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EYデジタルタックス:企業税務機能のデジタルトランスフォーメーションへの取り組み


情報センサー2017年12月号 Tax update


EY税理士法人 タックステクノロジー アンド トランスフォーメーション
カーンズ裕子

日系多国籍企業のオーストラリア事業に関わる税務アドバイザーとして20年以上の経験をもつ、オーストラリア勅許税務アドバイザー。2015年9月から東京で日本企業の本社主導のグローバル税務管理体制構築サポートに注力しており、税務プロセス効率化、税務ガバナンスソリューションの提供などに従事する。EY Digital Taxの日本エリアリーダー。EY税理士法人 エグゼクティブディレクター。

Ⅰ  税務のデジタルトランスフォーメーション

近年の経済の急激なデジタル化によりビジネスモデルの変革や産業融合が日々進行し、業界を問わず全ての企業がデジタル時代を勝ち抜くためのデジタルトランスフォーメーションのチャレンジに直面しているといえます。
このトランスフォーメーションの波は企業の税務機能にも大きな影響を及ぼしています。ビジネスモデルの変化は、税務上の取扱いの見直しを要します。シェアリングエコノミーなどの新しいビジネスモデルの台頭に対応するため、政府は新しい規制や課税制度を検討しています。税務当局は行政の効率化のためにデジタルテクノロジーを導入し、納税者データの高度なデータ分析やマッチングを行うようになり、多国籍企業は税務当局へグローバルグループの納税状況や、詳細な会計データの提出義務に対応しなければなりません。日本では、特に働き方改革による労働時間短縮と税務人材不足が、税務機能の課題として多くの企業で露見しています。デジタル経済におけるこのような環境の変化に効果的に対応できる企業税務機能へのトランスフォーメーションが迫られています。
 

Ⅱ   EYデジタルタックス

EYデジタルタックスは、企業の税務機能がこれらのデジタルトランスフォーメーションを実現するための戦略作りを支えるフレームワークです。デジタルテクノロジーによる企業の税効率、税務プロセス、税務ガバナンスへの影響を、①デジタル時代の効果的な税務②税務当局のデジタル化③税務(業務の効率化を図る)テクノロジー④税務ビッグデータという四つの分野に整理し、各分野における対応策を検討します(<図1>参照)。

図1 デジタルタックス

1. デジタル時代の効果的な税務

多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のズレにより発生する税基盤浸食と利益移転(BEPS)問題への対処として、経済協力開発機構(OECD)が立ち上げたBEPSプロジェクトの行動計画1は、「デジタル経済の課税上の課題への対処」でした。2015年に一度報告書は出ましたが、新しいテクノロジーの開発に伴いデジタル経済はまだ展開し続けているという理由から、行動計画1に関する提言は今後の公開協議を経て、18年の春に中間報告、20年に最終報告がなされる予定です。OECDの合意ポジションを待たずに国家税収を確保するために独自で税制改正を進める動きも、英国やオーストラリア(迂回利益課税制度(Diverted profits tax))、イスラエル(デジタル取引に関わる税制改正)、EU諸国(デジタル取引課税制度の検討)、各国におけるVAT改正など、数多くみられています。
企業の税務機能は、デジタル改革、インターネットによる瞬時のグローバル展開、各国におけるデジタル政策の見直し、産業融合など、相互に影響しあうデジタル経済の特性がもたらす税務リスクと税務プランニングの機会を、効果的に管理することが必要となります(<図2>参照)。

図1 デジタル時代の効果的な税務
図1 デジタル時代の効果的な税務を達成するための考慮点

2. 税務当局のデジタル化

多くの国において財政赤字がみられ、各国の税務当局は、行政の効率化と税収の増加を期待されています。日本においても、国税庁が「税務行政のスマート化」による納税者の利便性の向上、人工知能(AI)テクノロジーや高度統計分析の活用による税務調査やコンプライアンスの効率化などを、今後10年間に行っていくことを発表しています。しかし、国税庁のこの取り組みは、現在世界各国で行われている税務当局のデジタル化の進行度合いで比較すると、5段階のうちまだ初期的段階の位置付けです(<表1>参照)。

表1 税務当局のデジタル化の進行レベル

ロシア、メキシコ、チリ、ブラジルなどの国では、インボイスの電子化が義務付けられており、取引データがリアルタイムで税務当局に提出され、申告内容との相互確認が行われています(レベル4)。欧州ではOECDが提案する標準フォーマットによる会計データの税務当局への提出、SAF-T (Standard Audit File for Tax)制度の導入が進行しており(レベル3)、英国では、20年に向けての取り組みとして事業納税者に会計データの提出を義務付け、申告書作成・提出の必要性をなくしていくことが発表されています(レベル2からレベル4に移行中)。税務当局のデジタル化が最も進んでいる国の一つであるメキシコでは、税務調査の手続きもデジタル化され、納税者は税務当局のポータル上で受け取るデータ提出リクエストに短い期限内で対応しなければなりません(レベル4)。
このような制度に効果的に対応するためには、納税者側においても取引・会計データを税務上の観点から事前に自ら分析し、その整合性や税務会計の正確性について確認できる体制を構築する必要があります。実際に米国企業の多くは、メキシコにおける税務データ管理に多大な労力を費やしている状況です。このように、各国で税務当局への会計データの提出がさまざまな形で義務化される中、多国籍企業は、個別に現地対応を行うのではなく、グローバルグループとして標準化された対応プロセスを採用し、提出データのクオリティーの確保を図ることが理想的です。

図1 税務当局のデジタル化に対応するための考慮点

3. 税務テクノロジー

財務報告や管理会計プロセスと比べ、税務はテクノロジーにやや乗り遅れている傾向があります。企業の税務は、会計業務に付随した税務コンプライアンスをゴールとした業務の位置付けであることが多く、会計データと会計システム以外からの情報をパッチワーク的にエクセルなどのベーシックなテクノロジーで対応しているのが一般的な現状といえます。
デジタル経済におけるグローバル化により、今後はさらに高度なレベルでのデータ集計が要求され、前述の税務当局のデジタル化への対応も必要になります。また、テクノロジーイノベーションは加速度的に進展しており、税務業務に活用できるテクノロジーは従来に比べ手が届きやすくなってきています。働き方改革による業務時間の短縮や人材不足なども、喫緊の課題としてテクノロジーの活用に拍車をかけているといえます。
このような中で、企業の税務機能はテクノロジーを活用するために次の課題に取り組むことが必要と考えます。


(1)業務プロセスの標準化
ロボティックプロセスオートメーション(RPA)などのテクノロジーの採用には、これまでマニュアルで行ってきた業務プロセスの見直しと標準化が必要です。

(2)デジタルデータ化
システム化を進めるためには情報のデジタルデータ化が必要です。

(3)最新のテクノロジーを採用する積極的な取り組み
テクノロジー活用の効果が不明瞭である場合、プロセスの一部分など小規模ベースでその効果を検証し、ビジネスケースを構築するアプローチが有効です。

税務テクノロジー活用を進めるための考慮点

4. 税務ビッグデータ

税務当局のビッグデータ活用による税務調査や、税務当局への取引データの提出義務は、今後各国での導入が予想されます。税務当局のデータ請求や分析にタイムリーに対応するためには、企業側も税務データを効率的に管理する体制作りが必要です。散在している税務関連のデジタルデータを1カ所の税務データベース「Tax Data Warehouse(倉庫)」に集約することは、税務のデータ管理と活用を可能とするアイデアの一つです。Tax Data Warehouseには既存のデータベースやERPシステムを活用し、集約されたデータを電子申告、移転価格分析、税務リスク分析などに活用します(<図3>参照)。詳細なリアルタイムの税務データ分析が容易となり、経営意思決定に役立つ税務インサイトの提供を可能とします。

図3 Tax Data Warehouseを活用した財務データフロー

税務ビッグデータ活用を進めるための考慮点

Ⅲ おわりに

EYデジタルタックスは、企業の税務機能が経済、法規制、そして税務当局のデジタル変革に乗り遅れないよう税務デジタル戦略の策定をご支援します。詳細はEY税理士法人ウェブサイト※をご参照ください。

ey.com/ja_jp/tax


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2017年12月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。