EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 平川浩光
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、2022年3月15日に、実務対応報告公開草案第63号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下、本公開草案)を公表しました。
本稿では、本公開草案について解説しますが、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめお断り申し添えます。
19年に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され(以下、改正金融商品取引法)、いわゆる投資性ICO※1は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われました。
具体的には、これまで流通する蓋然(がいぜん)性が低いものとされ、第二項有価証券として分類されてきた金融商品取引法第2条第2項各号に規定される信託受益権、民法上の任意組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利等(以下、集団投資スキーム持分等)について、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合、株式等と同様に事実上流通し得ることを踏まえ、「電子記録移転権利」と定義し、規制が課せられています。
また、20年5月に改正施行された金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、金商業等府令)において「電子記録移転権利」よりも広い概念である「電子記録移転有価証券表示権利等」が定められました。これは、集団投資スキーム持分等を含む、金融商品取引法第2条第2項に規定されるみなし有価証券のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものであり、株式や社債などの有価証券表示権利も、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものとして含まれることになりました。
こうした状況を踏まえ、ASBJにおいて、金商業等府令における「電子記録移転有価証券表示権利等」の発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、本公開草案が公表されました。
なお、電子記録移転有価証券表示権利等は、今後どのように取引が発展していくかは現時点では予測することが困難であるため、一部の論点については本公開草案では取り扱わず、別途公表された「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」の中で関係者からの意見を募集することとし、そこでの要望に基づき別途の対応を図ることの要否を判断することとされています(<図1>参照)。
本公開草案は、株式会社が、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています。
電子記録移転有価証券表示権利等は、金融商品取引法において、①金融商品取引法第2条第2項の規定により有価証券とみなされる権利(以下、みなし有価証券)(<表1>参照)のうち、当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情等を勘案し、内閣府令で定めるものに限るとされており、金商業等府令では、②電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものとされています。
電子記録移転有価証券表示権利等は、その定義上、その移転がいわゆるブロックチェーン技術等を用いて行われる点を除けば、従来のみなし有価証券※2と権利の内容は同一と考えられるため、本公開草案では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理と同様に取り扱うことが提案されています。
電子記録移転有価証券表示権利等に該当する企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計基準)及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、金融商品実務指針。また、金融商品会計基準及び金融商品実務指針を合わせて、以下、金融商品会計基準等)上の有価証券を発行する場合は、従来のみなし有価証券を発行する場合と同様の会計処理を行うことが提案されています。
例えば、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する社債の発行を行った場合には、金融商品会計基準第7項の定めに従って発生の認識を行い、債務額をもって負債の貸借対照表価額とすることになります(金融商品会計基準第26項)。
また、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する株式の発行を行った場合には、企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」第5項及び第6項の定めに従い、資本金及び資本準備金に計上され、その金額は、会社法第445条及び第446条の規定に従うことになります。
なお、一部の信託受益権については、金融商品会計基準等上の有価証券として取り扱われていないため、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する場合、信託の受託者による信託の会計処理が問題となりますが、本公開草案では株式会社による会計処理のみを対象としているため、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理は取り扱われていません。
金融商品取引法第2条第1項及び第2項に定義される金融商品取引法上の有価証券については、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われるものと有価証券として取り扱われないものがあります(金融商品実務指針第8項及び第58項、<図2>参照)。
この取扱いの違いにより金融商品会計基準等における保有の会計処理が異なるため、電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて定めることが提案されています。
電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約における発生及び消滅の認識については、以下のとおり、本実務対応報告において別途の定めを置くことが提案されています。
電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識については、金融商品会計基準が定める原則(金融商品会計基準第7項から第9項)に従って行うこととするが、その売買契約について、契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合に限り、「売買契約を締結した時点」において認識することが提案されています(<表2>参照)。
有価証券の売買契約の認識については、金融商品実務指針第22項において、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間である場合、原則として約定日基準によることとされ、金融商品会計基準第7項から第9項に定める原則とは別途の定めが置かれています。しかし、電子記録移転有価証券表示権利等の売買においては、約定日及び受渡日が明確ではない場合も生じ得ると考えられ、また、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間であるかどうかの判断が困難である可能性があるため、本公開草案では、発生及び消滅の認識について別途の定めを置くこととしたものとなります。
なお、電子記録移転有価証券表示権利等の売買において、約定日に相当する時点から受渡日に相当する時点までの期間が短期間かどうかは、わが国の上場株式における受渡しに係る通常の期間と概ね同期間かそれより短い期間であるかどうかに基づいて判断することが考えられるとされています(本公開草案第41項)。
金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品会計基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従うことが提案されています。
このため、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券といった保有目的に従って、貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理を行うことになります。
ただし、電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容が、金融商品実務指針第132項に定める組合等※3に該当する場合には、金融商品実務指針第132項に従って、組合等の財産の持分相当額を有価証券として計上し、組合等の営業により獲得した純損益の持分相当額を当期の純損益として計上する等の組合等への出資の会計処理がされることになります。
一部の信託受益権については、金融商品取引法上の有価証券に該当するものの、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われない場合があり、これらの会計処理については、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(以下、信託報告)に定めがあります。そして、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する信託受益権を保有する場合の会計処理についても、この金融商品実務指針及び信託報告の定めに従うことが提案されています。
しかし、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等について、その発生及び消滅に関しては、従来の有価証券の売買契約とは異なり、約定日及び受渡日が明確ではない場合も生じ得ると考えられることから、従来の有価証券の定めとは異なる定めを置くことが提案されています。そのため、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び信託報告の定めに基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うこととされているもの※4についての発生の認識(信託設定時を除く)及び消滅の認識は、金融商品実務指針及び信託報告の定めにかかわらず、本公開草案の金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識の定めに従うことが提案されています。
電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容は、従来のみなし有価証券と同一であると考えられるため、電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とすることが提案されています。
例えば、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する株式や社債を取得した場合には、金融商品会計基準に従って、その保有目的に応じて表示され(金融商品会計基準第23項)、また、市場価格のない株式等に該当しない場合、時価の注記などが求められることになります(金融商品会計基準第40-2項、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」第4項及び第5項等)。これに対し、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する電子記録移転有価証券表示権利等に該当する組合等への出資の場合には、その時価の注記は要しないことが考えられます(企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」第24-16項)。
本公開草案は、23年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することが提案されています。
また、改正金融商品取引法は既に20年5月より施行されており、速やかに適用することへのニーズが想定されることから、公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することを認めることが提案されています。
※1 Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称である。
※2 電子記録移転有価証券表示権利等に該当しないみなし有価証券を指す。以下同じ。
※3 金融商品実務指針第134項に定める商品ファンドへの投資を除く、任意組合すなわち民法上の組合、匿名組合、パートナーシップ、及びリミテッド・パートナーシップ等
※4 例えば、委託者兼当初受益者が複数である金銭の信託は、有価証券として又は有価証券に準じて会計処理を行う場合がある(信託報告 Q2 A2)。また、信託受益権が優先劣後等のように質的に分割されており、信託受益権の保有者が複数である場合に、信託を一種の事業体とみなして、当該受益権を信託からの有価証券の購入とみなして取り扱う場合等がある(金融商品実務指針100項(1)(2)、信託報告Q3 A3(2)、Q4 A2(2)等)。
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