平成30年6月第1四半期 決算上の留意事項

公認会計士 加藤圭介・武澤玲子・村田貴広

この平成30年6月第1四半期においては、税効果会計基準一部改正等、開示府令の改正、仮想通貨取扱い及び有償ストック・オプション取扱いが原則適用となります。また、収益認識会計基準を早期適用することができます。

本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、平成30年6月第1四半期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。

Q1税効果適用指針等の適用と会計方針の変更
Q2子会社株式等に係る将来加算一時差異の改正
Q3税効果会計一部改正等が会計方針の変更に該当しない場合の注記
Q4税効果会計一部改正による表示方法の変更の留意点

Q5開示府令改正の四半期報告書への影響

Q6仮想通貨利用者の会計処理と開示
Q7仮想通貨交換業者の会計処理と開示

Q8有償ストック・オプション取扱い適用時における開示上の取扱い(経過措置を適用する場合)
Q9有償ストック・オプション取扱い適用時における開示上の取扱い(経過措置を適用しない場合)

Q10開示上の取扱い
Q11表示科目の取扱い
Q12経過措置-原則的な取扱いに従って遡及適用する場合
Q13経過措置-期首剰余金に加減する方法を選択した場合

Q14実務対応報告18号等の留意点
 

なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。

正式名称

本文中の略称

企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」過年度遡及会計基準
企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」税効果会計基準一部改正
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」収益認識会計基準
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」回収可能性適用指針
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」税効果適用指針
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」実務対応報告18号
実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」有償ストック・オプション取扱い
実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」仮想通貨取扱い
企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」、改正企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」及び企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」税効果会計基準一部改正等
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」及び実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」         実務対応報告18号等
「企業内容等の開示に関する内閣府令」開示府令
「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」四半期財規
「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」四半期連結財規
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について財規ガイドライン
「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について四半期財規ガイドライン
「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について四半期連結財規ガイドライン
会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(注)連結税効果実務指針
会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(注)個別税効果実務指針
国際財務報告基準第15号「顧客との契約から生じる収益」IFRS第15号

(注)連結税効果実務指針及び個別税効果実務指針は、税効果会計一部改正等の公表に伴い廃止されています


税効果会計編

Q1. 税効果適用指針等の適用と会計方針の変更

連結財務諸表作成会社、連結財務諸表を作成しない会社のそれぞれにおいて、税効果適用指針等の適用が会計方針の変更に該当するのはどのようなケースでしょうか。

A1.

(1)税効果適用指針等の概要と会計方針の変更

税効果適用指針では、基本的に連結税効果実務指針、個別税効果実務指針の内容を踏襲した上で、必要と考えられる会計処理について見直しを行っています。また、回収可能性適用指針は、税効果適用指針の公表に伴い、所要の改正を行ったものです。これらの会計処理に関する改正点は以下のとおりです。

  • 個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下、これらを合わせて「子会社株式等」という。)に係る将来加算一時差異の取扱い(税効果適用指針8項(2))
  • 子会社の利益のうち投資時に留保しているものに関する個別財務諸表上、連結財務諸表上の繰延税金負債の取扱い(税効果適用指針24項)
  • (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(回収可能性適用指針18項)

これらの項目が四半期財務諸表、四半期連結財務諸表のそれぞれに与える影響は、図表のとおりです。

図表 会計処理に関する改正が四半期財務諸表、四半期連結財務諸表に与える影響

四半期財務諸表

四半期連結財務諸表

個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(将来、配当送金されると見込まれるもの以外)

個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上していた企業は影響あり

左記に該当する企業で、連結財務諸表上も繰延税金負債を取り崩すことなく計上していた企業は影響あり

子会社の利益のうち投資時(支配獲得時)に留保しているものに関する繰延税金負債の取扱い

影響なし

子会社の利益のうち投資時に留保しているものに対して繰延税金負債を計上していた企業は影響あり

(分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損に対して繰延税金資産を計上していた場合で一定の場合には影響あり

非連結子会社株式の評価損に対して繰延税金資産を計上していた場合を除き影響なし

なお、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いについては、Q2もご確認ください。

(2)適用初年度の四半期における取扱い

税効果適用指針の適用初年度においてこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われ、経過的な取扱いも定められていないことから、新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する必要があります(税効果適用指針65項(2)、161項、過年度遡及会計基準6項(1))。会計方針の変更により遡及適用がなされた場合、本改正による影響は、比較年度(平成30年3月期)の期首に反映され、当該影響については、重要性に応じて会計方針の変更の影響額として注記を検討することになります。なお、四半期(連結)財務諸表においては(連結)株主資本等変動計算書の作成は求められませんが、会計方針の変更に伴い、比較年度の期首の利益剰余金に著しい変動が生じた場合には、株主資本等の著しい変動に関する注記をすることが考えられます(四半期連結財規92条、四半期財規82条)。


Q2. 子会社株式等に係る将来加算一時差異の改正

個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異が改正されましたが、この改正が影響を与えるのはどのようなケースでしょうか。

A2.

(1)改正の概要

連結税効果実務指針では、連結財務諸表における子会社に対する投資に係る将来加算一時差異で、留保利益のうち、将来、配当送金されると見込まれるもの以外の将来加算一時差異については、原則として、繰延税金負債を計上しますが、「親会社がその投資の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却を行う意思がない場合には当該将来加算一時差異に対して」、繰延税金負債を計上しないこととされていました(連結税効果実務指針34項、37項)。一方で、個別税効果実務指針では、個別財務諸表における子会社株式に係る将来加算一時差異について、「支払が見込まれない場合」と「組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る一時差異のうち一定の要件を満たす場合」を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされていました。

この点について、連結財務諸表における子会社又は関連会社(以下、合わせて「子会社等」という。)に対する投資に係る将来加算一時差異(留保利益に係るものが配当により解消される場合を除く。)と、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いについて整合を図るため、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異について、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ予測可能な将来の期間にその売却等を行う意思がない場合、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上しないこととする改正がなされています(税効果適用指針8項(2))。

(2)改正が個別財務諸表に与える影響

個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異について、税効果適用指針においてはどのような内容のものが生じ得るかについて記載はありませんが、例えば、以下のケースで当該将来加算一時差異が生じると考えられます。

① 子会社等において有償減資を行い、子会社株式等の会計上の簿価が税務上の簿価を上回るケース
② 完全支配関係にある国内会社間の寄附金授受による投資価額修正により、完全親会社における寄附金支払側の子会社株式の会計上の簿価が税務上の簿価を上回るケース

① 子会社等において有償減資を行い、子会社株式等の会計上の簿価が税務上の簿価を上回るケース

有償減資が行われた場合、会計上は原則として子会社株式等の帳簿価額が減額されます(企業会計基準適用指針第3号「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」3項)。一方、税務上は、払戻額に実質的な利益の分配と株式の譲渡対価と認められる部分があるとの考え方に基づき、払戻額(交付金銭等)から、交付金銭等のうち資本金等の額に対応する金額(減資資本金額)を控除した金額をみなし配当として計上し、減資資本金額と株式の譲渡原価(株式の帳簿価額×純資産減少割合)との差額を譲渡損益(完全子会社からの有償減資の場合は、譲渡損益に相当する額は、資本金等の額の加減算処理)として計上するため、在外子会社の有償減資により、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差異が生じることがあります。

会計上減額される子会社株式等よりも税務上減額される子会社株式等の方が大きい場合、個別財務諸表における子会社株式等に将来加算一時差異が生じますが、従来、将来の会計期間において支払が見込まれない税金の額を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされていました(個別税効果実務指針16項、24項)。

② 完全支配関係にある内国法人間の寄附金授受による投資価額修正により、完全親会社における寄附金支払側の子会社株式の会計上の簿価が税務上の簿価を上回るケース

税務上、完全支配関係を有する内国法人間の寄附について、寄附を行った法人においては全額損金不算入となり、寄附を受けた法人においては全額益金不算入となるとされています(法人税法25条の2、37条2項)。また、完全支配関係にある内国法人間で寄附金授受がなされた場合には親会社において、寄附金に持分割合を乗じた金額で支出側の株式の帳簿価額を減額し、受贈益に持分割合を乗じた金額で受領側の株式の帳簿価額を増額する必要があります(法人税法施行令9条1項7号、119条の3第6項)。

このように連結子会社間で寄附金の授受を行い、親会社が当該寄附金を受領した子会社の株式の簿価を税務上増額修正する場合の当該簿価修正額は将来減算一時差異となり(税効果適用指針84項(8))、親会社が当該寄附金を支出した子会社の株式の簿価を税務上減額修正する場合の当該簿価修正額は将来加算一時差異となります(税効果適用指針85項(5))。

完全支配関係にある内国法人間の寄附金授受による投資簿価修正により繰延税金資産を上回る繰延税金負債が計上されていた企業又は繰延税金負債のみが計上されていた企業においては、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ予測可能な将来の期間にその売却等を行う意思がない場合、本改正により、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債を取り崩す必要があり、第1四半期の個別財務諸表に影響を及ぼすことになります。一方、寄附金支払側の子会社株式の連結上の簿価は寄附金支出による純資産の減少分だけ減少しており、寄附金についてだけみると、連結上の簿価と税務上の簿価と差異はないため、個別財務諸表上認識した繰延税金負債は、連結財務諸表上税効果がないものとして取り消す処理を行っていたと考えられます。この場合、四半期連結財務諸表作成会社においては、このケースでの影響は生じないと考えられます。


Q3. 税効果会計一部改正等が会計方針の変更に該当しない場合の注記

税効果会計基準一部改正等の適用に伴う会計処理への影響がない場合、四半期(連結)財務諸表においてどのような注記を行うことになるでしょうか。

A3.

(1)平成30年3月期に表示及び開示に係る改正を早期適用していなかった場合

税効果適用会計基準一部改正等の適用に伴う会計処理への影響がない場合、会計方針の変更の注記を行う必要はありません。一方、税効果会計基準一部改正の適用初年度においては、表示方法の変更として取り扱われます。ただし、四半期連結財規及び四半期財規では表示方法の変更に関する注記規定がありません。このため、税効果会計基準一部改正を適用している旨を追加情報において記載することが考えられます。

(2)平成30年3月期に表示及び開示に係る改正を早期適用していた場合

前期末に表示方法を変更していた場合、比較情報として表示される平成30年3月期の(連結)貸借対照表は、税効果会計基準一部改正を適用して作成されていたため、当第1四半期において比較情報の財務諸表の組替えは行われません。税効果適用指針等の適用が会計方針の変更に該当せず、表示方法の変更にも該当しないため、会計方針の変更の注記、税効果会計基準一部改正を適用している旨の追加情報のいずれも不要と考えられます。


Q4. 税効果会計一部改正による表示方法の変更の留意点

税効果会計基準一部改正に伴う貸借対照表における表示区分の変更に際し、どのような点に注意すべきでしょうか。

A4.

税効果会計一部改正の適用初年度の比較情報においては、過年度遡及会計基準14項の定めに従って、表示する過去の財務諸表(すなわち平成30年3月期の(連結)貸借対照表)について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行う必要があります(税効果会計基準一部改正59項)。連結財務諸表上、繰延税金資産と繰延税金負債の相殺は納税主体ごとに行われます。前期末の(連結)貸借対照表では、この相殺が流動項目と固定項目に分けて行われていますが、改正後は、流動項目では繰延税金資産、固定項目では繰延税金負債が計上されていた納税主体がある場合などでは、前期末の連結貸借対照表上流動資産又は流動負債に計上されている繰延税金資産又は繰延税金負債を単純に固定区分に組み替えればよいという訳ではありません。

例えば、前期末において、納税主体Aでは流動資産に繰延税金資産が20、固定負債に繰延税金負債が70計上されており、納税主体Bでは流動資産に繰延税金資産が40、固定負債に繰延税金負債が20計上されていたケースを想定します。正しく財務諸表の組替えを行うと、納税主体Aは繰延税金負債が50、納税主体Bは繰延税金資産が20となり、連結貸借対照表上、繰延税金資産(固定資産)を20、繰延税金負債(固定負債)を50計上することになります。しかし、改正前の表示方法では繰延税金資産(流動資産)が60(納税主体Aの20+納税主体Bの40)、繰延税金負債(固定負債)が90(納税主体Aの70+納税主体Bの20)計上されていたため、そのまま組み替えると、繰延税金資産(固定)60、繰延税金負債(固定)90が計上され、繰延税金資産と繰延税金負債の相殺漏れが生じます。また、単純に前期の連結財務諸表の繰延税金資産を固定項目に振り替えた上で繰延税金資産と繰延税金負債を相殺すると、繰延税金負債(固定)30が計上され、納税主体Aと納税主体Bという異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債が相殺されることになります。繰延税金資産と繰延税金負債を正確に相殺するためには、納税主体ごとに流動資産及び流動負債に計上されている繰延税金資産又は繰延税金負債を固定区分に組み替えて相殺を行った上で、各社の個別貸借対照表を合算し、連結財務諸表を作成することが必要となります。

なお、上述の方法で納税主体ごとに相殺を行った場合、前期及び前年同四半期(連結)累計期間の総資産の額がこれまでと異なることにより、総資産額や自己資本比率が前期の有価証券報告書及び前年同四半期の四半期報告書に表示した額と異なるケースが考えられます。この場合、四半期報告書の主要な経営指標等の推移(ハイライト情報)において、前年同四半期(連結)累計期間及び最近連結会計年度(事業年度)に係る経営指標等を遡って修正した上で、経営指標等については当該会計基準等を遡って適用した後の指標等となっている旨を記載することが考えられます。

 

開示府令編

Q5. 開示府令改正の四半期報告書への影響

平成30年1月に開示内容の共通化・合理化や非財務情報の開示充実に関する開示府令の改正が公布されていますが、四半期報告書に与える具体的な影響はどのようなものでしょうか。

A5.

平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告では、制度開示の開示内容の自由度を高め、例えば、有価証券報告書と会社法に基づく事業報告等との開示内容の共通化や、欧米に見られるような両者の一体的な書類としての開示などをより容易にすること、有価証券報告書の経営方針・経営成績等の分析等の非財務情報の開示を充実することなどを提案していました。この提案を受けて、平成30年1月26日に開示府令の改正が公布され、平成30年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書から適用されます。この改正のうち、四半期報告書の開示の合理化及び非財務情報の開示充実に関連するものは次のとおりです。

① 新株予約権等の記載の合理化

従来の「新株予約権等の状況」及び「ライツプランの内容」の項目が、「ストックオプション制度の内容」及び「その他の新株予約権の状況」の項目に統合、整理されました。なお、改正後の「ストックオプション制度の内容」については、開示府令第二号様式に準じて記載することとなったため、有価証券報告書と同様の記載を行うこととなります。ただし、有価証券報告書においては(連結)財務諸表における「ストック・オプションに関する注記」を参照することが認められていましたが、四半期報告書では当該方法は認められません。これは、四半期(連結)財務諸表では「ストック・オプションに関する注記」が要求されていないことによるものです。

② 「大株主の状況」における株式所有割合の算定の基礎となる発行済株式(第2四半期のみ)

有価証券報告書と同様に、従来、自己株式を含めて算定していたものを、自己株式を控除して算定することに変更されました。

③ 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」を「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に変更し、記載内容の見直しが行われます。これにより、有価証券報告書と同様に、経営成績等の状況の分析・検討の記載を充実させる観点から、事業全体及びセグメント別の経営成績等に重要な影響を与えた要因についての経営者の視点による認識及び分析、経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして経営成績等をどのように分析・評価しているかの記載が求められることになります。

経営方針・経営戦略等を定めている会社における経営成績等の分析・評価方法については、経営者において、当該経営方針・経営戦略等との比較が、前年同四半期(連結)累計期間との比較よりも投資者に理解を深めると判断したときには、前年同四半期(連結)累計期間との比較・分析に代えて、当該経営方針・経営戦略等と比較・分析して記載することができることになりました(開示府令第四号の三様式(記載上の注意)(8)a(a)なお書き)。なお、従来から、四半期(連結)累計期間において、経営成績・経営戦略等について重要な変更があったときにはその内容を記載することとされていましたが、開示府令の改正により、すでに提出された有価証券報告書に記載された内容に比して重要な変更があった場合であることが明確化されるとともに、重要な変更の内容のみならず変更の理由の記載が要求されることになりました(開示府令第四号の三様式(記載上の注意)(8)a(b))。

なお、平成30年3月30日に、財務会計基準機構(FASF)から「有価証券報告書の開示に関する事項-『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取り組み-」が公表され、有価証券報告書と事業報告等の記載の共通化を図る上での留意点や記載事例が示されました。また、同日付けで、金融庁・法務省から公表された「『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた対応について」においては、「有価証券報告書の開示に関する事項」に掲げられた「作成にあたってのポイント」及び「記載事例」の内容は、関係法令の解釈上、問題ないものと考えられる旨が記載されています。

四半期報告書においても、有価証券報告書と同様に、主要な経営指標等の推移について、「1株当たり四半期(当期)純利益金額」、「純資産額」及び「総資産額」について、「1株当たり四半期(当期)純利益」、「純資産」及び「総資産」と記載することも差し支えないものと考えられます。

 

仮想通貨取扱い編

Q6. 仮想通貨利用者の会計処理と開示

仮想通貨利用者が当第1四半期から仮想通貨取扱いを適用する場合の四半期(連結)財務諸表上の会計処理と開示の概要を教えてください。

A6.

仮想通貨取扱いは、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用されるため、3月末決算の四半期(連結)財務諸表作成会社では、当第1四半期から原則適用されます。なお、自己(自己の関係会社を含む。)の発行した仮想通貨は、仮想通貨取扱いの適用対象とはされません。

(1)仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理

① 会計処理

仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理は図表のとおりです(仮想通貨取扱い5項~7項)。
 

図表 期末(四半期末)における仮想通貨の評価に関する会計処理

 

活発な市場が存在する場合

活発な市場が存在しない場合

貸借対照表価額市場価格に基づく価額取得原価
処分見込価額(※)<取得原価の場合は処分見込価額
貸借対照表価額と帳簿価額との差額の処理当期の損益処分見込価額(※)<取得原価の場合、その差額は当期の損失

(※)ゼロ又は備忘価額を含みます。

② 「活発な市場が存在する場合」

「活発な市場が存在する場合」とは、保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいいます(仮想通貨取扱い8項)。

活発な市場が存在する仮想通貨が、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合、活発な市場が存在しない仮想通貨となる前に最後に観察された市場価格に基づく価額をもって取得原価とし、評価差額は当期の損益として処理します。活発な市場が存在しない仮想通貨となった後の期末評価は、活発な市場が存在しない仮想通貨として行います(仮想通貨取扱い11項)。また、活発な市場が存在しない仮想通貨が、その後、活発な市場が存在する仮想通貨となった場合、その後の期末評価は、活発な市場が存在する仮想通貨として行うことになります(仮想通貨取扱い12項)。

③ 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格

仮想通貨利用者において、活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価は、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格を用いることとされています(仮想通貨取扱い9項)。

④ 仮想通貨の売却損益の認識時点

仮想通貨の売却損益は、当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識します(仮想通貨取扱い13項)。

(2)適用初年度の第1四半期における取扱い

仮想通貨取扱いの適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われますが、適用初年度における経過的な取扱いが定められていないことから、新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する必要があります(過年度遡及会計基準6項(1))。会計方針の変更により遡及適用がなされたことによる影響は、比較年度(平成30年3月期)の期首に反映され、当該影響については、会計方針の変更の影響額として注記することを検討することになります。なお、四半期(連結)財務諸表においては(連結)株主資本等変動計算書の作成は求められませんが、会計方針の変更による影響額に重要性がある場合には、株主資本等の著しい変動に関する注記をすることが考えられます(四半期連結財規92条、四半期財規82条)。

(3)開示

① 表示

仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示することとされています(仮想通貨取扱い16項)。

② 注記

仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、次の事項を注記することとされています(仮想通貨取扱い17項本文)。

ⅰ 仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額

ⅱ 仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額

ただし、貸借対照表価額が僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができます(仮想通貨取扱い17項また書き)。

当該注記については、四半期連結財務諸表規則又は四半期財務諸表等規則で要求されるものではないため、追加情報に該当するものと考えられ、利害関係人が企業集団又は会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断する上で必要と認められる場合に、四半期(連結)財務諸表に注記するものと考えられます(四半期連結財規14条、四半期財規22条)。


Q7. 仮想通貨交換業者の会計処理と開示

仮想通貨交換業者が当第1四半期から仮想通貨取扱いを適用する場合の四半期(連結)財務諸表上の会計処理及び開示の概要を教えてください。

A7.

仮想通貨交換業者においては、仮想通貨交換業者自ら仮想通貨を保有する場合と、仮想通貨交換業者が預託者から預かっている場合とで会計処理や開示が異なります。

(1)仮想通貨交換業者が保有する仮想通貨の会計処理

① 会計処理及び仮想通貨の売却損益の認識時点

会計処理及び売却損益の認識時点については、仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理と同様です(Q6 (1)①、④参照)。

② 「活発な市場が存在する場合」及び活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格

「活発な市場が存在する場合」の判断規準については、仮想通貨利用者の保有する仮想通貨と同様です(Q6 (1)③参照)。
ただし、仮想通貨交換業者においては、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所が自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所である場合、当該仮想通貨交換業者は、自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格等が「公正な評価額」を示している市場価格であるときに限り、時価として期末評価に用いることができます(仮想通貨取扱い10項)。

(2)仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理

① 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の認識

仮想通貨交換業者は、預託者との預託の合意に基づいて仮想通貨を預かった時に、預かった仮想通貨を預かった時の時価により資産として認識します。
また、これと同時に、預託者に対する返還義務を負債として認識しますが、当該負債の当初認識時の帳簿価額は、預かった仮想通貨に係る資産の帳簿価額と同額とします(仮想通貨取扱い14項)。

② 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額

仮想通貨交換業者は、預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額について、仮想通貨交換業者自身が保有する同一種類の仮想通貨から簿価分離した上で、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、仮想通貨交換業者の保有する仮想通貨と同様の方法により評価を行います。
また、預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益は計上されません(仮想通貨取扱い15項)。

(3)適用初年度の第1四半期における取扱い

仮想通貨交換業者における仮想通貨取扱いの適用初年度の第1四半期における取扱いは、仮想通貨保有業者の場合と同様です(Q6 (2)参照)。

(4)開示

① 表示

仮想通貨交換業者が仮想通貨の売却取引を行う場合も、仮想通貨利用者と同様に、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示します(仮想通貨取扱い16項)。

② 注記

仮想通貨交換業者が期末日において保有する仮想通貨及び預託者から預かっている仮想通貨については、次の事項を注記することとされています(仮想通貨取扱い17項本文)。

ⅰ 仮想通貨交換業者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額

ⅱ 仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額

ⅲ 仮想通貨交換業者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額

ただし、仮想通貨交換業者は、仮想通貨交換業者自身が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額と預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額を合算した額が、資産総額に比して僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができます(仮想通貨取扱い17項ただし書き)。

当該注記については、四半期連結財務諸表規則又は四半期財務諸表等規則で要求されるものではないため、追加情報に該当するものと考えられ、利害関係人が企業集団又は会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断する上で必要と認められる場合に、四半期(連結)財務諸表に注記するものと考えられます(四半期連結財規14条、四半期財規22条)。

 

有償ストック・オプション取扱い編

Q8. 有償ストック・オプション取扱い適用時における開示上の取扱い(経過措置を適用する場合)

当第1四半期からの有償ストック・オプション取扱いの適用にあたり、経過的な取扱いを適用する場合の開示上の取扱いを教えてください。

A8.

有償ストック・オプション取扱いは、平成30年4月1日以後原則適用されるため、四半期(連結)財務諸表を作成している会社においては、当第1四半期から原則適用されることになります。

有償ストック・オプション取扱いの適用にあたっては、遡及適用を原則としていますが、経過的な取扱いとして、有償ストック・オプション取扱いの適用日より前に従業員等に対して有償新株予約権を付与した取引については、従来採用していた会計処理を継続することができることとされています(有償ストック・オプション取扱い10項(3))。

当該経過的な取扱いを適用し、従来採用していた会計処理を継続する場合においても、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うため(有償ストック・オプション取扱い10項(4))、当第1四半期の四半期(連結)財務諸表において、会計方針の変更に関する注記が必要となります。

また、この場合には情報の有用性を補うために当該取引について以下の事項を注記することになります(有償ストック・オプション取扱い10項(3))。

  • 権利確定条件付き有償新株予約権の概要(各会計期間において存在した権利確定条件付き有償新株予約権の内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等))
    ただし、付与日における公正な評価単価については、記載を要しない
  • 採用している会計処理の概要

これらの注記については、四半期連結財務諸表規則又は四半期財務諸表等規則で要求されるものではないため、追加情報に該当するものと考えられ、利害関係人が企業集団又は会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断する上で必要と認められる場合に、四半期(連結)財務諸表に注記するものと考えられます(四半期連結財規14条、四半期財規22条)。


Q9.有償ストック・オプション取扱い適用時の開示上の取扱い(経過措置を適用しない場合)

当第1四半期からの有償ストック・オプション取扱いの適用にあたり、遡及適用する場合の開示上の取扱いを教えてください。

A9.

有償ストック・オプション取扱いは、四半期(連結)財務諸表を作成している会社では、当第1四半期から原則適用されます。有償ストック・オプション取扱いの適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引についても、有償ストック・オプション取扱いを遡及適用することが原則的な方法となります(有償ストック・オプション取扱い10項(1)、過年度遡及会計基準6項(1))。

有償ストック・オプション取扱いを遡及適用するにあたり、公表日より前に権利確定条件付き有償新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行している場合、新たな会計方針に基づき新株予約権として計上された額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えたことによる払込資本の増加額は、その他資本剰余金に計上することになります(有償ストック・オプション取扱い10項(2))。

また、有償ストック・オプション取扱いの適用により、これまでの会計処理と異なることとなる場合においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことになります(有償ストック・オプション取扱い10項(4))。このため、重要な会計方針の変更に該当する場合には、当第1四半期の四半期(連結)財務諸表における会計方針の変更に関する注記として、適用する会計基準等の名称、会計方針の変更の内容、税金等調整前(税引前)四半期(連結)純損益金額に対する前年度の対応する四半期(連結)累計期間における影響額及びその他の重要な項目に対する影響額の記載が必要となります(四半期連結財規10条の2、四半期財規5条1項)。

 

収益認識会計基準の早期適用編

Q10. 開示上の取扱い

当第1四半期から収益認識会計基準を早期適用する場合の開示上の取扱いを教えてください。

A10.

収益認識会計基準は平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます(収益認識会計基準82項)。したがって、3月末決算の会社は平成31年3月期の期首から収益認識会計基準を適用することができます。収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、以下のいずれかの方法により適用することとされています(収益認識会計基準84項)。

① 新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する方法(原則的な取扱い)
② 適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する方法(期首剰余金に加減する方法)

上記①の定めに従った場合、当期の四半期(連結)財務諸表の比較情報として表示される前期の四半期(連結)損益計算書及び前期末の要約(連結)貸借対照表も収益認識会計基準の定めによる新たな会計方針を適用して作成したものを表示する必要があります。
一方、②の定めに従った場合、比較情報は前期に開示されたものをそのまま表示することになります。

なお、収益認識会計基準においては、会計方針の変更の注記の記載方法については特段の定めはないため、過年度遡及会計基準10項の定めに基づき以下の事項を注記することになると考えられます。

(1)会計基準等の名称

(2)会計方針の変更の内容

(3)上記②の定めに従った場合、その旨及び当該取扱いの概要

(4)上記②の取扱いが将来に影響を及ぼす可能性がある場合には、その旨及び将来への影響。ただし、将来への影響が不明又はこれを合理的に見積ることが困難である場合には、その旨

(5)(上記①の定めに従った場合)表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける四半期(連結)財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額

(6)(上記①の定めに従った場合)表示されている四半期(連結)財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する会計方針の変更による遡及適用の累積的影響額
(上記②の定めに従った場合)適用初年度の期首の利益剰余金に加減した適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額

また、①、②それぞれに収益認識会計基準には適用初年度における実務上の負担を軽減するための経過措置が設けられています。①を適用した場合の経過措置はQ12を、②を適用した場合の経過措置はQ13をご参照ください。


Q11. 表示科目の取扱い

当第1四半期から収益認識会計基準を適用する場合の収益に関連する四半期(連結)貸借対照表及び四半期(連結)損益計算書の表示科目の取扱いはどのようになっているのでしょうか。

A11.

(1)四半期(連結)貸借対照表の表示科目

収益認識会計基準では、企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示し、契約資産と債権を貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することとされています(収益認識会計基準79項)。ここで、契約資産、契約負債又は債権の定義は図表のとおりです(収益認識会計基準10項から12項)。
 

図表 契約資産、契約負債及び債権の定義

定義

契約資産

企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、債権を除く。)

契約負債

財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているもの

債権

企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)

上記の定めに従えば、当第1四半期から収益認識会計基準を適用する場合には、従来は「売掛金」、「完成工事未収入金」等の表示科目で貸借対照表に一括して表示されていたものを上記定義に基づき、契約資産と債権に区分してそれぞれ適切な科目をもって貸借対照表に表示するか、それぞれの残高を注記する必要があります。

しかしながら、収益認識会計基準を早期適用する場合には、上記の定めにかかわらず、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができるとされています(収益認識会計基準88項)。したがって、当該定めを適用すれば、当第1四半期から収益認識会計基準を適用する場合、従来の「売掛金」、「完成工事未収入金」等は契約資産と債権に該当するものに区分して表示する必要はないということになります。

なお、契約資産と債権の区分表示の要否は、本会計基準が原則適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む。)に検討することとされています(収益認識会計基準160項)。

(2)四半期(連結)損益計算書の表示科目

収益認識会計基準を早期適用する場合には、現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができるものとされています(収益認識会計基準155項)。

なお、収益認識会計基準の公表を受け、財規ガイドライン等も改正が行われ、総売上高の項目を示す名称を付した科目及びその控除科目として売上値引及び戻り高を示す名称を付した科目で掲記することができるとする規定が削除されています(四半期財規ガイドライン58、四半期連結財規ガイドライン66、財規ガイドライン72-1)。


Q12. 経過措置-原則的な取扱いに従って遡及適用する場合

当第1四半期から収益認識会計基準を原則的な取扱いに従って遡及適用する場合に選択可能な経過措置について教えてください。

A12.

収益認識会計基準を原則的な取扱いに従って適用する場合、以下に示す方法の1つ又は複数を適用することができます(収益認識会計基準85項)。

(1)前期首までにほとんどすべての収益を認識済みの契約に関する取扱い

適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表及び四半期連結財務諸表並びに適用初年度の前事業年度の個別財務諸表及び四半期個別財務諸表(以下、これらを合わせて「適用初年度の比較情報」という。)を遡及的に修正しないことができます。

(2)変動対価の取扱い

適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正することができます。

(3)前期中に開始して終了した契約の取扱い

適用初年度の前連結会計年度内及び前事業年度内に開始して終了した契約について、適用初年度の前連結会計年度の四半期連結財務諸表及び適用初年度の前事業年度の四半期(又は中間)個別財務諸表を遡及的に修正しないことができます。

(4)契約変更の取扱い

適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、以下の①から③の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正することができます。

① 履行義務の充足分及び未充足分の区分
② 取引価格の算定
③ 履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分


Q13. 経過措置-期首剰余金に加減する方法を選択した場合

当第1四半期から収益認識会計基準を適用し、適用初年度の累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する方法を選択した場合に適用可能な経過措置について教えてください。

A13.

収益認識会計基準を原則的な取扱いに従って適用する場合、以下に示す方法を適用することができます(収益認識会計基準86項)。

(1)期首までにほとんどすべての収益を認識済みの契約に関する取扱い

適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことができます。

(2)契約変更の取扱い

収益認識会計基準の適用初年度より前に行われた契約変更については、以下に示すような処理を行うことができます。

① 適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、以下のⅰからⅲの処理を行うこと

ⅰ 履行義務の充足分及び未充足分の区分
ⅱ 取引価格の算定
ⅲ 履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

② 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、前述のⅰからⅲの処理を行うこと

 

実務対応報告18号

Q14. 実務対応報告18号等の留意点

実務対応報告18号等の当面の取扱いを適用し、IFRSや米国会計基準により作成された連結子会社等の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合、当四半期において準拠しているIFRSや米国会計基準の改訂が行われたときには、四半期連結財務諸表上も会計方針の変更として取り扱う必要がありますか。また、四半期連結財務諸表上の表示科目についての影響はありますか。

A14.

(1)四半期連結財務諸表における会計方針の変更としての取扱い

実務対応報告18号等の当面の取扱いを適用し、IFRSや米国会計基準により作成された連結子会社及び持分法適用会社(以下、「連結子会社等」という。)の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合において、連結子会社等の財務諸表が適用しているIFRSや米国会計基準の改訂が行われたときには、(四半期)連結財務諸表においても会計方針の変更として取り扱われ、重要性に応じて会計方針の変更の注記の要否を検討する必要があります。

当第1四半期の四半期連結財務諸表に影響する可能性のあるIFRS及び米国会計基準の改訂のうち主なものは以下のとおりですが、影響度の把握が必要と考えられます。

  • IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(2018年1月1日以後開始事業年度から原則適用)
  • IFRS第9号「金融商品」(2018年1月1日以後開始事業年度から原則適用)
    (参考)米国会計基準(公開企業体:2017年12月15日以後開始する事業年度から適用、その他の企業:2018年12月15日より後に開始する事業年度から適用)
  • 米国会計基準 Topic606「顧客との契約から生じる収益」
  • ASU2016-1「金融商品-総論(Subtopic825-10):金融資産及び金融負債に関する認識及び測定」

(2)四半期連結財務諸表における表示科目の取扱い

実務対応報告18号は、連結財務諸表作成における連結子会社の会計処理について定めたものであり、開示については特段の定めはされていません。したがって、IFRS及び米国会計基準の改訂により、連結子会社の個別財務諸表において新たな表示科目が使用されることになった場合(例えば、連結子会社がIFRS第15号を適用し、契約資産等の表示科目を新たに使用する場合等)においても、四半期連結財務諸表における表示科目については、四半期連結財務諸表等規則等に基づき、適切と判断される表示科目を使用するものと考えられます。


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