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再エネ海域利用法の施行による洋上風力発電事業参画機運の高まり


情報センサー2019年12月号 Trend watcher


EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 勝田 菜菜子

総合商社で新規事業投資、計数管理、海外事業会社の経営管理に従事した後、2019年にEYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)入社。インフラストラクチャー・アドバイザリーにおいて国内外のクライアントに対しコンセッション事業に係る入札支援、再生可能エネルギー発電所の売却支援、および事業会社のインフラ投資戦略検討支援等、多様なアセットタイプ、ならびに広範なテーマのアドバイザリー業務に従事している。


Ⅰ はじめに

2019年4月1日に施行された「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(以下、「再エネ海域利用法」または「本法」)により、国主導で洋上風力発電事業が推進されることとなりました。
本稿では、本法施行によるわが国における洋上風力発電事業の変化および参入を計画する事業者への影響を考えます。

Ⅱ 再エネ海域利用法の特徴および現状

本法では、30年度までに5区域の一般海域で洋上風力発電の運転を開始することをKPIとし、促進区域(本法に基づく洋上風力発電事業を実施する地域)の指定・公募による事業者選定・長期占用の許可を定めています(<図1>参照)。


図1 再エネ海域利用法の概要

洋上風力発電は再生可能エネルギーの最大限の導入と国民負担の抑制を両立する観点から重要な電源と認識されてきたものの、特に海域の大半を占める一般海域について、長期占用を実現するための統一的ルールや先行利用者との調整の枠組みが存在しないという課題により導入が進んでいませんでした※1。本法は、これらの課題解決を目的として制定されました。

1. 国からの30年間の占用許可

従来は占用許可の期間が短い(通常3~5年)ことから中長期的な事業予見可能性が低く資金調達が困難だったのに対し、長期の占用許可に基づく安定的な事業計画の策定が可能となり、資金調達の確度も高まると想定されます。

2. 促進区域指定前の関係者間協議会の設置

従来は、海域利用について漁業組合等の地域の先行利用者との調整に係る枠組みがありませんでした。本法下では促進区域指定前に地元との協議会の設置や関係省庁と協議が行われることで、参入を企図する事業者にとっては、事業開始までのスムーズな交渉や事業運営の素地(そじ)が整いやすくなる効果が期待できます。
19年7月30日には、経済産業省資源エネルギー庁および国土交通省港湾局により、促進区域の指定に向けて「既に一定の準備段階に進んでいる区域」として11区域が整理され、うち4区域は、「有望な区域」として協議会の組織や国による風況・地質調査の準備が開始されています(<図2>参照)。

図2  すでに一定の準備段階に進んでいる区域

Ⅲ 事業者への影響

公募プロセスにおける公募占用指針等の詳細は未定です。19年4月に公表された「中間整理※2」や、先行する福岡県北九州市沿岸の響灘洋上風力発電施設の設置・運営事業者の公募(港湾地域の洋上風力。以下、響灘)における「評価項目と評価する内容及び配点」から類推すると、建設予定海域の自治体に対する貢献・地域との共生は特に留意が必要な事項と見込まれます。
「中間整理」における評価基準の基本的な考え方では、価格を最重要として評価することが適切であるとはしつつも、プロジェクトの長期性や他の再生可能エネルギー発電事業に比べて地元関係者が多い点を踏まえ、事業実施能力および地域との調整・事業の波及効果の観点からも評価することが必要とされています(響灘では地域貢献の点数割合は全体の約33%)。加えて、国内での事業運営や国内洋上風力の関係行政機関の長との調整に係る実績が高評価とされており、過去に都道府県条例下や港湾地域での洋上風力発電事業の運営実績がある企業が有利になる可能性もあります。特に新たに洋上風力発電事業に参入しようとする企業にとっては、コンソーシアム(共同事業体)組成時の戦略的パートナー選定、また実績がある企業についても、地域との共生を図るために適切なパートナーと組むことが重要になると思われます。

Ⅳ おわりに

本法下での先行案件が無く、また地域との共生が重視されていることから、本法に基づく洋上風力発電事業への参入に際しては入念な準備と事前の戦略立案が重要になると考えます。

※1 沿岸から近い港湾区域については16年7月1日の改正港湾法により一定のルールが定められたものの、一般海域については都道府県の条例に留まっていた。

※2 経済産業省資減エネルギー庁および国土交通省港湾局「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 洋上風力促進ワーキンググループ」「交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 」合同会議

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