EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
第2事業部 公認会計士 野村 奈穂
2015年から17年6月まで品質管理本部 会計監理部に所属し、会計処理および開示に関する相談を受ける業務等に従事。現在は監査事業部に所属し、主にメディア・エンターテイメント産業等の監査業務に従事している。主な著書(共著)に『こんなときどうする?減損会計の実務詳解Q&A』(中央経済社)がある。
第8回の本稿では、減損会計の開示上の実務論点を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
重要な減損損失を計上した場合、減損損失に係る注記が求められますが、注記事項の網羅性(十分性を含む)と明瞭性(分かりやすさ)に留意が必要です。過去の金融庁による有価証券報告書レビューにおいても、網羅性や明瞭性が欠ける事例がある旨の指摘がなされています。例えば、減損損失を認識した資産の内容(用途、種類、場所など)の記載が不十分、回収可能価額の算定方法の記載が不十分で減損損失の金額の根拠が読み取れない、といった指摘があります。
大型の事業整理や事業構造改革を行う場合、固定資産の収益性が低下している事実があることが多いと考えられますが、事業整理損失や事業構造改革費用といった抽象的な科目名で特別損失に表示し、当該損失の中に重要な固定資産の減損損失が含まれている場合には、たとえ減損損失という科目名で特別損失に表示していなくとも、減損損失に係る注記が必要と考えられます。
過去の金融庁による有価証券報告書レビューにおいても同様の指摘がなされており、注記の要否は損失の実質的な内容に応じて判断する必要がある点が触れられているため、留意が必要です。
3. 連結子会社株式・関連会社株式の減損に伴うのれんの一時償却を実施した場合で、その内容が実質的に減損である場合
親会社(投資会社)の個別財務諸表上で、連結子会社株式または持分法適用関連会社株式の減損処理を行った結果、連結財務諸表上の子会社または関連会社(以下、子会社等)に係る投資簿価※1が減損処理後の個別財務諸表上の株式の帳簿価額を超過することとなった場合、当該超過額のうち、のれん未償却残高に達するまでの金額について、連結上ののれんを一時償却しなければならないこととされています(連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針32項および持分法会計に関する実務指針9項なお書き(以下、資本連結実務指針32項等))。
資本連結実務指針32項等の定めは、減損会計基準の枠外の定めであるものの、過去の金融庁による有価証券報告書レビューにおいて、実質的に当該のれんの一時償却の内容が減損と同様であれば、のれんの減損損失を計上した場合と同様の注記が必要であると判断されることがある旨の指摘があり、留意が必要です。
子会社株式等に時価がある場合、子会社等の超過収益力とは無関係に株価が下落することも考えられ、子会社株式等の減損が行われたとしても、依然として子会社等の超過収益力は毀損(きそん)していない場合も考えられます。このように、資本連結実務指針32項等の定めは減損会計基準の考え方と必ずしも整合していないケースがあるとして、資本連結実務指針32項等の削除提案がなされたことから、2016年7月に企業会計基準委員会の新規テーマとして取り上げられました。その後、17年10月に企業結合専門委員会において審議が開始されているため、今後の動向にも留意が必要です。
一つの資産グループであるA事業(事業環境は良好)で使用する固定資産X(主要な資産ではない)について売却の意思決定をし、売却損の発生が見込まれる状況で、売却意思決定と同一四半期内に固定資産Xを引き渡す場合、損益計算書上、減損損失と固定資産売却損のいずれで表示するか論点になることが考えられます。
売却意思決定により固定資産Xは独立のグルーピングの単位として取り扱うことになりますが、当初の予定より早期に売却するという減損の兆候があり、かつ売却損が見込まれるため、減損損失の認識要件を満たし、原則として減損損失として計上することになると考えられます。ただし、臨時的理由により急きょ売却の意思決定を行い、かつ同一四半期内で引き渡すような場合で、収益性の低下を意味する減損損失として計上するよりも、固定資産売却損として計上する方が実態に即しているような場合には、実務上、固定資産売却損として計上することも考えられます。
売却の意思決定後も固定資産Xは資産グループAに属し、減損損失の認識は行われません。残存簿価相当(帳簿価額-売却見込額)は、耐用年数の短縮処理によって、売却時までの期間で減価償却費として費用配分することが原則と考えられます※2。ただし、臨時的理由により急きょ売却の意思決定を行い、かつ同一四半期内で引き渡すような場合で、売却取引の事実を重視して固定資産売却損として計上する方がより実態に即しているような場合には、実務上、固定資産売却損として計上することも考えられます。( <表1>参照)
※1 子会社等の資本の親会社(投資会社)持分額+のれん未償却残高
※2 固定資産売却損は計上されない。