情報センサー

平成31年3月決算会社での有価証券報告書最終チェック


情報センサー2019年5月号 会計情報レポート


会計監理部 公認会計士 加藤 圭介

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる?収益認識の実務-影響と対応-』『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(中央経済社)、『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)などがあるほか、雑誌への寄稿も行っている。


Ⅰ はじめに


本稿では、平成31年3月期の有価証券報告書の作成に当たり、開示規則や会計基準等の主な改正による開示への影響、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の審査項目を踏まえた留意事項を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 開示府令の改正等


1. 開示府令の改正

平成31年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)の改正が公布・施行されています。これは、平成30年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に関する提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正を行うものです(<表1>参照)。


表1 開示府令の改正内容と適用時期

本稿では、平成31年3月期の有価証券報告書から 原則適用となる改正項目について解説します。

(1) 事業の概要

① 主要な経営指標等の推移

最近5年間の株主総利回りの推移について、提出会社が選択する株価指数における最近5年間の総利回りと比較した記載が求められます(開示府令第二号様式 記載上の注意(25)f、第三号様式 記載上の注意(5)等)。

(2) コーポレート・ガバナンスの状況等

① コーポレート・ガバナンスの概要

コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び企業統治の体制の概要に設置する機関に関する名称、目的、権限、構成員の記載が必要となります。なお、提出会社が基本方針を定めている場合の記載に関する改正については、令和2年3月期からの適用とする経過措置が設けられています(開示府令第二号様式 記載上の注意(54)a、第三号様式 記載上の注意(35)等)。

② 監査の状況

1) 監査公認会計士等を選定した理由及び方針(解任または不再任の決定の方針を含む)

監査役及び監査役会が監査公認会計士等又は会計監査人の選定を行った理由及びその選定方針、評価を行った場合にはその旨及びその内容の開示が必要となります(開示府令第二号様式 記載上の注意(56)d(c)・d(e)、第三号様式 記載上の注意(37)等)。

2) 監査報酬の内容等

ネットワークファームに対する監査報酬等の開示及び監査役会が監査報酬に同意をした理由の開示も必要となります(開示府令第二号様式 記載上の注意(56)d(f)、第三号様式 記載上の注意(37)等)。なお、ネットワークファームに対する監査報酬等の開示については、平成31年3月期は従前の規定によることも認められています。

3) 役員の報酬等

報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、報酬プログラムに基づく報酬実績等の記載が必要となります(開示府令第二号様式 記載上の注意(57)、第三号様式 記載上の注意(38)等)。

4) 株式の保有状況

政策保有株式について、保有の合理性の検証方法等について開示が求められるとともに、個別開示の対象となる銘柄数がこれまでの30銘柄から60銘柄に拡大されます(開示府令第二号様式 記載上の注意(58)、第三号様式 記載上の注意(39)等)。

2. その他の留意点

金融庁から平成30年度有報レビューの結果を踏まえ、平成30年の開示府令の改正内容に関連して以下の留意点が示されています(金融庁による有報レビューの詳細については後記「Ⅵ 金融庁による有報レビューを踏まえた留意事項」をご参照ください)。

(1) 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析


  • 経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載する必要がある
  • 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、それらに照らして経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するなど、具体的にかつ分かりやすく記載する必要がある
  • 資本の財源及び資本の流動性に係る情報(例えば、重要な資本的支出の予定やその資金の調達源等)の記載が必要であり、当該記載においては、単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化しただけでは不十分である

(2) 大株主の状況

  • 所有株式数の割合の算定においては、分母となる発行する発行済株式の総数から自己株式を除く必要がある

Ⅲ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示


わが国では金融商品取引法と会社法による二つの法定開示制度が併存していますが、平成26年に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」の公表以降、関連省庁等が個々に又は連携して、有価証券報告書と会社法による事業報告(以下、事業報告)等との一体的な開示に向けての検討が行われています。平成29年12月に公表された「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」では、制度上は会社法と金融商品取引法の両方の要請を満たす一つの書類を作成して株主総会前に開示することが可能である旨が示されています。
これを受けて、平成30年12月28日に、内閣官房、金融庁、法務省及び経済産業省から公表された「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」により、一体的開示を行おうとする企業が参考にできるものとして、一体的開示の記載例と作成趣旨等が示されています(<表2>参照)。なお、一体的な開示への取組みを行う場合についても、開示府令等の内容に沿った記載が必要であることに留意する必要があります。


表2 一体的開示の記載例と作成趣旨等

Ⅳ 記述情報の開示に関する原則


平成31年3月19日に、金融庁から「記述情報の開示に関する原則」が公表されました。これは、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」からの提言を受け、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実を図るため、企業が経営目線で「記述情報」(財務情報以外の開示情報)を開示する上でのガイダンスとしてとりまとめられたものです。本原則では総論として、企業の情報開示における記述情報の役割及び記述情報の開示に共通する事項に関する原則を定めるとともに、それぞれについて考え方及び望ましい開示に向けた取組みが示されています。
また、各論として、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業との深度ある建設的な対話につながる次の項目を中心に、望ましい開示の考え方等が整理されています。


  • 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
  • 事業等のリスク
  • 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

Ⅴ 会計基準等の主な改正による開示への影響


1. 税効果基準一部改正による開示への影響

平成30年2月16日に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(以下、税効果基準一部改正)が公表され、平成30年4月1日以後開始する年度の期首から原則適用されています。

(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(財務諸表等規則第31条第5号、第51条、第54条、連結財務諸表規則第22条、第36条、第45条)

税効果基準一部改正の適用により、繰延税金資産は投資その他の資産の区分に、繰延税金負債は固定負債の区分に表示することになり、流動区分への表示がされないこととなりました。適用初年度においては表示方法の変更に該当するため、比較情報を新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うとともに、変更の内容及び理由の注記を行うことになります。

(2) 注記(財務諸表等規則第8条の12、連結財務諸表規則第15条の5、財務諸表等規則ガイドライン8の12-2-1、連結財務諸表規則ガイドライン15-5)

以下の注記事項が追加されます。ただし、当期においては、経過的な取扱いとして評価性引当額の合計額を除く注記事項については、比較情報を記載しないことができます。

① 評価性引当額(繰延税金資産から控除された額)の内訳に関する情報

1)数値情報(繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として記載された税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、評価性引当額を税務上の繰越欠損金と将来減算一時差異等の合計に区分して記載)(<図1>参照)
2)定性的な情報(評価性引当額(合計)に重要な変動が生じている場合、当該変動の主な内容)


図1 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳 開示例

② 税務上の繰越欠損金に関する情報

1)数値情報(税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別に税務上の繰越欠損金の税効果額・評価性引当額・繰延税金資産の額)(<図2>参照)
2)定性的な情報(税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由)


図2 税務上の繰越欠損金及びその繰延税金資産の繰越期限別の金額

なお、連結財務諸表作成会社の個別財務諸表においては、① 1)のみが、追加的に注記が要求される項目となります。

2. 有償ストック・オプション取扱いの適用による開示への影響

平成30年1月12日に、実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(以下、有償ストック・オプション取扱い)等が公表され、平成30年4月1日以後開始する年度から原則適用されています。有償ストック・オプション取扱いを適用した場合には、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」等に従った注記を行います(有償ストック・オプション取扱い第9項)。ただし、経過的な取扱いにより有償ストック・オプション取扱いの適用前に付与した取引について従来採用していた会計処理を継続する場合には、次の事項を注記します(有償ストック・オプション取扱い第10項(3))。


  • 権利確定条件付き有償新株予約権の概要(各会計期間において存在した権利確定条件付き有償新株予約権の内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等))
  • 採用している会計処理の概要

なお、適用初年度においてこれまでの会計処理と異なることとなる場合又は従来採用していた会計処理を継続する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱うため(有償ストック・オプション取扱い第10項(4))、会計方針の変更に関する注記が必要となる点に留意が必要です。
3. 仮想通貨取扱い適用による開示への影響
平成30年3月14日に、実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、仮想通貨取扱い)が公表され、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用されています。なお、自己(自己の関係会社を含む)の発行した仮想通貨は、仮想通貨取扱いの適用対象とはされません。

(1) 表示(仮想通貨取扱い第16項)

仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示することとされています。

(2) 注記事項(仮想通貨取扱い第17項)

仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨、及び仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨について、次の事項を注記することとされています。


① 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
② 仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
③ 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額


ただし、貸借対照表価額が僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができます。また、保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額が資産総額に比して重要でない場合などにおいて注記を省略することができます。

4. 未適用の会計基準等

公表済かつ未適用の会計基準がある場合には、重要性が乏しいものを除き会計基準の名称及びその概要、適用予定日、財務諸表に与える影響に関する事項を注記することとされています(財務諸表等規則第8条3の3、連結財務諸表規則第14条の4)。当期末においては、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等について、早期適用されたもの又は重要性が乏しいものを除き注記が必要となります。また、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等の当面の取扱いを適用している会社は、IFRSや米国会計基準において公表済で未適用の会計基準等(IFRS第16号「リース」、米国会計基準Topic842「リース」等)の重要性を踏まえて注記の要否を検討する必要があります。

Ⅵ 金融庁による有報レビューを踏まえた留意事項


1. 平成31年有報レビューにおける審査項目等

有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的の下、毎年、金融庁と財務局等との連携により有報レビューが行われています。平成31年度の有報レビューの概要は<表3>のとおりです。


表3 平成31年有報レビューの概要

2. 過去の有報レビューにおける指摘事項

過去の有報レビューの重点テーマ項目は<表4>のとおりです。


表4 過去(直近3年間)の有報レビューにおける重点テーマ審査項目

有報レビューのうち開示の側面からの審査では、主に注記事項の記載内容が不十分である点や会計基準や開示規則等の適用が誤っている点が指摘されています。平成30年度のレビュー結果においては、引当金、偶発債務等の会計上の見積り項目について開示に関する指摘事項が公表されていますが、その内容を踏まえた留意事項は以下のとおりです。


  • 係争事件に係る賠償義務等で、将来において事業の負担となる可能性のあるものが存在する場合には、その内容及び金額が財務諸表に注記されているか
  • 資産除去債務に関する注記において、支出発生までの見込期間や適用した割引率が記載されているか

なお、平成30年開示府令改正に関する審査結果を踏まえた留意点は前記「Ⅱ 2. その他の留意点」をご参照ください。


「情報センサー2019年5月号 会計情報レポート」をダウンロード


情報センサー

2019年5月号
 

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。