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会計監理部 公認会計士 村田 貴広
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『ここが変わった!税効果会計―繰延税金資産の回収可能性へのインパクト』(いずれも中央経済社)などがある。
2019年7月4日に、企業会計基準委員会(ASBJ)及び日本公認会計士協会(会計制度委員会)より以下の会計基準等(以下、ASBJから公表された会計基準等を「本会計基準等」、日本公認会計協会から公表された実務指針等を「本実務指針等」)が公表されています。本稿では、本会計基準等及び本実務指針等の概要を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
<本会計基準等>
<本実務指針等>
わが国においては、金融商品会計基準等において、時価(公正な評価額)の算定が求められているものの、これまで算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていませんでした。一方、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスを定めています。これらの国際的な会計基準の定めとの比較可能性を向上させるために、16年8月にASBJが公表した中期運営方針において、日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取り組みに関する検討課題の一つとして時価に関するガイダンス及び開示を取り上げていました。これらの状況を踏まえ、ASBJは、主に金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取り組みに着手し、検討を重ねて、今般、本会計基準等が公表されたものです。
また、時価算定会計基準、時価算定適用指針及び金融商品会計基準は、既存の日本公認会計士協会の実務指針等にも影響するため、ASBJで検討の上、同協会に改正を依頼しており、当該依頼を踏まえ、本実務指針等が公表されたものです。
時価算定会計基準の開発に当たっての基本的な方針として、統一的な算定方法を用いることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、国際財務報告基準(IFRS)第13号(以下、IFRS第13号)の定めを基本的に全て取り入れることとされています。ただし、これまでわが国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対するその他の取扱いを定めることとされています。
時価算定会計基準は、次の項目の時価に適用することとされています。
「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいいます。
時価は、直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格(資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格)であり、入口価格(交換取引において資産を取得するために支払った価格又は負債を引き受けるために受け取った価格)ではないとされています。
同一の資産又は負債の価格が観察できない場合に用いる評価技法には、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にするとされています。
時価の定義の変更に伴い、金融商品会計基準におけるその他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めについては、削除されています。
ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断については、期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いが踏襲されています(金融商品会計実務指針第91項)。なお、この場合であっても、減損損失の算定には期末日の時価を用いることとなります(金融商品会計実務指針第284項、金融商品Q&A Q32)。
資産又は負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によるとされています。
しかし、一定の要件を満たす場合には、特定の市場リスク又は特定の取引相手先の信用リスクに関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができるとされています。なお、本取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用することされています。
時価の算定に当たっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用い、評価技法を用いるに当たっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることとされています。
時価の算定に用いるインプットは、<表1>に示すレベル1→レベル2→レベル3の順に優先的に使用することとされています。
時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類するとされています。なお、時価を算定するために異なるレベルに区分される複数のインプットを用いており、これらのインプットに、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合、これらの重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類するとされています。
時価算定適用指針では、これまでわが国で行われてきた実務等に配慮し、取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等の第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができるとされています。
前述の定めにかかわらず、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ、総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団又は企業(以下、企業集団等)以外の企業集団等においては、第三者が客観的に信頼性のある者で企業集団等から独立した者であり、公表されているインプットの契約時からの推移と入手した相場価格との間に明らかな不整合はないと認められる場合で、かつ、レベル2の時価に属すると判断される場合には、一定の要件を満たすデリバティブ取引について、当該第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができます。
時価算定会計基準における時価の考え方のもとでは、原則として時価を把握することが極めて困難な有価証券は想定されません。今般の改正は時価評価の範囲の変更を意図するものではありませんが、時価を把握することが極めて困難な有価証券の定めを残した場合、金融商品会計基準のもとでも時価を把握することが極めて困難な有価証券が存在すると誤解を生じさせかねないため、時価を把握することが極めて困難な有価証券の記載が削除されています。
ただし、市場価格のない株式等に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとすることとされています。また、市場価格のない株式等については、時価に関する注記が不要とされています。
金融商品時価開示適用指針では、<表2>に示す開示項目の注記を求めることとされています。
本会計基準等及び本実務指針等は21年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。
ただし、20年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができるとし、また、20年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができるとされています。なお、これらのいずれかの場合には、時価算定会計基準と同時に改正された本会計基準等及び本実務指針等についても同時に適用するとされています。
次の経過措置が定められています。
<時価算定会計基準及び時価算定適用指針>
① 時価算定会計基準及び時価算定適用指針の適用初年度においては、時価算定会計基準及び時価算定適用指針が定める新たな会計方針を、将来にわたって適用する。
なお、棚卸資産会計基準及び金融商品会計基準も時価算定会計基準の適用初年度における取扱いと同様に将来にわたって適用する。
② ①の定めにかかわらず、時価の算定に当たり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなど、時価算定会計基準及び時価算定適用指針の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更については、以下のいずれかの方法が適用できる。
③ 投資信託の時価の算定に関しては、本会計基準等公表後概(おおむ)ね1年をかけて検討を行うこととし、それまでの間は現行の取扱いを踏襲する。この場合、時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記は要しない。
④ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、投資信託の取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとし、それまでの間は金融商品時価開示適用指針第4項(1)の注記は要しない。
<金融商品時価開示適用指針>
⑤ 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する開示項目について、適用初年度の比較情報は不要とする。また、期首残高から期末残高への調整表について、金融商品会計基準を年度末の財務諸表から適用開始する場合には、適用初年度は省略することができる。
<四半期財務諸表適用指針>
⑥ 適用初年度には、時価のレベルごとの残高の注記を不要とする。