EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 浦田 千賀子
不動産業、小売業等の監査業務、ならびに会計に係る情報提供および法人内の質問対応等の業務に従事。雑誌への寄稿やセミナー講師も行っている。また、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)の編集委員として、会計情報の外部発信業務にも従事。主な著書(共著)に、『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(最新版)』(中央経済社)がある。当法人 マネージャー。
Q 「固定資産の減損に係る会計基準」(以下、減損基準)での減損の兆候の有無を判定するときにおける、本社費等の取り扱いについて教えてください。
A 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下、減損適用指針)第12項(1)において、「『営業活動から生ずる損益』は、営業上の取引に関連して生ずる損益であり、これには、当該資産又は資産グループの減価償却費や本社費等の間接的に生ずる費用が含まれ、また、損益計算書上は原価性を有しないものとして営業損益に含まれていない項目でも営業上の取引に関連して生じた損益(例えば、たな卸資産の評価損)であれば含まれる」と記載があり、減損の兆候の有無を判定するときにおいて、本社費等を加味することが求められています。本社費等の取り扱いについては、減損の認識時にも同様の検討を行うことが減損基準二4(4)において求められています。
文中意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
本社費等を資産グループに配賦する際のコストドライバーとして、以下の(1)から(3)の項目につき簡単な設例を用いて、本社費等の配賦を考察・検討してみたいと思います。
(設例)
本社費等を各資産グループの営業損益で配賦する方法です。減損適用指針第12項の減損の兆候の例示においても、「営業活動から生ずる損益」が判断基準の1つとされていることから、企業本来の営業活動の成果を示す指標として、本社費等のコストドライバーとして考えられます。
設例の場合、本社費等300を営業損益で按分すると<表2>のとおりとなります。
営業損益をコストドライバーとした場合、設例のように企業の中に複数の資産グループがあり、かつ営業利益と営業損失が発生している資産グループが混在している場合には、営業損失が発生している資産グループにおいて本社費等がマイナス値として配賦されてしまうため、適切な本社費等の配賦ができなくなります。また、実務として営業損失が発生している資産グループの場合は本社費等をゼロ負担とするケースもあり得ますが、営業活動をしているにもかかわらず本社費等の負担をゼロにするのも、資産グループが負担すべき費用を負担していない状態となってしまうことから実態と乖(かい)離していると考えられます。
設例の場合は、本社からの便益を同じように3つの資産グループが享受しているにもかかわらず、営業損失が発生している資産グループBに配賦されている本社費等が▲40とマイナス値として配賦されてしまっており、本社資産の便益を享受している実態と乖離している状況となっています。黒字の資産グループと赤字の資産グループが存在する場合には、黒字の資産グループのみから本社費を回収する考え方となってしまい、このような考え方は採用し得ないものと考えます。本社費等のマイナスの配賦を受ける場合も、ゼロ負担となる場合のいずれも、減損損失を認識しない結果となり得る点が最大の懸念点であると考えられることから、本社費等の配賦方法として営業損益を用いるのは望ましいとは言えません。
本社費等を各資産グループで保有している固定資産の帳簿価額で配賦する方法です。各資産グループの収益が保有する固定資産と強く関連しており、かつ当該固定資産から生成されるという考え方を根底にしていることから、本社費等のコストドライバーとして用いる方法です。
設例の場合、本社費等300を固定資産の帳簿価額で按分すると<表3>のとおりとなります。
ただし、事業によっては固定資産を保有していなくとも収益を生成する場合があります。例えば、設例の企業が小売業だと仮定し、資産グループA、Bでは自社保有、資産グループCでは賃借の固定資産(店舗)を利用して事業を行っている場合です。小売業では収益を獲得する上で重要となるのは、取り扱っている物品やサービス、立地の良さなどであり、店舗が自前か賃貸かは直接収益の獲得には関連していません。従って、会計上固定資産がゼロとなっている資産グループCに該当する店舗でも収益を生成することがあり得ます。
このような場合に固定資産の帳簿価額をコストドライバーとしていると、固定資産の帳簿価額がゼロである資産グループCに配賦される本社費等の配賦額はゼロとなってしまいます。しかし、実際には当該グループも本社の小売ビジネスのノウハウを本社から享受している上で、売上高5,000を獲得していることから、他資産グループと同様に本社費等を負担すべきと考えられます。
本社費等を各資産グループから生じた売上高を基準に配賦する方法です。例えば、本社のノウハウが売れ筋の情報提供を受ける内容であれば、当該情報を受けている各店舗の売上高に貢献していると考えられます。そのような場合、各資産グループのコストを考慮する前の営業活動の成果である売上高を本社費等配賦のコストドライバーとすることが実態に合っています。設例の場合、本社費等300を売上高で按分すると<表4>のとおりとなります。
売上高をコストドライバーとした場合、営業活動において獲得した成果である売上高の大きさに応じて、本社資産から生じた便益を享受しているという考え方に基づいて本社費等を配賦しています。営業活動の成果に応じた本社費等負担の観点から見た場合、上記で述べた営業損益、固定資産の帳簿価額を含めたコストドライバーの中では、最も実態に合っており望ましいと考えられます。
ただし、企業の状況次第では売上高をコストドライバーとして用いると、以下のような場合は改めて考察が必要なケースだと思われます。
例えば、設例の3つの資産グループの中で事業の規模が最も大きく、売上高が大きい資産グループCにおいて、期首時点で自社保有していた固定資産を、期中において何らかの事情で全部売却または除却しており、期末時点では固定資産の残高がゼロとなっていると仮定しましょう。このような場合、売上高をコストドライバーとして本社費等を配賦すると、売上高が1番大きい資産グループCに本社費等が1番多く配賦されます。しかし、期末時点において減損を考慮すべき固定資産の残高がゼロとなっているため、期末で減損の検討対象とすべき固定資産が存在しない資産グループに最も多く本社費等が配賦されることになります。このような場合、資産グループAや資産グループBは本当に「減損の兆候なし」と判断すべきなのかは慎重な判断が必要となります。
1. では本社費等の配賦を単一のドライバーで行うことについて考察・検討しましたが、本社費等の内容に応じて他のコストドライバーを使用することも考えられます。
小売業を主な事業としている場合、本社のPOSシステムにて商品管理・販売・購買情報の把握を行い、マーケティングや経営戦略へ利用していることがあります。その場合、POSシステムの維持費用など関連費用を、原価をコストドライバーとして配賦することがあります。
チェーン展開している飲食業の場合、本社において採算の取れている店舗と不採算店舗の 把握を行うことがありますが、不採算店舗のテコ入れのために本社からマーケティングのスペシャリストを派遣するケースがあります。このような場合、本社から派遣された人員に係る人件費は不採算店舗の収益獲得に貢献していることが明確ですので、不採算店舗の属する資産グループへ直課することが望ましいと考えられます。
本社費等を費目ごとに細分化し、売上高に関連のある科目は売上高、人件費には人員数、敷地、建坪面積など複数のコストドライバーを組み合わせて本社費等を配賦しているケースもあります。実務面での負担は大きくなりますが、本社費等の細目ごとに関係の強いコストドライバーを用いるため、単一のコストドライバーを用いるよりもより精緻に本社費等を配賦することが可能となります。
固定資産の減損の兆候の有無を判定するときの本社費等の配賦は、本社のノウハウをどのような形で、各資産グループのキャッシュ・イン・フローの獲得にどれだけ享受しているかを反映させるかがポイントとなります。減損会計の基礎の部分となりますので、本社費等がどのような費目で構成されており、どのようなコストドライバーを用いて各資産グループに配賦するかを慎重に検討することが求められます。
(注)この記事は「週刊 経営財務」(税務研究会)の2022年11月21号に掲載された「新・経理実務最前線!Q&A 監査の現場から」を一部編集し、掲載しています。
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