変革の実現における第三者の役割

変革の実現における第三者の役割


情報センサー2021年10月号 Trend watcher


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) 長岡健三
プロフェッショナルとして20年を超える経験を有し、再生実務家、業績改善専門家として、国内外のクライアント企業に対しハンズオンで利益改善などの定量的な価値創出を支援。プロフェッショナルとしてのキャリアに加え、国内外の企業に対し、暫定経営陣(CEO、COO、CROなど)として組織の内側から変革をリードした経験を多数有する。EYパルテノンの日本におけるバリュークリエーション・プラクティスのリーダー。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) パートナー。

Ⅰ はじめに

現在、ほぼ全ての日本企業が変革を迫られているといっても過言ではありません。今のビジネス界において、変化しない企業に生き残るスペースを提供する余裕がある業界は皆無であろうと考えています。人口減少に伴う市場のグローバルシフト、結果としての競争相手の変化はこれまでの勝ち組の概念を大きく覆してきました。国内トッププレイヤーも世界ではランク外というのが実態です。グローバルプレイヤーが20%近くの営業利益率を享受している中、一桁台で苦しんでいる日本企業も少なくありません。加えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した新興プレイヤーの台頭も競争環境に変化をもたらしています。現在、世界最大の映画館チェーンはスクリーンを一枚も持たないNetflixであり、世界最大のホテルチェーンは部屋を一室も所有しないAirbnbなのです。彼らのコスト構造は従来のプレイヤーとは大きく異なり、これまでと同じ戦い方をしていたのでは決して勝てません。
そのような環境下、われわれ日本企業は何をすればいいのでしょうか。答えは簡単です。変革しかありません。これまでの売り方、作り方、ビジネスの仕方を根本から見直し、自らを変えていくことこそが新しい市場で生き抜き、勝ち残るための唯一の手段なのです。しかし、日本企業はこのような変革が不得手です。これまでの長い年月で培われた企業・業界の歴史や文化が変革を嫌うのです。また変革には「失敗するかも」という恐怖が常に付きまといます。これも日本企業が変革に対し積極的でない理由の一つになるといえるでしょう。誰もが失敗はしたくないのは当然なのです。

では、日本企業はこのまま変革をせずに、衰退していくしかないのでしょうか。いいえ、そうではありません。変革のために第三者の存在があるのです。これまでの歴史や文化に縛られず、失敗した時の責任を一手に引き受ける存在としての第三者が、変革を推進する起爆剤となるのです。

Ⅱ 企業の変革を進める三つの事項

変革を進める上で以下の三つが重要です。

  1. できない理由の根幹にあるものの理解

  2. 事実に基づく、「できる」ことの証明

  3. 細かく深いPDCAサイクル

1. できない理由の根幹にあるものの理解

われわれが変革プロジェクトに関与する際、最初に行うのが関係者へのインタビューです。会社を変えたい、変わらなければならないと思っているにも関わらず、それが実行に移せていないのはなぜなのか。そこを徹底的にヒアリングし、あぶり出していきます。足りないものは何か。何を恐れているのか。仮に強引に進めた場合、どのようなネガティブな事象が発生するのか。それは誰にどのようなダメージを与えるのか。これらを一つ一つ解きほぐしながら明らかにしていくことで、当事者も気づかなかった根本的な原因にたどり着くことができるのです。これらを社内で行うのは簡単なようで実は非常に難しく、場合によっては「そんなことも分からないのか」「何年この仕事しているのだ」と怒られてしまうため、十分な深堀りができなくなることがあります。当該企業の歴史や常識を知らず、無邪気に疑問を疑問として聞くことができる第三者だからこそ引き出せる真実があると考えています。

2. 事実に基づく、「できる」ことの証明

できない理由を突き詰めると、それが個人の思い込みや、組織固有の歴史や文化風土によるものであることは少なくありません。もちろん、本当にできないことも世の中には存在しますが、大切なのはそれを誰もが同じ物差しで評価できる数字に落として議論することだと考えています。そのためにはできない理由に対する対応策について、徹底的に定量化して考える必要があります。例えば「これ以上、人数を減らすと業務がまわらなくなる」というできない理由に対しては、今の業務にかかっている業務工数はどれくらいなのか、業務工数調査を実施し、実態を見える化してその余地を探ります。「パッケージを安価なものに変えるとブランドイメージが損なわれる」という意見に対しては、消費者グループに対するアンケートを実施することで、パッケージの変更がブランドイメージに与える影響を定量的に示すことができます。

声の大きい人、組織で立場が上の人の意見が常に正解とは限りません。組織のルールや常識、力関係を全く気にせず、共通の物差しである数字で語るためには、直接の利害関係者である社内では限界があります。中立性・公平性が担保できる第三者が数字を作り提示することが、議論を生産的なものに醸成させるのに非常に有効なのです。

3. 細かく深いPDCAサイクル

できない根本原因を突き止め、どうすればできるかを関係者に納得いただいた後、残るは変革の実施そのものになります。しかし、これが苦手な企業が多いのも事実です。よくいう「絵に描いた餅」「プランは作ったが実行がうまくいかなかった」といった事象は、多くの場合、PDCAの細かさと深さが足りないことに起因しています。

戦略やプランは所詮理論・理屈に基づく「可能性の高い案」に過ぎず、実際の変革の場面ではその通りに行かないことの方が多いといえます。その時にどれだけ早くプランと実際とのズレを見つけ、どれだけ柔軟に軌道修正を図るのかが変革実現のカギなのです。

通常の企業運営において、PDCAを回すサイクルは月次が一般的です。経営会議や営業会議なども月次で行われることが多く、この流れからか変革プロジェクトの進捗(ちょく)会議も月次ベースであるケースが多いように思われます。しかし、通常の業務ではなく、自らを変える変革は無意識のうちに変化に対して抗(あらが)うことが多く、結果何もしないまま月末となり、慌てて表層的な対応にとどまる、まさに「夏休みの宿題現象」が起きやすいと考えます。担当者が手を抜かず、ギリギリになって慌てないためにも、週次や日次など、より細かいチェックポイントを設定するのが望ましいのです。

またチェックの際の深度も重要なポイントと考えています。明確なゴール設定とそこに至るまでのプロセスの因数分解を精緻に行うことで、より変革のアクションが具体的で実現しやすいものになるでしょう。明確なゴールとは定量的なゴールと言い換えることができます。売上15%増、調達コストを7%削減など、誰が見ても明確に分かるものが良いと思います。よくある全社ERPシステムの導入や間接部門の合理化、戦略組織への変換など聞こえは良いですが、成功したゴールの姿がイメージできず、頑張ったあげく経営数値(例えば利益)に一切のインパクトを与えない結果となってしまうこととなります。また定量的なゴールを設定しても、それのみだと、できたかできなかったかの議論しかできず、できなかった場合の要因分析、またゴールに向かう過程での活動の評価や軌道修正ができなくなります。仮にゴールが月次での売上金額であったとしても、そこに至る活動として重要と思われる、日々の営業活動の件数や顧客との面談回数などをKPI化し日次で追いかけることで意味のある、常に緊張感のあるPDCAサイクルを深度ある形で実現できるのです。

これら細かく深いPDCAを実現するということは、ある意味、これまでの経営や事業運営リズムを否定することになります。既存関係者の立場を維持しつつ、新しいPDCAを導入・定着化するためには、これが第三者から導出された新しいやり方である、という建て付けをとることが、社内に余計なハレーションを起こさずにスムーズな導入を実現する近道になります。

Ⅲ おわりに

変革は各企業・業界に存在する歴史や常識との闘いです。これまで正解とされていたものを疑い、事実を徹底的に追い求め、それを誰もが理解できる共通言語に落とし込み、細かく深く、ひたすら実行をやり続けることが必要なのです。

社内人材のみでも不可能ではありませんが、実現性とそのスピード感に鑑みると、第三者の立場を最大限活用するのが最も効果的な解の一つであるといえるのではないでしょうか。


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2021年10月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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