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令和3年3月期法人税申告の留意事項


情報センサー2021年3月号 Tax update


EY税理士法人 税理士・公認会計士 矢嶋 学

1998年太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)入所。法人向けコンプライアンス業務の他、組織再編及び事業承継コンサルティング、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務等に従事。EY税理士法人入所以前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。

Ⅰ はじめに

令和3年3月期の法人税申告においては、主に令和2年度の税制改正が適用される項目について確認が必要となります。また、令和元年度以前に改正され、当事業年度から適用となる項目についても確認が必要です。

本稿では、令和3年3月期(自令和2年4月1日 至令和3年3月31日)決算法人を前提とした法人税申告および消費税申告にかかる留意事項のうち、主要な項目に絞って解説します。

Ⅱ 法人税における主要な改正事項

1. 子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせたスキームへの対応

法人が子会社株式を取得した後、子会社から配当を非課税(全部または一部を益金不算入)で受け取るとともに、配当により時価が下落した子会社株式を譲渡して譲渡損失を創出させるスキームを防止するため、法人が一定の子会社から一定の配当を受け取った場合には子会社株式の帳簿価額を引き下げることとされました。なお、本特例は海外子会社からの配当のみならず、国内子会社からの配当も適用要件に該当する場合は対象となります。

(1) 適用要件

本特例は令和2年4月1日以後に開始する事業年度において受ける配当等の額が、次の①及び②に該当する場合に適用されます。

① 配当決議日において親会社が子会社との間に特定支配関係(注)を有する場合の親会社であること
② 一事業年度の対象配当等の額(完全支配関係内みなし配当の額は除かれる)の合計額が株式の帳簿価額の10%を超えること

(注)特定支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の総数の50%を超える数の株式を保有する場合における当該一の者と法人との関係、その他一定の支配関係をいいます。

(2) 適用対象金額

親会社が有する子会社株式の帳簿価額から当該対象配当等の額に係る益金不算入額を減算します。

なお、配当等の額が2,000万円を超えない場合等、一定の配当については本特例の適用が除外されますので申告の際に詳細な確認が必要となります。

2. 大規模法人にかかる交際費課税の見直し

資本金の額等が100億円超の大規模法人については、令和2年4月1日以後に開始する事業年度から、交際費等のうち接待飲食費の50%を損金の額に算入することができず、全額が損金不算入となります。

3. オープンイノベーション促進税制

青色申告書を提出する法人のうち特定事業活動を行う法人が、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に、一定のベンチャー企業の株式(以下、特定株式)を出資の払込により取得し、かつ、これをその取得した日を含む事業年度末まで有している場合において、その特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定の金額として経理したときは、その事業年度の所得の金額を上限に、その経理した金額の合計額が損金の額に算入されます(ただし、一件当たり25億円、一事業年度あたり125億円を限度)。

この場合の留意点は次のとおりです。

① 本特例の適用対象となる特定株式とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち同法の特定事業活動に資する事業を行う一定の内国法人又はこれに類する一定の外国法人の株式のうち、経済産業大臣の証明があるものをいいます。
② 当該特定株式の全部または一部を有しなくなった場合や当該株式につき配当を受けた場合等、一定の場合には、特別勘定を取り崩して当該金額を益金の額に算入することになります。

4. 給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除制度適用要件の強化

中小企業者等以外の法人が、令和2年4月1日以後に開始する事業年度から、給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除制度の適用を受ける場合には、その適用要件の一つである当期償却費総額に対する国内設備投資額の割合が90%から95%に引き上げられています。

5. 特定税額控除制度の不適用措置の強化

試験研究費の税額控除などの特定税額控除制度に、令和2年4月1日以後に開始する事業年度から認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の法人税額の特別控除制度(5G導入促進税制)が追加されました(ただし適用は令和2年8月31日以後)。

また、中小企業者等の一定の法人を除く青色申告法人が特定税額控除制度を適用するための要件の一つである当期償却費総額に対する国内設備投資額の割合が10%から30%に引き上げられています。

6. 過大支払利子税制

令和2年4月1日以後に開始する事業年度から、関連者等に係る純支払利子等の課税の特例(過大支払利子税制)について、<表1>の改正が行われています。

7. 欠損金の繰戻し還付制度(新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための措置)

令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する各事業年度において、資本金が1億円を超え10億円以下の法人に生じた欠損金額については、新型コロナ緊急経済対策税制により、欠損金の繰戻し還付の適用が認められています。なお、資本金が1億円以下の中小法人等については本措置にかかわらず従前から適用可能となっています。

Ⅲ 消費税の申告期限の特例

令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から、法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例の適用を受ける法人が、消費税の確定申告書の提出期限を延長する旨の届出書を提出した場合には、当該提出をした日の属する事業年度以後の各事業年度の末日の属する課税期間に係る消費税の確定申告書の提出期限が1月延長されます。なお、申告書期限が延長された期間の消費税の納付については、利子税を併せて納付することとなります。

Ⅳ 大法人の電子申告の義務化

事業年度開始時の資本金の額が1億円を超える大法人の法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、消費税の確定申告書、中間申告書及び修正申告書の提出については、令和2年4月1日以後に開始する事業年度(消費税については同日以後開始する課税期間)から、e-Tax、eLTaxにより提供しなければならないこととされました。

また、大法人が提出する法人税申告書等の添付書類についても電子申告が義務化されています。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。