情報センサー

マネーで読み解くeスポーツ


情報センサー2019年5月号 EY Advisory


EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株)
TMTセクター 佐藤 聡

2013年にEYに参画し、メディア・エンターテインメントセクターのマネージャーとして、主にイノベーションや先端テクノロジーに関連する顧客体験、マーケティング調査、新規事業開発の課題解決をしてきた。他に広告、消費財、流通、自動車、クリーンテックといった業界のプロジェクトなど、多様な業界経験を有する。


Ⅰ はじめに-eスポーツ元年


2018年は「eスポーツ元年※1」といわれ、メディア報道も増大し、社会の認知度は高くなりました。まず、一般社団法人「日本eスポーツ連合」が設立されました。第18回アジア大会※2の公開競技(全6タイトルの種目を実施)の一つであるサッカーゲームにおいて、連合は日本代表として杉村直紀選手と相原翼選手を送り出し、両選手は見事優勝(決勝戦は日本対イラン)し、金メダルを獲得しました。また18年9月20日~23日に、千葉・幕張メッセで東京ゲームショウ2018(TGS2018)が開催され、出展社数は668企業・団体、総来場者数は歴代最多の29万8,690人を記録しました。
さて、eスポーツをビジネスとして考える場合「結局、誰が一番もうけるのか」イメージできるでしょうか。この本質的な疑問にシンプルに回答します。それによりeスポーツビジネスがゲーム大会の延長線ではなく、新しいビジネス創出の試みであることが理解できるでしょう。

Ⅱ eスポーツビジネスの収益構造


もうかる企業を検討するに当たって、まず市場の成長セグメントを特定します。<図1>は、市場の収益セグメントの実績(18年)と予測(22年)です。最も成長が見込まれるセグメントはメディアライツ(特定メディア、例えばテレビで放映する権利)で、18%(約183億円)から40%(1,326億円)に増加すると予測されています※3。この予測は、米国の主要プロリーグ※4のメディアライツの平均が約37%であることを根拠に置いています。


図1 eスポーツ市場収益セグメントの予測

メディアライツの収益を享受できる企業とは、当然、放映の著作権を所有、管理する組織、要するに大会組織のリーグ運営者とそのリーグ加盟チームとなります。ゲーム動画配信サイトはすでに、観戦者数に応じた報酬をeスポーツ大会組織に支払っています。メディアライツは、将来的には放送局、OTT(オーバー・ザ・トップ)といった有料放送までを、その収益源にしようと考えています。
ところで、ゲーム会社が自社ゲームのIP(知的財産権)を主張しメディアライツビジネスを取り込もうとすれば、リーグ運営者はそのゲーム種目に力を入れなくなり、場合によっては人気が減衰していきます。もちろん、ゲーム会社がリーグ運営者になるビジネスケースもあり、それは強いビジネスモデルともいえます。しかし、現実にはゲーム会社がリーグ運営者を兼ねることは、多くはありません。eスポーツのリーグ運営者は集客力のある競技への投資をします。それは、1社ではなく複数のゲーム会社のコンテンツを扱うことが必要になるからです。
スポーツビジネスはファンがいてこそ成立します。スター選手や人気チームがいるからファンが増加するわけです。野球、サッカーを例にすれば、メジャー・マイナーのプロリーグ、企業リーグ、大学・高校・中学のトーナメント、そして草の根リーグといったスポーツコミュニティや、それを支えるエコシステムが重要で、短期間にはeスポーツのエコシステムは実現できません。
eスポーツのリーグ展開では、大きく二つの考え方、オープンとクローズドのフランチャイズ制があります。ビジネス化する上で、どちらの戦略が成功するかは、地域性やゲーム性も関係します。クローズドのフランチャイズ制では、ゲーム大会の開催がコントロールされます。例えば、制限されたチーム・スロット枠が大会運営者、興行主により設定され、チームはそのスロット枠を購入して高額賞金リーグに参戦をする方式です。例えば、米国のバスケットボールやフットボールのリーグ運営方式がこれに当たります。メリットとしては、チームの降格がないためスポンサー契約をしやすく、長期的なチーム育成が可能になる点です。また、リーグの収益性向上も見込まれます。ちなみに大手リーグのレベニューシェアモデルの一例ですが、約3分の1ずつを選手、チーム、リーグで分配していると推定されています。デメリットは、強いチームがおおむね主要都市に所在するため、地方ゲーマーやファンを獲得しにくいことです。また降格がないことでeスポーツサポーターのエンゲージメントやドラマ性が少なくなることです。一方のオープン制は、草の根でも大規模でも、ゲーム大会運営者による自由なトーナメント開催が許されている方式となります。

Ⅲ おわりに-eスポーツビジネスとギャンブル


メディアライツビジネスと相互補完する別のビジネスがあります。今やスポーツビジネスの重要な一部を形成するスポーツ賭博です。18年、米連邦最高裁は全州でスポーツ賭博の解禁を認める判断を下しました。それまではラスベガスがあるネバダ州以外では認可されていませんでしたが、最高裁の判断によって、米国でのeスポーツに対するオンラインギャンブルの合法化を視野にカジノ、オンラインゲーミング産業による投資が始まっており、20年には約1兆4,700億円の市場規模ができると予測されています。マスメディアで語られることはありませんが、日本でのカジノ産業展開にあわせてeスポーツの賭博合法化についても検討が必要かもしれません。
eスポーツビジネスがゲーム大会の延長線ではなく、新しいビジネス創出の試みであることが理解できましたでしょうか。eスポーツに関わるメディアライツ、ギャンブル、あるいはゲームのサブスクリプションで収益を上げるためには、国の著作権法、レギュレーション、市場属性、ビジネス慣習の違いを考慮し、スポーツコミュニティを築いていくというビジネスデベロップメント上の難しさがあります。従って、eスポーツビジネスの市場展開パターンは、国や地域によって大幅に異なってくるのです。


※1 「eスポーツ」とはエレクトロニック・スポーツに由来し、複数プレイヤーで対戦する電子ゲームを競技として捉える際の名称。近年米国、中国を中心として、世界で大規模eスポーツ大会が開催され、注目を浴びている。18年2月に一般社団法人「日本eスポーツ連合(JeSU)」が設立された。
※2 18年8月26日~9月1日にインドネシア・ジャカルタで開催。40競技462種目。陸上、水泳、サッカーなどのスポーツ 競技大会。
※3 Newzooによる最新データでは19年には11億ドル超(約1,230億円)、18年対比で26.7%の成長率を推定。
※4 NBA(バスケ)38%、NFL(アメフト)48%、MLB(ベースボール)43%、NHL(アイスホッケー)17%

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※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。