情報センサー

大法人の電子申告の義務化


情報センサー2018年7月号 Tax update


EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。


Ⅰ はじめに


経済社会のICT化等を踏まえ、政府全体として各種行政手続の電子化・オンライン化が進められています。しかし、税金に係る電子納税申告の普及は道半ばの状況です※1。こうした中、官民合わせたコストの削減や企業の生産性向上を促進する観点から、申告データを円滑に電子提出できるような環境整備を進めつつ、まずは大法人について、電子申告の義務化を図ることとされました。
平成30年度税制改正により、一定の大法人等が行う法人税等の申告は、電子情報処理組織(以下、e-Tax)により提出しなければならないこととされます。この改正は、平成32年(2020年)4月1日以後に開始する事業年度等から適用されます。以降は、一定の大法人等の法人税等の申告について、原則として、納税申告書を書面により提出することができなくなります※2
本稿においては、その概要を説明いたします。

Ⅱ 電子申告の義務化の概要


電子申告義務化の概要は以下のとおりです。

1. 対象税目

法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税、法人住民税及び法人事業税が対象となります。

2. 対象法人の範囲※3


① 内国法人のうち、その事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
② 相互会社、投資法人及び特定目的会社


3. 対象手続及び対象書類

確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書の手続きが対象となり、申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全てが対象とされます。

4. 例外的な書面申告

電気通信回線の故障、災害その他の理由によりe-Taxを使用することが困難であると認められる場合※4には、納税地の所轄税務署長の事前承認を要件として、申告書及び添付書類を書面によって提出することが可能です。

5. 適用開始届出

電子申告義務化の対象となる法人は、所轄税務署長に対し、届出書を提出することが必要です。

6. 適用日

平成32年(2020年)4月1日以後に開始する事業年度(課税年度)から適用されます。

Ⅲ 義務化に伴い導入する利便性向上施策


電子申告の義務化に当たっては、法人税等に係る申告データを円滑に電子提出できるように、国税庁において納税環境整備が進められます。<表1>のとおり、利便性向上に向けた施策が電子申告の義務化までの間に順次実施される予定です。なお、これらの施策は、電子申告の義務化対象となっていない中小法人等にも適用されます。


表1 利便性向上施策

Ⅳ おわりに


国税庁は4月に、ウェブサイト上で「電子申告の義務化についてよくある質問(以下、FAQ)」を公表しています。当該FAQにおいては、義務化の制度内容や今後の利便性向上施策についての詳細な情報が明らかにされています。
制度の適用開始までしばらくの猶予があるとは言っても、電子申告が「義務化」される意義には重いものがあります。義務化の対象法人は、仮にe-Taxによる申告を怠り、書面では法定申告期限までに申告を完了したとしても、原則として無申告加算税の対象となります※5。制度開始までに、余裕をもって十分な準備をしておくことが必要です。


※1 平成28年度の電子申告(e-Tax)の利用率は、法人税申告79.3%(大規模法人に関しては56.9%)、所得税申告53.5%(財務省作成資料より)
※2 ただし、それらの申告のうち添付書類にかかる部分については、記載事項を記録した光ディスク、磁気テープ又は磁気ディスクを提出する方法により行うことができる。
※3 人格のない社団等及び外国法人は含まれない。また、消費税及び地方消費税に関しては、国及び地方公共団体も対象法人に含められる。
※4 具体的な事例は、今後公表される予定
※5 期限内に「申告書の主要な部分」が電子的に提出されていれば、無申告加算税は課せられない。


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