情報センサー2023年3月号

資産除去債務の会計処理(資産除去費用と資産除去債務の計上)

2023年2月28日 PDF

情報センサー2023年3月号 企業会計ナビダイジェスト

EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 大浦 佑季

監査部門において主に小売業、情報・通信業の監査に従事するとともに、品質管理本部監査監理部において、監査手法及び監査手続等に関する品質管理業務に従事している。主な著書(共著)に、『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(第3版)』(中央経済社)などがある。

当法人ウェブサイト「企業会計ナビ」の「解説シリーズ『資産除去債務の会計処理』第2回:資産除去費用と資産除去債務の計上」を紹介します。

Ⅰ 資産除去債務の計上基準

1. 資産除去債務の負債計上

資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生した時に負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準(以下、会計基準)第4項)。

資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上します(会計基準第5項)。

資産除去債務を合理的に見積ることができない場合とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお、合理的に金額を算定できない場合(資産除去債務に関する会計基準適用指針(以下、適用指針)第2項)の他、資産除去債務の履行時期を予測することや、将来の最終的な除去費用を見積ることが困難なため、合理的に資産除去債務を算定できない場合(会計基準第35項)が該当します。

2. 資産除去債務の算定

資産除去債務は、それが発生したときに有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定します。

(1) 割引前の将来キャッシュ・フローの算定

割引前の将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りにより算定します。将来キャッシュ・フローには、有形固定資産の除去に係る作業のために直接要する支出の他、処分に至るまでの支出(例えば、保管や管理のための支出)も含まれます(会計基準第6項(1))。ただし、法人税等の影響額は含まれないとされます(適用指針第4項)。具体的には、次の情報を基礎として、割引前の将来キャッシュ・フローを見積ることとなります(適用指針第3項)。

① 対象となる有形固定資産の除去に必要な平均的な処理作業に対する価格の見積り
② 対象となる有形固定資産を取得した際に、取引価額から控除された当該資産に係る除去費用の算定の基礎となった数値
③ 過去において類似の資産について発生した除去費用の実績
④ 当該有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積られた除去費用
⑤ 有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)を行う業者など第三者からの情報

見積りにあたっては、①から⑤により見積られた金額に、インフレ率や見積値から乖(かい)離するリスクを勘案します。また、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき、技術革新などによる影響額を見積ることができる場合には、これを反映させます。

割引前将来キャッシュ・フローの見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額として算定されます(会計基準第6項(1))。

(2) 無リスクの割引率

将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクは、将来キャッシュ・フローの見積りに反映されるため、資産除去債務の算定に際して用いられる割引率は、将来キャッシュ・フローが発生すると予想される時点までの期間に対応する貨幣の時間価値を反映した無リスクかつ税引前の利率とされており、将来キャッシュ・フローが発生するまでの期間に対応した利付国債の流通利回りなどを参考にすることとされています(会計基準第6項(2)、適用指針第5項、第23項)。

3. 資産除去債務に対応する除去費用の資産計上と費用配分

資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上したときに、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えます。資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分されます(会計基準第7項)。

資産除去債務が有形固定資産の稼動等に従って、使用の都度発生する場合には、資産除去債務に対応する除去費用を各期においてそれぞれ資産計上し、関連する有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分します(会計基準第8項)。なお、この場合には、除去費用をいったん資産に計上し、当該計上時期と同一の期間に、資産計上額と同一の金額を費用処理することもできます(会計基準第8項なお書き)。

時の経過による資産除去債務の調整額は、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定し、発生時の費用として処理します(会計基準第9項)。

<図1>に示したように、有形固定資産の取得価額と割引後の資産除去債務の金額の合計額が有形固定資産の取得原価を構成するため、減価償却を通じて各期に費用配分される一方、時の経過による資産除去債務の調整額は、時の経過に応じて費用計上されるとともに負債(資産除去債務)の増加として計上されます。

図1 有形固定資産の取得原価と資産除去債務の計上及び時の経過による資産除去債務の調整額

Ⅱ 具体的な資産除去債務の会計処理

【設例の前提】

  • ある事業年度の期首に有形固定資産を購入した(購入価額10,000、耐用年数5年の定額法を採用)。
  • 購入時点の資産除去債務の割引前の将来キャッシュ・フローの見積りは1,000、割引率は3%である。
  • 実際の除却費用は1,050であった。

1. 資産除去債務の計上

有形固定資産計上時の仕訳は以下のとおりです。

有形固定資産計上時の仕訳 表

2. 時の経過による資産除去債務の調整額の計上と減価償却

決算期末には、時の経過による資産除去債務の調整額と減価償却費を計上します。

時の経過による資産除去債務の調整額の計上
減価償却費の計上

時の経過による資産除去債務の調整額及び資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します(会計基準第13項、第14項)。

これらの仕訳を図で示したのが<図2>です。

図2 設例の状況

3. 除却時の会計処理

耐用年数の終了後、除却する場合の仕訳は以下のとおりです。資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額は、損益計算書上、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上します(会計基準第15項)。

有形固定資産の除却
資産除去債務の履行

関連資料を表示

  • 「情報センサー2023年3月号 企業会計ナビダイジェスト」をダウンロード

情報センサー2023年3月号

情報センサー

2023年3月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

詳細ページへ

関連コンテンツのご紹介

企業会計ナビ

EY新日本有限責任監査法人より、会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

詳細ページへ

アシュアランスサービス

全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。

詳細ページへ

会計・監査インサイト

EY新日本有限責任監査法人のプロフェッショナルが発信する、会計・監査に関するさまざまな知見や解説を掲載します。

詳細ページへ