EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
FAAS事業部 民野元哉
米国公認会計士として会計監査を経験した後、政府開発援助のプロジェクトおよびEY南アフリカでのJBS業務等を経て、2020年5月より国際公共チームに参画。新興国への進出支援調査業務等に従事している。
FAAS事業部 徳田勝也
当法人国際公共チームにて、新興国における投資環境基礎調査、事業実現可能性調査、事業実行支援、事業完了後の事後評価、政策立案支援までの一貫した支援業務に従事している。
本稿では、当法人FAAS事業部国際公共チームにて実施した経済産業省(以下、METI)委託事業「経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(ASEAN+インド地域を対象にしたアジアDX具体化に向けた実態調査※1)」と、その調査結果を基にMETIと共催し500名を超える方に視聴いただいたウェビナー「アジアにおける“新産業”とのデジタル共創〜アジアDX〜」の概要について紹介します。
近年、東南アジアやインドにおいてデジタル経済が急速に発展し、デジタル技術によって社会課題を解決するスタートアップが注目を集めています。例えば、交通や物流インフラの未整備といった社会課題に対してシンガポールのGrab社が、配車サービスのプラットフォームを提供することでその解決に取り組むといった事例等が多く見られ、また、そうした企業への先進国からの投資が盛んに行われています。
こうした中、日本政府は成長戦略実行計画にて、デジタル技術を活用した新興国企業との新事業創出を「アジアDX(ADX)プロジェクト」として官民一体で推進する方針を掲げています。その一環として、現地との共創を促進するために、ASEAN + インドの11カ国を対象国、「農業」「ヘルスケア」「フィンテック」「ロジスティクス」を対象分野として、「ASEAN + インド地域を対象にしたアジアDX具体化に向けた実態調査」を実施しました。本調査では、現地の社会課題や現地企業等のニーズの整理を現地企業/政府機関約40先のヒアリングを通じて、アジアDXを具体化する上で有望となる11件のプロジェクト案を抽出しました。
有望プロジェクト案の抽出には、現地の社会課題と現地企業/機関のニーズを整理し、日本企業がもつDXソリューションと組み合わせるアプローチを採用し、現地企業と日本企業の共創が有望となるプロジェクト案を抽出しました。
まず、現地の社会課題について、各国の組織・個人が直面する社会課題は、その内容・レベルも国によって多種多様であり、本調査ではそのうち分野ごとに次の分野別の社会課題を主要な社会課題として取り上げました(<図1>参照)。例えば農業では、フードロス、フィンテックでは、金融包摂の欠如、ヘルスケアでは、医療の地域格差、ロジスティックでは、物流効率の欠如等が確認されました。
次に、これらの社会課題に取り組む現地企業/政府関連組織からの日本企業へのニーズとしては、<図2>のとおり「多様なデータの活用方法に関する知見」や「質の高いロボティクス技術」、「課題解決先進国としての知見・経験」が多く上げられており、このような現地ニーズへ応えることが共創する上で重要となることが明らかになりました。
以上の「現地の社会課題」「現地のニーズ」の情報より、報告書においては<図3>のフレームワークにて11の有望プロジェクト案を選定し紹介しています。主な有望プロジェクト案として、農業分野では、貯蔵施設/加工施設/低温物流不足によるフードロスの改善に向けて、マッチングプラットフォームやコールドチェーン関連技術を提供すること、フィンテック分野においては、信用情報や金融リテラシーの欠如によって起こる金融包摂の欠如に対して、信用力判断の情報提供をするための、AIを活用したリスク・信用情報を評価/算出アルゴリズムや技術の提供が挙げられました。また、ヘルスケア分野においては、医療体制/医療インフラ不足から引き起こされる農村部の医療の質や量の低下という社会課題に対して、医療機関同士や医療従事者間の連携を可能とする医療プラットフォームの提供が有望プロジェクト案として抽出されました。また、ロジスティック分野では、非効率な流通経路や流通業者間の連携等が輸送費/物流コストの高騰を引き起こしているという社会課題に対して、ドライバーと荷主、運送業者とトラックの状況、配送車両とドライバーのマッチングサービスの提供が抽出されました(<表1>参照)(各有望プロジェクト案の詳細(社会課題例や現地のニーズ、ソリューション例)については報告書を参照ください※1)。
そうした有望プロジェクト案の具体化を促進する上で必要となる支援策の検討をするために、実際に現地との共創に取り組む企業の声の調査、既存の政府支援策と先進国の支援策事例を比較・整理しました。実際に企業が抱える課題として最も多かったのは、事業構想/着想段階における現地のニーズ(社会課題・技術課題)についての理解・情報不足や、現地パートナーを探すプラットフォーム不足でした。そのような状況を受け、日本貿易振興機構(JETRO)等の政府関係機関においても「J-Bridge※2」のようなプラットフォームの提供による支援を開始しています。しかし、他の先進諸国の支援内容と比較すると、まだまだ一気通貫型やワンストップでの政府機関横断型の支援が不足していることが課題であると確認されました。
本調査結果を基に、2021年5月12日にMETI×EY共催でウェビナーを開催し、約500名の視聴者に向けて、ADXの具体化に向けた本調査結果や各種政府支援策、実際に取り組む企業の声を紹介しました。具体的には、METIとJETROより2021年より開始されている「J-Bridge」等のADX促進に向けた取り組みと各種政府支援策の紹介、国際協力機構(JICA)より現地との共創に関する「DXチャレンジ」の取り組み内容や、医療・農業・都市/運輸/防災・製造/環境資源に関する「ニーズ × 日本の強みで想定するDX事業」について共有されました。また、実際に現地の社会課題解決を現地企業との共創によって実現する企業(メドリング(株)と(株)坂ノ途中)を交えたパネルディスカッションにおいては、「政府関連機関の後ろ盾を得たことで現地での信頼性が高まり、現地との共創を進めることができた」といった意見のほか、「日本人だけでは達成しえないレベルでのローカライゼーションが実現できた」「現地の市場や企業に関するインサイトを多く得ることができた」等の現地での体験談や共創のメリットが共有されました。ウェビナーに際し実施されたアンケート結果として、現地企業との共創を取り組む際の課題として「ヒト」「情報」を挙げる回答者が全体の約8割を占めました(<図4>参照)。
さらには、海外展開をする目的・メリットに関する質問に対して、「現地マーケットへの事業拡大」を挙げる視聴者が6割程度占める一方で、「現地との共創による社会課題解決を目的とする」との回答も3割程度あり、現地パートナーや現地の社会課題、それらのニーズに関する情報をいかに収集するかの重要性が調査※1の結果と同様となりました(<図5>参照)。
なお、本ウェビナーを通じて現地との共創に取り組んでみたいと回答した視聴者がパネルディスカッション前後で15%程度増加したことから、現地の社会課題・ニーズに関する情報、さらには政府関係機関の支援策などの情報やADXを実施している企業の声を、現地の社会課題解決を目指す企業にいかに的確に届けるかが重要であることが伺えました。
今後、日本の企業が、アジアを舞台として現地企業との共創により現地社会課題解決に貢献する上では、「現地の社会課題の情報とその解決に取り組む現地企業が抱えるニーズをいかに的確に捉えるか」が重要です。さらには「その捉えた情報を基に、未活用だったデータの取得、それらを組み合わせての価値の変換/創出を行い、そしてその『価値』をどのように社会課題解決に役立たせるか」を検討することが重要であると考えます。これらの情報を取りまとめた調査報告書、ウェビナーのアーカイブ動画、投影資料のいずれも脚注(※3)のリンクにて確認可能(本年8月末まで)でございますので、ぜひご活用ください。これらの調査/実施結果が、皆さまにとりましてアジアでの共創による社会課題の解決に関心を持つ契機になることを祈念します。
※1 経済産業省の調査報告書「東南アジア等・インド地域を対象にしたアジアDX具体化に向けた実態調査」のまとめウェブページ(www.meti.go.jp/policy/external_economy/cooperation/oda/adxreport_210324_sea_india_taiwan.html)
※2 JETRO「J-Bridgeポータル」(www.jetro.go.jp/jdxportal/j-bridge.html)
※3 EYウェビナーページ(ey.com/ja_jp/webcasts/2021/05/ey-shinnihon-llc-2021-05-12)
経産省ウェビナー開催報告(www.meti.go.jp/policy/external_economy/adx_project/about_adx/210512_adx_seminar.html)