情報センサー

2022年3月期第1四半期 決算上の留意事項


情報センサー2021年7月号 会計情報レポート


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部
公認会計士 宮﨑 徹
公認会計士 廣瀬由美子
公認会計士 大竹勇輝

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。


Ⅰ はじめに

2022年3月期より原則適用となる会計基準等は<表1>のとおりです。本稿ではこれらを中心に22年3月期第1四半期決算にあたっての留意事項を解説します。なお、22年3月期より原則適用となる会計基準等のうち収益認識会計基準等については、本誌21年6月号にて22年3月期第1四半期決算にあたっての留意事項を解説していますので、そちらをご参照ください。

本文中で使用する会計基準等の略称は<表1>のとおりです。また、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。

表1 会計基準等略称及び適用時期の一覧

Ⅱ 当四半期決算における時価算定会計基準のポイント

19年7月4日に時価算定会計基準が公表されました。これは、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号「公正価値測定」の定めを基本的に全て取り入れることを基本的な方針として開発されています。時価算定会計基準の概要については、本誌21年4月号の「VI 時価算定会計基準のポイント」もご参照ください。

1. 適用範囲及び時価の定義

時価算定会計基準は、金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産が適用範囲とされています。また、時価算定会計基準において、「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいうとされています。

2. 時価の算定方法及び評価技法

時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなど)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます。ここで、マーケット・アプローチ及びインカム・アプローチの主な内容は<表2>のとおりです。

表2 マーケット・アプローチ及びインカム・アプローチの内容

なお、第三者(取引相手の金融機関、ブローカー等)から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができるとされています。

3. 貸借対照表価額への影響

時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念を取り入れ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットを用いて時価を算定することとされています。ただし、市場価格のない株式等については、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています。このため、改正前において、時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品とされていたもののうち、市場価格のない株式等に該当しないもの(例えば、社債等の債券で満期保有目的の債券に該当しないものや新株予約権、非上場デリバティブ等)については、取得原価等ではなく、時価をもって貸借対照表価額とすることが求められることになりますので留意が必要です。

また、投資信託の時価の算定については、投資信託に関する取扱いを改正するまでの間、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」の取扱いを踏襲する経過措置が定められ、取引所の終値若しくは気配値又は業界団体が公表する基準価格が存在する場合には当該価格とし、当該価格が存在しない場合には投資信託委託会社が公表する基準価格、ブローカーから入手する評価価格又は情報ベンダーから入手する評価価格とすることができるとされています。さらに、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資については、その会計処理に変更はありません。改正後の貸借対照表価額の取扱いは<表3>のとおりです。

なお、投資信託に関する取扱いについては、21年1月18日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)より企業会計基準適用指針公開草案第71号「時価の算定に関する会計基準の適用指針(案)」が公表されています。

表3 改正後の金融商品の貸借対照表価額

4. 適用初年度における経過措置

時価算定会計基準の適用初年度においては、時価算定会計基準の定める新たな会計方針を将来にわたって適用するとされています。また、この場合、その変更の内容について注記するとされています。

ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間の全てに遡及(そきゅう)適用することができるとされています。また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできます。これらの場合、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記を行うこととされています。

Ⅲ 新型コロナウイルス感染症に係る留意事項

新型コロナウイルス感染症(以下、本感染症)により、事業活動の制限や自粛などが今後も続くことが想定されますが、ビジネスや経済に及ぼす影響の範囲や期間を予測することは、現時点でも引き続き困難であり、財務諸表を作成する企業にとっては、こうした状況への対処が難しくなると考えられます。

以下においては、主に21年6月第1四半期の財務諸表を作成するにあたっての本感染症の影響の財務的な影響を評価する際に企業が考慮すべき留意点をまとめています。会社の業種・業態によっては、次に記載した論点以外にも重要な論点が存在する可能性がありますので、各社の状況を鑑み、慎重にご検討ください。

1. 四半期決算における基本的な考え方

開示の迅速性を踏まえ、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲で、前年度決算から経営環境等に著しい変化が生じていないことを前提に前年度決算の結果を利用した会計処理を行うことを容認していますが、本感染症に起因する経営環境の変化は、日々刻々と企業に大きな影響を与えていると考えられることから、簡便的な会計処理を採用している場合においても、3月の本決算後の経営環境の変化を四半期決算に織り込んでいく必要があります。

2. 会計上の見積りに与える影響

会計上の見積りは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」とされています。
ここで、「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(20年4月10日公表 ASBJ議事概要)では、次の点に留意するとされています。

  • 合理的な金額の算出に際し、本感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある
  • 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましいものの、客観性のある情報が入手できないような場合には、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる
  • 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離(かいり)が生じたとしても、誤謬(ごびゅう)には当たらないものと考えられる

このため、四半期決算においても、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できない場合には、本感染症の今後の広がり方や収束時期等について企業自ら一定の仮定を置くことが引き続き必要と考えられます。

3. 四半期における開示

20年6月26日更新のASBJ議事概要及び20年5月11日ASBJ議事概要(追補)の考え方に基づく四半期の開示は<表4>のとおりと考えられます。年度では「会計上の見積りに関する注記」が求められていますが、四半期において当該注記は求められていないことから、追加情報として記載するものと考えられます。なお、重要な変更か否かは、第2四半期以降において、直前の四半期末との比較ではなく、前年度末との比較である点にご留意ください。

表4 四半期における開示パターン

4. 重要な後発事象

後発事象とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象をいい、財務諸表を修正すべき後発事象(修正後発事象)と財務諸表に注記すべき後発事象(開示後発事象)に分類されます。四半期決算においても同様に、本感染症により影響を受ける企業又は影響を受けることが見込まれる企業においては、企業の活動又はその資産及び負債に関し、一連の事象のうち、その実質的な原因が四半期決算日現在においてすでに存在しており、四半期決算日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをする上で、追加的ないしより客観的な証拠を提供するものかどうかを判断する必要があります。この判断を行うに際しては、本感染症の影響と講じられる対策の性質及び経過に関する入手可能な全ての情報を考慮する必要があります。このように、第1四半期においては、企業の事業活動は、引き続き本感染症により影響を受けている場合が多いと考えられることから、本感染症の今後の広がり方や収束時期について、企業自ら一定の仮定を置くことが必要であり、四半期決算日後に生じた後発事象についても、修正後発事象として取り扱う場合には、見積りをする上で考慮することになると考えられます。

Ⅳ 会社法改正に伴い新たに導入される制度に係る会計処理

19年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下、改正会社法)が成立し、同月11日に公布され、一部を除き、21年3月1日に施行されました。これに伴い、改正会社法の主な改正内容のうち、下記1.及び2.については、21年3月1日から施行されているものの、原則として株主総会の決議が必要となることから、実際に取引が発生するのは22年3月期以降と想定されるため、22年3月期第1四半期決算における留意事項において解説するものです。

1. 取締役等への株式無償交付制度

取締役の報酬に関する規律の見直しの一環として、上場会社の取締役又は執行役(以下、取締役等)の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行することができることとされました(以下、当該取引を「取締役等への株式無償交付取引」という)。これに伴い、ASBJは21年1月28日に、取締役等への株式無償交付取引に係る会計処理及び開示を明らかにするために、取締役報酬等取扱いを公表し、改正会社法と同様に、21年3月1日から適用されています。

なお、その適用範囲は改正会社法202条の2に基づく取締役等への株式無償交付取引に限られているため、既存のスキーム(例えば、リストリクテッド・ストックやパフォーマンス・シェア・ユニット)の会計処理には影響を与えない点に留意が必要です。なお、今後導入される場合であっても、改正会社法202条の2に基づく取締役等への株式無償交付取引ではなく、従来型のスキームによるものについては、仮にスキームが類似していたとしても、取締役報酬等取扱いの対象にはなりません。また、改正会社法202条の2の対象は上場会社の取締役等に限られているため、従業員や子会社の役員も対象になりませんので、ご留意ください。

取締役等への株式無償交付取引は、「事前交付型」と「事後交付型」があり、それぞれの定義と会計処理の概要は<表5>及び<表6>のとおりです。なお、取引形態としては、「新株の発行」と「自己株式の処分」があり、取締役報酬等取扱いではそれぞれの会計処理について定められていますが、ここでは、「新株の発行」について記載しています。

表5 「事前交付型」の定義と会計処理の概要

表6 「事後交付型」の定義と会計処理の概要

2. 株式交付制度

完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度として、株式交付制度が新設されました。一方で、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等の改正はされておらず、当該制度に関する会計処理は、現行の会計基準に従って整理する必要があります。

株式交付は、株式交換と同じ組織法上の行為として位置付けられており、現物出資ではなく、株式交換に準じて処理されるものと考えられます。したがって、株式交付が取得とされる場合、株式交付親会社が取得する株式交付子会社株式の取得の対価は、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」38項に基づいて、時価により算定することが考えられます。

なお、株式交付制度では、その範囲を客観的かつ形式的な基準により判断するために、子会社化の要件として、議決権の50%超を保有することにより子会社化する場合に限られています。したがって、議決権の40%以上保有、かつ、一定の要件に該当するとして子会社としていたケースで、株式交付制度を用いて50%超を保有することとなる場合には、共通支配下の取引に該当することとなります。その他、逆取得になる場合等も想定されます。これらの共通支配下の取引や逆取得についても株式交換に準じた処理となることが考えられます。

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