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新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響 第5回 自動車産業


情報センサー2017年10月号 業種別シリーズ


自動車セクター 公認会計士 河原寛弥

2006年4月、当法人に入所。日本基準や米国会計基準、IFRSを適用する企業に対する監査業務のほか、自動車産業に関連する企業に対する内部統制評価支援業務、IFRS導入支援業務に従事。法人内の自動車セクターナレッジに所属し、研修講師などに携わる。



Ⅰ  はじめに

会計情報レポートに記載の通り、2017年7月、企業会計基準委員会(ASBJ)は、収益認識に関する会計基準案及び適用指針案を公表しました。
本稿では、本公開草案がそのまま最終基準化された場合に、自動車産業において一般的に影響があると考えられる論点について、自動車部品メーカー(部品)、完成車メーカー(完成車)、完成車販売会社(販社)に区分して解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。
 

Ⅱ   自動車産業における収益認識の論点

1. 収益認識時点-履行義務の充足時点(会計基準案第32~42項、適用指針案第9~16項)

現行のわが国の収益認識に係る実務では、売上高は「商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とする企業会計原則の規定(いわゆる実現主義)の枠内において、出荷基準、指定地引渡基準、検収基準などの考え方に基づいて収益が認識されています。一方、本公開草案では「約束した財又はサービスを顧客に移転する(つまり、顧客が資産に対する支配を獲得する)ことによって企業が履行義務を充足した時」に収益を認識するものとされています。そのため、現在の収益認識時点が本公開草案の要求事項を満たしているか、契約の実態に基づき判断する必要があります。例えば、出荷基準により売上を認識する製品の販売取引について、製品出荷時に製品に対する支配が顧客に移転しているかを検討する必要があります。


収益認識時点-履行義務の充足時点

2. 複数の要素を含む取引-履行義務の識別及び取引価格の配分(会計基準第29~31項及び第62~70項、適用指針案第4~7項及び第31項)

本公開草案は、顧客との契約の中に性質の異なる複数の取引(別の財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束)が存在する場合に、取引開始日においてそれぞれの取引ごとに適切な収益認識時点を決定することを求めています。例えば、販売会社が一定期間の無償メンテナンスサービスを付加して車両を販売する取引について、メンテナンスサービスが顧客に対して車両の販売とは独立した追加的なサービスの提供であると判断される場合、車両の販売とメンテナンスサービスの提供という二つの取引に区分して会計処理を行う必要があります。この場合、車両の販売については特定の一時点で収益を認識し、メンテナンスサービスはサービスを提供する一定期間において収益を認識することが考えられます。
なお、これらを別個の取引に区分して会計処理を行う場合、それぞれの取引に対応する取引価格を決定する必要があります。取引価格の決定に当たっては、それぞれの取引に対する独立販売価格(財又はサービスを個別に販売する場合の価格※)の比率に基づき、取引価格を配分することになります。
この点について、検討が必要と想定される主な取引は、下表のとおりです。


複数の要素を含む取引-履行義務の識別及び取引価格の配分

3. 変動対価-取引価格の算定(会計基準案第44~52項、適用指針案第23~26項)

本公開草案では、取引価格は「財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額」であり、「第三者のために回収する額を除く」とされています。そして、顧客と約束した対価に変動性がある場合は、「解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り」、取引価格に含めることになります。例えば、将来においてリベートやインセンティブの支払いが見込まれる場合、認識した収益の重大な戻入れが生じる可能性を評価し、現時点で収益の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い金額を見積もる必要があります。
この点について、検討が必要と想定される主な取引は、下表のとおりです。


変動対価-取引価格の算定

4. 買戻契約(適用指針案第8項、第69~74項)

買戻契約とは、「企業が製品を販売するとともに、同一の契約又は別の契約のいずれかにより、当該製品を買い戻すことを約束するあるいは買い戻すオプションを有する契約」をいい、一般的に「企業が製品を買い戻す義務(先渡取引)あるいは企業が製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有する取引」、又は、「企業が顧客の要求により製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有する取引」の形態があります(適用指針案第138項)。本公開草案では、これらの買戻契約について、下表の指針に従って、①返品権付きの販売②金融取引③リースのいずれかの方法で会計処理することが検討されています。


買戻契約

この点について、検討が必要と想定される主な取引は、下表のとおりです。


買戻契約2
設例(運用指針案設例32)

※独立販売価格を直接観察できない場合は、観察可能な(客観的な)インプットを最大限利用して合理的に見積もる。なお、類似の状況においては、見積方法を首尾一貫して適用する必要がある。


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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。