行うことになります。

  • 非資金損益項目

    損益計算書には、減価償却費のようなキャッシュの動きを伴わない項目(以下、非資金損益項目)が含まれています。例えば、減価償却費は、固定資産の取得時にキャッシュの支出が行われた後、費用配分の観点からその取得価額を耐用年数に渡り費用処理する科目であり、キャッシュの動きを伴いません。
    税金等調整前当期純利益に含まれているこのような非資金損益項目を除外することで、利益をキャッシュに調整します。

    設例2では、非資金費用である減価償却費1,500が税金等調整前当期純利益に含まれているため、調整が必要になります(設例2 ※2)。なお、減価償却費は利益のマイナス項目となっているため、間接法の調整の際にはプラスして調整することになります。収益項目はマイナス、費用項目はプラスとして調整することになるため、符号に留意する必要があります。

  • 投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目

    損益計算書には、有価証券売却損のような投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目も含まれています。例えば、有価証券の売買は投資活動に該当するため、有価証券に関するキャッシュ・フローは投資活動によるキャッシュ・フローに記載されることになります。このため、投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を加減することによって、税金等調整前当期純利益を営業キャッシュ・フローに調整します。

    設例2では、投資活動の区分に記載すべき損益項目である有価証券売却損1,000が税金等調整前当期純利益に含まれているため、調整が必要になります(設例2 ※3)。
    非資金損益項目と同様に、収益項目はマイナス、費用項目はプラスとして調整することになるため、符号に留意する必要があります。

    ここで調整された有価証券売却損は、投資活動によるキャッシュ・フローにおいて、有価証券の売却による収入に含まれて記載されることになります。

  • 営業損益計算の対象となる取引に係る債権債務の調整

    損益計算書には、営業損益の対象となる商品の販売取引や商品の仕入取引に係る損益(例えば、売上高や売上原価)が含まれています。しかし、第2節の直接法による営業キャッシュ・フローで確認したように、当期の売上高のうち期末の売掛金残高については、キャッシュとして回収されていません。このため、営業損益計算の計算対象となる債権債務、例えば、売掛金、買掛金、未払費用などを調整することによって、利益をキャッシュに調整します。

  • 売掛金の調整

    設例2では、商品の販売による収入を分析するために、直接法のケースと同様に売掛金の総勘定元帳を分析しています。間接法では、売上高25,000は当期純利益に含まれているため、当期の債権回収高25,500に調整するためには、期末の売掛金残高1,500と期首の売掛金残高2,000の差額500(設例2 ※4)を調整することになります。このように期首残高と期末残高の差額を調整することによって、利益をキャッシュベースに調整することができます。

    なお、期首の売掛金よりも期末の売掛金が少ない場合、未回収債権が減少していることになるため、営業キャッシュ・フローの調整上、プラス【収入(プラス)のプラス】の調整が必要になります。

  • 棚卸資産、買掛金の調整

    設例2では、商品の仕入による支出を分析するために、買掛金と棚卸資産の総勘定元帳を分析しています。当期純利益に含まれている売上原価9,000は、棚卸資産勘定の[期首残高3,000+仕入高10,000-期末残高4,000]として計算されます(損益計算書でも通常明示しますが、設例2では省略しています)。さらに、買掛金の総勘定元帳を分析すると、商品の仕入債務の支払い8,500は、買掛金勘定の[期首残高6,000+仕入高10,000-期末残高7,500]として計算されます。このため、売上原価を商品の仕入による支出に調整するためには、棚卸資産の期末残高4,000と期首残高3,000の差額△1,000(設例2 ※5)と買掛金の期末残高7,500と期首残高6,000の差額1,500(設例2 ※6)の調整を行う必要があります。

    なお、期首の棚卸資産よりも期末の棚卸資産が多い場合、在庫を積み増していることになるため、営業キャッシュ・フローの調整上マイナス【支払い(マイナス)のプラス】の調整が必要になります。
    他方、期首の買掛金よりも期末の買掛金が多い場合、仕入債務が増加していることになるため、営業キャッシュ・フローの調整上プラス【支払い(マイナス)のマイナス】の調整が必要になります。

    営業損益計算の計算対象となる債権債務や棚卸資産を調整する際の符号は、資産が増加している場合はマイナス、負債が増加している場合はプラスとなる点に留意する必要があります。

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