2022年3月決算会社での有価証券報告書最終チェック

2022年3月決算会社での有価証券報告書最終チェック


情報センサー2022年5月号 会計情報レポート


EY新日本有限責任監査法人 品質監理本部 会計監理部
公認会計士 髙平 圭
公認会計士 前田和哉

品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。


Ⅰ はじめに

本稿では、2022年3月期の有価証券報告書の作成に当たり、会計基準等や開示規則の主な改正などによる開示への影響、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の審査項目を踏まえた留意事項を解説します。文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 会計基準等の主な改正等による開示への影響

22年3月期から適用となる会計基準等が開示に与える影響について解説します。なお、これらの会計処理等の詳細については、本誌22年4月号の「2022年3月期 決算上の留意事項」をご参照ください。

1. 収益認識に関する会計基準の適用による開示への影響

21年4月1日以後開始する年度から企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)等が原則適用となりました。収益認識基準の適用により、顧客との契約から生じる収益や契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権の表示、顧客との契約から生じる収益に関する注記が求められることになります。

なお、収益認識基準の表示・開示に関して、次の本誌各号で詳細に解説していますので、併せて参照ください。

(1) 表示

顧客との契約から生じる収益は、適切な科目(例えば、売上高、売上収益又は営業収益等)をもって損益計算書に表示します。顧客との契約から生じる収益については、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、又は区分して表示しない場合には、顧客との契約から生じる収益の額を注記します(財務諸表等規則第72条第2項、連結財務諸表規則第51条第2項)。

契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権は、適切な科目をもって貸借対照表に表示するかそれぞれの残高を注記することが求められています(財務諸表等規則第17条第1項、第49条、連結財務諸表規則第23条第1項、第37条)。

(2) 注記事項

① 顧客との契約から生じる収益に関する注記

顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することとされています(財務諸表等規則第8条の32第1項、連結財務諸表規則第15条の26)。

この開示目的を達成するための注記事項として次の事項が定められています。

  • 収益の分解情報

  • 収益を理解するための基礎となる情報

  • 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

収益の分解情報は、当期に認識した顧客との契約から生じる収益と報告セグメントごとの売上高との関係を投資者その他の財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を記載するものとされており、収益を理解するための基礎となる情報は、契約及び履行義務に関する情報等を記載するとされています。また、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報は、当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額や当期末においていまだに充足していない履行義務に配分した取引価格の総額、当該履行義務が充足すると見込んでいる時期等が含まれるとされています(財務諸表等規則ガイドライン8の32、連結財務諸表規則ガイドライン15の26)。

また、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の①から③の項目を注記するとされています(財務諸表等規則ガイドライン8の2、連結財務諸表規則ガイドライン13の5)。ただし、重要な会計方針として次の①から③の項目を記載することによって、注記と同様の内容が記載された場合、注記では、当該内容の記載を省略することができます(財務諸表等規則第8条の32第3項、連結財務諸表規則第15条の26)。

① 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
② 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
③ 上記①及び②以外に重要な会計方針に含まれると判断した内容

② 連結財務諸表を作成している場合における個別財務諸表の開示

連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、「収益の分解情報」及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」について注記しないことができるとされています(財務諸表等規則第8条の32第4項)。また、「収益を理解するための基礎となる情報」を注記するに当たり、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています(財務諸表等規則第8条の32第5項)。加えて、顧客との契約から生じた債権、契約資産や契約負債を他の科目と区分しないで表示した場合等の注記の定めを適用しないことができます(財務諸表等規則第17条第4項、第49条第5項)。

2. 時価算定に関する会計基準等の適用による開示への影響

21年4月1日以後開始する年度から企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等が原則適用となりました。これを受けて、金融商品の時価に関する注記事項を定めた、改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」も合わせて適用となります。これにより、従来の注記事項に加えて、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に関する注記が求められることになります(財務諸表等規則第8条の6の2第3号、連結財務諸表規則第15条の5の2第3号)。新たに追加される具体的な注記事項は<表1>のとおりです。

表1 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項*1

なお、22年3月期決算において、投資信託及び貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記の取扱いを定めた、改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」を早期適用することができます。これによると、一定の要件を満たす投資信託については、「基準価額を時価とみなす」取扱いを適用することができますが、当該取扱いを適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額や期首残高から期末残高への調整表などの注記が求められます。その内容については以下に詳細な解説がありますので、ご参照ください。

3. LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱いの適用による開示への影響

実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下、LIBOR取扱い)において、金利指標改革に起因して公表が停止されるLIBORを参照する金融商品について、一定の要件を満たすものについて、ヘッジ会計の適用を継続できる特例的な取扱いが定められています。報告日時点において、LIBOR取扱いを適用することを選択した場合には、<表2>の内容を会計方針に関する事項における重要なヘッジ会計の方法の箇所、又は金融商品関係注記の箇所などに記載することが必要となります(LIBOR取扱い第20項)。

表2 「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」を適用しているヘッジ関係

Ⅲ 記述情報の開示

金融庁では、毎年、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため、「記述情報の開示の好事例集」を公表しています。21年12月に公表された「記述情報の開示の好事例集2021」では、サステナビリティ情報の中でも、近年、社会的な関心が高まっている項目であり、コーポレートガバナンス・コードの改訂等で開示の充実に向けた取組みが進められている「気候変動関連」と「経営・人的資本・多様性等」について、現時点における投資家・アナリストが期待する主な開示のポイントとそのポイントに沿った有価証券報告書における開示例が紹介されています。

「気候変動関連」の開示例では、TCFD提言にある「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の四つの枠組みに基づいた開示が紹介されており、「経営・人的資本・多様性等」の開示例では、サステナビリティ経営、人的資本への投資、働き方や女性活躍を含むダイバーシティの推進に関する開示が紹介されています。

なお、「記述情報の開示の好事例集2021」は22年2月及び3月に更新が行われており、主に21年3月期の有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」、「監査の状況」及び「役員の報酬等」についての好事例がそのポイントとともに紹介されています。

Ⅳ 金融庁による有報レビューを踏まえた留意事項

1. 22年度有報レビューにおける審査項目等

有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的の下、毎年、金融庁と財務局等との連携により有報レビューが行われています。22年度の有報レビューの概要は<表3>のとおりです。

表3 22年度有報レビューの概要

2. 過去の有報レビューにおける指摘事項

過去の有報レビューの重点テーマ項目は<表4>のとおりです。

表4 過去(直近3年間)の有報レビューにおける重点テーマ審査項目

21年度の有報レビュー結果を踏まえた留意事項及び改善の方向性として記載された内容のうち主なものは以下のとおりです。なお、(3)IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の内容については、収益認識基準の適用の際にも参考になると考えられます。

(1) 会計上の見積りの開示に関する会計基準

  • 項目の識別においては、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクか否かについて、影響の金額的大きさ及びその発生可能性に関する企業自身の適切な総合的判断が求められるが、開示すべき項目に漏れがないか。

  • 投資家がリスクの内容を十分理解できるように具体的な内容(定量的情報若しくは定性的情報、又はこれらの組み合わせ)が開示されているか。

(2) 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の改正

  • 関連する会計基準等が存在しない取引や経済事象が出現した場合や、業界特有の会計処理方針等、該当する事項はあるものの、重要性が乏しいために省略していたが、経営環境やビジネスの変化等により当該事項の重要性が増加した場合など、重要な会計方針として記載すべき項目の見直しの要否を検討しているか。

(3) IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

  • 個々の開示要求に対する形式的な対応にとどまらず、関連する開示が全体として開示目的を達成するための十分な情報となっているか。

  • 特殊な履行義務ではない、業界慣行に従い処理している、非財務情報等において記載しているといった理由で、開示を省略していないか。

  • 重要性がないとして要求された開示を省略する際にも、その省略によって開示目的の達成に必要な情報の理解が困難となっていないか検討したか。

  • 主要な履行義務の内容及び充足時期につき、企業固有の内容で具体的に説明しているか。

  • どの履行義務において、企業が代理人として行動しているか明確に説明しているか。

  • 変動対価の算定について具体的に記載しているか。

  • 収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性がどのように経済的要因の影響を受けるのか描写する区分に適切に分解し、収益の分解情報とそれ以外(特に履行義務の内容)との関係性を明確にしているか。

  • 分解した収益の開示と、各報告セグメントについて開示される収益情報との間の関係を理解できるように十分な情報を開示しているか。

  • 収益認識に関する判断や見積りを伴う判断について、どの領域を指しているか特定できるように具体的に記載しているか。

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