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固定資産の減損会計の実務ポイント解説シリーズ第9回 四半期に関する実務論点


情報センサー2018年6月号 会計情報レポート


会計監理部 公認会計士 渡邊 翔

主にノンバンクを中心とした監査業務や内部統制の保証業務に従事する一方、会計処理および開示に関して相談を受ける品質管理業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報発信業務に従事。主な著書(共著)に『こんなときどうする?減損会計の実務詳解Q&A』(中央経済社)などがある。


Ⅰ はじめに


固定資産の減損会計の実務ポイント解説シリーズ最終回の本稿では、四半期決算の減損会計に関する実務論点を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 四半期と年度の取扱いの違い


1. 減損の兆候の検討

減損の兆候の検討に当たっては、営業損益等の多くの情報に基づき検討することになりますが、四半期では、資産グループに関連する営業損益等の情報や、その市場価格に関する情報を取得していない場合があると考えられます。また、減損の兆候の検討では、通常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な情報に基づき検討することとされており(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下、減損指針)11項)、実務的に利用困難な情報に基づいて減損の兆候を検討することまでは求められていないと考えられます。
このため、四半期においては、使用範囲又は方法について資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて留意することとされており(四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針(以下、四半期指針)14項)、四半期ごとに資産グループに関連する営業損益、営業キャッシュ・フローあるいはその市場価格を算定又は入手することは、必ずしも求められていません(四半期指針92項)。
ただし、四半期において資産グループに関連する営業損益、営業キャッシュ・フロー又はその市場価格が利用可能な場合には、当該情報に基づき減損の兆候を検討する必要があると考えられます。例えば、四半期で資産グループに関連する営業損益等の管理資料を作成している会社では、当該資料に基づく減損の兆候の検討を行うことになると考えられます。また、減損の兆候を把握するための市場価格として一定の指標を使用している場合で、期中に当該指標の改定が行われる場合は、指標が改定された四半期において市場価格に基づく減損の兆候の検討を行うことになると考えられます。

2. 減損損失の認識の判定、減損損失の測定

固定資産の減損は、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であって、当該状態が相当程度確実になった場合に回収可能性を反映させるように帳簿価額の減額(減損処理)が行われるものであり、資産の収益性が低下するタイミングは年度末に限定されません。減損の兆候が把握された時点で減損損失の認識の判定、減損損失の測定を行う必要があるため、そのタイミングにかかわらず同一の会計処理を適用することになります。
また、減損の兆候の検討については、通常の企業活動において実務的に利用可能な情報に基づき行うことが想定されているため四半期指針で別段の定めが設けられていますが、減損損失の認識の判定、減損損失の測定については別段の定めは設けられていません。
このため、四半期における減損損失の認識の判定、減損損失の測定については、年度と同一の会計処理を適用する必要があります(<表1>参照)。


表1 四半期における取扱い

Ⅲ 四半期に減損した資産に係る年度の取扱い


1. 期中に計上された減損損失の年度における戻入れ

減損損失の戻入れについては、減損損失の計上が資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態が相当程度に確実な場合に限って行われるものであることや、事務処理の負担を考慮して、行わないこととされています。また、「Ⅱ 四半期と年度の取扱いの違い」の通り、減損損失の認識の判定及び減損損失の測定は年度と同一の会計処理であることから、四半期において計上された減損損失についても、年度に戻し入れる処理は認められません。
期中に減損処理した資産を同一年度内に処分した場合についても、同様に考える必要があります。例えば、第1四半期において減損した資産を第4四半期に売却した場合に、減損損失の金額と合算して売却損益とする処理は、減損損失の戻入れを行っていることと同様の会計処理となるため認められません。第1四半期の減損損失計上後は、減損後の耐用年数及び帳簿価額に基づき減価償却が行われており、減損損失及び減価償却後の帳簿価額に基づき売却損益が算定されることになります。

2. 期中に減損した資産に係る年度末の減損の兆候

期中に減損した資産グループについても、年度で改めて減損の兆候を検討する必要がありますが、その検討に当たっては留意が必要です。例えば、第2四半期において、継続的な営業損失の計上によって減損の兆候を把握して減損損失が計上された資産グループに関して、年度末において引き続き継続的な営業損失が計上されている場合に、年度末においても当該要因による減損の兆候を認識すべきかどうかは実態に基づく検討が必要になります。
この場合、継続的な営業損失の計上という減損の兆候に関しては第2四半期において減損損失が計上されているため、当該兆候の他に新たな減損の兆候が生じていない場合は、年度末において改めて減損損失を計上する必要はないと考えられます。ただし、第2四半期における計画を超える営業損失が年度で計上されている場合や、例えば、従来認識されていた商品とは異なる商品の販売不振など、新たな事象を原因とした営業損失が計上されている場合は、資産の収益性の低下が新たに生じていることが考えられるため、減損の兆候に該当するかどうかを検討する必要があります。
前記の考え方は、翌年度において継続的に営業損失が計上されている場合も同様と考えられますが、減損処理時点から時間が経過し、営業損益に影響を及ぼす新たな事象が生じていることが考えられるため、新たな減損の兆候の有無についてより慎重に検討する必要があります。


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