会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正のポイント

公認会計士 宮﨑徹

2020年11月27日に公布

2020年11月27日に、「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正」(以下「本改正」という。)が公布されています。


1. 本改正の趣旨

本改正は、会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号。以下「改正法」という。)及び会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号。以下「整備法」という。)の施行に伴い、法務省関係政令及び会社法施行規則等の一部を改正するものです。

2. 改正された規則

  • 会社法施行令(平成17年政令第364号)

  • 会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)

  • 会社計算規則(平成18年法務省令第13号)

  • 弁護士会登記令(昭和24年政令第321号)

  • 独立行政法人等登記令(昭和39年政令第28号)

  • 組合等登記令(昭和39年政令第29号)

  • 会社更生法施行令(平成15年政令第121号)

  • 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則(平成19年法務省令第28号)

3. 本改正の内容

本改正の内容は多岐にわたるため、本稿では、会計及び開示に関連するポイントに沿って解説します。

(1)株式交付制度に関する規定の新設及び改正

自社の株式を対価として他の会社を完全子会社とする手段である株式交換の制度に加えて、完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度として、株式交付制度が新たに新設されています。(詳細は、会社法の一部を改正する法律の概要(法務省民事局)参照)

① 会社法施行規則

改正法により新設される株式交付に関する規定(会社法774条の2から774条の11まで、816条の2から816条の10まで等)について、株式交付計画の承認に関する議案を株主総会に提出する場合における株主総会参考書類に記載すべき事項に関する規定(会社法施行規則91条の2)を新設しているほか、以下のとおり所要の改正が行われました。

ⅰ)株式交付子会社に関する規定
改正法により新たに規定される「株式交付」(会社法2条32号の2)について、同号の委任に基づき、株式交付により他の株式会社を子会社としようとする場合における子会社(株式交付子会社)の範囲を定める規定(会社法施行規則4条の2)を新設する改正が行われました。

ⅱ)株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みに関する規定
株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対して通知すべき事項に関する規定及び申込みをしようとする者に対する通知を要しない場合に関する規定(会社法施行規則179条の2及び179条の3)を新設する改正が行われました。

ⅲ)株式交付親会社の事前開示事項及び事後開示事項に関する規定
株式交付親会社の事前開示事項及び事後開示事項に関する規定(会社法施行規則213条の2及び213条の9)を新設する改正が行われました。

ⅳ)その他の改正
その他、以下の規定の新設、改正等が行われました。

  •  子会社による親会社株式の取得の禁止の例外に他の会社が行う株式交付に際して親会社株式の割当てを受ける場合を追加すること(会社法施行規則23条4号)

  • 株式交付の場合の1株当たり純資産額の算定における算定基準日に関する規定を新設すること(同令25条6項10号)

  • 自己の株式を取得することができる場合に株式交付における反対株主の株式買取請求に応じて当該株式会社の株式を取得する場合を追加すること(同令27条5号)

  • 監査の範囲が限定されている監査役の調査の対象事項に、株式交付により、株式交付親会社が株式交付子会社の株式又は新株予約権等を譲り受け、その対価として株式交付親会社の株式が交付される場合において計上すべき資本金及び準備金の額に関する事項を追加すること(同令108条3号リ及びヌ)

  • 清算株式会社が自己の株式を取得することができる場合に株式交付における反対株主の株式買取請求に応じて当該清算株式会社の株式を取得する場合を追加すること(同令151条5号)
② 会社計算規則

改正法により新設される株式交付に関する規定(会社法774条の2から774条の11まで、816条の2から816条の10まで等)について、以下の規定を新設する改正が行われました。

株式交付における株主資本等変動額に関する規定(会社計算規則39条の2)

株式交付に際し、株式交付親会社において変動する株主資本等の総額は、それぞれ以下の方法に従い定まる額とされています(同条1項)。また、その内訳である株式交付親会社の資本金及び資本剰余金の増加額についても規定されています(同条2項及び3項)。


支配取得の場合(同条1項1号) 共通支配下関係にある場合(同条1項2号)左記以外の場合(同条1項3号)

吸収型再編対価時価又は株式交付子会社の株式及び新株予約権等の時価を基礎として算定する方法株式交付子会社の財産の株式交付の直前の帳簿価額を基礎として算定する方法

 


その他、株式に係る特別勘定に関する規定(同令12条)、株式交付が無効とされた場合等における資本金の額の増減に関する規定(同令25条2項3号及び5号)に株式交付を加えるための改正等とともに、所要の規定の整備が行われました。

(2)取締役等の報酬に関する規定の新設

① 会社法施行規則

ⅰ)取締役又は執行役の報酬等として交付される株式及び新株予約権等に関する規定の新設
改正法により、取締役又は執行役の報酬等として株式若しくは新株予約権又はこれらと引換えにする払込みに充てるための金銭を付与する場合においては、定款又は株主総会の決議により法務省令で定める一定の事項を定めなければならないこととしていることから(会社法361条1項3号から5号まで及び409条3項3号から5号まで)、当該事項の具体的な内容を定める規定(会社法施行規則98条の2から98条の4まで及び111条から111条の3まで)を新設する改正が行われました。

ⅱ)取締役の個人別の報酬等についての決定に関する方針に関する規定の新設
改正法により一定の株式会社の取締役会は取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定することを義務付けられていることから(会社法361条7項)、当該方針の具体的な内容を定める規定(会社法施行規則98条の5)を新設する改正が行われました。

② 会社計算規則

改正法においては、取締役又は執行役(以下、「取締役等」という。)の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行することができることとされました(会社法202条の2、205条3項から5項まで、209条4項、445条6項等)。この会社法第202条の2第1項の規定により募集株式を引き受ける者の募集を行う場合において、取締役等による役務提供が割当日後又は割当日前である場合のそれぞれにおける株主資本の変動額について定める規定、また、取締役等が割当日より前に提供した役務の対価として株式の交付を受けることができる権利である株式引受権に関する規定について、以下のとおり新設するほか、所要の規定の整備が行われました。

類型 会社計算規則
事前交付型に相当する規定(取締役等が株式会社に対し割当日後にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合)株式発行当該募集株式を引き受ける取締役等が株式会社に対し当該募集株式に係る割当日後にその職務の執行として当該募集株式を対価とする役務を提供するときは、当該募集に係る株式の発行により各事業年度の末日又は臨時決算日(以下、合わせて「株主資本変動日」という。)において増加する資本金又は資本準備金は、以下の①から②を控除した額(零未満の場合は零)とされている(会社計算規則42条の2第1項から3項及び5項)
① 取締役等が当該株主資本変動日までにその職務の執行として当該株式会社に提供した役務の公正な評価額(※1)
② 直前の株主資本変動日までにその職務の執行として当該株式会社に提供した役務の公正な評価額を減じて得た額

 
自己株式の処分当該募集株式を引き受ける取締役等が株式会社に対し当該募集株式に係る割当日後にその職務の執行として当該募集株式を対価とする役務を提供するときは、株主資本変動日において増加するその他資本剰余金の額は、新株の発行により行う場合と同様の式による額とされている(同令42条の2第5項)

 
割当日において、当該募集に際して処分する自己株式の帳簿価格をその他資本剰余金の額から減ずるものとされている(同令42条の2第4項)
当該取締役等が当該株式を当該株式会社に無償で譲り渡し、当該株式会社がこれを取得するときは、当該自己株式の処分に際して減少した自己株式の額を、増加すべき自己株式の額とするとされている(同令42条の2第7項)
事後交付型に相当する規定(取締役等が株式会社に対し割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合)株式発行株式会社が取締役等に対して当該募集株式を割り当てる場合には、当該募集株式に係る割当日において、株式引受権の帳簿価額を減額することとされ(同令54条の2第2項)、同額の資本金又は資本準備金が増加することとされている(同令42条の3第1項から3項)

 
自己株式の処分自己株式を処分した場合は、減額する株式引受権の帳簿価額と処分する自己株式の帳簿価額との差額をその他資本剰余金とすることとされている(同令42条の3第4項)
株式引受権に関する規定定義取締役又は執行役がその職務の執行として株式会社に対して提供した役務の対価として当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利(新株予約権を除く。)をいう(同令2条3項34号)(※2)

 
増加すべき株式引受権の額取締役等が株式会社に対し会社法202条の2第1項の募集株式に係る割当日前にその職務の執行として当該募集株式を対価とする役務を提供した場合には、当該役務の公正な評価額(同令54条の2第1項)(※1)

 
純資産の部の区分貸借対照表及び連結貸借対照表における純資産の部の区分、並びに株主資本等変動計算書及び連結株主資本等変動計算書の区分について、評価・換算差額等又はその他の包括利益と新株予約権の間に、株式引受権を表示することとされている(同令76条1項1号ハ及び2号ハ、並びに96条2項1号ハ及び2号ハ)

 
株主資本等変動計算書に関する注記株主資本等変動計算書及び連結株主資本等変動計算書に関する注記として、当該事業年度又は連結会計年度の末日における株式引受権に係る当該株式会社の株式数を開示することとされている(同令105条4項及び106条4項)

(※1)会社計算規則第42条の2第1項1号イ・ロについて、取締役等が職務の執行の対価として、当該株式会社に提供した「役務の公正な評価額」、及び会社計算規則第54条の2第1項について、割当日前に職務の執行の対価として当該募集株式を対価とする役務を提供した場合の株式引受権として計上する「役務の公正な評価額」は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌して、適宜の方法により算定されることとなるとされています(会社計算規則第3条)(「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3の2②及び④)。

この点、企業会計基準委員会(ASBJ)から2020年9月11日に公表された実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」を参照することとなると考えられます。当該公開草案のポイントのお知らせを会計情報トピックスに掲載していますので、こちらもご参照ください(「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等のポイント)。

(※2)会社計算規則第2条3項34号の株式引受権の定義においては明記されていませんが、株式引受権の額が増加するのは、取締役又は執行役が会社法第202条の2第1項に基づいて割り当てられた募集株式を対価とする役務を提供した場合(会社計算規則第54条の2第1項)に限られるとされています。また、いわゆる現物出資構成をとる場合には、取締役又は執行役が株式会社に対して提供した役務の対価として受領するのは金銭債権であることから、株式引受権の定義(同令第2条第3項第34号)に当てはまらないことは明らかであるとされています(「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3の2①)。

(3)株主総会資料の電子提供制度に関する規定の新設及び整備

① 会社法施行規則

改正法により新設される株主総会資料の電子提供制度(会社法325条の2から325条の7まで)について、以下の規定を新設するほか、所要の規定の整備が行われました。

  • 電子提供措置をとる方法に関する規定(会社法施行規則95条の2)

  • 電子提供措置をとる場合における招集の通知の記載事項に関する規定(同令95条の3)

  • 書面交付請求をした株主に対して交付する書面(電子提供措置事項記載書面)に記載することを要しない事項に関する規定(同令95条の4)
② 会社計算規則

改正法により新設される株主総会資料の電子提供制度(会社法325条の2から325条の7まで)について、連結計算書類に係る監査報告又は会計監査報告に記載され、又は記録された事項に係る情報についての電子提供措置に関する規定(会社計算規則134条3項)を新設する改正が行われました。

(4)事業報告に関する規定の改正

株式会社の事業報告について以下の項目などの見直しをするとともに、所要の規定の整備が行われました。

  • 上場子会社における少数株主保護の議論等を踏まえ、当該株式会社に親会社がある場合において、当該親会社との間に当該株式会社の重要な財務及び事業の方針に関する契約等が存在するときは、事業報告においてその内容の概要を記載しなければならないこととすること(会社法施行規則120条1項7号)

  • 当該株式会社の役員等賠償責任保険契約に関する事項や当該株式会社が取締役、会計参与、監査役又は会計監査人と締結している補償契約に関する事項を記載しなければならないこととすること(同令119条2号の2、121条3号の2から3号の4まで、121条の2、125条2号から4号まで及び126条7号の2から7号の4まで)

  • 取締役、会計参与、監査役又は執行役の報酬等に関する記載事項を拡充すること(同令121条4号イ及びロ並びに5号の2から6号の3まで)

  • 報酬等として付与された株式や新株予約権等に関する記載事項を追加すること(同令122条1項2号及び123条1号)

  • 事業年度の末日において社外取締役を置いていない一定の株式会社は、社外取締役を置くことが相当でない理由を当該事業年度に係る事業報告に記載しなければならないこととする規定等(改正前の会社法施行規則124条2項及び3項)を削除すること

  • 社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要を記載しなければならないこととすること(会社法施行規則124条4号ホ)

4. 適用時期

改正法の施行日(令和3年3月1日)から施行されます。

ただし、会社法施行規則及び会社計算規則に係る改正規定のうち、株主総会資料の電子提供制度に関する改正規定(会社法施行規則、会社計算規則及び一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則に係る附則案(以下「改正省令附則案」という)1条ただし書きに規定する規定)は、改正法附則1条ただし書きに規定する規定の施行の日から(改正省令附則案1条ただし書き)施行されます。

5. 経過措置

(1)事業報告の記載に関する経過措置

施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告の記載又は記録及び施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る株式会社の事業報告における改正前の会社法施行規則124条2項の理由(事業年度の末日において社外取締役を置いていない一定の会社における社外取締役を置くことが相当でない理由)の記載又は記録については、なお従前の例による(改正省令附則案2条11項)とされています。

6. 改正案からの変更点

(1)株式交付制度に関する規定の新設及び改正

  • 原案の会社法施行規則第213条の8第5号を修正し、「公告対象会社につき最終事業年度がない場合」の下に「(株式交付親会社が株式交付子会社の最終事業年度の存否を知らない場合を含む。)」を加えることとされています(「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3の1(10)②)。

  • 「法第774条の3第1項第2号に掲げる事項についての定めが同条第2項に定める要件を満たすと株式交付親会社が判断した理由」を株式交付親会社の事前開示事項とすることとされています(会社法施行規則第213条の2第1号)(同意見募集結果 第3の1(10)④)。

(2)取締役等の報酬に関する規定の新設

  • 会社法施行規則第111条から第111条の3までを修正し、指名委員会等設置会社において、募集株式等を執行役等の報酬等とする場合において定めるべき事項は、これらの規定に掲げる事項の概要ではなく、当該事項とすることとされています(同意見募集結果 第3の1(5)②)。

  • 会社法第236条第3項の場合、すなわち募集新株予約権を取締役の報酬等とする場合において、当該新株予約権の行使に際して金銭の払込み等を要しないこととする場合には、同条第1項第2号に掲げる事項ではなく、同条第3項各号に掲げる事項を定款又は株主総会の決議によって定めなければならないこととされています(同意見募集結果 第3の1(5)⑥)。

(3)株主総会資料の電子提供制度に関する規定の新設及び整備

  • 事業報告に記載され、又は記録された事項のうち、会計参与又は会計監査人の責任限定契約に関する事項については、電子提供措置事項記載書面から省略することができないこととされています(会社法施行規則第95条の4第2号イ)(同意見募集結果 第3の1(11)⑨)。

(4)事業報告に関する規定の改正

  • 原案の会社法施行規則第121条第5号の2ハを修正し、同号イの業績指標に関する実績を事業報告の記載事項とすることとされています(同意見募集結果 第3の1(7)イ③)。

  • 原案の会社法施行規則第122条第1項第2号を修正し、会社役員であった者に職務執行の対価として当該株式会社の株式を交付した場合においても、当該株式の数等を記載しなければならないこととされています(同意見募集結果 第3の1(7)イ㉖)。

  • 原案の会社法施行規則第121条第4号イ及びロを修正し、同令第124条第5号の規定による事業報告における社外役員の報酬等に関する記載についても、業績連動報酬等、非金銭報酬等及びその他の報酬等に分けてその総額又は額を記載しなければならないこととされています(同意見募集結果 第3の1(7)イ㉘)。

  • 原案の会社法施行規則第121条の2第1号を削除し、保険者の氏名又は名称の開示は求めないこととされています(同意見募集結果 第3の1(7)ウ①)。
     


なお、本稿は本改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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また、上記3(2)②に関連して、企業会計基準委員会(ASBJ)から2020年9月11日に公表された実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等のポイントのお知らせを会計情報トピックスに掲載していますので、こちらもご参照ください。

 


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