EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Strategy and Transactions 秋山 洋児
金融機関、輸出信用機関で海外プロジェクトファイナンス案件等に従事。経済産業省に出向し、日本企業の海外展開支援策立案を担当。2020年にEYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)(現EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株))入社。再生可能エネルギー発電事業、またはPPP・コンセッション等のインフラ事業を対象とするアドバイザリー業務に従事している。
新型コロナウイルスによる感染症拡大下にあっても、国内外における電力等のインフラプロジェクトの開発ニーズは引き続き高まっています。
本邦企業が新たに海外でインフラプロジェクトへの参画を検討する際、資金調達は重要な課題であり、公的機関による直接融資や保険といった公的ファイナンスの活用も選択肢として検討されています。
本稿では、インフラ事業者の観点から、資金調達を行う際の公的ファイナンス活用について、その利点や留意点を整理します。
インフラ開発については、資金供給面を担うさまざまな公的機関が存在します。その中で、本稿では輸出信用機関および国際開発金融機関を公的ファイナンス機関として検討します。
輸出信用機関(以下、ECA:Export Credit Agency)は、各国政府が自国の輸出促進等のために設立した貿易保険(=海外事業や貿易取引で輸出者、投資者、銀行等が被る損害をカバーする保険)事業者です。日本では、株式会社日本貿易保険(以下、NEXI:Nippon Export and Investment Insurance)と株式会社国際協力銀行(以下、JBIC:Japan Bank for International Cooperation)の2機関が存在します。ECAは、基本的には、自国産機器等の輸出につながるプロジェクト向けに民間金融機関が融資をする際、当該融資に対して保険等を通じて信用を供与します。また、直接融資を行うECAも存在します。
国際開発金融機関(以下、DFI:Development Finance Institution)は、複数の国・公的機関等の拠出金により設立され、設立趣旨に則り途上国等のインフラ開発等に係る資金調達支援を行う機関です。DFIのプロダクトは、直接融資や出資等、機関によりさまざまです。 (<表1>参照)
ECAのプロダクトは、自国産の機器等の輸出につながるプロジェクトを対象とするもの(タイド性プロダクト)が基本で、自国産の機器等の輸出がプロジェクト総額に対して一定割合以上を占めるものであれば適用対象となります。日本のECAでは、JBICの輸出金融、およびNEXIの貿易代金貸付保険が該当します。
ECAのタイド性プロダクトでは、対象となる融資の償還期間等はECA間で一定のルール(OECD公的輸出信用アレンジメント)が定められており、適用を検討する場合は確認が必要です。対象プロジェクトで一定割合以上の日本からの機器等の輸出が見込める場合、日本のECAの活用を検討できます。また、大型プロジェクトで複数の国から調達する機器がそれぞれ一定割合以上ある場合は、各国のECAを同時に活用した資金調達の検討も可能です。
なお、一部のECAは自国品の輸出に必ずしも紐づかないプロダクト(アンタイド性プロダクト)を提供しており、日本では、JBICの投資金融やNEXIの海外事業資金貸付保険がこれに該当します。日本からの機器輸出を伴わないインフラ開発プロジェクト向けには、これらのアンタイド性プロダクトが活用される場合もあります。
アンタイド性プロダクトは各機関の方針に従い、融資や保険の期間等といった要件がタイド性プロダクトに比べて柔軟に設計されている一方、出資や操業保守等、自国企業の一定の関与が要件として求められる場合があります。
DFI活用のメリットとして、プロジェクト所在国(ホスト国)政府に対するけん制になるという点が挙げられます。いわゆる「ソブリンフック」と呼ばれるもので、融資団にDFIが名を連ねることがホスト国政府に対するけん制機能を果たします。また、民間金融機関やECAに比べて高いリスクを取ることが可能な機関も多く、カントリーリスクが高い国の案件への活用も期待できます。
DFIは、特定の事象が発生した際、他の債権者に対し優先的に債権を回収できる特別なステータスを有しており、これをPreferred Creditor Status(以下、PCS)といいます。ただ、PCSはこれにより不利益を被る他の融資機関から反発を受ける可能性があり、DFIを活用することでホスト国政府へのけん制機能が期待できる一方、PCSにより融資機関間の調整に手間を要する点に留意が必要です。
公的ファイナンスを活用することの主要な利点として、資金調達額の最大化が挙げられます。特にカントリーリスクの高い国においては、必要な融資額が民間金融機関だけでは集まらないこともあり、その際に公的ファイナンスの活用は効果的です。
他方、主な留意点としては、自国にとっての利点やその他各機関の設立意義に則った要件充足が公的ファイナンス活用の前提となります。これは融資契約上で規定されることから、事業者にとって資金調達の柔軟性が阻害される可能性があり、留意が必要です。(<表2>参照)
海外のインフラ開発に事業者として参画を検討する際、巨額の開発資金の(超)長期調達、さまざまなプロジェクトリスクへの対処、ホスト国政府との交渉やけん制といった課題をクリアする必要があります。ECAやDFIの直接融資や保険といった公的ファイナンスの活用はこれらに対する有力な対応策の一つであり、今後も適用事例が増えてくることが予想されます。