EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 宮﨑徹
2020年11月27日に、「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正」(以下「本改正」という。)が公布されています。
本改正は、会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号。以下「改正法」という。)及び会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号。以下「整備法」という。)の施行に伴い、法務省関係政令及び会社法施行規則等の一部を改正するものです。
本改正の内容は多岐にわたるため、本稿では、会計及び開示に関連するポイントに沿って解説します。
自社の株式を対価として他の会社を完全子会社とする手段である株式交換の制度に加えて、完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度として、株式交付制度が新たに新設されています。(詳細は、会社法の一部を改正する法律の概要(法務省民事局)参照)
改正法により新設される株式交付に関する規定(会社法774条の2から774条の11まで、816条の2から816条の10まで等)について、株式交付計画の承認に関する議案を株主総会に提出する場合における株主総会参考書類に記載すべき事項に関する規定(会社法施行規則91条の2)を新設しているほか、以下のとおり所要の改正が行われました。
ⅰ)株式交付子会社に関する規定
改正法により新たに規定される「株式交付」(会社法2条32号の2)について、同号の委任に基づき、株式交付により他の株式会社を子会社としようとする場合における子会社(株式交付子会社)の範囲を定める規定(会社法施行規則4条の2)を新設する改正が行われました。
ⅱ)株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みに関する規定
株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対して通知すべき事項に関する規定及び申込みをしようとする者に対する通知を要しない場合に関する規定(会社法施行規則179条の2及び179条の3)を新設する改正が行われました。
ⅲ)株式交付親会社の事前開示事項及び事後開示事項に関する規定
株式交付親会社の事前開示事項及び事後開示事項に関する規定(会社法施行規則213条の2及び213条の9)を新設する改正が行われました。
ⅳ)その他の改正
その他、以下の規定の新設、改正等が行われました。
改正法により新設される株式交付に関する規定(会社法774条の2から774条の11まで、816条の2から816条の10まで等)について、以下の規定を新設する改正が行われました。
株式交付における株主資本等変動額に関する規定(会社計算規則39条の2)
株式交付に際し、株式交付親会社において変動する株主資本等の総額は、それぞれ以下の方法に従い定まる額とされています(同条1項)。また、その内訳である株式交付親会社の資本金及び資本剰余金の増加額についても規定されています(同条2項及び3項)。
支配取得の場合(同条1項1号) | 共通支配下関係にある場合(同条1項2号) | 左記以外の場合(同条1項3号) |
吸収型再編対価時価又は株式交付子会社の株式及び新株予約権等の時価を基礎として算定する方法 | 株式交付子会社の財産の株式交付の直前の帳簿価額を基礎として算定する方法 |
その他、株式に係る特別勘定に関する規定(同令12条)、株式交付が無効とされた場合等における資本金の額の増減に関する規定(同令25条2項3号及び5号)に株式交付を加えるための改正等とともに、所要の規定の整備が行われました。
ⅰ)取締役又は執行役の報酬等として交付される株式及び新株予約権等に関する規定の新設
改正法により、取締役又は執行役の報酬等として株式若しくは新株予約権又はこれらと引換えにする払込みに充てるための金銭を付与する場合においては、定款又は株主総会の決議により法務省令で定める一定の事項を定めなければならないこととしていることから(会社法361条1項3号から5号まで及び409条3項3号から5号まで)、当該事項の具体的な内容を定める規定(会社法施行規則98条の2から98条の4まで及び111条から111条の3まで)を新設する改正が行われました。
ⅱ)取締役の個人別の報酬等についての決定に関する方針に関する規定の新設
改正法により一定の株式会社の取締役会は取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定することを義務付けられていることから(会社法361条7項)、当該方針の具体的な内容を定める規定(会社法施行規則98条の5)を新設する改正が行われました。
改正法においては、取締役又は執行役(以下、「取締役等」という。)の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行することができることとされました(会社法202条の2、205条3項から5項まで、209条4項、445条6項等)。この会社法第202条の2第1項の規定により募集株式を引き受ける者の募集を行う場合において、取締役等による役務提供が割当日後又は割当日前である場合のそれぞれにおける株主資本の変動額について定める規定、また、取締役等が割当日より前に提供した役務の対価として株式の交付を受けることができる権利である株式引受権に関する規定について、以下のとおり新設するほか、所要の規定の整備が行われました。
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(※1)会社計算規則第42条の2第1項1号イ・ロについて、取締役等が職務の執行の対価として、当該株式会社に提供した「役務の公正な評価額」、及び会社計算規則第54条の2第1項について、割当日前に職務の執行の対価として当該募集株式を対価とする役務を提供した場合の株式引受権として計上する「役務の公正な評価額」は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌して、適宜の方法により算定されることとなるとされています(会社計算規則第3条)(「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3の2②及び④)。
この点、企業会計基準委員会(ASBJ)から2020年9月11日に公表された実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」を参照することとなると考えられます。当該公開草案のポイントのお知らせを会計情報トピックスに掲載していますので、こちらもご参照ください(「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等のポイント)。
(※2)会社計算規則第2条3項34号の株式引受権の定義においては明記されていませんが、株式引受権の額が増加するのは、取締役又は執行役が会社法第202条の2第1項に基づいて割り当てられた募集株式を対価とする役務を提供した場合(会社計算規則第54条の2第1項)に限られるとされています。また、いわゆる現物出資構成をとる場合には、取締役又は執行役が株式会社に対して提供した役務の対価として受領するのは金銭債権であることから、株式引受権の定義(同令第2条第3項第34号)に当てはまらないことは明らかであるとされています(「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3の2①)。
改正法により新設される株主総会資料の電子提供制度(会社法325条の2から325条の7まで)について、以下の規定を新設するほか、所要の規定の整備が行われました。
改正法により新設される株主総会資料の電子提供制度(会社法325条の2から325条の7まで)について、連結計算書類に係る監査報告又は会計監査報告に記載され、又は記録された事項に係る情報についての電子提供措置に関する規定(会社計算規則134条3項)を新設する改正が行われました。
株式会社の事業報告について以下の項目などの見直しをするとともに、所要の規定の整備が行われました。
改正法の施行日(令和3年3月1日)から施行されます。
ただし、会社法施行規則及び会社計算規則に係る改正規定のうち、株主総会資料の電子提供制度に関する改正規定(会社法施行規則、会社計算規則及び一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則に係る附則案(以下「改正省令附則案」という)1条ただし書きに規定する規定)は、改正法附則1条ただし書きに規定する規定の施行の日から(改正省令附則案1条ただし書き)施行されます。
施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告の記載又は記録及び施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る株式会社の事業報告における改正前の会社法施行規則124条2項の理由(事業年度の末日において社外取締役を置いていない一定の会社における社外取締役を置くことが相当でない理由)の記載又は記録については、なお従前の例による(改正省令附則案2条11項)とされています。
なお、本稿は本改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
電子政府の総合窓口ウェブサイト e-Gov
また、上記3(2)②に関連して、企業会計基準委員会(ASBJ)から2020年9月11日に公表された実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等のポイントのお知らせを会計情報トピックスに掲載していますので、こちらもご参照ください。