継続企業及び後発事象に関する調査研究のポイント

2024年7月29日
カテゴリー 会計情報トピックス

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 加藤 圭介、宮﨑 徹

<企業会計基準委員会が2024年6月21日付で公表>

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2024年6月21日に、「継続企業及び後発事象に関する調査研究」(以下「本調査研究」という。)を公表しました。

Ⅰ. 本調査研究の経緯

ASBJ及び日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)は、JICPAが公表した企業会計に関する実務指針(Q&Aを含む。以下「実務指針等」という。)を「会計に関する指針のみを扱う実務指針等」と「会計に関する指針のみを扱う実務指針等以外の実務指針等」の2つの分類に分けた上で、「会計に関する指針のみを扱う実務指針等」の全てを、2024年7月1日にASBJに移管しています。

一方、「会計に関する指針のみを扱う実務指針等以外の実務指針等」については、内容に応じて会計に関する内容と監査に関する内容を切り分ける必要がある場合がありますが、その作業には膨大なリソースを要する可能性があることから、優先順位に基づいて対応することとなりました。

この点、国際的な会計基準及び監査基準等に照らして検討した結果、継続企業及び後発事象については国際財務報告基準(IFRS)会計基準(以下「IFRS会計基準」という。)において定めが設けられていることなどから、継続企業及び後発事象は優先順位が高いと考えられたため、これらについて調査研究を行ったものです。

なお、本調査研究は、本調査研究公表時点におけるASBJの見解をまとめたものであり、実際に会計基準の開発に着手するかどうかは今後の議論次第であるとされています。また、仮に会計基準の開発に着手した場合、審議の状況によっては、本調査研究の基準開発の範囲に関する考察における記載内容とは異なる検討結果となる可能性があるとされています。

Ⅱ. 継続企業に関する調査研究

1. 我が国における経緯

(1) 監査基準及び開示規則

我が国における継続企業の前提に関する開示は、2002年の監査基準の改訂及び財務諸表等規則及び連結財務諸表規則(以下「財規等」という。)の改正により定められた後、複数の改正を経て、現行制度においては、監査・保証実務委員会報告第74号「継続企業の前提に関する開示について」(以下「報告第74号」という。)及び財規等により開示が定められています。また、監査上の取扱いは、監査基準報告書570「継続企業」(以下「監基報570」という。)により定められています。

(2) 会計基準

会計基準においては、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」第19項(14)及び第25項(12)等を除き、継続企業の前提に関する評価及び開示に関する定めは設けられていません。また、会計基準上、継続企業の前提により財務諸表を作成することが不適切な場合の取扱いを定めたものはありません。なお、JICPAが公表している会計制度委員会研究報告第11号「継続企業の前提が成立していない会社等における資産及び負債の評価」は研究報告であり、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準には含まれないと考えられるとされています。

2. 実務指針等の移管の実行可能性に関する分析

(1) 報告第74号に関する分析

報告第74号の各項目のうち、会計に関する指針に相当すると考えられる記載の分析が行われていますが、具体的な項目及び記載箇所は以下のとおりです。

具体的な項目 記載箇所
①継続企業の前提の評価と開示 「3.継続企業の前提の評価と開示」
②継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況 「4.継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」
③継続企業の前提に係る評価期間と検討の程度 「6.継続企業の前提に係る評価期間と検討の程度」
④継続企業の前提に関する注記 「7.継続企業の前提に関する注記」
「付録 継続企業の前提に関する注記の参考文例」

(2) 監査基準に関する分析

「監査基準」には企業又は経営者の視点から記載されている文章は含まれておらず、会計に関する指針に該当するものは含まれていないと考えられます。

(3) 監基報570に関する分析

監基報570は監査における実務上の指針を提供するものであり、企業又は経営者の観点から記載されている文章は含まれていないため、会計に関する指針に該当するものは含まれていないと考えられます。その一方で、次に記載のとおり、使用されている用語や考え方が会計に関する指針と密接に関連する可能性があるものが含まれると考えられます。

① 評価期間(監基報570第12項)
② 継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切でない場合(監基報570第2項、A25項)

3. 基準開発の範囲に関する分析

国際的な会計基準及び監査基準の状況とASBJにおける過去の審議の状況における調査が行われました。

(1) 国際的な会計基準の状況

IFRS会計基準及び米国会計基準における取扱いを調査し、以下の項目について我が国における取扱いとの比較の要約が記載されています。

① 継続企業の前提に関する経営者の評価項目
② 経営者の評価期間
③ 開示が求められるケース
④ 具体的な注記事項の有無
⑤ 詳細なガイダンスの有無
⑥ 継続企業の前提を満たさない状況
⑦ 継続企業の前提を満たしていない場合の会計基準の有無
⑧ 継続企業の前提を判断する主体(「経営者」という用語の範囲)

(2) 国際的な監査基準の状況

国際監査・保証基準審議会(以下「IAASB」という。)により国際監査基準570「継続企業」(以下「ISA570」という。)の改訂が進められています。具体的には、2023年4月に改訂ISA570の公開草案が公表され、継続企業の前提の評価期間の起点を期末日から財務諸表の承認日に変更するなどの改訂が提案されています。

(3) ASBJにおける過去の審議状況

① 継続企業の前提に関する判断基準の作成

2019年4月開催の企業会計基準委員会において、基準諮問会議からの提言に基づき、継続企業の前提に関する判断基準の作成を新規テーマとすることが了承されたものの、その後の検討において、当初想定されなかった困難な課題が複数識別され、会計基準の開発の継続が困難な状況になったことから、2020年5月に開発中のテーマから除外されています。

② 継続企業の前提により財務諸表を作成することが不適切と判断された場合に関する会計基準の開発

2013年3月に開催された基準諮問会議において会計基準整備のテーマ提案がされましたが、テーマ評価の結果、会計基準を開発するニーズが高いとはいえない中で、長期間リソースを投じることは便益に見合わないと考えられるとの理由により、新規テーマとして提言しないこととされています。

4. 継続企業に関する調査結果

(1) 移管の実行可能性に関する評価

報告第74号、監査基準及び監基報570を会計に関する内容と監査に関する内容に切り分けて、会計に関する指針に相当すると考えられる記載について、ASBJが開発する会計基準の表現に見直した上で移管することは可能と考えられます。なお、移管する場合には、移管指針ではなく、新たな会計基準として開発することになると考えられます。

(2) 基準開発の範囲

国際的な会計基準及び監査基準との関係から生じる論点である「財務諸表の公表の承認日」の概念を取り入れるかどうかについても基準開発において検討することが考えられます。この概念は後発事象にも関係することから、開発にあたっては両基準の関係に留意する必要があると考えられます。また、現時点においてISA570の改訂に関する審議が行われていますが、我が国における基準開発にあたっては、ISA570に関する審議及び我が国の監査基準の改正に関する状況を踏まえて、適切な開発時期を検討することが考えられます。さらに、我が国において過去の審議で検討された論点である「企業の清算若しくは事業停止の意図がある」とされる範囲及び「企業の清算若しくは事業停止の意図」をもつ主体については、対応が難しい可能性はあるものの、開発ニーズがあったことを踏まえ、基準開発の範囲に含めて検討を行うことが考えられます。

Ⅲ. 後発事象に関する調査研究

1. 我が国における経緯

(1) 監査基準

我が国における後発事象の取扱いについては、JICPAより、監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」(以下「監基報560実1」という。)及び監査に関する指針として監査基準報告書560「後発事象」(以下「監基報560」という。)が公表されています。

(2) 会計基準

会計基準に関しては、企業会計原則注解(注1-3)において重要な後発事象の開示及び後発事象の定義が定められており、また、各会計基準で後発事象の開示の取扱いが個別に定められている場合があるものの、後発事象の定義、会計処理及び開示等を取り扱う包括的な会計基準は設定されていません。

2. 実務指針等の移管の実行可能性に関する分析

(1) 監基報560実1に関する分析

監基報560実1の各項目のうち、会計に関する指針に相当すると考えられる記載の分析が行われていますが、具体的な項目及び記載箇所は以下のとおりです。

具体的な項目 記載箇所
①後発事象の定義 「2.定義」
②修正後発事象及び開示後発事象の定義等 「3.監査対象となる後発事象の範囲」
③財務諸表における修正後発事象の取扱い、修正後発事象の例示 「4.修正後発事象に関する取扱い」
④開示後発事象についての基本的な考え方、計算書類又は財務諸表における開示後発事象の取扱い、開示後発事象の例示 「5.開示後発事象に関する取扱い」
⑤継続企業の前提に関する事項を重要な後発事象として開示する場合の取扱い 「7.継続企業の前提に関する事項を重要な後発事象として開示する場合の取扱い」

(2) 監基報560に関する分析

監基報560は監査における実務上の指針を提供するものであり、会計に関する指針に該当するものは含まれていないと考えられます。その一方で、次に記載のとおり、使用されている用語や考え方が会計に関する指針と密接に関連する可能性があるものが含まれると考えられます。

① 財務諸表の承認日(監基報560第4項(4))

3. 基準開発の範囲に関する分析

基準開発の範囲に含める論点を分析することを目的として、国際的な会計基準の状況とASBJにおける過去の審議の状況に関する調査が行われました。

(1) 国際的な会計基準の状況

IFRS会計基準及び米国会計基準における取扱いを調査し、以下の項目について我が国における取扱いとの比較の要約が記載されています。

① 後発事象の定義
② 財務諸表の修正が要求される後発事象
③ 財務諸表に開示が要求される後発事象

(2) ASBJにおける過去の審議の状況

2010年8月に基準諮問会議から後発事象に関する会計基準等策定が提言され、ASBJにて審議が開始され、主に以下の論点について審議が重ねられましたが、合意に至ることはできず2011年3月を最後に審議を停止しています。

① 財務諸表の公表の承認日について、会社法の計算書類と金融商品取引法の財務諸表のそれぞれにおいてどのように取り扱うか
② 会社法の計算書類における公表の承認日後に生じた修正後発事象について、金融商品取引法の財務諸表において開示後発事象に準じた取扱いとする現行の取扱いを見直すかどうか

4. 後発事象に関する調査結果

(1) 移管の実行可能性に関する評価

監基報560実1を会計に関する内容と監査に関する内容に切り分けて、会計に関する指針に相当すると考えられる記載について、ASBJが開発する会計基準の表現に見直した上で移管することは可能と考えられます。ただし、現行の後発事象の定義は修正後発事象及び開示後発事象のいずれも「監査報告書日」を採用しており、監査の要素を含んでいることから、後発事象の定義を見直した上で移管することが必要と考えられます。なお、移管する場合には、移管指針ではなく、新たな会計基準として開発することになると考えられます。

(2) 基準開発の範囲

移管において後発事象の定義を見直す必要があると考えられますが、その際、国際的な会計基準との整合性の観点から、「財務諸表の公表の承認日」の概念を取り入れるかについても基準開発の範囲に含めて検討を行うことが考えられます。さらに、「財務諸表の公表の承認日」の概念を取り入れる場合には、我が国の開示制度に照らして「財務諸表の公表の承認日」を会計基準にどこまで具体的に定めるべきかについても基準開発の範囲に含めて検討することが考えられます。

また、国際的な会計基準との差異となっている、会社法監査における監査報告書日後に発生した修正後発事象について、金融商品取引法に基づいて作成される財務諸表においては開示後発事象に準じて取り扱うとされている点については、会社法と金融商品取引法の開示制度が併存する我が国固有の状況を踏まえるべきであるという意見が聞かれていることを踏まえた上で、基準開発の範囲に含めて検討することが考えられます。

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