英国における法人税法上のグループリリーフ制度について
情報センサー2020年新年号 JBS
ロンドン駐在員 公認会計士 工藤保浩
2008年、当法人に入所。事業会社への出向を経て、15年にEY税理士法人へ転籍し、組織再編や連結納税関連等のアドバイザリー業務に従事。19年よりEYロンドン事務所に駐在。組織再編に関する税務アドバイザリーや税務コンプライアンス業務等、税務を中心としたサービスを日系企業へ提供している。
Ⅰ はじめに
英国は、国内・国外からの投資を促進するために、企業にとって魅力的な法人税制度の導入を進めています。
例えば、法人税率については現行の19%から、2020年4月1日以降は17%となる予定です。また、優遇税制については、研究開発費税制※1やパテントボックス税制※2等が挙げられます。
本稿では、英国の法人税法における優遇税制のうち、グループリリーフ制度の概要を解説します。
Ⅱ 制度の概要
1. 制度の概要
英国の法人税法におけるグループリリーフ制度は、適用対象となるグループ内の法人間において法人税法上の損失を移転する仕組みであり、グループ内の法人は、対象となる損失をグループ内の他の法人に移転し、損益通算することができます。これにより、グループ内の合計所得から損失を差し引くことができ、グループ全体での法人税の支払額が削減可能となります。
グループリリーフ制度は、17年4月1日までは当年度の事業年度の対象となる損失にのみ適用可能でしたが、17年4月1日より繰越欠損金控除に対する柔軟性が高まり、事業所得や非事業ローンに関連した繰越欠損金等について、異なる区分の所得金額との相殺が可能になりました。また、17年4月1日以後に発生した繰越欠損金は、他のグループ法人の所得とも相殺が可能になり、グループ内の法人間での繰越欠損金控除もグループリリーフ制度の一部として取り扱われることとなりました。
なお、英国の法人税法において、繰越欠損金の繰越期限はありませんが、過年度の繰越欠損金と相殺できる課税所得の金額は、グループ内で500万ポンドを超える所得部分については50%までと制限されています。
2. 適用対象法人
グループリリーフ制度の適用対象となるグループ法人の範囲は以下のとおりであり、日本の親会社が75%以上の株式等を保有している英国子会社間においても、当該制度を適用することが可能です。
- 一方の法人が他の法人の株式等を、直接もしくは間接的に75%以上保有している関係
- 2社以上の法人が共通して第三の法人に株式等を、直接もしくは間接的に75%以上保有されている関係
なお、英国以外の欧州連合(EU)域内の法人とグループリリーフ制度を適用することも制度上は可能ですが、適用については、追加で詳細な検討規定があります。
3. 適用対象期間
グループリリーフ制度の適用に当たり、グループ会社の事業年度をいずれかの法人の事業年度に統一する必要はありません。対象事業年度の一部においてグループ内の法人に属していれば、対象事業年度の月数が異なる場合や、対象事業年度内で対象法人グループへの加入や離脱があっても、グループリリーフ制度の適用を検討することが可能です(<図1>参照)。
4. 適用対象となる損失
グループリリーフ制度の適用対象となる損失は、以下のとおりです。また、キャピタル・ロスについては、別途取扱規定が設けられています。
- 事業上の損失(A trade losses)
- 非事業ローンに関連した損失(Non-trading deficit on loan relationship)
- 不動産賃貸損失(A UK property business loss)
- 投資会社の管理費用(Management expenses)
- 非事業の無形固定資産に関連した損失(A nontrading loss on intangible fixed assets)
5. 適用手続き
グループリリーフ制度の適用については、対象事業年度ごとに、任意に適用の有無を判断することが可能です。
繰越欠損金控除のグループリリーフ適用に当たっては、グループ内で指定された法人が、全グループ法人の名称、適用金額ならびに適用法人を記載した書類(Group Allowance Allocation Statement)を作成する必要があります。その上で、法人税申告書に当該書類を添付し、英国歳入関税庁(HM Revenue & Customs:HMRC)に提出する必要があります。
なお、英国の法人税法における確定申告書の申告期限は、通常は対象事業年度終了の日から1年後を経過する日までですが、グループリリーフ制度の適用を目的とした修正申告書の提出は、更に1年を経過する日まで延長することが可能です。
Ⅲ おわりに
英国は、企業の投資を促進するために、法人税率の引き下げや、今回紹介したグループリリーフ制度を含め、さまざまな優遇税制を導入しています。
近年、企業の担当者はグループ全体での法人税実効税率の低減のため、英国をはじめとするグループ内の法人が所在する各国の優遇税制を確認し、その適用の要否を確認していくことが求められているものと考えます。
<参考文献>
英国歳入関税庁(Her Majesty's Revenue and Customs/"HMRC"):HMRC internal manual Company Taxation Manual
※1 一定の要件を充足する研究開発費用について、税額控除等を適用する制度
※2 パテントやその他の知的財産権から発生する一定の要件を満たす所得に、軽減税率を適用する制度