EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY税理士法人 荒木 知
2018年、EY税理士法人に入所。タックス・ポリシー・アンド・コントロバーシー・チームのディレクター。国内および海外における税制モニタリングや税務調査を含む税務当局対応を担当している。前熊本国税局調査査察部長。一橋大学博士(経営法)。
2019年10月1日から、消費税及び地方消費税の税率が8%から10%に引き上げられる予定です。税率引き上げと同時に、引き上げられた10%の標準税率とは別に8%の軽減税率制度が導入されます。引き上げ前からの連続性として捉えれば、一部の品目については税率が8%に据え置かれるともいえます。
この消費税率引き上げ及び軽減税率導入は税を負担する消費者及び納税義務を負う事業者に大きな影響を与えます。税率が複数になることにより、帳簿・請求書等の記載方法も含め、事業者の経理への影響が大きいのは確かですが、本稿ではまず、消費者・事業者双方にとって関心の高い、何が軽減税率の対象になるのかに焦点を当てます。
12年に成立したいわゆる税制抜本改革法第7条では、消費税率の引き上げを踏まえて、「低所得者に配慮する観点から、複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含めさまざまな角度から総合的に検討する。」としています※1。
消費税の負担額は所得が上昇するほど増加し、消費水準に対応した税負担となるものの、収入に占める消費税の負担割合は低所得者ほど高いとされる、いわゆる逆進性の問題があります。12年の税制抜本改革法の時点では、低所得者に配慮する施策として、総合合算制度や給付付き税額控除といった仕組みも考えられていましたが、その後の与党における議論を経て、軽減税率制度が導入されることになりました※2。また、前述の税制抜本改革法第7条が示すように、軽減税率制度の導入に当たっては、その対象品目及び複数税率に対応するための経理事務対応が大きな課題であることがわかります。
軽減税率の適用対象になる課税資産は、飲食料品及び新聞の2品目です。このうち、論点も多く、国民的な関心がより高いのは飲食料品でしょう。また、生活必需品への配慮かつ購入頻度の高さによる痛税感の緩和といった観点の下、軽減税率の対象の検討は飲食料品を中心に行われてきました※3。
飲食料品とは、食品表示法に規定する食品をいうとされ、酒税法に規定する酒類は除かれています。食品表示法第2条第1項は、「食品」とは、全ての飲食物をいうとした上で、医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品を除き、添加物は含まれるとしています。
新聞については、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(一週に二回以上発行する新聞に限る)の定期購読契約に基づく譲渡が軽減税率の対象とされています※4。
飲食料品については、いわゆる外食が軽減税率の対象外になる等、その範囲が複雑です。<図1>を見た方がわかりやすいでしょう。
<図1>の塗りつぶしてあるところが軽減税率の対象であり、白抜き部分が軽減税率対象外です。
酒類や医薬品・医薬部外品等が軽減税率の対象外であることはすでに述べましたが、いわゆる「外食」及び「ケータリング」も対象外とされています。外食とは、食品衛生法施行令第35条に規定する飲食店及び喫茶店営業並びにその他飲食料品を、その場で飲食させる事業を営む者が行う食事の提供を指します※5。ケータリングとは、課税資産の譲渡等の相手方が指定した場所において行う加熱、調理又は給仕等の役務を伴う飲食料品の提供を指しますが、その中でも、老人福祉法に規定する有料老人ホーム、その他の政令で定める施設において行う飲食料品の提供は軽減税率の対象外の範囲から除かれています※6。すなわち軽減税率の対象となるということです。
<図1>の左下に「一体資産」とされているものが軽減税率の対象と対象外との両方にまたがっています。一体資産とは食品と食品以外の資産があらかじめ一体となっている資産で、一体資産としての価格のみが提示されているものを指します。このような一体資産については、税抜価額が1万円以下であって、食品に係る部分の価額に占める割合が3分の2以上のものに限り、全体が軽減税率の対象になります。
このように、消費税の軽減税率の対象には細かな論点があります。より具体的な内容については、国税庁が出している「消費税の軽減税率制度に関するQ&A」の「制度概要編」及び「個別事例編」が参考になるでしょう。
※1 社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律 第7条一ロ
※2 財務省「平成28年度税制改正の解説」上竹他・消費税法等の改正759~760ページ
※3 同上762ページ
※4 所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第34条一
※5 国税庁長官「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」7
※6 消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成28年政令第148号)第3条2