旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』― 第26回 困難なときこそ信じる力が自分を救う

東 志保
(株)Lily MedTech 代表取締役社長


Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2019年5月1日号に掲載された記事をご紹介します。



私が経営者として起業を意識したのは、起業の半年前です。それまでは医療機器ベンチャーを経営するなど到底自分には無理だと思っていました。医師でもない、博士号もない、意欲しかない自分では、女性だからという理由で応援いただく声は一定数あっても、お金まで出してくれる方は見つからないだろうと思っていました。

実際に、起業に向けて初めて資金調達を始めた頃は、技術シーズを持っていた研究者の夫が何度も私を経営者として紹介しても、誰も私に関心を持たず、夫とだけ技術や事業の話をしていました。恐らく「出資直前に社長を変えてしまおう」と思っていたのだと思います。

自分が経営者になる事に反対していた私を、何度も何度も説得し「絶対に経営者に向いている。あなたがならないならばこの事業は成功できない」と言ってくれたのは夫でした。

ある時、夫の勧めで、ある著名な投資家の講演イベントに参加しました。軽い気持ちで参加したそのイベントで、その投資家自身も大手を辞め自らリスクを取って起業したこと、投資は起業家を見て決めること、日本の大学の研究費は米国の7割程度なのに対し大学のライセンス収入は1/200しかなく「大学の技術シーズを使う大学発ベンチャーの創生・支援が自らの使命」と言い放った強いスピーチに感銘を受けました。

その後その投資家との資金調達交渉の際、「私自身は医師でも大学の研究者でもないが本当に経営ができるのか」と未熟にも問いかけたところ、「起業は医師でも研究者でなくても関係ない。なぜあえて起業するのか、の強い理由さえあれば十分だ」という言葉を頂き、「彼となら本当にこの技術を必要な方々へ提供できるかもしれない、誰よりも自分を信じる事だけが成功への近道で何よりの恩返しだ」と考えを改め、その後NEDOの支援を受け、またその投資家からの出資を受け、起業しました。

男性ばかりの業界で女性が独立しても全く相手にされないばかりか、男性の協力が無ければ女性がリーダーシップをとる機会にさえ恵まれません。今の日本では女性だけで戦うには選択肢が限られています。ひどい言葉を投げられるケースも良く耳にしますし、友好的な態度でも行動は非常に保守的な男性ばかりで、女性は何度も心挫かれるでしょう。

しかしその中でも、リベラルな考え方をお持ちの男性は必ずいます。特に社会を変えたいと強く願う方は、現状維持では限界がある事をこれまで何度も痛感しており、変わりたい、変えていきたいと切望しています。ミッションへの想いが強いほど、そのような良いご縁に恵まれるのだと思います。

マジョリティと違いマイノリティは壁を乗り越えるための目的や方法を毎回考えないといけませんが、その経験は必ずマイノリティを強くします。また女性がトップだと優秀な女性に集まっていただき思い切り活躍いただく環境を作りやすいです。自分の可能性を信じて、女性らしく自分らしく、これからも人生を戦い楽しんでいけたらと思います。

(「旬刊経理情報」2019年5月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人 EY Entrepreneurial Winning Women)



東志保

東 志保(あずま・しほ)

(株)Lily MedTech代表取締役社長。大学で物理学を専攻後、米国で航空宇宙の修士号獲得。JAXA宇宙科学研究所で博士後期に進学するも父親が急逝し経済的理由から中退。(株)JEOLレゾナンスに入社し、核磁気共鳴装置の開発に従事。自らが母親を高校生の時に癌で亡くしていた経験から、医用超音波の研究者の夫に誘われ2015年に東大の超音波CTプロジェクトに参画。2016年に(株)Lily MedTechを創業。複数の臨床医と協力して臨床研究を実施している。



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