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産業連関分析の仕組みとプロセス


情報センサー2020年新年号 Trend watcher


EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
バリュエーション、モデリング&エコノミクス
米国公認会計士 三森亮平

国内大手事業会社等の財務・経理部門を経て、2008年、EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)に参画。主に事業・株式価値算定、ハイブリッド証券・オプション性金融商品の価値算定業務、エコノミック・アドバイザリー業務を担当。日本証券アナリスト協会検定会員。


EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
バリュエーション、モデリング&エコノミクス
井上雄介

国内シンクタンク研究員・大学非常勤講師を経て、2019年より現職。専門領域はマクロ経済政策・日本経済論・計量経済学。19年より早稲田大学産業経営研究所招聘研究員。


Ⅰ  はじめに

政府・地方公共団体は、当該機関が実施または誘致する政策に関して、その経済効果を明確に計測することが求められます。政策実施後の経済水準を高めることがその役割であるためです。こうした経済効果の政策評価を行う際、日本では産業連関分析がよく利用されます。本稿では、このアプローチについて紹介します。
産業連関分析は、産業連関表と呼ばれる統計表をもとに当該地域の産業構造および経済波及効果を計測する政策評価アプローチです。産業連関表とは、通常一年間に一定地域で行われた財・サービスの取引情報を示すものであり、域内における経済・産業構造を表す基礎統計資料となります。このアプローチを実施することで、あるイベントが各産業の需要に与える効果を波及効果として計測できるようになり、幅広い分析が可能となります。その分析プロセスについて総務省の解説をもとに概説します。

 

Ⅱ 産業連関分析のプロセス

産業連関分析による効果測定は、①産業連関表(主として取引基本表)②投入係数表③逆行列係数表の各表を作成するという手順を踏みます。

1. 産業連関表(取引基本表)

取引基本表は、産業連関表の中でも代表的な統計表で、供給部門と需要部門の2部門が行った取引履歴を、双方向の視点から描写したものです(<表1>参照)。縦軸では、当該産業が供給を受けた中間投入項目(原材料・労力など)の内訳および生産過程で追加的に創出した(粗)付加価値項目(賃金・利潤)の内訳が記載されます。横軸では、当該産業が生産した財・サービスの販路先を示しており、そのうち各産業に販売された分を中間需要項目、残りの分を最終需要項目としてそれぞれの内訳を記載しています。縦横の各合計値は域内生産額と呼ばれ、需要部門、供給部門で一致(均衡)します。

表1 取引基本表

2. 投入係数表

続いて取引基本表に記載された値を金額ベースから生産物ベースに変換し、規模を統一します。この表を投入係数表といいます。産業ごとの各投入額・投資額を国内生産額で除すことで、供給・需要各部門における内訳を計測し、それぞれ係数を求めます。

3. 逆行列係数表

最後に作成される逆行列係数表とは、波及的な効果を示す逆行列係数を①取引基本表および②投入係数表をもとにして計算した表をいいます。産業連関分析では、各産業部門の需要が1単位増加した際における直接効果、またこの直接効果に投入係数をもとに計算した間接効果を波及的に計測するため、この逆行列係数表の作成が重要となります(<表2>参照)。輸(移)入額の想定に応じて前提は変わりますが、その制約を緩和した簡易モデルでは<図1>の流れで計算されます(実務上は行列計算によって求められますが、ここでは計算過程を観念的に示しています)。こうしたプロセスを経ることで経済効果を波及的に測定することができるのです。

表2 逆光列系数表
図1 新規需要に伴う波及効果の測定方法

産業連関分析では、前述の取引基本表・投入係数表・逆行列係数表の各表を作成することでイベントによる波及効果を計測します。その際、表示価格は生産誘発額として計測されますが、付加価値ベースであるGDP(国内総生産)と比較する場合には、この生産誘発額に付加価値率を乗じることで波及効果を定量的に検討することができます。付加価値率のほかにも、雇用(就業)係数・税収係数を生産誘発額に乗ずることで雇用(就業)誘発者数・税収誘発額を計測することも可能です。雇用(就業)誘発者数は、イベントが与える生産額の増加によって生じる雇用(就業)者数の増加分を表しています。これは雇用創出効果に当たります。一方の税収誘発額は、生産額の増加が与える税収効果を示しており、これを法人税などの直接税・間接税に分解して計測することができます。
また、産業間の関係性を示す影響力係数および感応度係数を用いた分析も可能です。影響力係数とは特定産業に対する需要が生じた場合に他産業に与える影響度をいい、感応度係数とはその場合における感応度をいいます。つまりそれぞれの係数は、影響力の程度がどれだけ強いか、影響の程度をどれだけ受けやすいかを示す指標になります。この両指標を分析することで当該地域の産業構造がどういった特徴をもつのかを検証でき、政策ターゲットとなる産業のセレクションに合理的な解釈を与えることが可能となります。

 

Ⅲ おわりに

産業連関分析は、総務省を中心に内閣府・金融庁・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省の10府省庁が共同して作成しています。地方公共団体においても、都道府県レベルはもちろん市区レベルにおいても活用事例があり、確立したアプローチとして高い信頼性を有しています。こうした利点を鑑みると、政府・地方公共団体以外にもこのアプローチを利用できる機会が多分にあることでしょう。産業連関分析のさらなる活用が今後も期待されます。

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※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。