「収益認識に関する会計基準」等のポイント

公認会計士 加藤圭介

ASBJから平成30年3月30日に公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成30年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」といい、これらを合わせて「本会計基準等」という。)を公表しています。

我が国においては、企業会計原則の損益計算書原則に、「売上高は実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの、収益認識に関する包括的な会計基準がこれまで開発されていませんでした。一方、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic606)を公表し、IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から、Topic606は平成29年(2017年)12月15日より後に開始する事業年度から適用されています。

これらの状況を踏まえ、ASBJは平成27年3月に我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定した後、平成28年2月に適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するために「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(以下「意見募集文書」という。)を公表しました。ASBJでは、意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ審議を行い、平成29年7月20日に公開草案を公表した後、当該公開草案に対して寄せられた意見等について検討を重ね、今般、平成30年3月30日に本会計基準等が公表されたものです。


Ⅰ. 公開草案からの主な変更点

公開草案からの主な変更点は以下のとおりです。

  1. 基本的な方針
    結論の背景において、他の会計基準と同様に重要性が乏しい取引には収益認識会計基準を適用しないことができる旨が明記されました(収益認識会計基準第101項)。

  2. 適用範囲
    「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(以下「不動産流動化実務指針」という。)の対象となる不動産信託受益権の譲渡についても適用対象とならないこと及び顧客との契約の一部に収益認識会計基準の対象外となる取引が含まれる場合の取扱いが明確化されたほか、適用範囲を定めた結論の背景の記載の充実が図られています(収益認識会計基準第3項(6)、第102項~第109項)。

  3. 会計処理等
    結論の背景の記載の充実が図られています(収益認識会計基準第114項~第154項、収益認識適用指針第111項~第163項)。

  4. 重要性等に関する代替的な取扱い
    有償支給取引について、公開草案では設例を設けることが提案されていましたが、収益認識適用指針では設例を設けないこととするとともに、個別財務諸表における有償支給取引に関する代替的な取扱いが追加的に定められました(収益認識適用指針第104項、第177項~第181項)。また、契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合の取扱いとして、公開草案では、既存の契約を解約して新たな契約を締結したものと仮定して処理する方法と契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理する方法を認めることが提案されていましたが、収益認識適用指針ではこれらに加えて、契約変更を独立した契約として処理する方法も認められることとなりました(収益認識適用指針第92項)。
    さらに、結論の背景において代替的な取扱いを設けなかった項目に関する記載の充実が図られています(収益認識適用指針第182項~第188項)。

  5. 開示
    収益に関する表示科目について、注記事項と合わせて収益認識会計基準が適用されるまでに検討することとした旨、早期適用時には我が国の実務において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができる旨が追加的に定められました(収益認識会計基準第155項)。また、損益計算書における顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否についても、収益認識会計基準が適用される時までに検討することとした旨が追加的に記載されました(収益認識会計基準第155項また書き)。

  6. 適用時期等
    IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が個別財務諸表に収益認識会計基準を適用する場合には、その適用初年度において、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」における経過措置に関する定めを適用することができる旨が追加的に定められました(収益認識会計基準第87項また書き)。
    また、収益認識会計基準適用初年度において、消費税等の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合における取扱いが、追加的に定められました(収益認識会計基準第89項)。

  7. 設例
    公開草案で提案されていた設例のうち、「有償支給取引」(上記「4.重要性等に関する代替的な取扱い」参照)のほか、「長期建設契約における支払の留保」、「設備工事のコストオン取引(本人又は代理人)」については、収益認識適用指針では設例を示さないこととされました。また、結論の背景において設例を示さなかった項目に関する記載の充実が図られています(収益認識適用指針第189項)。

Ⅱ. 本会計基準等の概要

1. 開発にあたっての基本的な方針(収益認識会計基準第97項から第101項)

開発にあたっての基本的な方針については、以下のとおり定められています。

(1)基本的な方針として、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点として会計基準を定めることとするが、我が国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には比較可能性を損なわない範囲で代替的な取扱いを追加する。

(2)連結財務諸表に関する方針として、IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れ、適用上の課題に対応するために代替的な取扱いを追加的に定める場合、国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとすることを基本とする。

(3)個別財務諸表に関する方針として、基本的には、連結財務諸表と同一の会計処理を定めることとする。

2. 範囲(収益認識会計基準第3項及び第4項)

次の(1)から(6)を除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用されます。
顧客との契約の一部が次の(1)から(6)に該当する場合には、それらに適用される方法で処理する額を除いた取引価格について、本会計基準等を適用します。

(1)「金融商品に関する会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
(2)「リース取引に関する会計基準」の範囲に含まれるリース取引
(3)保険法における定義を満たす保険契約
(4)顧客又は潜在的な顧客への販売を容易にするために行われる同業他社との商品又は製品の交換取引
(5)金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料
(6)不動産流動化実務指針の対象となる不動産(不動産信託受益権を含む。)の譲渡

なお、本会計基準等では、IFRS第15号における契約コスト(契約獲得の増分コスト及び契約を履行するためのコスト)の定めを範囲に含めていません(収益認識会計基準第109項)。

3. 会計処理(収益認識会計基準第16項から第78項、収益認識適用指針第4項から第104項)

会計処理については、以下の(1)から(4)が定められています。なお、「4.重要性に関する代替的な取扱い」に定められているものを除き、原則としてIFRS第15号と同様の内容とされています。

(1)基本となる原則(収益認識会計基準第16項から第18項)

収益認識会計基準の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益の認識を行うこととされています。
基本となる原則に従って収益を認識するために、次の5つのステップを適用します。

図1

(2)収益の認識基準(収益認識会計基準第19項から第45項、収益認識適用指針第4項から第22項)

① ステップ1:契約の識別

次のすべての要件を満たす顧客との契約を識別します。

ⅰ当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること

ⅱ移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること

ⅲ移転される財又はサービスの支払条件を識別できること

ⅳ契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)

ⅴ顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと(当該対価を回収する可能性の評価にあたっては、対価の支払期限到来時における顧客が支払う意思と能力を考慮する)

なお、同一の顧客(当該顧客の関連当事者を含む。)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、一定の要件に該当する場合には、当該複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理します。また、契約変更について一定の要件を満たす場合には独立した契約として処理し、それ以外の場合には既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理する方法又は既存の契約の一部として処理する方法のいずれかにより処理することになります。

② ステップ2:履行義務の識別

契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次のⅰ又はⅱのいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別します。

ⅰ別個の財又はサービス

ⅱ一連の別個の財又はサービス

なお、顧客に約束した財又はサービスは、次のⅰ及びⅱのいずれも満たす場合には、別個のものとします。

ⅰ当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること
(すなわち、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があること)

ⅱ当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること
(すなわち、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなること)

③ ステップ5:履行義務の充足による収益の認識

企業は約束した財又はサービス(以下「資産」と記載することもある。)を顧客に移転することによって、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識します。
資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時、又は獲得するにつれて、とされています。 次のⅰからⅲの要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識します。

ⅰ企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること

ⅱ企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること

ⅲ次の要件のいずれも満たすこと

a 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
b 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

上記のⅰからⅲの要件のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより、当該履行義務が充足される時に、収益を認識します。

(3)収益の額の算定(収益認識会計基準第46項から第76項、収益認識適用指針第23項から第33項)

① 取引価格に基づく収益の額の算定(ステップ3及び4)

履行義務を充足した時又は充足するにつれて、取引価格のうち、当該履行義務に配分した額について収益を認識します。

② 取引価格の算定(ステップ3)

取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額であり、第三者のために回収する額を含まないものをいいます。
取引価格を算定する際には、次のⅰからⅳのすべての影響を考慮します。

ⅰ変動対価

ⅱ契約における重要な金融要素

ⅲ現金以外の対価

ⅳ顧客に支払われる対価

③ 履行義務への取引価格の配分(ステップ4)

それぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分は、独立販売価格の比率に基づき、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行います。

(4)特定の状況又は取引における取扱い(収益認識適用指針第34項から第89項)

① 本人と代理人の区分(ステップ2)

顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合において、顧客との約束が当該財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であると判断され、企業が本人に該当するときには、当該財又はサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識します。
顧客との約束が当該財又はサービスを当該他の当事者によって提供されるように手配する履行義務であると判断され、企業が代理人に該当するときには、他の当事者により提供されるように手配することと交換に企業が権利を得ると見込む報酬又は手数料の金額を収益として認識します。

② 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ステップ2)

顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合には、そのオプションが、当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときにのみ、当該オプションから履行義務が生じます。この場合には、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識します。

③ ライセンスの供与(ステップ2)

ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであり、当該約束が独立した履行義務である場合には、ライセンスを顧客に供与する際の企業の約束の性質が、顧客に次のⅰ又はⅱのいずれを提供するものかを判定します。

ⅰライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利

ⅱライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

ライセンスを供与する約束については、ライセンスを供与する際の企業の約束の性質がⅰである場合には、一定の期間にわたり充足される履行義務として処理し、企業の約束の性質がⅱである場合には、一時点で充足される履行義務として処理します。

なお、上記の①から③のほか、財又はサービスに対する保証(ステップ2)、顧客により行使されない権利(非行使部分)(ステップ5)、返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払(ステップ5)、買戻契約(ステップ5)、委託販売契約(ステップ5)、請求済未出荷契約(ステップ5)、顧客による検収(ステップ5)、返品権付きの販売(ステップ3)が定められています。

4. 重要性等に関する代替的な取扱い(収益認識適用指針第92項から第104項)

本会計基準等の適用にあたっては、原則として一般的な重要性に基づいて判断することになりますが、一部の項目については、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、個別項目に対する重要性の記載等の代替的な取扱いを定めています。

(1)代替的な取扱い(収益認識適用指針第92項から第104項)

ステップ

代替的な取扱い

① 契約変更
(ステップ1)

(契約変更)
契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約に照らして重要性に乏しい場合は、独立した契約として処理する方法、既存の契約を解約して新しい契約を締結したものとして処理する方法、既存の契約の一部として処理する方法のいずれも認められる

② 履行義務の識別
(ステップ2)

(約束した財又はサービスの重要性)
約束した財又はサービスが顧客との契約の観点で重要性に乏しい場合は、当該約束が履行義務であるのかについて評価しないことができる


(出荷及び配送活動)
顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、履行義務として識別しないことができる

③ 一定の期間にわたり充足される履行義務
(ステップ5)

(期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア)
一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができる


(通常の期間の船舶による運送サービス)
発港地から帰港地までの期間が通常の期間である場合には、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務とした上で、当該期間にわたり収益を認識することができる

④ 一時点で充足される履行義務
(ステップ5)

(出荷基準等)
国内で販売する商品又は製品について、出荷時から支配移転時点(例えば検収時)までの期間が通常の期間である場合には、支配移転時までの一時点(出荷時等)に収益を認識することができる

⑤ 履行義務の充足に係る進捗度
(ステップ5)

(契約初期段階における原価回収基準)
契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には、当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができる

⑥ 履行義務への取引価格の配分
(ステップ4)

(残余アプローチ)
履行義務の基礎となる財又はサービスについて、その独立販売価格が直接観察できず、契約において付随的なものであり、重要性が乏しい場合には、残余アプローチを使用することができる

⑦ 契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分(ステップ1、2及び4)

(契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分)
以下の要件をいずれも満たす場合には、個々の契約の財又はサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約の金額に従って収益を認識することができる

  • 顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引単位と認められること
  • 顧客との個々の契約における財又はサービスの金額が合理的に定められており、独立販売価格と著しく異ならないと認められること

(工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位)
当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約を結合した際に、収益認識の時期及び金額において原則的な方法との差異の重要性が乏しいと認められる場合には、当該複数の契約を結合し、単一の履行義務として識別することができる

⑧ その他の個別事項(ステップ5)

(有償支給取引)
有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合には、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識しないのが原則的な方法であるが、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる(ただしこの場合にも収益は認識しない)

(2)代替的な取扱い等を設けなかった項目(収益認識適用指針第182項から第188項)

① 割賦販売における割賦基準に基づく収益計上
② 顧客に付与するポイントについての引当金処理
③ 返品調整引当金の計上
④ 変動対価における収益金額の修正
⑤ 契約金額からの金利相当分の区分処理
⑥ 売上高又は使用量に基づくロイヤルティ
⑦ 顧客に付与するポイントに関する取引価格の配分
⑧ 商品券等の発行の会計処理
⑨ 毎月の計量により確認した使用量に基づく収益認識

なお、上記のうち①から③については、従来の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められない項目であり、本会計基準等を適用した場合に収益の額及び認識時期が現行の実務と大きく異なる可能性がある項目とされています。

5. 開示(収益認識会計基準第79項、第80項及び第88項、収益認識適用指針第105項、第106項)

(1)表示(収益認識会計基準第79項、第88項)

本会計基準等では、企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示することとしています。
なお、本会計基準等を早期適用する段階では、契約資産と債権を貸借対照表に区分表示しないことができること及び区分表示しない場合でも残高の注記をしないことができるとされています。
また、本会計基準等に従って認識される収益の表示科目については、注記事項と合わせて本会計基準等が適用される時まで(準備期間を含む。)に検討することとされています。

(2)注記事項(収益認識会計基準第80項)

本会計基準等では、顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を個別の注記として開示することとされています(収益認識会計基準第156項)。
なお、本会計基準等を早期適用する段階では、各国の早期適用の事例及び我が国のIFRS第15号の準備状況に関する情報が限定的であり、IFRS第15号の注記事項の有用性とコストの評価を十分に行うことができないため、必要最低限の定めを除き、基本的に注記事項は定めないこととし、本会計基準等が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む。)に、注記事項の定めを検討することとしています。

6. 適用時期等(収益認識会計基準第81項から第89項)

適用時期及び適用初年度の取扱い(経過措置を含む。)について、以下が定められています。

(1)適用時期(収益認識会計基準第81項から第83項)

① 原則適用の時期

平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用します。

② 早期適用の時期及び早期適用時の取扱い

ⅰ平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができます。

ⅱⅰに加え、平成30年12月31日に終了する連結会計年度及び事業年度から平成31年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができます。
この適用にあたって、早期適用した連結会計年度及び事業年度の翌年度に係る四半期(又は中間)連結財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表においては、早期適用した連結会計年度及び事業年度の四半期(又は中間)連結財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表について本会計基準を当該年度の期首に遡って適用します。

ⅲ早期適用時の開示については経過措置を定めています(上記5.(1)(2)参照)。

(2)適用初年度の取扱い(収益認識会計基準第84項から第89項)

① 会計方針の変更

本会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱います。

② 原則的な取扱い

新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。
ただし、当該遡及適用にあたっては、以下の方法の1つ又は複数を適用することができます。

ⅰ適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表及び四半期(又は中間)連結財務諸表並びに適用初年度の前事業年度の個別財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表(以下合わせて「適用初年度の比較情報」という。)を遡及的に修正しない方法

ⅱ適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正する方法

ⅲ適用初年度の前連結会計年度内及び前事業年度内に開始して終了した契約について、適用初年度の前連結会計年度の四半期(又は中間)連結財務諸表及び適用初年度の前事業年度の四半期(又は中間)個別財務諸表を遡及的に修正しない方法

ⅳ適用初年度の前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、以下aからcの処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正する方法

a 履行義務の充足及び未充足の区分
b 取引価格の算定
c 履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

③ 経過措置(収益認識会計基準第84項ただし書きの方法)

適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができます。
なお、当該方法を選択する場合の遡及適用については、以下の方法が認められます。

ⅰ適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②ⅳ)のa)からc)の処理を行う方法

ⅱ適用初年度の前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、上記②ⅳ)のa)からc)の処理を行う方法

④ IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表で適用している企業(又はその連結子会社)に対する適用初年度の取扱い

個別財務諸表においても、IFRS第15号又はTopic 606における経過措置に従うことができる。
また、IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が、個別財務諸表に本会計基準等を適用する場合には、適用初年度において、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」における経過措置に関する定めを適用することができます。

⑤ 消費税等の会計処理の変更

本会計基準等の適用初年度において、消費税等の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱います。この場合、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができます。

7. 設例(収益認識適用指針-設例)

収益認識会計基準及び収益認識適用指針で示された内容についての理解を深めるための参考として、設例が設けられています。

(1)収益を認識するための5つのステップについての設例([設例1])
(2)IFRS第15号の設例を基礎としたもの([設例2]から[設例26])
(3)我が国に特有な取引等についての設例([設例27]から[設例30])
消費税等、小売業における消化仕入等、他社ポイントの付与、工事損失引当金


なお、本稿は本会計基準等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

企業会計基準委員会ウェブサイトへ

  • 企業会計基準第29号 「収益認識に関する会計基準」等の公表

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