2023年6月30日
理想的なデータ部門の構築:エグゼクティブのための主要機能と戦略 (Building the Ideal Data Department: Key Features and Strategies for Executives)
情報センサー2023年7月号 Trend watcher

理想的なデータ部門の構築:エグゼクティブのための主要機能と戦略 (Building the Ideal Data Department: Key Features and Strategies for Executives)

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2023年6月30日

本稿では、先進的なデータ部門のベストプラクティスを紹介し、設置のメリットや成功させる方法を紹介します。さらに、それらが非技術系企業にも効果的に適用できることもまとめます。データ駆動型のアプローチは現在のビジネスの新しいスタンダードとなりつつあり、市場において一歩リードしたい企業にとって、専門のデータ部門は不可欠な要素となります。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

ストラテジー・アンド・トランザクション(SaT) SAT LAB フランチェスコ・フマローラ

データサイエンスやAI技術を活用してビジネスの成長を加速させることに特化したデータアナリティクス専門部隊のSaT Labの研究リーダーを担当。直観や経験だけでなく、データを活用した意思決定を支援。これまでに大きなビジネス価値をもたらす多くのプロジェクトを牽(けん)引してきた。EY SaT Lab Japan マネージャー。

要点
  • データ部門が必要である理由とメリット
  • 社内にデータ部門を設置する際の注意点
  • 成功するデータ部門の鍵となる要素と戦略 -どうすればそれを達成できるでしょうか?

Ⅰ はじめに

近年、非技術系企業においてデータ部門の設立が著しく増加しています。データに基づく意思決定は、勘や経験に基づくものよりも企業を成功に導く可能性が高いためです。データ駆動型アプローチの革新的な洞察を活用している企業は、競争相手に一歩先んじることができます。本稿では、データ部門の設立とデータの力を活用して成功を収めるための業界のベストプラクティスを紹介します。

Ⅱ データ活用の理想的な要素とベストプラクティス

1. 専任のデータ部門設置によるデータ戦略の確立とデータ駆動型の意思決定

従来のモデルでは、各部署がそれぞれデータアナリストを雇用することがありますが、部署間での協力体制が整わないとデータが孤立し、有用な洞察を得ることができない場合があります。最大の効果を得るためには、専門のデータ部門が必要となります。


2. データウェアハウスによるデータ資産の一元化

従来のビジネスプラクティスでは、データは各部門内で孤立しています。そのため洞察力に乏しく、意思決定の効果は限定的です。例えば、売上とマーケティングのデータを統合しなければ、需要と供給を予測することはできません。このため、部門を横断した洞察を得るためには、全社のデータを統合したデータウェアハウスを確立する必要があります。


3. レポートやダッシュボードの活用

データを有効活用できている企業の決定的な特徴は、リアルタイムから月次のような高い頻度で現在または過去、未来(予測)のビジネス状況を可視化し、活用していることです。従来の経験や直感、スプレッドシートの簡単な分析に基づく意思決定は、安定性に欠いています。一方、ダッシュボード等を活用すれば、従業員は最新の業績やビジネス上の決定/変更に伴う影響を素早く簡単に見ることができます。ダッシュボードを活用した意思決定により、企業は着実に業績を向上させることができます。


4. データの資産化・収益化

貸借対照表においてデータを資産として表示します。データを収益化し、収益の流れとして表示されます。データの収益化の方法については次章で詳しく説明します(<図1>参照)。

図1 データ活用におけるデータ・フローの概略

Ⅲ 実際の事例:CPR企業がデータを活用して成長と利益を実現した方法

あるCPR(消費者、製品、小売)業界の巨大企業は、ビジネスアナリストの努力にもかかわらず成長停滞に直面しました。そのような状況の中、AIの台頭についての話題が持ち上がったことをきっかけに、同社はデータ部門の責任者を採用しました。データ部門は、各BU(ビジネス・ユニット)の利点と欠点を可視化することにより、業務の最適化や資材価格と需要の予測を可能にしました。結果として、15~20%もの売上増、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようなマクロ環境におけるショックに対する強固なバリアの構築など、多くの恩恵を得ることができました。

Ⅳ データ部門の役割

企業のデータ部門が果たすべき役割として、以下が挙げられます。

  • 意思決定を支援するためのデータ駆動型の洞察を提供
  • 新製品や新サービスの戦略構築への貢献
  • 他部門がデータ資産を活用するための技術的なアドバイスや指導
  • 他部門のパフォーマンス指標のモニタリングおよび組織全体のトレンドの提供
  • 他部門で使用されるデータの正確性に関するフィードバックの提供
  • オペレーションの目標達成をサポートするためのカスタマイズされたレポートの作成
  • 組織内の潜在的な機会や脅威を特定するための深い分析の提供
  • よりスマートで迅速な意思決定およびより多くの収益機会創出のサポート

Ⅴ データ部門の6つの重要な職務

1. データストラテジスト

CDO(Chief Data Officer)が描く構想に沿って、ビジネスや組織の課題に対処するための具体的なデータ活用戦略を策定/実行します。ビジネスおよびデータに関する幅広い知識と理解、戦略を具体化するスキルが求められ、データ分析側とビジネス側の橋渡しを担います。


2. データエンジニア

データソリューションやデータウェアハウスの設計とアーキテクチャに特化した役割です。ETL(抽出、変換、および書き出し)プロセス、Python等のプログラミング言語によるスクリプティング、およびSQLを用いたデータベースの操作に精通しています。


3. データスチュワード

全社的なデータの管理・統制に関わる職務で、データマネジメントおよびデータガバナンスを担います。データ活用において重要となるメタデータ(データ資産の説明や関連付けなどの管理に必要となる付加データ)の作成/管理や、データの扱いに関するルールの制定、データガバナンス活動の実施などを行います。


4. データコンサルタント

ビジネスドメインとデータ活用の知識、ファシリテーション能力を持つ役割です。データ部門内や他部門、外部パートナーと連携し、内外の用途に向けた新しいデータソリューションの社会実装を行います。それらのデータプロジェクトにおけるプロジェクトマネージャーの役割を担うことも多くあります。


5. データアナリスト

データの可視化(ダッシュボードやレポートの作成を含む)や分析を担当し、分析結果から導かれる洞察を説明します。データコンサルタントやデータアナリストは分析部門の責任者に報告しますが、頻繁に他部門と協力して作業を行います。


6. データサイエンティスト

機械学習と高度な統計分析を専門とし、予測と分析を行います。データサイエンティストとデータアナリストは協力して複雑なデータから高度な分析を実施し、洞察を得ます。

これらは、データ活用に成功している企業における6つの重要な職務となっています。ただし、新しく設立されたデータ部門では、データアナリストの役割がデータコンサルタントとデータサイエンティストの間で分担されるのが一般的です。効果的なデータ部門を立ち上げるためには、最初にシニアデータコンサルタント、シニアデータサイエンティスト、およびシニアデータエンジニアの3つのポジションが必要です。データ部門が企業に価値を生み出し始めてから、他の3つの専門的なポジションを検討することが効率的です。

Ⅵ 可視化の種類

データ部門が企業成長に資するデータを可視化するには、次の方法が考えられます。

  • スコアカード:取締役会や経営陣向けに、企業活動における重要な統計データをまとめて高水準で表示します。パフォーマンスを素早く把握し、原因の調査に迅速に対応できます。

  • ダッシュボード:チームまたは部門の日々のパフォーマンス(KPI)を表示します。パターンや傾向の特定に役立ち、ビジネスの改善や変更を行うための情報を提供します。

  • レポート:プロフェッショナルで洗練されたレポートを生成します。顧客、株主、従業員、市場、その他の利害関係者向けのレポートを迅速に生成できます。

  • インタラクティブな可視化:データの照会や予測モデルの作成を可能にします。対話型のツールが利用され、可視化するときにパラメータを変更したり詳細を表示したりして、データを深く探索しながら分析し、新たな知見を得ることが可能です。

Ⅶ データの収益化方法

データを収益化する方法としては、次の方法が考えられます。

  • 費用削減:チーム、部門、または職能の費用や影響を可視化します。低い/高いパフォーマンスの領域を特定し、予算の割り当てを改善します。当社の経験によれば、データを活用することで企業は少なくとも予算の10%を節約することができ、収益に大きな改善をもたらします。

  • 収益の増加:顧客のパターンやトレンドを特定し、最も価値のある顧客の理解と維持、営業やマーケティング活動のターゲティングの改善、各段階での売上ファネルやコンバージョン率を追跡し、顧客の利用状況、エンゲージメント、満足度、リテンション率、および顧客の一時停止、損失、退会率をモニタリングします。これにより、売上の増加が見込まれます。

  • 既存の顧客向け製品の価値向上:例えば、顧客に自社製品/サービスの利用状況を時間経過とともに示すダッシュボードの開発、製品/サービスの変更が顧客に与える影響を示すシナリオ分析の開発などがあります。

  • データを製品としてパッケージ化:データは新たな資源です。データを顧客やパートナーに販売することで新たな収益源とします。

  • 新しい市場向けの製品の開発:例えば、匿名化された集約データを用いて市場に対する新たな洞察を提供するトレンドレポートの開発、指数やKPIの形式で新たな市場メトリックを作成する市場指標の開発などのオルタナティブデータが挙げられます。他にも、ウェブサイトやメール、イベントを通じて他の企業が顧客に製品やサービスを宣伝するための広告スペースの提供、アプリケーション・プログラミング・インタフェース(API)やリストを介した第三者へのデータの提供などがあります。

Ⅷ おわりに

本稿では、先進的なデータ部門のベストプラクティスを紹介し、それらが非技術系企業にも効果的に適用できることを整理しました。データ駆動型のアプローチは現在のビジネスの新しいスタンダードとなりつつあり、市場をリードしたい企業にとって、専門のデータ部門は不可欠な要素となります。

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サマリー

本稿では、先進的なデータ部門のベストプラクティスを紹介し、設置のメリットや成功させる方法を紹介します。さらに、それらが非技術系企業にも効果的に適用できることもまとめます。データ駆動型のアプローチは現在のビジネスの新しいスタンダードとなりつつあり、市場において一歩リードしたい企業にとって、専門のデータ部門は不可欠な要素となります。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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この記事について

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