Sales DX総点検 ~いまこそ、顧客接点を再構築する~ 第3回:Sales DX総点検--データドリブン型営業マネジメントのススメ

寄稿記事

掲載誌:2022年10月13日、ZDNET Japan
執筆者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング アソシエイトパートナー 青木 健泰

データドリブン経営、データドリブンマーケティング――。ビジネスの中で「データドリブン」という言葉も市民権を得てきたと感じます。この波はバリューチェーン全体に広がっており、その背景にはデジタル化が進み、顧客の行動もデジタルを前提としたものに変容し、それに対応する企業も社内プロセスや顧客接点においてデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めてきたことがあります。

本稿では、バリューチェーン全体に広がる「データドリブン」の概念・考え方を営業と営業マネジメントの現場に取り入れる方法、その変革を進めるために必要なステップを解説します。

1. データドリブンの考え方


ビジネスで語られる「データドリブン」には、大きく分けて3つの目的が存在します。

(1) KGI/KPIの設計とモニタリング

目標数値に対して先行評価指標を定め、この評価指標をしっかりモニタリングすることで目標数値の達成確率を上げるよう管理する考え方です。簡単に言えば、データを用いた重要目標達成指標/重要業績評価指標(KGI/KPI)の管理です。

(2) ロールモデル探索&最適解モデリング

目的変数の結果に影響を与える要因(説明変数)を見つけ、目的変数の向上・改善につながるモデル(主に数式の形)を構築し、それを全体に横展開する考え方です。これも簡単に言えば、データの傾向から勝ち筋を見つける、といったデータの活用方法の一つです。

(3) 適切な参考データの提示による行動変容

上記2つの考え方を用いて、プロセスや結果を管理する側が管理される側への関与を最小限にとどめ、可視化されたデータを用いることで管理される側が限りなく自主的に適切な行動を取るように促す、という考え方です。これは例えば、データを可視化・提示するなど、人の成果を上げる情報を提示する成果向上支援機能、つまりエージェント機能を指します。

2. データドリブン型営業マネジメントへの応用


前章で示した3つのデータドリブンの考え方を、営業と営業マネジメントの現場に取り入れると次のようになります。

(1) 営業KGI/KPIの設定とモニタリング

一般的にはKGIを売り上げとし、受注件数×平均顧客単価・・・といった要因分解を行い、ドライバーとなるKPIを特定してモニタリングすることです。ここで重要なのは、KGIにひも付く下位の指標全てを追うのではなく、あくまでもKGIを向上させるのに効く“ドライバー”となる指標を選択することです。

(2) 営業活動ロールモデルの横展開

例えば、新規受注獲得件数が多い営業担当者がいたとします。この担当者の行動データを分析してみると、見込顧客の商談回数は少ないものの受注率が突出して高いことが分かりました。どうやら彼の提案書と提案トークに秘密がありそうです。彼の提案書や提案トークをベストプラクティスとしてテンプレート化し、営業組織全体に共有する――。このようにデータを基に特定した最適解をロールモデルとし、それを営業現場で広く活用する、といった形になります。

(3) 営業エージェント機能の導入

最後は主に営業支援(SFA)ツールと周辺機能の拡張です。営業担当者が営業活動を行う際、あたかも有能な秘書が事前の情報収集や行動計画、さらには営業資料の作成に向けて下準備となる情報を提示することで、その提案精度が上がり、結果として「KGIが高まる」といった営業エージェント機能を具備することを指します。例えば、KPI達成状況のダッシュボード、顧客業界のニュース情報のキュレーション、類似するベストプラクティス提案資料の提示といった機能であり、営業活動を高度化・効率化するデータ活用の応用方法です。

3. データドリブン型営業マネジメントの現実


前述したデータドリブン型営業の取り組み施策は一見、十分に実現可能なのですが、実際には収集・利用するデータの観点において高いハードルが存在し、結果としてデータドリブン型営業マネジメントへの変革を進める現場において、次のような状態に陥っているケースが多いです。

状態1:営業マネジメントの観点から使えるデータが少ない/存在しない状態

営業支援/顧客関係管理(SFA/CRM)ツールを導入した企業の一定数が、この悩みに直面していると考えられます。分析に必要な項目に現場での記入がない、適当に入力されている、そもそも分析に必要な項目が存在しない、といったケースです。

こうした企業はデータの活用以前に、DX自体がうまくいっていない場合が多いと感じます。データ活用を積極的に進めていこうにも活用に値するデータが存在せず、実際のデータ活用につなげられない――。この問題が起きる背景には、せっかく推し進めたSales DXが営業現場目線になっておらず、営業管理目線で「見たい、知りたい、やらせてみたい」といった現場押しつけ型のSales DXとなっていることが考えられます(図1)。

状態2:営業マネジメントの高度化に向けて、データ活用の次なる一手が見えない状態

一方、SFA/CRMツールを導入した企業の中にも、これらをしっかりと営業現場で浸透させ、日々の営業活動の中で機能を有効に活用できている企業も多く存在します。“使えるデータ”、分析・活用に必要な項目種やデータ量も十分ある。そして、営業ダッシュボードを活用した営業管理やベストプラクティスの共有による営業高度化施策なども行っており、一定の成果を得られている――。データに基づく営業マネジメントが行えている理想的な状態です。

しかし、「このデータを用いてさらなる成果を上げるためにもう一歩踏み込んだ活用をしたいが、何にどう生かせるのか」「さらなる深い分析を行う上で、どのようなデータを見に行けばよいのか」について次なる一手が見えない、という状態に陥っているシーンにも遭遇します。

原因はSFA/CRMツールの特性によるところが多いです。営業と営業マネジメントに有効なSFA/CRMツールは、あくまでも顧客管理・営業活動(商談)管理であり、ここにたまっているデータのほとんどが「いつ訪問したか」「誰とコンタクトしたか」「何を提案したか」「結果どうであったか」といった営業活動“結果”の情報です。そのため、結果に対する因果関係は不明確なままとなります。では、上記2つの状態はどのように解決すればよいのでしょうか。

4. データドリブン型営業マネジメントの高度化に向けたヒント


活用ケース1

中規模企業向けソフトウェア会社Aは国内での事業成長が続く中、全国区をカバーするため営業担当者を増員するも、現場のマネージャーの育成・配置が追い付かず、営業の品質にばらつきが発生。営業品質の向上に向けたトレーニングやマニュアルを配布するも、品質改善は思わしくなく、マネージャーの負荷が高まり、管理職層の退職が続いていました。

そこで、同席できなくても商談の状況を可視化できるよう、提案現場での顧客と営業担当者の会話を記録する営業支援タブレット/アプリを導入。蓄積された会話の履歴を活用し、担当営業の商談の癖など、データでの可視化を試みました。この分析結果に商談回数や成約状況、売上分析データを組み合わせることで、商談がうまくいったケースとそうでないケースを比較しながらファクトベースで改善点、うまく進められた要因を共有し、マネージャーが商談の場に臨席・同席している状況と同じようにアドバイスすることが可能となりました。結果として、担当者の商談化率向上、商談期間の短縮が実現しました(図2)。

図2:活用ケース1

活用ケース2

新規売り上げが伸び悩む飲料メーカーB社はエリア内飲食店向けのルートセールス部隊の強化を図っていました。現場を見ていると営業担当者は「行きやすい顧客」「会話しやすい顧客」への訪問に偏る傾向があり、活動量と受注成績が相関していない現状が見えてきました。そのため、解約顧客と休眠顧客の掘り起こしが必ずしも十分にできておらず、営業活動方針の見直しが求められていたそうです。

しかし、エリアマネージャーから方針を伝えるだけでは行動は変化せず、壁にぶつかっていました。そこで、契約や商談、カレンダーの情報などを組み合わせ、解約/休眠顧客を自動的にポータルサイトに表示することで、「訪問先の候補」や「立ち寄り先候補」を推奨提案する機能を搭載。またSFAと連動させ、商談効率や成約率をダッシュボードで可視化することで、営業担当者の行動意欲に直接働きかけました。

移動時間の合間に見られるアプリを追加することで、営業担当者は自身が行くべき訪問先をポータルで把握できるほか、ゲーム感覚で日々の訪問活動に取り組むことが可能となり、商談化率(パイプラインの創出)と営業活動量が飛躍的に改善。足が向かない顧客については訪問計画に入れないケースが多いため、近くへ行く際にアプリが「ついで訪問」を提案したことが功を奏しました(図3)。

図3:活用ケース2

2つのケースはいずれも、営業担当者が日々現場で取っている行動のデータを分析し、各結果を引き起こす要因を特定・活用した事例です。このような日々の現場での行動データ、つまりWork Logを用いることが営業現場の高度化に有効であることはイメージいただけたかと思います。言い換えれば、Work Logを分析することは、マネジメントサイドが営業担当を行動レベルで見守ってあげることです。今まで、知りたくても知れなかった営業現場の困りごとや成功要因を知ることは、現場の満足度向上にもつながると考えられます。

最後に

ここで提案した「営業現場に目を向けたSales DX」とは営業担当者の従業員体験(EX)向上そのものだといえます。そしてEXの向上は結果として顧客体験(CX)の向上に直結し、ひいてはビジネスの成長をもたらします。営業機能全体を「成果」「商談結果」「要因」という3階層で捉え、これらを俯瞰(ふかん)しながら成果につながる営業現場活動を特定して支援することが、高度なデータドリブン型の営業マネジメントの目指す姿ではないでしょうか(図4)。

図4:三階層モデル