EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
圧縮記帳を積立金方式、特別償却を準備金方式によった場合の留意点
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 太田 達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。
固定資産の取得に当たり、国庫補助金や保険金、収用等による補償金などの交付を受けた場合、その他一定の場合には、一時の課税を繰り延べる圧縮記帳制度が認められています。
圧縮記帳の方法につき、税務上は、損金経理により圧縮損を計上して帳簿価額を直接減額する方法のほか、交換以外の圧縮記帳については圧縮積立金を積み立てる方法が認められています。一方、会計上は、国庫補助金、保険差益、交換、収用等の一定の圧縮記帳については直接減額方式が認められるものの、原則としては剰余金処分による積立金方式によることが望ましいと考えられます(企業会計原則注解24、監査第一委員会報告第43号「圧縮記帳に関する監査上の取扱い」)。
積立金方式による場合には、会計と税務でズレが生じ、税効果会計の対象となるため、その調整が複雑になります。本稿では、圧縮積立金方式によった場合の会計処理と税務処理について、減価償却資産の圧縮積立金を具体例として解説します。
また、類似の事例として、租税特別措置法上の特別償却につき特別償却準備金として積み立てる方式によった場合についても、併せて解説します。
設例1 圧縮積立金の処理
<前提条件>
当期末に圧縮対象資産である機械装置(耐用年数10年、定額法償却率0.100)を1,000万円で取得しました。圧縮記帳(圧縮限度額400万円)は当期に行い、減価償却は翌期から行うものとし、利益は対象資産の圧縮記帳と減価償却を除いたところで各期とも3,000万円とします。また、法定実効税率は30%、税務調整項目は他にはないものとして解説します。
圧縮記帳につき直接減額方式による場合、400万円が費用または損失として計上されます。
積立金方式による場合、原則として、積み立てる事業年度の決算において剰余金処分により圧縮積立金を計上して貸借対照表に反映させるとともに、株主資本等変動計算書に記載します(企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」第25項)。
剰余金の処分による任意積立金の積立ては原則として株主総会の決議事項ですが、圧縮積立金の積立ては法令の規定に基づく剰余金の増加項目に該当し、株主総会の決議は不要と規定されています(会社法第452条、会社計算規則第153条第2項)。
本事例の場合、圧縮記帳により400万円の将来加算一時差異が発生し、それに対して法定実効税率30%を乗じた120万円の繰延税金負債を計上します。
本事例につき直接減額方式による場合、所得金額は圧縮損400万円が損金算入され、2,600万円となります。
これに対し、積立金方式の場合には利益が減少しないので、所得計算上、同様の効果を持たせるために繰延税金負債控除前の400万円を別表四上で減算します。実務上はこの際、確定申告書に「積立金方式による諸準備金等の種類別の明細表」を添付して税効果会計適用前の金額を明らかにします※。
また、圧縮積立金に係る繰延税金負債に対応する法人税等調整額120万円につき、所得計算に影響しないよう加算します。この結果、所得金額は直接減額方式の場合と一致します。
株主資本等変動計算書から圧縮積立金の額を、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」から圧縮積立金認定損を、それぞれ転記するとともに、繰延税金負債を転記します。
本事例につき直接減額方式による場合、減価償却費は(1,000万円-400万円)×0.100=60万円となるのに対し、積立金方式による場合には、会計上の取得価額は圧縮記帳前の本来の取得価額とされるため、本事例の機械装置の減価償却費は、1,000万円×0.100=100万円となります。
圧縮記帳を行った資産の税務上の取得価額は、直接減額方式および積立金方式いずれの場合も圧縮による損金算入額を控除した後の金額とされます。従って、本事例の機械装置の減価償却限度額は、(1,000万円-400万円)×0.100=60万円となり、減価償却超過額40万円が生ずることとなります。この結果、所得金額は2,940万円となり、直接減額方式による場合(3,000万円-減価償却費60万円=2,940万円)と一致します。
減価償却資産に係る圧縮積立金は、減価償却に応じて取り崩します。積立てと同様、剰余金処分による取崩しについても、株主総会の承認は不要とされています。
本事例の場合、前記1.で100万円の減価償却を行ったことに伴い、圧縮積立金が税効果分を含めて40万円取り崩され、このうち法定実効税率30%を乗じた12万円の繰延税金負債が減少します。
圧縮積立金は、税務上は対象資産を処分するまで減少させず、減価償却に伴う取崩しは行いません。会計上取り崩した場合には、税務上は任意取崩しとして益金算入されます(法基通4-1-1)。本事例の場合、税効果分を含めて40万円が益金算入されます。
ところで、会計上の圧縮積立金の取崩しは、取得価額につき圧縮積立金を控除しないことから生ずるものです。すなわち、会計上は取得価額1,000万円に対する減価償却費を100万円計上するとともに圧縮積立金を40万円取り崩すのに対し、税務上は取得価額600万円に対する減価償却費を60万円計上するため、どちらも損益は△60万円で一致します。
そこで、所得計算においては、前記1.で生じた減価償却超過額を認容減算して損金算入することによって調整します(法基通10-1-3)。また、繰延税金負債の減少に対応する法人税等調整額を所得計算に影響させないよう減算します。この結果、所得金額は2,940万円となり、直接減額方式による場合と一致します。
株主資本等変動計算書から圧縮積立金の額を、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」から圧縮積立金取崩額を、それぞれ転記するとともに、繰延税金負債を転記します。
設例2 特別償却準備金の処理
<前提条件>
当期首に特別償却対象資産である機械装置(耐用年数10年、定額法償却率0.100)を700万円で取得しました。特別償却限度額は210万円、利益は減価償却(特別償却を含みます)を除いたところで各期とも3,000万円とします。また、特別償却準備金は翌期以降、租税特別措置法の規定に基づき7年で取り崩し、法定実効税率は30%、税務調整項目は他にはないものとして解説します。
特別償却につき直接減額方式による場合、減価償却費として280万円(普通償却700万円×0.100+特別償却210万円)が計上されます。
特別償却につき準備金方式による場合、原則として、積み立てる事業年度の決算において剰余金処分により特別償却準備金を計上して貸借対照表に反映させるとともに、株主資本等変動計算書に記載します(企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」第25項)。
剰余金の処分による特別償却準備金の積立ては圧縮積立金と同様、法令の規定に基づく剰余金の増加項目に該当し、株主総会の決議は不要と規定されています(会社法第452条、会社計算規則第153条第2項)。
本事例の場合、特別償却により210万円の将来加算一時差異が発生し、それに対して法定実効税率30%を乗じた63万円の繰延税金負債を計上します。
本事例につき直接減額方式による場合、所得金額は減価償却費280万円が損金算入され、2,720万円となります。
これに対し、準備金方式の場合、減価償却費は普通償却分の70万円が計上されている一方、特別償却準備金については利益が減少しないので、所得計算上、同様の効果を持たせるために繰延税金負債控除前の210万円を別表四上で減算します。実務上は圧縮積立金と同様、確定申告書に「積立金方式による諸準備金等の種類別の明細表」を添付して税効果会計適用前の金額を明らかにします。
また、特別償却準備金に係る繰延税金負債に対応する法人税等調整額63万円につき、所得計算に影響しないよう加算します。この結果、所得金額は直接減額方式の場合と一致します。
なお、特別償却につき準備金方式による場合の税務上の取得価額は特別償却準備金の控除前の金額とされ、圧縮積立金と異なり会計と税務が一致しており、減価償却超過額は生じません。
株主資本等変動計算書から特別償却準備金の額を、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」から特別償却準備金認定損を、それぞれ転記するとともに、繰延税金負債を転記します。
特別償却準備金の剰余金処分による取崩しについても、積立てと同様、株主総会の承認は不要とされています。
本事例の場合、特別償却準備金が税効果分を含めて30万円取り崩され、このうち法定実効税率30%を乗じた9万円の繰延税金負債が減少します。
特別償却準備金は、積み立てた翌事業年度から、租税特別措置法に定められた期間で取り崩すこととされ、取崩額は益金算入されます(措法52の3⑤)。本事例の場合、税効果分を含めて30万円(210万円÷7年)が益金算入されます。
この結果、所得金額は利益3,000万円から減価償却費70万円を損金算入し、特別償却準備金取崩額30万円を益金算入した2,960万円と一致します。
なお、会計と税務の取得価額が一致しており減価償却超過額が生じないため、それに伴う特別償却準備金の任意取崩しと減価償却超過額認容が生じず、圧縮積立金ほど複雑な処理を要しません。
株主資本等変動計算書から特別償却準備金の額を、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」から特別償却準備金認定損を、それぞれ転記するとともに、繰延税金負債を転記します。
(注) 文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
法基通:法人税基本通達
措法:租税特別措置法
※「積立金方式による諸準備金等の種類別の明細表」につき、従来は会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」の別紙として参考例が記載されていたところ、同指針は、平成30年2月16日付けで企業会計基準委員会から企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等が公表されたことを受けて廃止されているが、実務上は従来どおり有効に取り扱われるものと考えられる。