情報センサー

RPA導入時における規程整備について


情報センサー2018年2月号 EY Advisory


EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株)
公認会計士 佐藤 和子・津川 裕也・CISA, PMP 李 愷

官公庁や事業会社向けにSRA(Sourcing Risk Advisory)チームにて、経理・人事・購買などの業務プロセスの外部委託(BPO)、情報システム管理の外部委託(ITO)並びにシェアード・サービス・センター(SSC)の戦略立案、設計、立ち上げからデリバリー以降の各種管理(契約管理、プロセス管理、支払管理)までのEnd to endでの支援に従事。


Ⅰ はじめに


昨今の少子高齢化を背景とし、多くの企業が業務効率化、品質強化を目的としたRobotic Process Automation(RPA)の導入の検討を進めています。RPAに業務を代替させるに当たっては、内部統制の観点から、RPAの役割や業務範囲を定義した上で、社内規程類の整備が必要不可欠です。本稿では、RPAの導入と規程類の整備プロセスの関連について解説します。

Ⅱ RPA導入のアプローチ


RPA導入のアプローチは、<図1>のようになります。導入に当たっては、RPAの実装だけでなく、社内環境整備も並行して実施する必要があります。


図1 RPA導入アプローチ

Ⅲ 規程整備のプロセス


RPAの導入によって必要となる規程整備のプロセスは<図2>のとおりです。各タスクにおける要諦を記載します。


図2 規程整備プロセス

1. 関連規程の特定

まず、RPAを導入することにより影響を受ける規程を特定します。通常、対象となる規程は職務分掌や職務権限に関する規程です。ただし、全社の職務権限などを定めた規程以外に、例えば特定の業務、組織、取引のみを対象とした権限ルールが運用されている場合があります。このため、関連規程の特定に当たっては、規程管理部門が統括する規程だけでなく、会社全体のルールを検討対象にすることが重要です。その際、規程だけでなく、規程の下位概念である細則、通達なども含めて洗い出します。

2. インパクト分析(規程の詳細レビュー)

関連する規程や細則、通達などの特定が完了したら、RPA導入による影響の有無について、条文の内容を一つずつ確認します。確認する際の視点としては次のようなものが挙げられます。交通費精算業務を想定し、具体例を括弧内に記載します。


  • 作業を実施する主体が明記されているか(例:金銭の支払は出納責任者が行う)

  • 作業内容は単なる行為のみであるか、承認行為まで含まれるか(例:RPA導入の対象は、支払旅費に関する金額やルート、日当などの確認業務のみか、確認した結果、支払を行うというような承認行為まで含まれるか)

通常、「承認行為」には、「取引の許可(交通費精算の場合は支払行為の許可)」と「取引内容の確認」の二つの行為が含まれますが、RPA導入によりその行為の一部が移管もしくは代行される場合、その実施権限を定める規程に影響を与える可能性があるため、これらも検討対象に含めます。

3. 規程改訂

条文の改訂が必要となった場合には、規程の改訂案を作成し、関連部署との調整を行った上で、定められた手続に則り、規程の改訂を行います。規程または条文の新設が必要となる場合にも、同様の作業を行います。
なお、多くの場合、規程の改訂には取締役会などの承認が必要です。このため、RPAを導入する範囲が変更される都度、規程を改訂する必要が生じると、導入の機動性を阻害することが考えられます。従って、RPAを導入する範囲が変更・拡大することが想定される場合や、改訂する規程や条文の数が多い場合には、権限が定められた個々の規程の上位に包括規程を設ける方法や、変更が生じ得る個々の権限については、規程の下位概念である通達などにまとめて記載する方法も考えられます。

4. モニタリング

RPA導入後、実際の業務を行うに当たり、改訂した規程で何か支障が生じていないかを確認します。内部監査においては、実際の業務が規程・通達などのルールに従って実施されているか否かを検証します。

Ⅳ 内部統制に関する留意点


手作業をロボットが代替するというRPAの導入は、内部統制にも大きな影響を与えます。今回のテーマである規程整備をはじめ、財務報告に係るプロセスにRPAを導入する場合には、ITに係る統制(全般統制および業務処理統制)にも影響を与える可能性があります。また、リスクマネジメントの一環として、BCP(事業継続計画)やセキュリティの分野にも影響を及ぼします。これらを再整備して運用する際には、システム部門だけでなく、さまざまな関連部門との連携が重要となります。
なお、RPA導入の際には、ロボットを運用管理する責任部署の検討も重要です。RPAは24時間365日の稼働が可能といわれますが、そのためには運用管理が必須であり、どの部署がその責任を負うかという決定は重要です。現場任せで属人化が進み、異動などに伴うノウハウの移転が不十分な場合には、RPAにより自動化した業務が手作業に戻ってしまうということにもなりかねません。

Ⅴ おわりに


EYでは、社内でのRPAの導入やクライアント企業へのご支援を通じて蓄積したRPAの実績に加えて、これまで培った業務改善、内部統制に関するノウハウを活用し、業務変革を支援いたします。


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    2018年2月号
     

    ※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。