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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山文隆
2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の人的資本等に関する開示状況を知りたい。
調査対象会社(201社)について、有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」における人的資本、多様性に関する開示において記載されている指標の集計範囲を調査したところ、<図表1>の結果となった。
<図表1>人的資本、多様性に関する指標の集計範囲
集計範囲 |
会社数 |
割合 |
---|---|---|
集計範囲について明記なし |
72社 |
35.8% |
提出会社のみ |
58社 |
28.9% |
提出会社及び一部の子会社 |
45社 |
22.4% |
一部の子会社 |
14社 |
7.0% |
連結ベース(提出会社及び連結子会社) |
3社 |
1.5% |
小計 |
192社 |
95.5% |
指標の記載なし |
9社 |
4.5% |
合計 |
201社 |
100.0% |
(注)以下のように集計範囲について明記されている場合には「提出会社のみ」「提出会社及び一部の子会社」「一部の子会社」「連結ベース」として集計している。また、集計範囲が複数種類記載されている場合には最も数が多い集計範囲を集計している。例えば以下の例では「提出会社のみ」として集計している。
指標 |
実績 |
目標 |
集計範囲 |
---|---|---|---|
管理職に占める女性労働者の割合 |
××% |
××% |
提出会社 |
男性労働者の育児休業取得率 |
××% |
××% |
提出会社 |
有給休暇の取得率 |
××% |
××% |
提出会社及び国内連結子会社 |
<図表1>より、集計範囲を明記している会社においては、提出会社のみが最も多く58社(28.9%)であった。提出会社のみを集計している会社が最も多かったのは、2023年3月期は適用初年度であり子会社を含めた集計体制が整っていないことや、会社ごとに状況が異なるため一律に同じ指標を設定することが適さないことなどが理由と考えられる。一部の子会社のみ集計している会社はいずれも持株会社であった。また、指標の記載がない会社においては、指標は策定中である旨が記載されているケースもあった。
調査対象会社(201社)について、有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」における人的資本、多様性に関する開示において、指標を開示している会社192社を対象に、指標の分類を調査したところ、<図表2>の結果となった。
分類 |
指標の例 |
会社数 |
---|---|---|
「従業員の状況」にて記載が求められる指標 |
管理職に占める女性労働者の割合 |
155社 |
「従業員の状況」にて記載が求められる指標 |
男性労働者の育児休業取得率 |
100社 |
「従業員の状況」にて記載が求められる指標 |
労働者の男女の賃金の差異 |
21社 |
女性労働者 |
採用割合、労働者割合など |
82社 |
教育・研修 |
労働者1人当たりの研修費用、時間など |
71社 |
エンゲージメント |
エンゲージメント指標、サーベイの回答率など |
59社 |
有給休暇 |
有給休暇の取得率など |
55社 |
健康経営 |
健康診断受診率、ストレスチェック受検率など |
53社 |
キャリア、中途採用労働者 |
採用割合、管理職割合など |
43社 |
障がい者雇用 |
採用割合、労働者割合など |
43社 |
外国人労働者 |
採用割合、労働者割合など |
27社 |
安全 |
重大事故、災害件数など |
25社 |
<図表2>より、管理職に占める女性労働者の割合が最も多く、女性労働者に関連する指標も82社と3番目に多いことから、人的資本のなかでも女性活躍に対する関心が高いと考えられる。
また、女性労働者に関連する指標を開示している会社82社を対象に、指標を具体的に分類したところ、<図表3>の結果となった。
指標の分類 |
件数 |
---|---|
採用者に占める女性労働者の割合、人数(注1) |
54件 |
労働者に占める女性労働者の割合、人数(注2) |
33件 |
管理職候補、主任職などに占める女性労働者の割合、人数 |
9件 |
女性労働者の平均勤続年数 |
3件 |
その他 |
7件 |
(注1)例えば、新卒や特定職種の採用に占める女性労働者の割合など、採用に関連する指標を集計している。
(注2)例えば、全労働者や正社員に占める女性労働者の割合など、労働者数に関連する指標を集計している。
<図表3>より、「採用者に占める女性労働者の割合、人数」が最も多く、次に「労働者に占める女性労働者の割合、人数」が多い結果となった。これらの指標が多いのは女性活躍を推進するための取組として、女性労働者の人数を増やすことに関心が高いためと考えられる。
調査対象会社(201社)について、有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」における人権に関する記載方法を調査したところ、<図表4>の結果となった。
記載方法 |
会社数 |
割合 |
---|---|---|
サステナビリティ全般に関する記載の中で言及 |
66社 |
32.8% |
人的資本、多様性に関する記載の中で言及 |
35社 |
17.4% |
個別テーマとして記載し言及 |
11社 |
5.5% |
気候変動に関する記載の中で言及 |
1社 |
0.5% |
小計 |
113社 |
56.2% |
言及なし |
88社 |
43.8% |
合計 |
201社 |
100.0% |
<図表4>より、「サステナビリティに関する考え方及び取組」において、人権に言及している会社は113社(56.2%)であり、全体の過半数を占めていることがわかる。
また、人権に言及している113社のうち、人権方針の策定又は人権デュー・デリジェンスに言及している会社数は59社であった。当該59社を業種別に調査したところ、結果は<図表5>のとおりであった。
業種 |
会社数 |
---|---|
化学 |
8社 |
銀行業 |
8社 |
サービス業 |
4社 |
建設業 |
4社 |
食料品 |
4社 |
その他金融業 |
3社 |
小売業 |
3社 |
不動産業 |
3社 |
保険業 |
3社 |
その他業種 |
19社 |
合計 |
59社 |
<図表5>より、化学及び銀行業が最も多く、続いてサービス業、建設業、食料品が多いことがわかる。これらの業種はビジネスの性質や海外展開比率が高いなどの理由からステークホルダーが多く、人権について関心が高いと考えられる。また、銀行業については社会からの信用維持及び獲得が特に重要であることも人権について記載した会社数が多い理由と考えられる。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年10月10日号 No.1690「2023年3月期有報におけるサステナビリティ情報の開示分析」を一部修正)