EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)
テクノロジーソリューションデリバリー 梶浦 英亮
EYでERPを中心としたテクノロジーを用いた業務プロセス変革のコンサルティング領域を担当。構想策定・アーキテクチャ策定に強みを持ち、ERPによる業務のグローバル標準化・地域統括会社への権限委譲などその時々の経営テーマに対して、ERP・SOA・仮想化・クラウド・AIなど先端技術を活用した新ビジネス・システムを企画から実現化まで導いた。同社 パートナー。
グローバル製造業において自社の売上が伸びているのにもかかわらず、従来の顧客層を失っているというケースが出ています。B2Bの領域においても、今まで複数社から提供されている製品・サービスを組み合せ、それに自社の付加価値を加えて統合的なサービスを提供するプラットフォーマーが成長し、グローバル製造業が提供している製品がその一つの構成要素になっていく現象が起きています。このような状況に陥ることを防ぐために、製造業においても、従来の“モノを販売しその後は保守サービスを提供する”というビジネス形態から、自社の製品にサービスを組み合せ、付加価値を付けたビジネスを提供するなど、ビジネス形態の転換に迫られています。これらの対応のために、各社で最新のERPやデジタル技術の導入が進んでいます。
B2Cの領域では、従前より巨大なB2Cプラットフォーマーによるビジネスモデルの転換が、インターネットのコンテンツ配信や自動車や民泊の提供、宅配サービスなどで実現しています。従来は消費者が購入、所有して随時利用するという契約や商取引が一般的でしたが、インターネット回線の高速、大容量化などにより、頒布することが容易になりました。継続課金型のビジネスとしてサービスを提供するビジネス転換が起こっており、電子情報の利用やサービスモデルとしてサブスクリプション型モデルが注目されています。一定料金を払えば、契約期間内なら商品やサービスを何度も自由に利用できることからデジタルコンテンツを中心として提供されてきたビジネスモデルですが、近年、デジタル領域以外の自動車、家電、ファッション、食品・飲食店など幅広い分野に広がっています。
また、B2Cと同様の動きがB2Bの世界でも進みつつあります。ITの世界においては、これまで各社がそれぞれ個別にコンピューターリソース(ハードウエア・サーバー)を保有していましたが、クラウド型のデータセンター活用はすでに広く普及しました。ITの世界だけではなく、建設、物流、工場(制御機械・IoT)、検査といった領域においてもB2Bプラットフォーマーが成長し、例えば医療検査の世界において“対象を検査し診断する”という高次元な目的そのものをターゲットにB2Bプラットフォーマーが取り組み、従来の医療機器・ソフトウエアの提供、データ蓄積から判断、そしてオペレーション(人的資源含む)まで一体で提供し、顧客とインターフェースを担うこととなりました。これにより、医療機器メーカーなどはその構成要素に陥るリスクに直面しています。
このようなプラットフォーマーの構成要素に陥った場合、今まで保持していたビジネスのオーナーシップを失うことになるのは、B2Cの世界において経験済みであり、B2Bの世界でも各製造業は “モノを販売し、その後は保守サービスを提供する”というビジネス形態から、自社のモノにサービスを組み合せたビジネスを提供し、プラットフォーマーと戦う(または自身がプラットフォーマーになる)ビジネス形態への転換を進めています。
これら新しいビジネスモデルに転換する(新規に開始する)ために、各企業においてプロジェクトを進めており、主に営業・販売・サービスの現業部門を中心に、柔軟な課金モデルをどのように実現するか、販売後の最終利用先に設置されている自社製品をどのように管理するか、といったテーマの検討を進めています。本稿では、これらのテーマではなく、実際のプロジェクトにおいて課題になりがちな二つのテーマを説明します。
2022年3月期に始まる事業年度から上場企業をはじめ、多くの企業で売上高に対する考え方が大きく変える必要があります。企業の売上計上方法を定めた会計基準「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)の適用が始まります。収益認識基準が求める会計処理に対応するためには、経理部門による売上計算方法の変更にとどまらず業務のやり方や情報システムに変更が必要になります。“モノ売りからコト売り”については、複数年の契約と収益の分割認識など、ロジステックスと会計が密接にかかわった業務プロセスを設計する必要があり、システム導入時の新業務プロセスの設計において困難なポイントです。これらに対応するためには、次のステップで検討が必要です。
このように、顧客に提供するサービスやモノ単位で売上計上することを求められるので、契約の分割の影響が大きく、システムも含めて適用に向けて準備が必要となります。
従来の“モノを販売し、その後は保守サービスを提供する”ビジネス形態においては、財務会計的な収益認識(売上認識)と経営管理(営業実績管理)の実績は一致していました。新たなビジネス形態においては、複数年にわたって収益が計上され、また役務提供の実績によっては、顧客からの入金と収益計上額が異なることも生じます。
このような中で、これからの営業評価をどのように実現するのかということは大きなテーマになっております。特に以前より財務上の評価と管理上の評価が一致していた企業では、財務管理の評価体系の見直しなどを含めて検討を進めています。
“モノ売りからコト売り”への対応は、事業部門・営業部門・サポート/サービス部門を中心に検討を進められることが多く、本稿で言及した財務会計的や管理会計的な取り組みが後回しになることが散見されます。これら経理・財務や経営管理部門一体とした検討が不可欠です。