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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 須賀 勇介
2023年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の総論的な開示状況を知りたい。
「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄には、「ガバナンス」及び「リスク管理」について必須の事項として記載することが求められ、「戦略」及び「指標及び目標」は、重要なものについて記載することが求められている(「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)第二号様式(記載上の注意)(30-2)a、b)。なお、「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標及び目標」の4つの構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられるとされている。この場合、投資家が理解しやすいように、4つの構成要素のどれについての記載なのかがわかるようにすることが有用とされている(「開示府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」という。)No. 83)。
調査対象会社(201社)を対象に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示状況を調査した。
構成要素については、<図表1>のとおり、4つの構成要素の項目立てを行っている会社がほとんどであり、そのうち重要な場合に記載するとされている「戦略」と「指標及び目標」の対象は、サステナビリティ全般や、「気候変動」と「人的資本」について記載している会社が多かった。
記載対象 |
会社数 |
比率 |
---|---|---|
サステナビリティ全般 |
65社 |
32.3% |
「気候変動」と「人的資本」 |
99社 |
49.3% |
「人的資本」 |
21社 |
10.4% |
「気候変動」 |
7社 |
3.5% |
その他(注) |
9社 |
4.5% |
合計 |
201社 |
100.0% |
(注)各構成要素に分けた記載を行っていない会社を含む。
サステナビリティ情報の記載については、有報に記載すべき重要な事項を記載したうえで、その詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照することも可能である(「企業内容等の開示に関する留意事項について」(以下「開示ガイドライン」という。)5-16-4)。参照可能な書類には、任意に公表した書類、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類のほか、ウェブサイトも含まれ得るとされている(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No. 234、No. 257)。また、サステナビリティ情報について、有報の他の箇所に記載した場合には、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄において、当該他の箇所の記載を参照できるとされている(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)本文)。
他への参照については、<図表2>のとおり、ウェブサイト又は統合報告書等の提出会社が公表した他の書類を参照している会社が比較的多く、それらのいずれか又は両者を参照している会社は過半数の119社(59.2%)あった。有報の他の箇所への参照先では、リスクの詳細について「事業等のリスク」を参照する会社が最も多かった。次いで、人的資本の実績等について「企業の概況」の「従業員の状況」の「管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率、労働者の男女の賃金の差異」(以下「管理職に占める女性労働者の割合等」という。)、マテリアリティ等について「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、及びガバナンス等について「提出会社の状況」の「コーポレート・ガバナンスの状況等」をそれぞれ参照する会社がほぼ同数であった。
参照先(注1) |
会社数 |
|
---|---|---|
有報外 |
ウェブサイト |
79社 |
統合報告書等の書類(注2) |
63社 |
|
有報内 |
事業等のリスク |
44社 |
管理職に占める女性労働者の割合等 |
21社 |
|
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 |
20社 |
|
コーポレート・ガバナンスの状況等 |
19社 |
|
その他 |
2社 |
(注1)複数の参照先がある場合には、それぞれ1社としてカウントしている。
(注2)サステナビリティレポートやTCFDレポートを含み、それらの書類をウェブサイトで公表している場合も集計している。
企業が、投資家の投資判断上、重要であると判断した事項については、有報に記載する必要があるが、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、概算値や前年度の情報を記載することも考えられるとされている。この場合、概算値であることや前年度のデータであることを記載する必要があるとされている(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No. 238)。
実績値については、<図表3>のとおり、当年度実績のみ記載している会社が最も多かったものの、概算値や前年度の情報を記載している会社も一定数あった。なお、概算値や前年度の情報を含む実績値の記載がない会社は、16社(8.0%)と少数であった。
記載状況 |
会社数 |
比率 |
---|---|---|
当年度実績のみ |
111社 |
55.2% |
当年度実績と前年度実績 |
49社 |
24.4% |
当年度実績と当年度概算 |
11社 |
5.5% |
当年度実績と当年度概算と前年度実績 |
4社 |
2.0% |
前年度実績のみ |
7社 |
3.5% |
その他 |
3社 |
1.5% |
小計 |
185社 |
92.0% |
記載なし |
16社 |
8.0% |
合計 |
201社 |
100.0% |
「サステナビリティに関する考え方及び取組」の参考となる開示例を取りまとめ、2023年1月に金融庁が公表した「記述情報の開示の好事例集2022」(2023年3月最終更新)では、マテリアリティ(重要課題)の設定や関連するリスクと機会及び主な取組に関する記載事例などが数多く取り上げられていた。
マテリアリティについては、<図表4>のとおり、大半の159社(79.1%)が言及しており、約半数の106社(52.7%)がマテリアリティの全項目を列挙して記載していた。さらに、そのうち59社(全体の29.4%)は、マテリアリティ項目ごとのKPI(評価指標)も記載していた。
記載状況 |
会社数 |
比率 |
---|---|---|
① 全項目を記載(注) |
106社 |
52.7% |
(うち、項目ごとのKPIも記載) |
(59社) |
(29.4%) |
② 一部項目のみ記載 |
23社 |
11.4% |
③ 設定している旨のみ記載 |
30社 |
14.9% |
小計 |
159社 |
79.1% |
記載なし |
42社 |
20.9% |
合計 |
201社 |
100.0% |
(注)参照先の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において開示している会社を含む。
(旬刊経理情報(中央経済社)2023年10月10日号 No.1690「2023年3月期有報におけるサステナビリティ情報の開示分析」を一部修正)