- 多くの住民は、観光客の増加は豊かな生活を送る上で必要だとポジティブに捉えている傾向
- オーバーツーリズムとして住民がネガティブに捉えるきっかけは、「日常生活」へのサービス低下
- ツーリズムによる経済成長は、観光地のマネジメントがきちんとなされない限りもろ刃の剣であり、地域のステークホルダーが「自分ごと」として問題を捉え、向き合うことが重要
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:近藤 聡、以下EYSC)は本日、海外でのオーバーツーリズム対策事例、および、オーバーツーリズムが生じていると思われる日本の10都市1,860名の住民を対象としたアンケート調査結果などをまとめたレポート「日本経済をけん引するツーリズム産業への成長に向けて」を発行しました。本レポートでは、今後日本がオーバーツーリズムを解消しツーリズム産業を成長させる上で、経済成長と地域住民との共生を両立させる観光マネジメントの重要性を唱えています。
本レポートでは、海外で行われているオーバーツーリズム対策の3つの方向性である ①入場料等への料金の上乗せ、②宿泊施設数やクルーズの寄港の制限、③事前予約制度についてまとめています。
また、2019年と比較して宿泊者数の増加率が高い地域を10都市選び、各都市約200名の住民にオンラインによるアンケートを実施しました。その結果、居住地域に観光客が訪れている現状に対して「もっと多くの観光客が来てもよい」「観光客が来ている現状をよいことだと思っている」と回答した人は全体の41%、「観光客の数に関心がない、特に気にならない」という回答も合わせると72%となりました。「観光客の多い現状をあまりよくないことだと思っている」「観光客はもっと少ない方がいい」「観光客は来ないほうがいい」と回答した人の合計28%と比較して、現在の状況を肯定的に捉える人が非常に多いことがわかりました。
観光客の多い現状がもたらす良い影響については、「明確な理由はないが、なんとなくうれしい」「地域全体の景気が良くなった、お金が流れるようになった」「新しいお店が増え、選択肢が広がった」が上位となりました。一方で、悪い影響については「観光客のマナー違反(ポイ捨て、食べ歩き、道路の危険な横断等)」「バスや電車などの公共交通や道路が混雑して使いづらくなった」「観光地・施設やその周辺が混雑しており、住民が使いづらい」が上位でした。
特に、観光客が多く地域に来ることで、オーバーツーリズムと感じるかという問いに対し、「とても強く感じる」、「一部の地域で強く感じる」、「やや感じる」、「一部の地域でやや感じる」と回答された“オーバーツーリズムを感じている人”の回答に限定すると、良い影響の1位が「地域全体の景気が良くなった、お金が流れるようになった」、悪い影響の1位が「バスや電車などの公共交通や道路が混雑して使いづらくなった」となりました。「観光客のマナー違反(ポイ捨て、食べ歩き、道路の危険な横断等)」(2位)に次いで、悪い影響の3位は「市民向けのサービスが後回しになるなど、公共サービスが劣化した」であり、交通サービスや公共サービスなど日常生活へのサービス低下が観光客増加を否定的に捉えるきっかけと考えられます。
さらに今後、日本でのオーバーツーリズムを解消し、ツーリズム産業の成長と地域やコミュニティの健全な発展を両立させるため、DMO(Destination Management Organization:観光地域づくり法人)などを中心とした観光マネジメントの在り方を考察しています。
本分析を担当したEYSC ストラテジック インパクト パートナー 平林 知高のコメント:
「訪日外国人が4カ月連続で単月300万人を超える等、ツーリズム市場は活況を呈しています。訪日外国人消費額も2024年は8兆円に上るともいわれ、文字通り、重要な産業となりつつあります。一方で、訪日外国人の増加は、地域住民の生活を脅かす存在にもなり、いわゆるオーバーツーリズムの問題にもつながります。今回の調査で、ツーリズムを通じた経済的な恩恵がきちんと住民に伝わること、「日常生活」に支障が出ないような施策を実施することが、ツーリズムを通じた経済成長には重要であることが明らかになりました。ツーリズムを通じて地域全体が豊かになるために、各ステークホルダー間で議論の上、合意形成を図る観光地マネジメントが今後より一層重要度が増していきます」