EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 IFRSデスク 公認会計士 竹下泰俊
当法人入所後、主として医薬品、化学品等の製造業、サービス業などの会計監査に携わる。2017年よりIFRSデスクに所属し、さまざまな業種のIFRS導入支援業務、IPO支援業務、研修業務、執筆活動に従事している。主な著書(共著)に、『IFRS「新リース基準」の実務』(中央経済社)がある。
IFRSに準拠して財務諸表を作成している企業は、新たに公表される基準書や解釈指針書を確認して、その影響を調査し会計処理及び表示・開示を検討する必要があります。IFRSの改訂は、IFRSの基本原則に関する重要な改訂から年次改善プロセスに含まれるような比較的軽微な改訂まで多岐にわたりますが、財務諸表作成者はこれらの動向を常に把握しておく必要があります。
本稿では、2021年3月期から強制適用される基準の改訂について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
21年3月期から強制適用される基準改訂の内容は以下の通りです。本稿では、後述Ⅲ以降で特に影響があると考えられる基準改訂について詳述します。
IASBは、取得した活動と資産の組み合わせが事業に該当するか否かの判断に役立つように、IFRS第3号「企業結合」における事業の定義を改訂しました。事業の取得の場合にはのれん(又は負ののれん)が認識され、事業ではない単なる資産の取得の場合にはのれん(又は負ののれん)が認識されないため、事業に該当するかどうかは重要な論点となります。本改訂では、主に、事業に該当するための最低限の要件が明確化され、取得したプロセスが実質的なものであるかどうかの評価に資するガイダンスが追加されています。
事業であるためには、統合された活動と資産の組み合わせに、最低限、インプット(例、原材料や労働力)及びインプットと一体でアウトプット(例、製品やサービス)の創出能力に大きく寄与する実質的なプロセス(例、システムや営業手法や慣習)が含まれる必要があることが明確化されました。さらに、アウトプットの創出に必要なインプット及びプロセスの全てが含まれていなくとも、事業が存在し得る場合があることも明確化されています。
事業に該当するためには、統合された活動と資産の組み合わせに「実質的なプロセス」が必要です。
本改訂では、取得日時点で統合された活動と資産の組み合わせにアウトプットがない場合(例えば、設立間もない時期で研究開発活動のみを行っている会社等)、取得したプロセスが実質的なものであるためには、次の要件を満たす必要がある点が明確化されました。
① そのプロセスを遂行するために必要な技術、知識又は経験のある組織化された労働力
② 組織化された労働力でアウトプットを開発・生成することができるその他のインプット
一方で、取得日時点でアウトプットがある場合には次の要件を満たす場合に、プロセスが実質的であると見なされます。
① プロセスが独特もしくは希少と見なされる
② 多額なコスト、労力をかけずに、若しくはアウトプットを継続して生産する能力において遅延を生じさせることなく、当該プロセスを入れ替えることができない
新型コロナウイルス感染症の拡大及び世界各国の政府が感染症の拡大の影響を緩和するために打ち出している重要な対策を受け、多くの借手が何らかの形態の賃料減免を貸手から受けています。このような賃料減免はさまざまな形態が見られますが、例えばリース料の減額を受けられる借手は、それがリースの条件変更に該当する場合、改訂前のIFRS第16号では条件変更の会計処理を行います。しかし、このような状況下でリースの借手が大量のリース契約について条件変更に該当するか検討して会計処理を行うことは困難であるため、IASBは一定の場合に簡便的に処理することを認める基準改訂を行いました。リースの借手は簡便法を適用する場合、賃料の減免等がリースの条件変更に該当するかどうかを検討する必要がありません。
簡便法は、新型コロナウイルスの感染拡大に直接起因する賃料減免であり、かつIFRS第16号第46B項に定める以下の全ての条件を満たすものにのみ適用されます。
なお、簡便法はリースの貸手には適用できません。
また、本原稿の執筆時点で、国際会計基準審議会において上記適用要件の期日の延長等について議論していますので、議論の動向についても注視してください。
簡便法を適用する場合どのように会計処理するか基準本文では明示されていません。例えば、負の変動リース料として会計処理する方法や、リース負債を再測定して使用権資産で調整する方法等が考えられます。
リース料の減額を負の変動リース料として会計処理する場合、リース料減額部分のリース負債を取り崩し、調整額を純損益で認識すると考えます。
使用権資産で調整する会計処理を採用する場合、調整額は純損益で認識するのではなく使用権資産を減額処理することになると考えます。
どのような方法を採用した場合でも、財務諸表利用者が会計処理を適切に理解できるために、どのような処理を行ったかを具体的に開示することが必要と考えます。
近年、IFRS第9号、IFRS第15号及びIFRS第16号といった新基準の適用が続いていましたが、21年3月期は大型の新基準の適用はなく、上記のような比較的細かな改訂基準の適用となっています。しかし、関連する取引が発生した場合には、正しい会計処理を行うとともに会計方針や求められる注記も適切に開示することにかわりはないため、IASBやIFRS解釈指針委員会の基準改訂動向について注視しつつ事前の準備と検討が重要となります。