公認会計士 浦田 千賀子
公認会計士 伊藤 毅
【ポイント】
減損会計は、企業が行った投資額が回収できなくなるという見積りをタイムリーに財務諸表に反映するための会計処理です。
企業は新たな利益を得るために、固定資産を取得し事業の拡大を計画します。例えば、新規事業を開始する際、そのための機械装置を設置することがあります。その際、企業は固定資産の投資額以上のもうけを将来得ることを見込んで、固定資産を購入しています。
図1-1 固定資産への投資
- ABC株式会社は、新規X事業に参入するため、新しい機械装置を購入しました。
(設定)- 機械装置の取得価額を600とする(下記図の投資額部分)。
- 耐用年数は5年、残存価額は0である(毎年120ずつ減価償却される)。
- 毎年の回収見込み額は170である(5年間で850。下記図の将来の回収見込み部分)。
図1-1の場合、毎年、将来の回収見込み170-減価償却額120=50のもうけを得ることを想定しています。投資時点の計画通りに事業を営むことができた場合、耐用年数5年を経過した時点で250のもうけを得ることになります。この場合、ABC株式会社は、投資額を上回る成果を得られたということになります。
図1-2 投資の失敗
- ABC株式会社がX事業に参入してから3年後、強力な同業他社が出現!
これにより、今後の回収見込みが、投資時点の当初計画より大幅に減少してしまいました。
(設定)- 同業他社はかなり大きなシェアを占めており、その影響を受け、残り2年の将来の回収見込み額が60まで下落(1年あたり30)。
- 一方で、投資から3年経過後の帳簿価額は、600-減価償却120×3年=240である。
しかし、投資はいつも成功するとは限りません。強力な同業他社の出現など、様々な事象によりもうけが得られないどころか、固定資産の投資額すら回収できない、元が取れない状況になることも大いにありえます。
図1-2の場合、貸借対照表に計上されている機械装置の帳簿価額240に対して、将来の回収見込みが60と小さいため、帳簿価額と将来の回収見込みの差額180が投資の損失ということになります。
このように投資の損失が見込まれる場合には、当該事実を財務諸表に反映する必要があります。そこで、会計上は固定資産の帳簿価額に反映させるために、「減損」という処理を行います。固定資産の帳簿価額を減らした部分は、損益計算書では「減損損失」として反映されます。一方、貸借対照表では、固定資産の帳簿価額が、減損損失分減らされた金額で計上されることになります。これにより、固定資産の帳簿価額が見積り時点で得られると見込まれる回収額に見合った金額であることを明確にすることができるのです。
ここでは、機械装置を例に固定資産の減損について説明しましたが、実際に減損会計が適用される資産は広範囲にわたっています。こちらについては、解説シリーズの本編において説明しておりますので、ご参照ください。
この記事に関連するテーマ別一覧
わかりやすい解説シリーズ「減損会計」
- 第1回:減損会計の概要 (2015.12.11)
- 第2回:資産のグルーピング (2016.09.07)
- 第3回:減損の兆候 (2016.09.15)
- 第4回:減損損失の認識の判定 (2016.09.26)
- 第5回:減損損失の測定 (2016.09.30)