情報センサー

「会計上の見積りの開示に関する会計基準」及び「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の公開草案の解説


情報センサー2020年3月号 会計情報レポート


会計監理部 公認会計士 髙平 圭

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示制度に関して相談を受ける業務、ならびに当法人内外への情報提供などの業務に従事。2016年から18年の間、金融庁企画市場局企業開示課に勤務し、主に開示制度に関する国内外調査および開示府令改正等の企画業務を担当。


Ⅰ  はじめに

本稿では、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から2019年10月30日に公表されました、企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」(以下、公開草案68号)及び企業会計基準公開草案第69号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準(案)」(以下、公開草案69号)について解説します。なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

 

Ⅱ 公開草案68号(会計上の見積りの開示)

1. 経緯

2016年3月及び2017年11月に、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議(以下、基準諮問会議)に対して、国際会計基準審議会が2003年に公表した国際会計基準第1号「財務諸表の表示」(以下、IAS第1号)第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として日本基準においても注記情報として開示を求めることを検討するよう要望が寄せられました。
そして、2018年11月に開催された第397回企業基準委員会において、基準諮問会議より、見積りの不確実性の発生要因に係る注記情報の充実について検討することが提言されたことを受けて、2018年12月より審議が開始され、その結果が公開草案68号として公表されました。

2. 概要

(1) 開発に当たっての基本的な方針

ASBJは、公開草案68号の開発に当たっての基本的な方針として、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が開示目的に照らして判断することとし、IAS第1号第125項の定めを参考とすることとされました。

(2) 開示目的

財務諸表を作成する過程では、財務諸表に計上した項目の金額を算出するに当たり、会計上の見積りが必要となるものがあります。会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものですが、財務諸表に計上した金額のみでは、当該金額が含まれる項目が翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があるかどうかを財務諸表利用者が理解することは困難であり、会計上の見積りの内容についての情報は、財務諸表利用者にとって有用な情報であると考えられました。
ここで、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目は企業によって異なることから、個々の会計基準を改正して会計上の見積りの開示の充実を図るのではなく、会計上の見積りの開示について包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示し、開示する具体的な項目及びその記載内容については当該原則(開示目的)に照らして判断することを企業に求めることが適切であると考えられました。
そこで、公開草案68号では、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とすることが提案されています(公開草案68号第4項)。

(3) 開示する項目の識別

① 項目の識別における判断

開示する項目として、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別することが提案されており(公開草案68号第5項)、その識別に当たっては、翌年度の財務諸表に及ぼす影響の金額的な大きさとその発生可能性を総合的に勘案して企業が判断することとされ(公開草案68号第19項)、判断のための詳細な規準は示さないこととされました。これは、全ての状況において有用な情報が開示されるような規準を定めるのは困難であること、また、会計基準において判断のための規準を詳細に定めなくとも、各企業で行っている会計上の見積りの方法を踏まえて開示する項目を識別できると考えられたことによっています(公開草案68号第20項)。

② 識別する項目

識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされていますが(公開草案68号第5項)、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高いものに着目して開示する項目を識別するとされたことから、例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に及ぼす影響を検討した上で、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性があるとされています(公開草案68号第21項)。
また、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用、並びに会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債、注記において開示する金額の算出に当たって見積りを行ったものについても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、これらを識別することは妨げないこととされています(公開草案68号第21項)。
なお、直近の市場価格により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、項目を識別する際に考慮しないこととされています(公開草案68号第5項)。

(4) 注記事項1 -注記内容

公開草案68号に基づく注記は、独立の注記項目とし、識別した項目については、会計上の見積りの内容を表す項目名を記載することとされ、項目が複数ある場合には、まとめて記載することとされています(公開草案68号第6項)。
そして、識別した項目のそれぞれについて、公開草案68号第7項における(1)(2)の事項を注記することとされ、具体的な内容や記載方法(定量的情報もしくは定性的情報、又はこれらの組み合わせ)については、開示目的に照らして判断することとされています(<図1>参照)。

図1 注記イメージ

公開草案68号第7項

(1)当年度の財務諸表に計上した金額

(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

なお、これらの事項について、会計上の見積りの開示以外の注記として財務諸表に記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができるとされています(公開草案68号第7項)。
ここで、公開草案68号第7項(2)の事項に関する開示について、例えば、次のようなものがあると提案されています。

公開草案68号第8項

(1)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法

(2)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定

(3)翌年度の財務諸表に与える影響

公開草案68号第8項(1)及び(2)の事項については、財務諸表利用者が当年度の財務諸表に計上した金額について理解した上で、企業が当該金額の算出に用いた主要な仮定が妥当な水準又は範囲にあるかどうか、また、企業が採用した算出方法が妥当であるかどうかなどについて判断するための基礎となる有用な情報となる場合があるが、単に会計基準等における取扱いを算出方法として記載するのではなく、企業の置かれている状況がわかるように開示することが、財務諸表利用者にとって有用な情報となると考えられるとされています(公開草案68号第26項)。
公開草案68号第8項(3)の事項については、当年度の財務諸表に計上した金額が翌年度においてどのように変動する可能性があるのか、また、その発生可能性はどの程度なのかを財務諸表利用者が理解する上で有用な情報となる場合があり、翌年度の財務諸表に与える影響を定量的に示す場合には、単一の金額のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すことも考えられるとされています。ここでいう翌年度の財務諸表に与える影響は、見積りの方法の変更を行った場合(新たに見積もることが可能となった場合を含む)の影響ではなく、見積りの前提となる状況又は仮定が見直されることに起因するものであり、企業会計基準第24号第4項(7)で定義される「会計上の見積りの変更」による影響と必ずしも一致するものではないことに留意が必要とされています(公開草案68号第27項)

(5) 注記事項2 -連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表の取扱い

原則として、連結財務諸表及び個別財務諸表ともに同様の取扱いとすることとされていますが、連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表において、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法をもって公開草案68号第7項(2)の注記に代えることができる旨が提案されており、この場合には、連結財務諸表における記載を参照することとされています(公開草案68号第9項)。

(6) 適用時期等

① 適用時期

原則として、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用すること、ただし、本会計基準の公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることが提案されています(公開草案68号第10項)。

② 適用初年度の取扱い

本会計基準の適用初年度において、本会計基準の適用は表示方法の変更として取り扱うことが提案されています。ただし、実務上の困難さの観点から、比較情報に記載しないこともできるとされています(公開草案68号第11項)。

 

Ⅲ 公開草案69号(会計方針の開示)

1. 経緯

2018年11月に開催された第397回企業基準委員会において、基準諮問会議より、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実について検討することが提言されたことを受けて、2018年12月より審議が開始され、その結果が公開草案69号として公表されました。

2. 概要

(1) 公開草案69号が扱う範囲

公開草案69号は、「会計方針」の定義を定めている企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を改正し、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に関する注記情報の充実を図ることを目的としています。そこで、企業会計基準第24号を「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に変更することが提案されています。
なお、公開草案69号は、企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぐことを提案しており、重要な会計方針の開示における従来の考え方を変更するものではないとされています(公開草案69号第29-2項)。

(2) 重要な会計方針に関する注記の開示目的

わが国の会計基準等では、会計方針の開示について、企業会計原則注解(注1-2)において「財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならない。」と定められており、本会計基準においても、当該定めが引き継がれています(公開草案69号第4-3項)。
重要な会計方針に関する情報は、財務諸表利用者が財務諸表の作成方法を理解し、財務諸表間で比較を行うために不可欠な情報であると考えられるため、公開草案69号では、重要な会計方針に関する注記は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要(どのような場合にどのような項目を計上するのか、計上する金額をどのように算定しているのか)を示すことを目的としています(公開草案69号第44-2項)。

(3) 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合

公開草案69号では、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合を「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」としています(公開草案69号第4-2項)。
現状では、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、企業が実際に採用した会計処理の原則及び手続が重要な会計方針として開示されているか否かについて実態はさまざまであると考えられるため、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に企業が採用した会計処理の原則及び手続について、財務諸表利用者が理解することが困難なこともあると考えられます。このような場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取扱いを明らかにして、財務諸表利用者が財務諸表を理解する上で不可欠な情報が提供されるようにすることは有用と考えられます。従って、前述の重要な会計方針に関する注記の開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合についても同様であることが提案されています(公開草案69号第44-3項)。
また、公開草案69号では、「関連する会計基準の定めが明らかでない場合」の例示として、<表1>の事項が含まれるとされています(公開草案69号第44-4項、第44-5項)。

表1 関連する会計基準の定めが明らかでない場合の例示

(4) 注記事項

重要な会計方針として、<表2>の内容に従って注記することが提案されています(公開草案69号第4-3項から第4-5項)。なお、開示の詳細さ(開示の分量)については、注記の内容は企業によって異なるものであり、各企業が開示目的に照らして判断すべきものと考えられたことから、本会計基準において指針や目安は示されないこととされています(公開草案69号第44-7項)。

表2 注記の内容

(5) 適用時期等

① 適用時期

原則として、2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表(連結財務諸表及び個別財務諸表。以下、同様。)から適用すること、ただし、本会計基準の公表日以後終了する事業年度における年度末に係る財務諸表から適用することができることが提案されています(公開草案69号第25-2項)。

② 適用初年度の取扱い

本会計基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は表示の変更には該当せず、本会計基準を新たに適用したことにより関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を記載することが提案されています(公開草案69号第25-3項)。

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