EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2022年10月10日、経済協力開発機構(OECD)は、本年3月に公表した公開諮問文書(Public Consultation Document)に対する意見募集を経て、自動的情報交換に係る暗号資産報告枠組み(Crypto-Asset Reporting Framework、以下「CARF」)および改正共通報告基準(Amendments to the Common Reporting Standard、以下「改正CRS」)を公表しました。
CARFおよび改正CRSは、本邦国内法制化の基礎となるルールおよびコメンタリーから構成されていますが、実施に必要な事項(報告スキーマや導入タイムライン等)は今後公表される予定とされており、国内法制化の動きと併せて留意が必要です。
公開諮問文書からのCARFおよび改正CRSに関する主な変更点および実務対応上想定される影響ならびに暗号資産に関するFATCAを含む米国の動向は、以下のとおりです。
(2022年3月公表の公開諮問文書については、こちらからご覧ください。)
暗号資産(Crypto-Asset)の定義に変更はないものの、報告対象となる特定暗号資産(Relevant Crypto-Asset)は、暗号資産から以下のものを除いたものとされることになりました。
① 中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency)
② 特定電子マネー商品(Specified Electronic Money Product)
③ 報告暗号資産サービスプロバイダー(Reporting Crypto-Asset Service Provider)が決済または投資目的として使用できないと適切に判断した暗号資産
したがって、暗号資産に該当するNFT等については、その決済・投資目的性の有無により、報告対象となるか否かが判断されるものと考えられます。
報告暗号資産サービスプロバイダーの定義について変更はなく、対象となる事業者の範囲は公開諮問文書と同様です。なお、報告暗号資産サービスプロバイダーが複数の国・地域において報告ネクサスを有する場合について、それらの複数の国・地域での報告義務の重複を避けるためのルールも公開諮問文書と同様に手当てされています。
なお、報告暗号資産サービスプロバイダーに該当する事業者は、以下、「3. 報告要件」に従った報告および「4. デューデリジェンス手続」を実施することが求められます。
公開諮問文書からの大きな変更点としては、ウォレットアドレスが報告要件ではなくなり、その代わりに、例えば、個人が自ら管理するコールドウォレットなどを使用して外部ウォレットアドレスへ特定暗号資産を移転した場合には、当該移転に係る公正市場価値の総額および取引数量の報告が求められることとなりました。
また、公開諮問文書においては4種類の報告対象取引(Relevant Transaction)が提案されていましたが、報告可能な決済取引(Reportable Retail Payment Transaction)を特定暗号資産の移転に含めることにより、以下3種類の報告対象取引に関する報告が求められることとなりました。
① 特定暗号資産と法定通貨との交換
② 特定暗号資産同士の交換
③ 特定暗号資産の移転(報告可能な決済取引を含む)
なお、特定暗号資産の種類ごとに報告が求められ、報告対象取引の種類に応じて報告内容が異なり、また、交換される法定通貨の金額、特定暗号資産の取得や処分の際の公正市場価値などにより評価額が決定される点については、公開諮問文書の内容と同様です。
公開諮問文書からの大きな変更点として、自己宣誓書類に関する以下の事項が削除されました。
・報告暗号資産サービスプロバイダーが有効な自己宣誓書類を取得できなかった場合の顧客との取引謝絶義務
・自己宣誓書類の内容の真正性の最低3年ごとの確認
また、「3. 報告要件」に記載のとおり、ウォレットアドレスは報告要件ではなくなりましたが、新たに報告要件として追加された、コールドウォレットなどを使用した外部ウォレットアドレスへの特定暗号資産の移転については、当該外部ウォレットアドレスを、報告暗号資産サービスプロバイダーにおいて5年以上記録・保持することが求められています。
公開諮問文書において提示されていた、実質的支配者が果たす役割や既存口座または新規口座の区別などの報告要件への追加については、変更ありません。
その他、実務に影響があると考えられる変更点としては、現行のCRSの下で対応が求められている、既存口座に係る納税者番号および生年月日の取得努力義務について、国内法上のAML/KYC手続に従い当該既存口座に係る情報の更新が要求される都度、その取得努力義務を果たすことが追加で求められることとなりました。
また、特定電子マネー商品について、当該商品に該当するための要件を充足した場合であっても、以下のものについては、CRSの対象外とされています。
・顧客の指示に従い、当該顧客からその他の者への資金の移転を促進することを唯一の目的として組成された商品
・暦年またはその他の適切な報告期間中のいずれの日においても、90日間移動平均の末日時点口座残高または価値が1万ドルを超えないもの
OECDは米国のCARFへの参加は極めて重要であると考えており、さらに、今月はじめに米国財務省からも、暗号資産市場が急速に拡大していることから、新しい法令や現行法令の適用強化、さらに監督強化を行うべきであるとの問題意識が表明されています。しかしながら、現時点において米国財務省およびIRSからCARFへの参加について明言は行われておらず、今後の米国当局の動向にも注視が必要です。
また、米国では、米国人が米国外に保有する金融口座情報の報告を求めるFATCAが導入され、本邦金融機関を含む米国外の金融機関に対して、2014年7月より適用されています。本制度においては、伝統的な金融資産を取扱う金融機関を対象としており、貸付け等の信用の供与や外国為替などの銀行類似業務を提供していない限り、暗号資産交換業等の事業者はFATCA上の金融機関に該当しないと一般的に考えられています。
さらに、米国税法上、暗号資産の売却や交換、さらにマイニングやステーキング等からの所得に対して課税を行うこととしている一方、FATCAにおいて、暗号資産を金融資産の定義に含めるか否かについては明らかにされていない状況です。
今後の流れとしては、G20での採択後、今回公表されたルールおよびコメンタリー等に基づき、日本を含む各国において、国内法制化が進められることになります。
また、冒頭に記載しましたとおり、各制度の実施に必要な事項(報告スキーマや導入タイムライン等)は今後公表される予定とされており、国内法制に規定される内容の他、今後OECDから五月雨式に公表される各種文書にもご留意の上、実務への影響について具体的な検討を行う必要があるものと思われます。
古川 武宏 パートナー
吉川 俊幸 アソシエートパートナー
竹内 徹 マネージャー
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