会計情報トピックス 吉田剛
企業会計基準委員会から平成25年3月29日に公表
平成25年3月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から「特別目的会社の連結範囲等に関する検討の中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」という。)が公表されました。以下では、そのポイントについて解説します。
1. 中間とりまとめの位置づけ
ASBJでは、本委員会や連結・特別目的会社専門委員会(以下「専門委員会」という。)で特別目的会社の連結範囲等に関する検討を進めてきており、平成23年3月には短期的対応として企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下「連結会計基準」という。)を改正し、特別目的会社の連結に関する特則(いわゆる推定規定)を一部改正しました。
その後、平成23年(2011年)5月には国際会計基準審議会(IASB)より国際財務報告基準(IFRS)第10号「連結財務諸表」(以下「IFRS第10号」という。)が公表され、専門委員会では、日本基準にIFRS第10号の支配の考え方を取り入れた場合に生じ得る論点の検討を行ってきました。しかし、ASBJとして、専門委員会における検討が長期間にわたっていることから、日本基準にIFRS第10号の支配の考え方を取り入れた場合に生じ得る論点や、資産の流動化に関する会計基準等の見直しについて、今後の会計基準の開発に向けた検討に資するよう、これまでの検討状況をいったん整理し、「中間とりまとめ」として公表することとしたものです。
2. 中間とりまとめのポイント
中間とりまとめは、以下のような構成となっています。
- これまでの検討の経緯
- 特別目的会社の連結範囲
- 特別目的会社に対する支配力基準の適用について
- 代理人の取扱いについて
- 会社に準ずる事業体について(組合及び信託の取扱い)
- 資産の流動化に関する会計基準等の見直し
(1)I. これまでの検討の経緯
これまでの検討の経緯では、1.に記載した中間とりまとめの位置づけといった点を含め、平成17年から現在までの本論点に係る流れが記載されています。
(2)II. 特別目的会社の連結範囲
① 特別目的会社に対する支配力基準の適用について
現行の日本基準では、子会社の範囲について実質支配力基準をベースとしつつ、一定の要件を満たした特別目的会社については、資産を譲渡した企業の子会社に該当しないものとする特別目的会社の連結に関する特則が設けられています(連結会計基準第7-2項。なお、改正後の同項の定めは平成25年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用となります。)。これに対して、IFRS第10号では、特別目的会社のような事業体を区別せず、単一の支配モデルにより子会社であるかどうかを判定することとしています。
専門委員会では、この論点について、国際的な会計基準の開発動向を踏まえ、またIFRS第10号の公表後はその支配の考え方を適用した場合の論点の検討も行ってきていました。中間とりまとめでは、IFRS第10号での取扱いが整理された上で、以下の設例も用いて、これまでの検討過程が示されています。
- 不動産の流動化(合同会社と匿名組合を用いた「GK-TKスキーム」)
- 住宅ローンの証券化
② 代理人の取扱いについて
現行の日本基準では、IFRS第10号のように包括的に代理人の取扱いを定めた会計基準はありません。代理人とは、他人のために企業の行動を指示するような者を指し、パワーの要素があってもリターンの要素がないような場合には、支配が存在しないと考えられることから、会計基準において代理人の定義を設け、当該定義に該当する具体的な要件を定めることが考えられるとしています。
中間とりまとめでは、IFRS第10号での取扱いが整理された上で、以下の設例も用いて、これまでの検討過程が示されています。
- 不動産の流動化(合同会社と匿名組合を用いた「GK-TKスキーム」)
- 未公開株式投資を目的とした投資事業組合
③ 会社に準ずる事業体について(組合及び信託の取扱い)
現行の日本基準では、組合は会社に準ずる事業体に含まれる一方で(連結会計基準第5項参照)、信託は、通常会社に準ずる事業体に該当するとはいえないと解されています(実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」Q2のA 3)。その上で、これらは経済的な機能が類似している場合も少なくなく、法的形式が異なることで出資者(又は受益者)の会計処理が異なる場合があることから、今後これらの取扱いができるだけ整合するように見直していくことが考えられるとしています。
IFRS第10号の公表後、本論点に係る検討は行われていませんが、「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理」(平成21年2月)公表後の検討の状況(組合及び信託を会社に準ずる事業体と捉えるかどうかの判断)がこの中間とりまとめで示されています。
(3)III. 資産の流動化に関する会計基準の見直し
特別目的会社を譲渡先として資産を譲渡した場合、流動化対象資産が引き続き譲渡した会社の連結財務諸表に計上されるかどうかは、対象資産の消滅の認識の判断と、当該特別目的会社を連結の範囲に含めるかどうかの判断が必要となります。前者の対象資産の消滅の認識の判断は、譲渡対象資産が金融資産である場合には企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」における金融資産の消滅の認識要件に照らして行われ、また、譲渡対象資産が不動産である場合には日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第15号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」に基づいて行われます。
中間とりまとめでは、金融資産の消滅の認識に関する取扱いと不動産の流動化に関する取扱いに分けて、論点、現行基準上の取扱い、IFRSにおける取扱い(国際的な会計基準における動向)及び検討状況(又は検討の過程で示された主な懸念)がまとめられています。
3. コメントの募集
この中間とりまとめは、現状でのASBJでの検討状況を示すものであり、論点整理や公開草案のようなコメントの募集は行われていません。