EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士
鈴木真策・村田貴広・横井貴徳
この2019年3月期決算においては、税効果会計基準一部改正、有償ストック・オプション取扱い、仮想通貨取扱い、改正実務対応報告18号、開示府令の改正(一部)が原則適用となります。また、収益認識会計基準を早期適用することができます。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2019年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
Q1税効果会計基準一部改正の適用
Q2税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値情報
Q3税効果会計基準一部改正に関する会社法計算書類の取扱い
Q4税効果適用指針等の適用と会計方針の変更
Q5子会社株式等に係る将来加算一時差異における取扱いの改正
Q6税効果会計基準一部改正等が会計方針の変更に該当しない場合の注記
Q7税効果会計基準一部改正による表示方法の変更の留意点
Q8評価性引当額の注記
Q9回収可能性適用指針の改正
Q10税効果会計に影響する税制改正
Q11権利確定条件付き有償新株予約権数の算定及びその見直しによる会計処理
Q12未公開企業における取扱い
Q13有償ストック・オプション取扱いの経過措置と注記
Q14有償ストック・オプション取扱いを遡及(そきゅう)適用した場合の表示
Q15役員報酬として株式報酬を導入した企業の開示
Q16仮想通貨利用者の会計処理と開示
Q17仮想通貨交換業者の会計処理と開示
Q18実務対応報告18号等の改正の概要
Q19IFRSや米国会計基準の改訂が行われたときの会計処理・開示上の取扱い
Q20開示府令改正の概要
Q21役員報酬
Q22政策保有株式
Q23監査の状況
Q24経営方針等、事業等のリスク、MD&A
Q25その他の改正項目
Q26収益認識会計基準の早期適用
Q27経過措置の適用方法
Q28収益認識会計基準の早期適用時の表示・開示
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 |
本文中の略称 |
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税効果会計に係る会計基準 |
税効果会計基準 |
企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」 |
1株当たり当期純利益会計基準 |
企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」 |
株主資本等変動計算書会計基準 |
企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」 |
ストック・オプション会計基準 |
企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」 |
関連当事者会計基準 |
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」 |
連結会計基準 |
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」 |
過年度遡及会計基準 |
企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」 |
税効果会計基準一部改正 |
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 |
収益認識会計基準 |
企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」 |
1株当たり当期純利益適用指針 |
企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」 |
ストック・オプション適用指針 |
企業会計基準適用指針第13号「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」 |
関連当事者適用指針 |
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 |
回収可能性適用指針 |
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
税効果適用指針 |
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」 |
実務対応報告18号 |
実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」 |
実務対応報告24号 |
実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」 |
日本版ESOP取扱い |
実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」 |
有償ストック・オプション取扱い |
実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」 |
仮想通貨取扱い |
企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」、改正企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」及び企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」 |
税効果会計基準一部改正等 |
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」及び実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」 |
実務対応報告18号等 |
会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」 |
連結税効果実務指針 |
会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」 |
個別税効果実務指針 |
監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」 |
監査委員会報告第66号 |
「企業内容等の開示に関する内閣府令」 |
開示府令 |
「企業内容等の開示に関する留意事項について」(企業内容等開示ガイドライン) |
開示ガイドライン |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
財規 |
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
連結財規 |
「中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
中間財規 |
「中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
中間連結財規 |
会社計算規則 |
計規 |
実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」等に寄せられたコメントの「5.主なコメントの概要とその対応」 |
有償ストック・オプションコメント対応 |
国際財務報告基準 |
IFRS |
税効果会計基準一部改正等においては、繰延税金資産の回収可能性に関する定めを除く、日本公認会計士協会の税効果会計に関する実務指針の定めを基本的に踏襲しつつ、表示及び注記事項、一部の会計処理について、必要と考えられる見直しが行われています。適用時期は2018年4月1日以後開始する年度の期首からとされています(税効果会計基準一部改正6項)。
税効果会計基準一部改正等では会計処理並びに表示及び注記事項に関する改正が行われていますが、表示及び注記事項に関する改正は次のとおりです(会計処理に関する改正はQ4を参照)。
図表 追加される注記事項
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(注)繰延税金資産の発生原因別の注記として記載されている税務上の繰越欠損金の金額が重要であるときに記載 |
これらの表示及び注記事項に関する変更は表示方法の変更とされており、会計方針の変更にはなりません(税効果会計基準一部改正59項)。なお、表示方法の変更については、比較情報においては財務諸表の組替えが求められますが(過年度遡及会計基準14項)、注記事項においては経過措置として、評価性引当額の合計額を除き、適用初年度の比較情報を記載しないことができるとされています(税効果会計基準一部改正7項)。なお、会社法における(連結)計算書類は単年度開示であり比較情報はありませんが、繰延税金資産及び繰延税金負債の表示に関する改正については、表示方法の変更として変更の内容及び理由を注記することになります。
税効果会計基準一部改正では、繰越欠損金の繰越期限別の数値情報を記載する場合の年度の区切り方について、特段定められていません。これは、企業における税務上の繰越欠損金の発生状況はさまざまであり、また、在外子会社の税制は多様であるため、繰越期間の年数や有無はさまざまであると考えられることを考慮し、年度の区切り方については、企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することが考えられるためとされています(税効果会計基準一部改正42項)。このため、税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値情報の記載にあたっては、それぞれの企業における税務上の繰越欠損金の状況に応じて、年度の区切り方を検討することになると考えられます。
2018年3月26日に、税効果会計基準一部改正を反映した会社計算規則の改正が公布されました。この改正は繰延税金資産及び繰延税金負債の表示に関するものであり、繰延税金資産に関する注記事項の追加は含まれていません。このため、会社法計算書類においては、「評価性引当額の内訳に関する情報」及び「税務上の繰越欠損金に関する情報の注記」は必要ではないと考えられます。
ただし、当該事項が会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断される場合には、会社法計算書類においても、「評価性引当額の内訳に関する情報」及び「税務上の繰越欠損金に関する情報の注記」を追加情報として記載することも考えられます(会社計算規則116条)。
税効果適用指針では、基本的に連結税効果実務指針、個別税効果実務指針の内容を踏襲した上で、必要と考えられる会計処理について見直しを行っています。また、回収可能性適用指針は、税効果適用指針の公表に伴い、所要の改正を行ったものです。これらの会計処理に関する改正点は以下のとおりです。
これらの項目が個別財務諸表、連結財務諸表のそれぞれに与える影響は、図表のとおりです。
図表 会計処理に関する改正が個別財務諸表、連結財務諸表に与える影響
個別財務諸表 |
連結財務諸表 |
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個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(将来、配当送金されると見込まれるもの以外) |
個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上していた企業は影響あり |
左記に該当する企業で、連結財務諸表上も繰延税金負債を取り崩すことなく計上していた企業は影響あり |
子会社の利益のうち投資時(支配獲得時)に留保しているものに関する繰延税金負債の取扱い |
影響なし |
子会社の利益のうち投資時に留保しているものに対して繰延税金負債を計上していた企業は影響あり |
(分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い |
完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損に対して繰延税金資産を計上していた場合で一定の場合には影響あり |
非連結子会社株式の評価損に対して繰延税金資産を計上していた場合を除き影響なし |
なお、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いについては、Q5もご確認ください。
税効果適用指針の適用初年度においてこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われ、経過的な取扱いも定められていないことから、新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する必要があります(税効果適用指針65項(2)、161項、過年度遡及会計基準6項(1))。会計方針の変更により遡及適用がなされた場合、本改正による影響は、比較年度(2018年3月期)の期首((連結)計算書類においては当期(2019年3月期)の期首)に反映され、当該影響については、会計方針の変更の影響額として注記を検討することになります。
また、(1)に記載したとおり、例えば、会計処理に関する改正が個別財務諸表には影響を与えるが連結財務諸表には影響を与えないケースもあり得ます。当該ケースについては、個別財務諸表においてのみ会計方針の変更に該当し、連結財務諸表においては会計方針の変更に該当しないことになりますので、留意が必要です。
連結税効果実務指針では、連結財務諸表における子会社に対する投資に係る将来加算一時差異で、留保利益のうち、将来、配当送金されると見込まれるもの以外の将来加算一時差異については、原則として、繰延税金負債を計上しますが、「親会社がその投資の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却を行う意思がない場合には当該将来加算一時差異に対して」、繰延税金負債を計上しないこととされていました(連結税効果実務指針34項、37項)。一方で、個別税効果実務指針では、個別財務諸表における子会社株式に係る将来加算一時差異について、「支払が見込まれない場合」と「組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る一時差異のうち一定の要件を満たす場合」を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされていました。
この点について、連結財務諸表における子会社又は関連会社(以下、これらを合わせて「子会社等」という。)に対する投資に係る将来加算一時差異(留保利益に係るものが配当により解消される場合を除く。)と、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いについて整合を図るため、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異について、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間にその売却等を行う意思がない場合、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上しないこととする改正がなされています(税効果適用指針8項(2))。
個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異について、税効果適用指針においてはどのような内容のものが生じ得るかについて記載はありませんが、例えば、以下のケースで当該将来加算一時差異が生じると考えられます。
① 子会社等において有償減資を行い、子会社株式等の会計上の簿価が税務上の簿価を上回るケース
② 完全支配関係にある国内会社間の寄附金授受による投資価額修正により、完全親会社における寄附金支払側の子会社株式の会計上の簿価が税務上の簿価を上回るケース
有償減資が行われた場合、会計上は原則として子会社株式等の帳簿価額が減額されます(企業会計基準適用指針第3号「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」3項)。一方、税務上は、払戻額に実質的な利益の分配と株式の譲渡対価と認められる部分があるとの考え方に基づき、払戻額(交付金銭等)から、交付金銭等のうち資本金等の額に対応する金額(減資資本金額)を控除した金額をみなし配当として計上し、減資資本金額と株式の譲渡原価(株式の帳簿価額×純資産減少割合)との差額を譲渡損益(完全子会社からの有償減資の場合は、譲渡損益に相当する額は、資本金等の額の加減算処理)として計上するため、在外子会社の有償減資により、会計上の簿価と税務上の簿価に差異が生じることがあります。
会計上減額される子会社株式等よりも税務上減額される子会社株式等の方が大きい場合、個別財務諸表における子会社株式等に将来加算一時差異が生じますが、従来、将来の会計期間において支払が見込まれない税金の額を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされていました(個別税効果実務指針16項、24項)。
税務上、完全支配関係を有する内国法人間の寄附について、寄附を行った法人においては全額損金不算入となり、寄附を受けた法人においては全額益金不算入となるとされています(法人税法25条の2、37条2項)。また、完全支配関係にある内国法人間で寄附金授受がなされた場合には親会社において、寄附金に持分割合を乗じた金額で支出側の株式の帳簿価額を減額し、受贈益に持分割合を乗じた金額で受領側の株式の帳簿価額を増額する必要があります(法人税法施行令9条1項7号、119条の3第6項)。
このように連結子会社間で寄附金の授受を行い、親会社が当該寄附金を受領した子会社の株式の簿価を税務上増額修正する場合の当該簿価修正額は将来減算一時差異となり(税効果適用指針84項(8))、親会社が当該寄附金を支出した子会社の株式の簿価を税務上減額修正する場合の当該簿価修正額は将来加算一時差異となります(税効果適用指針85項(5))。
完全支配関係にある内国法人間の寄附金授受による投資簿価修正により繰延税金資産を上回る繰延税金負債が計上されていた企業又は繰延税金負債のみが計上されていた企業においては、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間にその売却等を行う意思がない場合、本改正により、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債を取り崩す必要があり、当期の個別財務諸表に影響を及ぼすことになります。一方、寄附金支払側の子会社株式の連結上の簿価は寄附金支出による純資産の減少分だけ減少しており、寄附金についてだけみると、連結上の簿価と税務上の簿価と差異はないため、個別財務諸表上認識した繰延税金負債は、連結財務諸表上税効果がないものとして取り消す処理を行っていたと考えられます。この場合、連結財務諸表作成会社においては、このケースでの影響は生じないと考えられます。
税効果会計基準一部改正等の適用に伴う会計処理への影響がない場合、会計方針の変更の注記を行う必要はありません。一方、税効果会計基準一部改正の適用初年度においては、表示方法の変更として取り扱われますので、表示方法の変更の注記として、過年度遡及会計基準16項に定める次の事項の注記が必要になります。
前期末に表示方法を変更していた場合、比較情報として表示される2018年3月期の(連結)貸借対照表は、税効果会計基準一部改正を適用して作成されていたため、当期において比較情報の財務諸表の組替えは行われません。税効果適用指針等の適用が会計方針の変更に該当せず、表示方法の変更にも該当しないため、会計方針の変更の注記、表示方法の変更の注記のいずれも不要と考えられます。
税効果会計基準一部改正の適用初年度の比較情報においては、過年度遡及会計基準14項の定めに従って、表示する過去の財務諸表(すなわち2018年3月期の(連結)貸借対照表)について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行う必要があります(税効果会計基準一部改正59項)。連結財務諸表上、繰延税金資産と繰延税金負債の相殺は納税主体ごとに行われます。前期末の(連結)貸借対照表では、この相殺が流動項目と固定項目に分けて行われていますが、改正後は、流動項目では繰延税金資産、固定項目では繰延税金負債が計上されていた納税主体がある場合などでは、前期末の連結貸借対照表上流動資産又は流動負債に計上されている繰延税金資産又は繰延税金負債を単純に固定区分に組み替えればよいという訳ではありません。
例えば、前期末において、納税主体Aでは流動資産に繰延税金資産が20、固定負債に繰延税金負債が70計上されており、納税主体Bでは流動資産に繰延税金資産が40、固定負債に繰延税金負債が20計上されていたケースを想定します。正しく財務諸表の組替えを行うと、納税主体Aは繰延税金負債が50、納税主体Bは繰延税金資産が20となり、連結貸借対照表上、繰延税金資産(固定資産)を20、繰延税金負債(固定負債)を50計上することになります(図表1参照)。
図表1 正しい組替えの方法
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繰延税金資産(流動) |
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繰延税金資産(固定) |
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繰延税金負債(流動) |
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繰延税金負債(固定) |
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しかし、改正前の表示方法では繰延税金資産(流動資産)が60(納税主体Aの20+納税主体Bの40)、繰延税金負債(固定負債)が90(納税主体Aの70+納税主体Bの20)計上されていたため、そのまま組み替えると、繰延税金資産(固定)60、繰延税金負債(固定)90が計上され、繰延税金資産と繰延税金負債の相殺漏れが生じます(図表2 誤った方法①参照)。
また、単純に前期の連結財務諸表の繰延税金資産を固定項目に振り替えた上で繰延税金資産と繰延税金負債を相殺すると、繰延税金負債(固定)30が計上され、納税主体Aと納税主体Bという異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債が相殺されることになります(図表2 誤った方法②参照)。繰延税金資産と繰延税金負債を正確に相殺するためには、納税主体ごとに流動資産及び流動負債に計上されている繰延税金資産又は繰延税金負債を固定区分に組み替えて相殺を行った上で、各社の個別貸借対照表を合算し、連結財務諸表を作成することが必要となります。
図表2 誤った組替えの方法
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繰延税金資産(流動) |
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繰延税金資産(固定) |
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繰延税金負債(流動) |
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繰延税金負債(固定) |
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なお、上述の方法で納税主体ごとに相殺を行った場合、前期の総資産の額がこれまでと異なることにより、総資産額や自己資本比率が前期の有価証券報告書に表示した額と異なるケースが考えられます。この場合、有価証券報告書の主要な経営指標等の推移(ハイライト情報)において、最近連結会計年度(事業年度)に係る経営指標等を遡(さかのぼ)って修正した上で、経営指標等については当該会計基準等を遡って適用した後の指標等となっている旨を記載することが考えられます(開示ガイドライン5-12-2)。
税効果会計基準第二 一 4では、「将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金等については、一時差異と同様に取り扱うものとする。」とされています。
当該「繰越欠損金等」の「等」については、「繰越欠損金等には、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等が含まれる。」とされており、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除が含まれるとされています(税効果適用指針4項(3))。ただし、回収可能性適用指針公表前の2011年改正個別税効果実務指針25項においては「繰越外国税額控除については、(中略)翌期以降に外国税額控除余裕額が生ずることが確実に見込まれるときにのみ、繰越外国税額控除の実現が見込まれる額を繰延税金資産として計上する」とのみ記載されていたことから、繰越外国税額控除の実現が見込まれない場合に繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の注記にあたって、繰越外国税額控除に係る繰延税金資産と評価性引当額を両建てで注記するのか、注記の対象としないのか、実務において取扱いが分かれていたと考えられます。
この点、企業会計基準公開草案第60号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」に寄せられたコメントのうち、評価性引当額の注記の対象となる範囲に関するコメントに対応するための審議の過程では、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等に係る繰延税金資産について、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)を注記の対象とするか否かが必ずしも明らかではないとの意見が聞かれたことから、税効果会計基準一部改正の本文において、評価性引当額を定義し、注記の対象となる範囲が明確化されました(税効果会計基準注解(注8)(1)参照)。これにより、これらについて翌期以降に外国税額控除余裕額等が生ずることが確実に見込まれず繰延税金資産を計上しない場合においても、繰延税金資産と評価性引当額を両建てで注記することに留意が必要です。
子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について税効果適用指針22項(1)を満たさないことにより繰延税金資産を計上していない場合には、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産が存在していません。このため、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)も存在しないと考えられますので、評価性引当額の注記の対象外となります。また、組織再編に伴い受け取った子会社株式又は関連会社株式(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く。)に係る将来減算一時差異のうち、当該株式の受取時に生じていたものについて、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思決定及び実施計画が存在しない場合に、税効果適用指針8項(1)ただし書きにより繰延税金資産を計上していないときについても同様であると考えられます(税効果会計基準一部改正32項)。
完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上の損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについて、当該子会社株式を将来売却するか、当該子会社を清算するか等が判明していないときに、一時差異(将来減算一時差異)として取り扱うか否かが明確ではありませんでした。これについては、当該子会社株式を将来売却するか、当該子会社を清算するか等が判明していない場合であっても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つものに含め、一時差異(将来減算一時差異)に該当するものと整理されました。このため、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損を計上している場合で、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低いと判断して繰延税金資産を計上しない場合にも、当該一時差異に係る繰延税金資産と評価性引当額を両建てで注記することに留意が必要です。
2015年12月28日公表の回収可能性適用指針18項では、「(分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする」とされ、監査委員会報告第66号の「判断できるものとする」との表現から変更されたことにより、(分類1)に該当する企業はスケジューリング不能な将来減算一時差異も含め、将来減算一時差異のすべてに対して繰延税金資産を計上するものとされていました(企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」に対するコメント5.主なコメントの概要とその対応91)。
この点、例えば、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合のように、将来の状況により税務上の損金に算入されない項目に係る一時差異について、例外的に回収可能性がないと判断する場合があることを明らかにするため、改正回収可能性適用指針18項では、「(分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」と「原則として、」との文言が追加されました(改正回収可能性適用指針67-4項)。
なお、当該改正は完全支配関係にある国内の子会社株式に係る将来減算一時差異に限定されています。すなわち、完全支配関係のない子会社株式等の評価損に係る将来減算一時差異は将来のいずれかの時点で損金に算入されるものであり、当該将来減算一時差異まで回収可能性がないものとして取り扱うことは、スケジューリング不能な一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱いを見直すことにつながるため、本改正の対象とされていません(改正回収可能性適用指針67-5項)。
上記改正により、(分類1)の企業が完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損に対して繰延税金資産を計上していた場合で、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合においては、当該繰延税金資産を取り崩すことに留意が必要になります。
なお、連結財務諸表作成会社が個別財務諸表において、当該繰延税金資産を取り崩した場合、子会社株式の評価損に係る将来減算一時差異に対して繰延税金資産が計上されており、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して、当該繰延税金資産と同額の繰延税金負債を計上していたケースから、当該評価損に対して繰延税金資産が計上されておらず、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上しないケースになります(税効果適用指針20項)。このため、連結財務諸表上、当該評価損の消去に係る繰延税金負債を取り崩すことになると考えられ、個別財務諸表上の繰延税金資産の取崩しの影響は連結財務諸表上の繰延税金負債の取崩しにより相殺されることになります。したがって、連結財務諸表作成会社の連結財務諸表においては本改正による影響は生じないと考えられます。
改正回収可能性適用指針18項を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることから新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する必要があります(改正回収可能性適用指針49-3項、過年度遡及会計基準6項(1))。新たな会計方針を遡及適用する場合には、表示期間(当期の財務諸表及びこれに併せて過去の財務諸表が表示されている場合の、その表示期間をいう。)より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映することとされています(過年度遡及会計基準6項、7項)。したがって、会計方針の変更により遡及適用がなされた場合、本改正による繰延税金資産の取崩しの影響は、比較情報として表示される財務諸表(2018年3月期)の期首に反映され、株主資本等変動計算書における前期首の繰越利益剰余金に計上される会計方針の変更の影響額は「会計方針の変更による累積的影響額」として比較情報における繰越利益剰余金の「当期首残高」に加算し、影響額反映後の当期首残高は「会計方針の変更を反映した当期首残高」として表示されることになるため留意が必要です。
なお、会社法における計算書類は単年度開示であるため、計算書類における累積的影響額を反映させるべき最も古い期間の期首は「当期首」となります。したがって、計算書類における遡及適用の影響額は当期首の残高に調整することから(会社計算規則96条7項1号かっこ書き)、財務諸表と計算書類とで、累積的影響額を反映させるべき時点が異なることに留意が必要です。
権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額は、公正な評価単価に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定します(有償ストック・オプション取扱い5項(3))。
公正な評価単価は付与日において算定し、失効の見込みについては権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しません。また、付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積り数に重要な変動が生じた場合、これに伴い権利確定条件付き有償新株予約権数を見直すこととされ、この場合、失効数の見直しによる影響は、見直しを行った期の損益として計上することになります。
したがって、権利確定条件付き有償新株予約権を付与した当初には業績条件の達成可能性が低いと判断していたが、その後業績条件の達成可能性が高まった場合には、失効数の見込数が減少することから、当該期に費用計上総額の見直しがなされることになります。
以上を簡単な設例で示すと以下のとおりとなります。
前提条件
A社(3月31日決算)は、従業員5名に対し、2018年7月1日に以下の条件のストック・オプション(権利確定条件付き有償新株予約権)を付与し、金銭が払い込まれた。
① ストック・オプション数 1人当たり100千個(合計500千個)
② ストック・オプションの権利確定日 2020年6月30日
③ 権利確定条件 ⅰ 2018年7月から2020年6月までの累計営業利益が20億円を超えることを要する、ⅱ 権利確定日において従業員の地位にあることを要する
④ 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価 100円/個
⑤ 新株予約権の払込金額の合計額 2,500千円
⑥ 付与日における勤務条件を考慮した失効見込みはゼロ、業績条件を考慮した失効見込みは475千個(権利確定見込み25千個)であり、2020年3月末において、業績条件の達成が合理的に見込まれる状況となった
会計処理(単位:百万円)
① 払込日/付与日(2018年7月1日)
ストック・オプション(新株予約権)の付与に伴う従業員等からの払込金額(2.5)(5円/個×500千個)を、純資産の部に計上する。
(借)現金預金 | 2.5 | (貸)新株予約権 | 2.5 |
② 2019年3月期
仕訳なし
(注)株式報酬費用 ゼロ=(公正な評価単価100円/個×25千個-払込金額2.5百万円)×(9カ月÷24カ月)
③ 2020年3月期
(借)株式報酬費用 | 41.6 | (貸)新株予約権 | 41.6 |
(注)41.6百万円=(公正な評価単価100円/個×権利確定すると見込まれる見直し後の数500千個-払込金額2.5百万円)×(21カ月÷24カ月)
④ 2021年3月期
(借)株式報酬費用 | 5.9 | (貸)新株予約権 | 5.9 |
(注)5.9百万円=(公正な評価単価100円/個×権利確定すると見込まれる見直し後の数500千個-払込金額2.5百万円)×(24カ月÷24カ月)-41.6百万円
従業員等に対して、有償ストック・オプション取扱いの対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、ストック・オプション会計基準2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものと定められました(有償ストック・オプション取扱い4項)。
ここで、有償ストック・オプション取扱いにおいては、未公開企業について、公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができるか否かが明確にされていないことから、有償ストック・オプションについてもストック・オプション会計基準13項の未公開企業における取扱いが適用できるか否かが論点となります。
この点、有償ストック・オプション取扱い8項においては、「本実務対応報告に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針の定めに従う。」と定められていることから、未公開企業が従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した場合、ストック・オプション会計基準13項に定める未公開企業における取扱いが適用されることになると考えられます(有償ストック・オプションコメント対応27)。
有償ストック・オプション取扱いは、2018年4月1日以後原則適用することとされています(有償ストック・オプション取扱い10項(1))。
また、有償ストック・オプション取扱いの適用にあたっては、遡及適用を原則としていますが、経過的な取扱いとして、有償ストック・オプション取扱いの適用日より前に従業員等に対して有償新株予約権を付与した取引については、従来採用していた会計処理を継続することができることとされています。ただし、この場合、情報の有用性を補うために当該取引について以下の事項を注記する必要があることに留意が必要です(有償ストック・オプション取扱い10項(3))。
なお、適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合又は従来採用していた会計処理を継続する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています(有償ストック・オプション取扱い10項(4))。
有償ストック・オプション取扱いを適用し、原則どおり、有償ストック・オプション取扱いの適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引について遡及適用した場合の払込資本の増加額は、その他資本剰余金に計上するものとされています(有償ストック・オプション取扱い10項(2))。有償ストック・オプション取扱いを遡及適用するにあたり、公表日より前に当該新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行している場合、新たな会計方針に基づき新株予約権として計上された額のうち、権利行使に対応する部分が払込資本に振り替えられます。この点、会計方針の変更により、新たな会計方針を遡及適用した場合であっても、新株予約権の行使があった場合の「資本金等増加限度額」(計規13条1項)の基礎となる「行使時における新株予約権の帳簿価額」(計規17条1項1号)を修正するものではないことから、当該払込資本の増加額は、その他資本剰余金として処理されます(有償ストック・オプション取扱い37項)。
新たな会計方針が遡及適用される場合、表示期間(会社法の場合は当期、有価証券報告書の場合は前当期)より前の期間に係る遡及適用による累積的影響額は、表示される最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映されます(過年度遡及会計基準6項、7項)。このため、有償ストック・オプション取扱いを遡及適用した場合、図表のとおり、表示される最も古い期間の(連結)株主資本等変動計算書において、前述の遡及適用に伴う払込資本の増加額を「会計方針の変更による累積的影響額」として(その他)資本剰余金に区分表示して表示することになります(株主資本等変動計算書会計基準5項なお書き)。
図表 有償ストック・オプション取扱いを遡及適用した場合の連結株主資本等変動計算書の表示例
発行済株式総数、資本金等の推移において、役員に株式を割り当てた場合には、有償第三者割当の旨、発行価格、資本組入額、割当先(取締役●名等)を記載することになります(開示府令第三号様式(記載上の注意)(23)b)。
なお、役員向け株式交付信託を導入している企業は、「役員・従業員株式所有制度の内容」において以下の事項を記載することとなります(開示府令第三号様式(記載上の注意)(27)、第二号様式(記載上の注意)(46))。
役員報酬として第三者割当により自己株式を処分した場合、当該箇所にその旨を記載することとなります(開示府令第三号様式(記載上の注意)(33)、第二号様式(記載上の注意)(52))。
「役員の状況」における「所有株式数」の欄に、役員に交付された株式の数を記載することとなります。なお、種類株式を用いた場合には種類ごとの数を記載するとされています(開示府令第三号様式(記載上の注意)(36)d)。
提出会社の役員の報酬等の総額を記載することとされており、報酬の種類別に金額を開示することになります。株式報酬の場合、報酬等の種類としては「株式報酬」や「業績連動型株式報酬」等として開示することが考えられます。
なお、有価証券報告書において記載すべき役員報酬額としては、各事業年度において会計上費用計上された金額が報酬額として開示されることになります(「『攻めの経営』を促す役員報酬 -企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-」(2019年3月時点版)Q12参照)。
また、役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載が求められています(開示府令第三号様式(記載上の注意)(37)、第二号様式(記載上の注意)(56))。
役員等に勤務条件の成就により譲渡制限が解除される譲渡制限付株式を付与し、条件が達成できなかった場合には付与した譲渡制限付株式を会社が無償で取得する株式報酬制度である事前交付型リストリクテッド・ストックを導入した企業においては、条件未達により会社が付与した株式を無償取得することがあります。
このように、役員等より自己株式の無償取得を行った場合において、無償で取得した自己株式の数に重要性があり、かつ、連結株主資本等変動計算書又は個別株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項を記載する場合(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」9項(1)②及び(2))には、その旨及び株式数を当該事項に併せて注記する必要があります(企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」15項)。
ⅰ 事前交付型リストリクテッド・ストック
事前交付型リストリクテッド・ストックは、事前に交付された株式について、株主としての権利である議決権や配当請求権は通常の普通株式と変わることはないものの、条件未達により会社に付与した株式が無償取得された場合には、企業の自己株式の数が増加するため、普通株式の期中平均株式数が減少する可能性があります。
このため、潜在株式には該当しないものの、投資家に対する情報提供の観点から、将来的に減少する可能性がある株式について、その株式数を開示する等、一定の追加情報を開示することも考えられます。
ⅱ パフォーマンス・シェア・ユニット
パフォーマンス・シェア・ユニットとは中長期の業績目標の達成度合いに応じて、中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式を交付するものであり、業績等連動期間の満了時に役員等に業績目標の達成度合いに応じた金銭報酬債権を付与し、付与された役員等が当該金銭報酬債権を現物出資して株式を発行するスキームで行われます。
このように将来において株式が発行される(又は自己株式が処分される)可能性があるため、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において考慮すべきかどうかが論点となります。
この点、「潜在株式」とは、その保有者が普通株式を取得することができる権利若しくは普通株式への転換請求権又はこれらに準じる権利が付された証券又は契約をいい、例えば、ワラントや転換証券が含まれますが(1株当たり当期純利益会計基準9項)、パフォーマンス・シェア・ユニットは前記のとおり、業績条件の達成度合いに応じて、中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式を交付するものであるため、業績が確定するまでは、普通株式を取得する権利を取得しておらず、ワラントや転換証券の定義(1株当たり当期純利益会計基準10項、11項)を満たしていないと考えられます。
ただし、「条件付発行可能普通株式」(1株当たり当期純利益適用指針4項、17項)に該当するかどうかは検討する必要があると考えられます。
なお、投資家に対する情報提供の観点からは、パフォーマンス・シェア・ユニットが「潜在株式」に該当しないとしても、潜在株式調整後1株当たり当期純利益に準じた開示を追加情報として行うことが望ましいもの考えられます(会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)ⅴ 12参照)。
役員報酬は、コーポレート・ガバナンスに関する非財務情報として開示が規定されているため、役員に対する報酬の支払は、関連当事者注記の開示対象外の取引となります(関連当事者会計基準9項(2))。
ただし、役員報酬として株式を交付する第三者割当による株式の発行又は自己株式の処分及びストック・オプションの権利行使は資本取引であるため、開示対象の取引となります(関連当事者会計基準28項)。また、企業が役員より自己株式の無償取得を行った場合には開示対象の取引となることにも留意が必要です(関連当事者会計基準29項)。
なお、関連当事者である役員については、個人に関する重要性の判断基準が適用されるため、各人の資本取引の額が少額(1,000万円以下)である場合には、開示不要となります(関連当事者適用指針16項)。
決算日後、監査報告書日までの間に新たな株式報酬制度の導入を株主総会で決議し、当該制度の導入が、翌連結会計年度(事業年度)以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす場合には、重要な後発事象の注記が必要になります(連結財規14条の9、財規8条の4)。
役員向け株式交付信託の会計処理に日本版ESOP取扱いを準用している場合には、注記事項についても従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に準じて「追加情報」、「連結株主資本等変動計算又は個別株主資本等変動計算書の注記事項」、「1株当たり情報に関する注記」を記載することが考えられます(日本版ESOP取扱い16項、17項、18項参照)。
「株式会社の役員に関する事項」において役員報酬の額を開示します(会社法施行規則121条4号、5号)。開示すべき役員報酬額としては、各事業年度において会計上費用計上された金額が報酬額として開示される点は有価証券報告書の場合と同様です。
「関連当事者注記」、「重要な後発事象」の注記が必要となります(計規112条1項、114条1項)。開示すべき内容については前記「(1)有価証券報告書における開示⑦関連当事者注記、⑧重要な後発事象」をご参照ください。
仮想通貨取扱いは、2018年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用されるため、3月末決算の(連結)財務諸表作成会社では、当期から原則適用されます。なお、自己(自己の関係会社を含む。)の発行した仮想通貨は、仮想通貨取扱いの適用対象とはされません。
仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理は<図表>のとおりです(仮想通貨取扱い5項~7項)。
図表 期末における仮想通貨の評価に関する会計処理
活発な市場が存在する場合 |
活発な市場が存在しない場合 |
|
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貸借対照表価額 |
市場価格に基づく価額 |
取得原価 |
貸借対照表価額と帳簿価額との差額の処理 |
当期の損益 |
処分見込価額(※) < 取得原価の場合、その差額は当期の損失 |
(※)ゼロ又は備忘価額を含みます。 |
「活発な市場が存在する場合」とは、保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいいます(仮想通貨取扱い8項)。
活発な市場が存在する仮想通貨が、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合、活発な市場が存在しない仮想通貨となる前に最後に観察された市場価格に基づく価額をもって取得原価とし、評価差額は当期の損益として処理します。活発な市場が存在しない仮想通貨となった後の期末評価は、活発な市場が存在しない仮想通貨として行います(仮想通貨取扱い11項)。また、活発な市場が存在しない仮想通貨が、その後、活発な市場が存在する仮想通貨となった場合、その後の期末評価は、活発な市場が存在する仮想通貨として行うことになります(仮想通貨取扱い12項)。
仮想通貨利用者において、活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価は、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格を用いることとされています(仮想通貨取扱い9項)。
仮想通貨の売却損益は、当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識します(仮想通貨取扱い13項)。
仮想通貨取扱いの適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われますが、適用初年度における経過的な取扱いが定められていないことから、新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する必要があります(過年度遡及会計基準6項(1))。会計方針の変更により遡及適用がなされたことによる影響は、比較年度(2018年3月期)の期首(会社法における(連結)計算書類においては2019年3月期の期首)に反映され、当該影響については、会計方針の変更の影響額として注記することを検討することになります。
仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示することとされています(仮想通貨取扱い16項)。
仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、次の事項を注記することとされています(仮想通貨取扱い17項本文)。
ⅰ 仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
ⅱ 仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額
ただし、貸借対照表価額が僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができます(仮想通貨取扱い17項また書き)。
仮想通貨交換業者においては、仮想通貨交換業者自ら仮想通貨を保有する場合と、仮想通貨交換業者が預託者から預かっている場合とで会計処理や開示が異なります。
会計処理及び売却損益の認識時点については、仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理と同様です(Q12 (1)①、④参照)。
「活発な市場が存在する場合」の判断規準については、仮想通貨利用者の保有する仮想通貨と同様です(Q12 (1)③参照)。
ただし、仮想通貨交換業者においては、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所が自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所である場合、当該仮想通貨交換業者は、自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格等が「公正な評価額」を示している市場価格であるときに限り、時価として期末評価に用いることができます(仮想通貨取扱い10項)。
仮想通貨交換業者は、預託者との預託の合意に基づいて仮想通貨を預かった時に、預かった仮想通貨を預かった時の時価により資産として認識します。
また、これと同時に、預託者に対する返還義務を負債として認識しますが、当該負債の当初認識時の帳簿価額は、預かった仮想通貨に係る資産の帳簿価額と同額とします(仮想通貨取扱い14項)。
仮想通貨交換業者は、預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額について、仮想通貨交換業者自身が保有する同一種類の仮想通貨から簿価分離した上で、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、仮想通貨交換業者の保有する仮想通貨と同様の方法により評価を行います。
また、預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益は計上されません(仮想通貨取扱い15項)。
仮想通貨交換業者における仮想通貨取扱いの適用初年度の取扱いは、仮想通貨保有業者の場合と同様です(Q6 (2)参照)。
仮想通貨交換業者が仮想通貨の売却取引を行う場合も、仮想通貨利用者と同様に、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示します(仮想通貨取扱い16項)。
仮想通貨交換業者が期末日において保有する仮想通貨及び預託者から預かっている仮想通貨については、次の事項を注記することとされています(仮想通貨取扱い17項本文)。
ⅰ 仮想通貨交換業者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
ⅱ 仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
ⅲ 仮想通貨交換業者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額
ただし、仮想通貨交換業者は、仮想通貨交換業者自身が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額と預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額を合算した額が、資産総額に比して僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができます(仮想通貨取扱い17項ただし書き)。
2018年9月14日に実務対応報告18号等の改正が公表され、2019年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から原則適用となりますが、公表日以後最初に終了する連結会計年度及び四半期連結会計期間から早期適用することができます。
(1)改正の概要
在外子会社等において国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」(以下「IFRS第9号」という。)を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合、売却損益及び減損損失の累計額は、その他の包括利益に表示され、純損益への組替調整は行われません。このため、今回の改正において、これらの組替調整を修正項目として追加することとされています(図表参照)。また、持分法適用関連会社において実務対応報告第18号に準じて処理を行う場合にも、当該修正を行うことになります。
図表 追加された修正項目
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(※1) 売却時又は減損時に、累積されたOCIを当期の損益に計上すること |
改正実務対応報告18号等の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることになります。ただし、以下の経過措置が認められています。
実務対応報告18号等の当面の取扱いを適用し、IFRSや米国会計基準により作成された連結子会社及び持分法適用会社(以下、これらを合わせて「連結子会社等」という。)の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合において、連結子会社等の財務諸表が適用しているIFRSや米国会計基準の改訂が行われたときには、連結財務諸表においても会計方針の変更として取り扱われ、重要性に応じて会計方針の変更の注記の要否を検討する必要があります。また、IFRSや米国会計基準において公表済で未適用の会計基準等がある場合にも、その重要性を踏まえて注記の要否を検討する必要があります。
実務対応報告18号は、連結財務諸表作成における連結子会社の会計処理について定めたものであり、表示科目及び注記については特段の定めはされていません。したがって、IFRS及び米国会計基準の改訂により、連結子会社の個別財務諸表において新たな表示科目が使用されることになった場合等(例えば、連結子会社がIFRS第15号を適用し、契約資産等の表示科目を新たに使用する場合や、連結子会社がIFRS第9号を適用し、金融商品の分類及び測定を行った場合等)においても、連結財務諸表における表示科目及び注記については、連結財規等に基づき、適切と判断される表示科目を使用し、注記を行うものと考えられます。
2019年1月31日に、開示府令の改正が公布、施行されています。2018年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(以下「WG報告」という。)における「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に関する提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正が行われています。
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なお、財務会計基準機構(FASF)セミナー資料の「有価証券報告書の作成要領」ⅱページにおいて、2019年1月改正の開示府令に関する適用時期については、次の点が示されています。
2018年3月30日に、財務会計基準機構(FASF)から「有価証券報告書の開示に関する事項-『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取り組み-」が公表され、有価証券報告書と事業報告等の記載の共通化を図る上での留意点や記載事例が示されました。また、同日付けで、金融庁・法務省から公表された「『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた対応について」においては、「有価証券報告書の開示に関する事項」に掲げられた「作成にあたってのポイント」及び「記載事例」の内容は、関係法令の解釈上、問題ないものと考えられる旨が記載されています。
なお、2018年12月28日に、「事業報告と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」(内閣官房、金融庁、法務省、経済産業省の連名)が公表され、事業報告等と有価証券報告書の一体的開示の記載例の紹介がされています。
金融庁は、WG報告における提言を踏まえ、2019年3月19日に、「記述情報の開示に関する原則」(以下「本原則」という。)を公表しています。
WG報告では、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、開示の考え方、望ましい開示の内容や取組みをまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきと提言されました。
本原則は、企業情報の開示に関する上記提言を踏まえ、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取組みをまとめたものです。このため、新たな開示事項を加えるものではありませんが、開示書類の作成・公表に関与する者(例えば、経営者、作成事務担当者、IR 担当者等)には、この原則に沿った開示が実現しているか、自主的な点検を継続することが期待され、また、投資家が企業との対話を行う際に利用することも有用と考えられる、とされています。
本原則では、まず総論として、以下の原則を定めるとともに、それぞれの原則について、考え方及び望ましい開示に向けた取組みが示されています。
ⅰ 企業の情報開示における記述情報の役割
1-1. 記述情報は、財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とする。また、記述情報が開示されることにより、投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業の経営の質を高めることができる。このため、記述情報の開示は、企業が持続的に企業価値を向上させる観点からも重要である。企業は、記述情報及びその開示のこのような機能を踏まえ、充実した開示をすることが期待される。
ⅱ 記述情報の開示に共通する事項
取締役会や経営会議の議論の適切な反映
2-1. 記述情報は、投資家が経営の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められる。
重要な情報の開示
2-2. 記述情報の開示については、各企業において、重要性(マテリアリティ)という評価軸を持つことが求められる。
セグメントごとの情報の開示
2-3. 記述情報は、投資家に対して企業全体を経営の目線で理解し得る情報を提供するために、適切な区分で開示することが求められる。
分かりやすい開示
2-4. 記述情報の開示に当たっては、その意味内容を容易に、より深く理解することができるよう、分かりやすく記載することが期待される。
次に、各論として、以下の開示項目について、考え方及び望ましい開示に向けた取組みが示されています。また、以下の開示項目は、2019年1月31日に公布、施行された改正開示府令により記載が求められる事項として示されています。このため、前記「(2)適用時期」のとおり、2020年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から適用となりますが、この3月期の有価証券報告書からの早期適用も可能とされています。
ⅰ 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
1-1. 経営方針・経営戦略等
1-2. 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
1-3. 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
ⅱ 事業等のリスク
ⅲ 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)
3-1. MD&Aに共通する事項
3-2. キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資本の流動性に係る情報
3-3. 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
金融庁は、WG報告における提言を踏まえ、2019年3月19日に、「記述情報の開示の好事例集」(以下「本好事例集」という。)を公表しています。
我が国の開示内容の充実を図る上では、開示に関するルールやプリンシプルベースのガイダンスの整備に加え、適切な開示の実務の積上げを図る取組みも必要と考えられることから、金融庁は、投資家・アナリスト及び企業による開示の好事例(ベストプラクティス)収集のための勉強会を開催し、当該勉強会において投資家・アナリストから紹介された開示例を本好事例集として取りまとめました。
本好事例集には、本原則に対応する形で、各開示例のよいポイントが示されています。また、有価証券報告書における開示例に加え、任意の開示書類における開示例のうち、有価証券報告書における開示の参考となり得るものも含められています。これらの開示例を参考に、本原則に即した有価証券報告書の開示の充実が図られることが期待されています。
なお、本好事例集は随時更新を行うとともに、必要に応じて、本原則に反映していくことにより、開示内容全体のレベルの向上を図ることも予定されています。
今回の改正により、【コーポレート・ガバナンスの状況等】の「役員の報酬等」の開示に関して、業績連動報酬などの開示が拡充されており、2019年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から適用となります。なお、役員ごとの個別開示について、「連結報酬等の総額が1億円以上の者に限ることができる」という点は変更がされていません。
改正後 |
従来 |
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報酬等の種類別(例えば、固定報酬、業績連動報酬及び退職慰労金等の区分)の総額 |
報酬等の種類別(例えば、基本報酬、ストック・オプション、賞与及び退職慰労金等の区分)の総額 |
今回の改正では、開示項目のうち、報酬等の「種類別」の例が変更されています。これは、従来の例として挙げられている「基本報酬」の定義が曖昧であったこと、「業績連動報酬」に関する開示の拡大に合わせているといったことが背景にあると考えられます。
改正後 |
従来 |
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提出日現在において、提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針について、 |
提出日現在において、提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針について、提出日現在における方針の内容、決定方法、方針を定めていない場合はその旨 |
今回の改正により、従来の開示に加えて、役職ごとの報酬額等の決定方針の開示が求められています。これは、WG報告で、「役職ごとの支給額についての考え方を定めている場合にはその内容など、報酬の決定・支給の方法やこれらに関する考え方を具体的かつ分かりやすく記載することを求めるべき」という意見を反映したものです。
また、今回の改正により、方針の決定権限者の情報、方針の決定に関与する委員会等の手続の概要の開示も求められています。これは、WG報告で、「報酬決定プロセスの客観性・透明性のチェックを可能とするため、算定方法の決定権者、その権限や裁量の範囲、報酬委員会がある場合にはその位置付け・構成メンバー等の情報(中略)についても開示を求めるべき」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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提出会社の役員の報酬等に、業績連動報酬が含まれる場合は、 |
- |
ここでいう「業績連動報酬」とは、利益の状況を示す指標や株式の市場価格の状況を示す指標等、提出会社又は関係会社の業績を示す指標を基礎として算定される報酬等を指します。今回の改正では、以下のWG報告の提言を踏まえ、業績連動報酬に関する開示が求められています。
改正後 |
従来 |
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① 提出会社の役員の報酬等に関する株主総会の決議が |
- |
今回の改正により、役員の報酬等に関する株主総会の決議の年月日(決議がない場合は定款の内容)の開示が求められています。また、最近事業年度の役員の報酬等の額の決定過程における、取締役会、委員会等の活動内容の開示も求められています。これは、WG報告で、「報酬決定プロセスの(中略)実効性を確認できるよう、取締役会・報酬委員会の具体的活動内容などについても開示を求めるべき」という意見を反映したものです。
今回の改正により、【コーポレート・ガバナンスの状況等】の「株式の保有状況」の開示に関して、政策保有株式の保有の合理性の検証方法などの開示が拡充されており、2019年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から適用となります。
改正後 |
従来 |
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① 保有目的が純投資目的である投資株式と純投資目的以外の目的である投資株式(政策保有株式)の区分の基準や考え方 |
- |
今回の改正では、以下のWG報告の提言を踏まえ、政策保有株式の基本情報に関する開示の拡充が図られています。
改正後 |
従来 |
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保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式を非上場株式とそれ以外に区分し、 |
保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の |
今回の改正により、政策保有株式について、変動した銘柄数、変動に係る取得(売却)価額の合計額、増加の理由の開示が求められています。これは、WG 報告で、「時価変動等により開示銘柄に差が生じるケースにおいて、各年の異動状況の把握ができない」という意見を反映したものです。
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保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式(非上場株式を除く)及び、みなし保有株式のうち |
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① 当該銘柄の貸借対照表計上額が提出会社の資本金額の1%を超えるもの |
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今回の改正により、個別開示の対象となる政策保有株式の範囲が30銘柄から60銘柄に拡大されています。これは、WG報告で、「開示対象となる銘柄数を増やすべき」という意見を反映するものです。また、60銘柄という数字は、「日経 500種企業による政策保有株式の保有銘柄数の中央値が 63.0」(WG 報告)という点を参考にしていると考えられます。
改正後 |
従来 |
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① 銘柄 |
① 銘柄 |
今回の改正により、個別開示の対象となった政策保有株式について、経営方針等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果、株式数の増加理由の開示が求められています。これは、WG報告で、「政策保有株式に係る開示の現状をみると、保有目的の説明が定型的かつ抽象的な記載にとどまっており、保有の合理性・効果が検証できない」という意見を反映したものです。
また、個別開示の対象となった政策保有株式の発行者による、提出会社の株式の保有に関する情報の開示も求められています。これは、WG報告で、「投資判断を行う上では、(中略)当該投資先企業の株式が政策保有目的の株主に保有されている状況についても検証する必要がある」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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非上場株式とそれ以外に区分し、 |
非上場株式とそれ以外に区分し、 |
今回の改正により、保有目的が純投資目的である投資株式について、新たに最近事業年度とその前事業年度における「銘柄数」の開示が追加されています。
今回の改正により、【コーポレート・ガバナンスの状況等】の「監査の状況」の開示に関して、監査人の選定理由・評価、監査報酬の同意理由などの開示が拡充されており、各開示項目の適用時期は以下となります。
改正後 |
従来 |
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① 提出会社が監査公認会計士等を選定した理由について、選定するにあたって考慮している方針(解任、不再任の決定の方針を含む。)を含めて具体的に記載 |
- |
今回の改正では、以下のWG報告の提言を踏まえ、監査人の選定理由・選定方針(解任・不再任の決定方針を含む)の開示が求められています。これは、WG報告で、「監査人が被監査会社から報酬を得るという関係性に鑑みると、企業が適切に監査人を選任しているか、監査人の独立性が担保され十分に機能しているかを知る上で重要な情報である」という意見を反映したものです。
また、監査役会等が監査人の評価を行った場合、その旨及び内容の開示も求められています。
改正後 |
従来 |
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① 最近2連結会計年度において、提出会社及び提出会社の連結子会社がそれぞれ下記の者に支払った、又は支払うべき報酬(監査証明業務と非監査業務に区分して記載) ② ①に記載する報酬のほか、最近2連結会計年度において、連結会社の監査証明業務に基づく報酬として重要な報酬がある場合は、その内容を具体的かつ分かりやすく記載 ③ 監査役会が「会計監査人の職務を行うべき者の報酬等」について同意をした理由 |
① 最近2連結会計年度において、提出会社及び提出会社の連結子会社が下記の者に支払った、又は支払うべき報酬(監査証明業務と非監査業務に区分して記載) ② ①に記載する報酬のほか、最近2連結会計年度において、連結会社の監査報酬等として重要な報酬がある場合は、その内容を具体的かつ分かりやすく記載 |
従来、ネットワークベースの報酬は、重要な報酬の例として挙げられていました。今回の改正により、ネットワークベースの報酬の開示が必須となっており、監査証明業務と非監査業務に区分した開示(報酬を記載した非監査業務の内容を含む。)が求められています。これは、WG報告で、「ネットワークベースの報酬額・業務内容は、監査人の独立性を判断する観点から重要な情報である」という意見を反映したものですが、2019年3月期は従前規定によることが認められています。
また、監査役会が監査報酬に同意をした理由の開示も求められています。これは、WG報告で、「有価証券報告書における総覧性の向上の観点から、会社法上開示されている(中略)監査役会等が監査報酬額に同意した理由(中略)について、有価証券報告書でも開示されるべき」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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以下の事項について具体的かつ分かりやすく記載 |
以下の事項について具体的かつ分かりやすく記載 |
今回の改正により、最近事業年度における監査役会等の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況、常勤の監査役の活動等)の開示が求められています。
これは、WG報告で、「監査役会等の具体的な活動状況は、監査役会等の実効性を判断する上で必要な情報である。監査人と監査役の連携状況等を理解するため、開催頻度や出席状況等の計数的な開示だけでなく、議論された内容や監査役会が監査人の指摘にどのように対応したか等も含まれるべきである」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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提出会社の監査公認会計士等が監査法人である場合 提出会社の監査公認会計士等が公認会計士である場合(略) |
① 業務を執行した公認会計士の |
今回の改正により、監査公認会計士等が「監査法人である場合」と「公認会計士である場合」に区分した記載が求められています。また、監査法人である場合は、継続監査期間について 7会計期間以下であっても開示が必須となっています(従来は7年超の場合に限るとされていました。)。これは、WG報告で、「監査法人におけるローテーション制度が導入されていない中、継続監査期間は、監査人の独立性を判断する観点から重要な情報である」という意見を反映したものです。
今回の改正では、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】、【事業等のリスク】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の開示に関して、経営者の認識に基づく開示などが拡充されており、2020年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から適用となります。ただし、2019年3月31日以後終了する事業年度の有価証券報告書からの早期適用も可能です。
改正後 |
従来 |
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① 最近日現在における連結会社の経営方針、経営戦略等の内容 |
① 最近日現在における連結会社の経営方針、経営戦略等の内容 |
今回の改正により、経営方針等の内容として、経営環境についての経営者の認識の説明を含め、主な事業の内容と関連付けて記載することが求められます。これは、WG報告で、「ビジネスモデルについても(中略)経営戦略と関連付けて説明し、投資家による経営戦略の適切性や実現可能性の考察にも資するものとすべき」という意見を反映したものです。
また、優先的に対処すべき事業上・財務上の課題について、その内容・対処方針等を経営方針等と関連付けて記載することも求められています。これは、WG報告で、「経営戦略の実施状況や今後の課題もしっかりと示しながら、MD&AやKPI、リスク情報とも関連付けて、より具体的で充実した説明がなされるべき」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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① 有価証券報告書等に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、 |
① 有価証券報告書等に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、 |
今回の改正により、「主要なリスク」について、顕在化する可能性の程度や時期、経営成績等の状況に与える影響の内容、対応策を記載することが求められます(従来は「主要な」という文言なし)。また、リスクの重要性や経営方針等・経営戦略等との関連性の程度を考慮して記載することになります。
これは、WG報告で、「経営者視点からみたリスクの重要度の順に、発生可能性や時期・事業に与える影響・リスクへの対応策等を含め、企業固有の事情に応じたより実効的なリスク情報の開示を促していく必要がある」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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① 経営成績等の状況に関して、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者による認識、分析・検討内容を、経営方針等の内容のほか、有報に記載した他の項目の内容と関連付けて記載 |
① 経営成績等の状況に関して、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者による認識、分析・検討内容を記載 |
今回の改正により、経営成績等の状況に関して、経営者による認識・分析・検討内容を、経営方針等の内容のほか、他の項目の内容と関連付けて記載することが求められます。これは、WG報告で、「セグメント分析に際しては、経営管理と同じセグメントに基づいて、セグメントごとの資本効率も含め、セグメントの状況がより明確に理解できるような情報が開示されることが必要である」という意見を反映したものです。
また、キャッシュ・フローの状況の分析等の記載について、資金調達の方法・資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載することが求められます。これは、WG報告で、「投資判断に不可欠な情報であり、どこからどのように資本やキャッシュを調達しているのか、経営戦略の遂行上、調達した資本やキャッシュをどのように設備投資や研究開発に振り分けていくのか、といった情報がより実効的に開示されるべき」という意見を反映したものです。
さらに、会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、「経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報の記載が求められています。これは、WG報告で、「会計上の見積り・仮定は、投資判断・経営判断に直結するものであり、経営陣の関与の下、より充実した開示が行われるべき」という意見を反映したものです。
「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」以外の改正項目として、主要な経営指標等の推移(株主総利回り)、コーポレート・ガバナンスの概要(基本的な考え方等)などの開示が拡充されており、2019年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から適用となります。
今回の改正では、最近 5 年間の株主総利回りの推移を、提出会社が選択する株価指数の最近 5 年間の総利回りと比較して記載することを新たに求めています。
今回の改正では、コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方を記載することを求めています。また、企業統治の体制の概要に、設置する機関に関する名称、目的、権限、構成員の氏名を記載することになります。
収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています(以下「原則的な取扱い」という。)。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(収益認識会計基準84項)。
収益認識会計基準を遡及適用する場合、比較年度から収益認識会計基準を適用することになりますので、システム変更や内部統制の見直し等が必要となる企業においては、導入スケジュールにも影響が及ぶ可能性があります。したがって、適用初年度において、遡及適用するのか、適用初年度の期首から新たな会計方針を適用するのかの方針については早めの検討が必要となることに留意が必要です。
原則的な取扱いに従って遡及適用する場合であっても、以下ⅰからⅲの方法の1つ又は複数を適用することができるとされています(収益認識会計基準85項)。遡及適用する企業においても以下のいずれの方法で遡及適用するのか、早めの検討と対応が必要になると考えられます。
ⅰ 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表及び適用初年度の前事業年度の個別財務諸表(以下、これらを合わせて「適用初年度の比較情報」という。)を遡及的に修正しないこと
ⅱ 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
ⅲ 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
(ア)履行義務の充足分及び未充足分の区分
(イ)取引価格の算定
(ウ)履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分
適用初年度に経過措置を選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことができるとされています。また、経過措置を選択する場合、契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することができることとされています(収益認識会計基準86項)。
国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に収益認識会計基準を適用する場合には、適用初年度において、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」又はTopic 606「顧客との契約から生じる収益」のいずれかの経過措置の定めを適用することができることとされています。また、IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に収益認識会計基準を適用する場合には、その適用初年度において、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」における経過措置に関する定めを適用することができるとされています(収益認識会計基準87項)。
適用初年度において、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。したがって、消費税等の会計処理も遡及適用することが原則となりますが、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができるとする経過措置が定められています(収益認識会計基準89項)。
収益認識会計基準18項では「本会計基準の定め(適用指針92項から104項に定める重要性等に関する代替的な取扱いを含む。)は、顧客との個々の契約を対象として適用する」と定められています。また、同項ただし書きにおいて「ただし、本会計基準の定めを複数の特性の類似した契約又は履行義務から構成されるグループ全体を対象として適用することによる財務諸表上の影響が、当該グループの中の個々の契約又は履行義務を対象として適用することによる影響と比較して重要性のある差異を生じさせないことが合理的に見込まれる場合に限り、当該グループ全体を対象として本会計基準の定めを適用することができる。」と定められています。
この収益認識会計基準18項のただし書きの定めは「例えば、特性の類似した複数の契約に含まれる財及びサービスのそれぞれが履行義務として識別され、当該履行義務に取引価格を配分する際には、原則として、個々の契約について、財及びサービスのそれぞれの独立販売価格の比率に基づくこととなる。ただし、個々の契約に基づき配分された取引価格との差異が財務諸表上の重要性のある影響を生じさせないことが合理的に見込まれる場合には、類似した複数の契約を1つのグループとし、当該グループに含まれる財及びサービスの独立販売価格の合計と取引価格の合計との比率を用いて、当該グループに含まれる各契約の財及びサービスの独立販売価格から当該財及びサービスに配分される取引価格を算定する方法も認められる」(収益認識会計基準116項)とされているように、個々の契約に対して収益認識会計基準を適用すると、実務負担が非常に重たくなることを想定して定められたものであることから、同項本文の定めは収益認識の単位について定めているものであり、経過措置には適用されないものと考えられます。
IFRS第15号においても同様の経過措置が定められていますが、これを適用する場合には、表示されるすべての契約に首尾一貫して適用しなければならないとされています(IFRS15.C6)。
この点、収益認識会計基準の開発における経過措置の検討において、経過措置は、IFRS第15号をベースとしているため、IFRS第15号における定めを原則とするとの方向性で議論がなされ、IFRS第15号と同様の経過措置が定められました。このことから、収益認識会計基準86項の経過措置もIFRS第15号と同様に、会社のすべての「従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約」に首尾一貫して適用しなければならないと考えられます。
なお、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一する必要があり、かつ、連結財務諸表は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならないとされています(連結会計基準17項、10項、親子会社間会計処理統一取扱い3項、4項(1)、(3)、5項(1))。このため、親会社が連結財務諸表及び個別財務諸表において収益認識会計基準86項の経過措置を適用した場合、連結子会社の個別財務諸表においても同項の経過措置を適用することが原則となります。
早期適用時における表示及び注記事項に関しては以下の定めが設けられています。
収益認識会計基準においては、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示し、これらを区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することとされています。
ただし、収益認識会計基準を早期適用する場合においては、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができるとされています(収益認識会計基準88項)。
顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記することとされています(収益認識会計基準80項)。なお、上記以外の注記事項については、原則適用時までに検討することとされています(収益認識会計基準156項)。
収益認識会計基準の公表に伴い、財規や計規も以下のとおり改正されていることに留意が必要となります。なお、いずれも適用時期は収益認識会計基準の適用と同様とされ、早期適用する企業においては、2019年3月期から下記の改正が適用されることになります。
収益認識に関する注記として以下の事項が追加されています(財規8条の32、連結財規15条の26)。
また、収益認識会計基準等の適用により企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」が廃止されることから、たな卸資産及び工事損失引当金の注記に関しての規定が削除されています(財規54条の4、連結財規40条、中間財規31条の3、中間連結財規43条)。
さらに、収益を認識するための5ステップの適用及び割賦基準に基づく収益計上が認められなくなることに伴い、以下の規定が削除されています(財規72条、73条)。
収益認識に関する注記として以下の事項が追加されています(計規115条の2)。