情報センサー

医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインの留意点


情報センサー2019年6月号 業種別シリーズ


ライフサイエンスセクター 公認会計士 塚本 大作

主に製薬企業を中心としたライフサイエンス企業の監査業務に従事。現在は当法人のライフサイエンスセクターナレッジ職員リーダーとして、ナレッジ発信のほか、各種ワーキンググループでの活動を行っている。


Ⅰ はじめに

2018年9月25日に厚生労働省より「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が公表され、19年4月1日に適用されました。また、19年2月20日と3月29日にガイドラインのQ&Aが公表され、適用のより具体的な内容などが示されており、円滑な運用が求められています。ガイドラインの内容は、医薬品の製造販売業者を中心に業務改善や組織的な対応を求め、医薬関係者を含めた広い範囲に環境変化をもたらすものとなります。本稿では、ガイドラインの概要を解説するとともに、先行して検討している各社の事例を踏まえた留意点について説明します。

 

Ⅱ ガイドラインの概要

1. ガイドラインの目的

近年、医療用医薬品に関する販売情報提供活動において、証拠が残りにくい行為(口頭説明等)、明確な虚偽誇大とまではいえないものの不適正使用を助長すると考えられる行為、企業側の関与が直ちに判別しにくく広告該当性の判断が難しいもの(研究論文等)の提供といった行為が行われ、医療用医薬品の適正使用に影響を及ぼす恐れが懸念されています。ガイドラインは、医薬品製造販売業者等が医療用医薬品の販売情報提供活動において行う広告または広告に類する行為を適正化することによって、医療用医薬品の適正使用を確保し、もって保健衛生の向上を図ることを目的としています。

2. ガイドラインの適用範囲等

ガイドラインは、医薬品製造販売業者、その販売情報提供活動の委託先・提携先企業(いわゆるコ・プロモーションの相手先企業を含む)及び医薬品卸売販売業者が医療用医薬品について行う「販売情報提供活動」を対象としています。
この「販売情報提供活動」とは、能動的・受動的を問わず、医薬品製造販売業者等が特定の医療用医薬品の名称または有効性・安全性の認知の向上等による販売促進を期待して、その医療用医薬品に関する情報提供を行うことをいい、医療用医薬品の効能・効果に係る疾患を啓発することも含まれています。
ガイドラインでは、提供方法や媒体を問わず販売情報提供活動に使用される全ての資料や情報が適用範囲となるため、口頭による説明、パソコン上の映像、電磁的に提供される資料なども当然に含まれてきます。
また、医薬品製造販売業者等が雇用する全ての者がガイドラインの対象となり、対象となる企業においてはガイドラインに沿った規約を各社で作成し、役員・従業員に遵守させることが求められています。

3. 販売情報提供活動の原則

ガイドラインでは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性確保等に関する法律」第68条2に基づいて、医療用医薬品の適正使用のために必要となる情報提供を適切に実施すべきであることに留意することが改めて示されるとともに、販売情報提供活動を行う上での要件、禁止事項、そして推奨事項が定められました。それぞれ、<表1>のとおりです。

表1 販売情報提供活動の原則

4. 医薬品製造販売業者等の責務

ガイドラインは、医薬品製造販売業者等に求める内容を定めています。内容の一部は以下のとおりです。
まず、経営陣は自社の全従業員の販売情報提供活動に関する業務上の行動に対して責任を負う立場として、適切な販売情報提供活動を実施するため、必要な社内体制の整備、担当者等に対する評価、教育の実施、手順書・業務記録の作成・管理及び不適切な販売情報提供活動への対応について、リーダーシップを発揮することが求められています。
社内体制の整備に関しては、活動や資材等の適切性のモニタリング部門(監督部門)を販売提供活動の担当部門から独立した形で社内に設け、責任者を明確化し、モニタリングの権限を与えることが求められています。モニタリング部門では、定期的なモニタリングを行い、担当部門・担当者に対して必要な監督指導を行います。また、自社からの独立性を有する者を含む審査・監督委員会を設け、監督部門の活動に対する必要な助言を行わせることになります。
販売情報提供活動の担当部門・担当者は、業務を適切に行うための手順書を作成するとともに、業務記録を作成し、保管することが必要となります。この業務記録には、口頭で行った説明等の内容記録も含まれます。

5. ガイドラインへの対応のポイント

各企業のガイドラインへの対応状況も踏まえ、以下の点がガイドライン対応の上でのポイントになってくると考えられます。

① Q&Aの28において、「売り上げ至上主義によらない人事評価制度や報酬体系とすることが考えられる」と人事評価項目の設定方法への言及があるため、MR等の人事評価制度として、具体的にどのような評価手法を構築すればよいか課題が生じます。

② 委託先・提携先企業及び医薬品卸売販売業者においても、適切な販売情報提供活動を行うことが求められており、それぞれ特例はあるものの、医薬品製造販売業者と同様の対応が必要となっています。この時、医薬品製造販売業者として、他社が行う販売情報提供活動をどのように管理するかで課題が生じます。それぞれの管理レベルの優劣がある場合には、業務の見直しが生じる可能性も出てきます。

③ 全従業員が対象となる中、販売情報提供活動に関する業務記録をどのように作成させ、保存させるかが課題となります。その上で、モニタリングの対象、頻度、件数などについても、慎重な検討が求められます。


Ⅲ おわりに

ガイドラインは19年4月1日に適用開始となりましたが、上記Ⅱ 4.「医薬品製造販売業者等の責務」で挙げた、経営陣の責務、社内体制の整備、モニタリング等の事項に関しては、19年10月1日からの適用となります。
社内においては、人事評価、組織、業務見直し、モニタリング業務など、多岐にわたってガイドラインの適用が求められます。また、委託・提携先や卸売販売業者に関する取り組み姿勢の確認や、医薬関係者とのコミュニケーションも必要となるため、対応方法の検討に当たっては、対外関係先と慎重に進めていくことが必要です。

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