EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
EYパルテノン ブライアン・ホール
豊富なクロスボーダー経験を有し、日本、米国をはじめ、さまざまな国におけるグローバル企業向けに、市場参入戦略およびアセスメント、PMIおよびトランスフォーメーションのクロスボーダー・プログラムマネジメント、ビジネスケース策定、オポチュニティ・アセスメント、コスト削減分析やオペレーション設計および改善のサービスを提供。EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) EYパルテノン ディレクター。
多くの企業は、競争力および成長を維持するために、グローバル化を進めています。企業がグローバルな事業活動を行う上では、進出先各国において、事業活動の規模・目的などに見合った最適な法的組織体を選択することが重要となります。一方、進出時に選択した法的組織形態が、その後の事業活動の進展に伴う事業内容の変更に伴い事業運営方法やガバナンスの面などから事業の実態にそぐわなくなっている場合、法的組織体を変更する必要性が生じます。
本稿では、海外企業の日本支社の株式会社化という事例を用いて、法的組織体の変更や、変更後の円滑な運営のためのトランザクション(事業構造の変革)に必要な考慮すべき要素を紹介します。具体的には、事業構造の変革方針、実行前、実行後の三つの段階に分けて見ていきます。事業構造の変革の内容(または特有性)によって優先度は変わりますが、考慮すべき要素は変わりません。
日本支社の株式会社化という法的組織体の変更は、海外企業の日本支社が別の日本企業と統合(またはJVの設立)するケースや、スピンオフなどと共通の要素が多くあります。また、事業構造の変革は、戦略、ビジネス、財務、オペレーションなど、さまざまな側面からの総合的かつ詳細に評価を行った上で、実行することが必要です。
税法や会社法による規制は複雑であり、国境を越えて事業を運営している場合や各国ごとに事業の許認可(事業を行う上での各国における事業運営権の取扱い等)が絡んでくることが多く、また複数の社内組織が関与するため、法的組織体のオプションの比較は容易ではありません。法的組織体(資産vs株式vs組織統合、ホールディングカンパニーの設立vs直轄)、事業運営体制(事業運営権を保有している組織体はどれか、事業構造の変革の影響を受ける組織体のオペレーションの将来像)などのオプションは、さまざまな要素を考慮して精査しなければなりません。事業構造の変革の目的を実現すると同時に、想定される課題を最小限にしていくことがオプション評価の基準となります。
【考慮すべき要素】
日本および本社などのステークホルダーを巻き込んで変革プロジェクトを「プログラム」化し、PMO(マネジメント・オフィス)を設立してプロジェクトを運営するためのガバナンスを確立することが肝要です。PMOがまず、利用言語やプログラムメンバーの標準業務時間、報告頻度などの運営の基本を決めます。これらを考慮した上で、チームの編成および業務プランを立てていくことにより、スムーズな実行が可能になります。
成功裏に完了する変革プロジェクトには、以下の特徴があります。
この段階で考慮すべき要素としては、以下のようなものがあります。
事業構造の変革実行チーム以外のステークホルダーは、Day1(変革後の事業運営初日)がプログラムの終了日と認識しがちですが、Day1以降にも重要な活動があり、プログラムは継続します。想定されている利益の実現のためにも、以下に挙げる活動は重要です。
最終的には、財務・会計、税務、ITやその他の事業運営に関連する事項が、全て効果的に実行されていなければ、事業構造の変革は完了しません。しっかりとしたスケジュール、さまざまなステークホルダー間の共通認識、戦略と実行計画との一致などが重要となります。「実行」を進める前に「万全な準備体制」の条件を明確にし、達成に向けた進捗(ちょく)を定期的に確認することが重要です。
※1 株式会社化による名称変更は、ブランドを一新する機会にもなる。
※2 対象会社の株式移転前に配当金を支払う場合、株式の価値が下がり、法人税の課税額も下がる(日本の税法)。
※3 ガバナンスや事業運営モデルの設計から株式会社への移行まで、規制当局は顧客への対応が十分に考慮されているかを確認し、移行後に顧客へ悪影響を及ぼすと思われる場合は、監視を強化する。そうなると評判を毀き損するリスクがあるため、それを避けるために万全を尽くす必要がある。
※4 移転価格のアプローチを明確にすることは当然重要であるが、組織体間のサービスの「輸入」によって日本の消費税法が関連する可能性がある。その場合、事業運営モデルや組織体間の合意は、予想される消費税の取り扱いと一貫した構成が必要となる。
※5 日本における2016年の税制改正では、移転価格決定における相対取引価格算定のために「ローカルファイル」(7年間保管)の定期的報告が必要。
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