情報センサー

資本の特徴を有する金融商品プロジェクトの動向


情報センサー2018年10月号 IFRS実務講座


IFRSデスク 公認会計士 山岸 正典

金融部にて上場保険会社、リース会社等の会計監査に携わるとともに、金融機関のIFRS導入支援業務、J-SOX導入支援業務、損害保険会社の設立支援業務等の各種アドバイザリー業務に従事。2016年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、IFRS関連の研修講師、執筆活動などに従事している。


Ⅰ はじめに


国際会計基準審議会(以下、IASB)では、資本の特徴を有する金融商品に関するリサーチ・プロジェクト(以下、FICEプロジェクト)が進められています。FICEプロジェクトは、発行者の観点から、金融商品に関する負債と資本の分類規定の改善等を図ることを目的としたプロジェクトです。
18年6月28日に「資本の特徴を有する金融商品」に関するディスカッション・ペーパー(以下、本DP)が公表されました。本DPのコメント期限は、19年1月7日となっています。
本稿では本DPの内容を中心に、FICEプロジェクトの動向をご紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ FICEプロジェクトの背景


現行基準の下では、発行した金融商品の負債と資本の分類は、IAS第32号「金融商品:表示」に基づき決定します。この負債と資本の分類については、その結果によって各種財務指標に影響を与えることになるため、実務的にも関心が高い論点です。日本基準では法的形式に基づいて負債/資本の判断が行われますが、IAS第32号では負債の定義に当てはまれば負債に分類、負債の定義に当てはまらなければ資本に分類されることになるため、対象となる金融商品の契約内容に照らした分析が求められます。特に近年は、永久劣後債や優先株式等の資本と負債の複合的な要素を持つ複雑な金融商品の発行が増えているため、負債と資本の分類の判断が難しくなっています。
その一方で、IAS第32号は、大半の金融商品に対しては有効に機能しますが、そういった複雑な金融商品に対する適用には課題があると言われています。さらに、この適用上の課題は、IAS第32号の規定に必ずしも明確な根拠がないことから生じているともいわれています。また、現行のIAS第32号に基づく負債と資本の分類では、財務諸表利用者に十分な情報が提供されないという課題も挙げられています。
IASBは、前記の課題に対処するために、本DPで以下のアプローチを提案しています。


  • IAS第32号の分類結果を大きく変えることなく、金融商品が負債又は資本のいずれかに分類される理由について明確な論拠を示す

  • 表示及び開示を通じて提供される情報を拡充する

Ⅲ ディスカッション・ペーパーの内容


1. 負債と資本の分類

本DPで提案されているアプローチでは、以下のいずれか(又は両方)を含む金融商品を負債に分類し、いずれも含まない金融商品を資本に分類するとされています。


  • 清算以外の特定の時点で現金又は他の金融資産を移転する不可避の契約上の義務(時期の特性)

  • 企業の利用可能な経済的資源から独立した金額に対する不可避の契約上の義務(金額の特性)

「時期の特性」に関して、例えば、普通株式の保有者は清算時に残余財産の分配を受ける権利を有していますが、社債の保有者とは異なり、発行から一定期間経過後に元本の償還や利息の支払いを請求する権利は有していないため、当該特性だけを考えれば資本になります。
また、「金額の特性」に関しては、企業の利用可能な資源が変動しても契約上の義務に係る金額に変動が生じない場合、当該義務に係る金額は企業の利用可能な資源から独立しているということになります。例えば、普通社債の元本や利息の支払い金額は、発行者の支払能力に影響を受けないため、負債になります。
前記をまとめると、<表1>の通りとなります。前記のアプローチに従った場合、大半の金融商品に関してはIAS第32号に基づく分類結果と同じになると考えられますが、一部の金融商品は異なる分類結果になる可能性があります。例えば、償還期限がない優先株式で、固定額かつ累積型の配当の支払い義務がある金融商品は、IAS第32号では期限を特定せずに支払いを繰り延べる無条件の権利があれば資本に分類されます。しかし、提案されたアプローチでは、配当が固定かつ累積するため、企業の経済的資源から独立している金額に関する義務が存在するとして、負債に分類されることになります。


表1 負債と資本の分類

2. 表示

本DPでは、負債と資本の表示規定の改善を通じて、提供する情報の拡充を図ることが提案されています。まず、負債の表示に関して、企業の経済的資源から独立している金額に関し何の義務も負っていない負債※を対象に、以下の通りに表示することが提案されています。


  • 貸借対照表において、資本から生じるリターンと同じリターンを生じさせる負債を他の負債とは区分して表示する

  • 損益計算書において、資本から生じるリターンと同じリターンを生じさせる負債から生じる収益又は費用を純損益ではなくその他の包括利益に表示し、組替調整を行わない(ノンリサイクリング)

また、資本の表示に関しては、2種類以上の資本性金融商品を発行している企業に対して、リターンがこれらの資本性金融商品間でどのように配分されるのかが分かる情報を提供することが提案されています。つまり、各資本性金融商品に対する純損益及びその他の包括利益の帰属額を表示することが提案されています。具体的には、<図1>のフローに従うことになります。


図1 資本の表示(リターンの分配)に関するイメージ

3. 開示

本DPでは、財務諸表利用者が発行体の財政状態や経営成績に及ぼす金融商品の影響や、発行している金融商品の優先劣後関係を理解できるように、以下を開示することが提案されています。


  • 清算時における各金融商品の優先順位

  • 普通株式の潜在的な希薄化

  • 各金融商品の契約条件

※ 「金額の特性」の観点からは負債に該当しないが、「時期の特性」の観点から負債に該当する金融商品

    「情報センサー2018年10月号 IFRS実務講座」をダウンロード


    情報センサー

    2018年10月号
     

    ※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。