EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
IFRSデスク 公認会計士 倉橋義典
当法人入所後、主に自動車メーカーの会計監査及び内部統制監査に従事。2016年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務などに従事している。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)がある。
国際会計基準審議会(以下、IASB)は2016年11月に、17年から21年までの作業計画を公表しました。IASBは、3年に一度(次回からは5年に一度)、今後の作業計画について公開協議を行うアジェンダ協議を実施しており、今回公表された作業計画には15年のアジェンダ協議でさまざまな利害関係者から受け取ったフィードバックが反映されています。当該作業計画においてIASBは、17年からの今後の5年間で、進行中のプロジェクトである保険契約や概念フレームワークといったプロジェクトの完成、財務報告におけるコミュニケーションの改善、IFRS適用支援の継続的な開発及び焦点をより絞ったリサーチ・プログラムを進めていくことを公表しています。そこで、本稿では、当該作業計画の主要なテーマを中心に、IASBが今後予定している基準開発の動向について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
IASBは16年までに、金融商品や収益認識、リースといった主要なプロジェクトを完了させました。現在、完了していないプロジェクトである保険契約、概念フレームワーク、重要性、料金規制事業を今後の作業計画に含めており、特に保険契約については、非常に高い優先順位を与えています。なお、17年2月27日時点の基準開発に関する作業計画は<表1>の通りであり、最新の作業計画はIASBのウェブサイトにて毎月更新されています。
15年のアジェンダ協議に関するフィードバックにおいて、財務諸表の主要な利用者である投資家は、優先すべき基準開発プロジェクトを再検討し、財務報告の目的適合性を高める、もしくは既存の情報についてのコミュニケーションを改善する可能性のあるトピックに焦点を当てるよう要望しました。これは多くの投資家が、現在の開示の下では、価値のある情報が多くの情報の中に埋もれており、有用な情報を識別することが困難で時間を要すると考えているためです。これを受けてIASBは、今後数年間、認識及び測定に関する基準の変更よりも、前記Ⅱ1.にも記載されている重要性に関するプラクティス・ステートメントの公表など、表示及び開示の改善によって財務報告におけるコミュニケーションの改善をもたらすプロジェクトに焦点を当てることを決定しました。
IASBは、近年に公表された五つの主要なプロジェクト(金融商品、収益認識、リース、保険契約、概念フレームワーク)に関する新基準の適用について首尾一貫性を高めるために、新基準の導入を支援するための活動に焦点を当てるべきとして、以前から行ってきた新基準に関する移行リソース・グループへのリソースの投入、教育マテリアルの開発などの活動を継続し、今後開発される新基準についても適用支援のための活動を行うこととしました。また、新基準の開発後に実務でどのような問題が生じているか、主に関係者(投資家、財務諸表作成者、監査人等)からフィードバックを得る適用後レビューについても、IASBが基準の適用上の問題点を知り、さらに検討すべきトピックの識別に役立てるために有用なツールとして、今後も継続して利用していく予定です。
リサーチ・プログラムは、プロジェクトを基準開発プログラムに追加すべきかどうかを決定するために必要な情報を収集するための枠組みであり、11年のアジェンダ協議の後に導入されました。15年のアジェンダ協議においてもその必要性は確認されていましたが、プロジェクトの数が多すぎることによりリソースが不足し、プロジェクトが適時に進んでいないとの意見も出ています。これを受けてIASBは、存在するリサーチ・プロジェクトのうち、一部を中止、一部をリサーチ・パイプライン(直ちに作業を開始しないが、いずれリサーチ・プロジェクトに追加される予定のもの)に移すことで、残ったプロジェクト8件を優先事項として積極的に開発することとしました(プロジェクトの一覧は<表2>参照)。なお、リサーチ・プロジェクトの作業計画についても、基準開発プロジェクトと同様に、IASBのウェブサイトにて毎月更新されています。
当該作業計画によりIASBは、会計処理に関する基準開発から表示及び開示に関する基準開発を中心とした財務諸表作成者と投資家のコミュニケーションの改善に、リソース配分の比重を移していることが読み取れます。この背景として、主要な基準開発プロジェクトが完了に近づいており、概念フレームワークに基づく首尾一貫した会計処理の構築が一段落したことが関係していると考えられます。この傾向は、前記Ⅱ2.において、表示及び開示の改善を優先することを決定した点に顕著に表われており、同様の考え方が、優先的に開発すべきリサーチ・プロジェクトの選択においても反映されています。投資家は、重要な情報を適時に識別できる過不足の無い開示を求めており、IASBは、現在の過剰な開示を改善する観点も含めて、このような利用者の情報のニーズを満たすことが、財務報告の目的を達成する上で重要と考えています。従って、今後の5年間においては、従来よりも表示及び開示に関連した基準の開発の比重が高まっていくことが予想されます。