CEOが直面する喫緊の課題:新たな勢力図はアジアでM&Aを加速させることになるのか
セクターの境界線がますますあいまいになる中、アジア太平洋地域ではM&Aを含め、セクターをまたいだ投資戦略がCEOにとって重要優先事項となっています。
要点
- セクターの境界線があいまいになる中、アジア太平洋地域では、企業は現行の競合相手が誰になるのか再考する必要がある。
- アジア太平洋地域ではM&Aに対する意欲がかつてなく高まっており、CEOが国境やセクターの枠を超えた成長機会を求めている。
- ESGの重要性はますます高まっているものの、自社のサステナビリティ戦略については、アジア太平洋地域ではCEOは投資家や株主から反発を受けている。
新型コロナ感染症(COVID-19)によるパンデミックの1年⽬は、アジア太平洋地域の企業は短期的な重要課題への対応をまず優先しました。そうした企業も現在、ビジネスが直⾯しているより⻑期的な課題に再び照準を合わせています。
アジア太平洋地域のCEOは、従来と異なる競合相⼿との競争の激化を、今後の成⻑戦略上、最大のリスクに挙げています。この「ニューノーマル」な環境下におけるテクノロジーのディスラプションと急速なデジタルトランスフォーメーションの進行と相まって、破壊的イノベーターの市場参⼊が加速しています。このため、産業の境界線があいまいになり、産業の新たな形態とバリューチェーンが顕在化してきています。産業が集約され、従来のようにはっきりした業界の境界がない中で企業が戦わざるを得なくなった今、⾃らの組織にとって競争が持つ意味を改めて定義し直すことが求められています。急速に変化する環境に対応していくためには、事業戦略を⼀から⾒直し、より複雑な変⾰計画を策定することも必要になるものと思われます。
企業はどのように戦うべきかを模索する中、調査対象となったアジア太平洋地域のCEOの4分の3近く(73%)もが、所属するセクター以外への投資を視野に⼊れています。彼らはビジネスモデルをいかに⾒直し再構築するかを検討する上で、今後12カ⽉間にクロスセクターM&Aが果たす役割は大きいと述べています。
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第1章
アジア太平洋地域のCEOはサプライチェーンの再構築に積極的
多くのCEOはいまだパンデミックの対応に追われています。
アジア太平洋地域のCEOは、他の国や地域のCEOに⽐べ、地政学的緊張と貿易摩擦に対する危機感がやや薄い傾向にあるようです。とはいえ、84%(世界全体では79%)のCEOが、これを機会に事業を⾒直し、先を⾒越して業務とサプライチェーンを再構築していると回答しました。この割合は、オーストラリア、⽇本、中国、シンガポールなど同地域の主要国だけを⾒ると90%を超えます。
また、アジア太平洋地域のCEOの30%以上がサプライチェーンを再構築する最大の要因として挙げたのは、コスト削減とリスクの最小化です。この2年間で、パンデミックによる各地での操業停⽌が世界のサプライチェーンに⼤打撃を与えました。原因はパンデミックだけではないものの、この間に仕⼊価格から⼈件費、エネルギーコスト、原材料コストまでもが著しく上昇しています。また、運送費も2019年の水準から400%以上も跳ね上がっています1。
このように、サプライチェーンの再構築を優先することもあり、アジア太平洋地域のCEOにとっての地政学的リスクの優先順は、世界全体のレベルに⽐べ低い傾向になりました。同様に成⻑戦略の検討において、同地域のCEOの地政学的リスクに対する危機感はやや低めになっています。今後の成⻑にとって最⼤のリスクは何になるかとの設問では、地政学的リスクであるとの回答は、従来とは異なる競合相⼿との競争激化、サステナビリティの確⽴を求める圧⼒の⾼まりに次ぐ第3位でした。また、自社の事業成⻑にとって最⼤の外部リスクは何になるかについて問うたところ、アジア太平洋地域の経営幹部の場合、地政学的課題は第5位という低さです。これは、昨年実施した同様のEYの調査結果とも重なります。
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第2章
変革をもたらすM&Aが優先課題のトップ
アジア太平洋地域のCEOは成⻑を志向し、国境やセクターをまたいだM&Aを追求しています。
アジア太平洋地域のCEOは、刷新された競争環境で成⻑を遂げるため投資戦略を⾒直しており、その中でM&Aが中⼼的役割を担うものとみています。同地域のCEOの間では、M&Aに対する意欲がかつてなく⾼まっており、回答者の54%が今後12カ⽉間に買収を積極的に進める予定であると回答しました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックがこの地域を最初に襲った2020年には、この割合は51%でした。
CEOのM&Aへの意欲の⾼まりは、M&A市場の動きと合致しています。2021年はアジア太平洋地域のM&A取引額が過去最高の1兆4,000億米ドルに達しました。同地域では、域内の企業が投資に意欲的であると同時に外国投資家も呼び込んでおり、インバウンド取引件数が過去最⾼を記録しています。
他方で、アジア太平洋地域のCEOは、ふさわしいM&A対象企業を求める中、国内だけでなく海外にも⽬を向けており、83%が今後12カ⽉間でクロスボーダーM&Aを推し進めると回答しています。これは、北米(37%)や欧州(71%)のCEOを上回る数字です。さらに、本年度のCEO Outlook調査結果と、EYが2021年に実施した同様の調査結果とを比較したところ、アジア太平洋地域のCEOは域外への投資を選択する傾向が強いことが判明しました。国内市場以外に投資することを計画しているとした回答者は32%で、2021年の18%から大幅に増加しています。そのため、同地域での投資先のトップ5は中国、インド、米国、シンガポール、英国と、域内外の国が混在しています。
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第3章
戦略的投資機会が豊富
成⻑とROIは依然として重要なドライバーでありながら、ESGの観点も付加されています。
投資戦略における照準はなお成⻑と投資利益率(ROI)ですが、持続可能な成⻑戦略もアジア太平洋地域のCEOにとって極めて重要になってきました。また、急激な気候変動の影響の増大により、アジア太平洋地域の企業に対する圧⼒が強まっています。アジア太平洋地域のCEOが選んだ、今後の成⻑戦略にとって最も重⼤なリスクにおいても、サステナビリティは第2位でした。
さらに、回答者のほぼ4分の3(74%)が、今後数年間でバリュードライバーとしての環境・社会・ガバナンス(ESG)の重要性が⾼まるとしています。また、3分の1(33%)が⻑期的価値創造の重要業績評価指標(KPI)にサステナビリティの項⽬を追加したと回答し、4分の1以上(26%)が、投資家の呼び込みにつながるESGスコア上昇を目指す上で、M&Aを重要な⼿段と考えています。
アジア太平洋地域のCEOがサステナビリティを長期的価値創造に不可欠な一部と見なす一方で、89%が自社のサステナビリティ戦略について投資家や株主から反発を受けたとしています。投資家がサステナビリティ戦略を全面的に支持していると考える同地域のCEOは11%にとどまりました。これは、北米のCEO(48%)や欧州のCEO(47%)の数字を大きく下回ります。
さらに、アジア太平洋地域のCEOの大半が、⻑期的成⻑に向けた取り組みを投資家が概して⽀持している(次の回答2つを基に推定:「良く練られた⻑期的投資をどちらかといえば⽀持する」の回答43%、「明確な⽬的の投資を⾮常に強く⽀持する」の回答19%)と考える⼀⽅、38%のCEOが投資家は⽀持をしていない、もしくは四半期収益に固執し過ぎていると感じています。世界全体のCEOでは、この割合は21%にとどまっています。
アジア太平洋地域のCEOは、自社の⻑期的戦略について投資家から⽀持を得ているとの自信を深めてゆく必要がありそうです。投資家とステークホルダーを惹きつけ、サステナビリティ変⾰を推進していく上で鍵となるのは、強固なナラティブと、ESGの観点を取り⼊れた強力なビジネスケースの構築です。そのためには、潜在的な売り上げ成⻑、業務コスト削減、リスク軽減、ブランド強化といった要素を基に、ESG価値をスコア化するバリュエーションモデルの開発が必要になるものと思われます。
- Frank Holmes, “Shipping Bottlenecks Could Last Well Into 2022. That’s Good News for Investors,” orbes.com, 1 November 2021
サマリー
『EY CEO Survey 2022』調査はCEO Imperativeシリーズの最新レポートです。このシリーズでは、CEOが組織の未来を創る上で役立つ、重要な解決策とアクションを提起しています。
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